ページ番号1000369 更新日 平成30年2月16日

オイルサンドおいるさんど
英語表記
oil sand
同義語
ヘビー・オイル [ へびー おいる ]
分野
その他

高粘度の原油を含む砂岩層。
坑井によって容易にくみ揚げることが可能で、油層内で流動性を持つ通常の原油と異なり、初期状態では流動性のない高粘度のタール状原油を含む砂岩層を、オイルサンドという。その油の性状からタールサンドと呼ぶこともあり、採取された原油は、粘性に応じてビチューメン、あるいは超重質油と呼ばれる。超重質油、天然ビチューメンの定義は国や機関によって一律ではないが、世界石油会議 WPC(World Petroleum Congress)の定義に従うと、API 比重が 10 度以下で、粘性が 10,000 センチポアズ(Cp)以下のものを超重質油、10,000 Cp 以上のものを天然ビチューメンと呼んでいる。成因は、地下深部で生成した原油が地表近くの貯留層に移動し集積したあと、地下水との接触やバクテリアによる生物分解により、軽質の炭化水素成分が消失し、重質化および高粘度化したものと考えられている。
オイルサンド鉱床として有名なのは、カナダのアルバータ州内で究極可採埋蔵量が合計約 1,800 億バレルと言われるアサバスカ、コールドレイク、ピースリバーの 3 地域や、ベネズエラで究極可採埋蔵量が約 2,300 億バレルといわれるオリノコ地域(→オリノコタール)である。
オイルサンドからビチューメンを回収する方法は大別して、(1) 露天掘り採掘(mining)法と、(2) 地層内回収(in-situ)法の二つがある。前者は、砂ごと採取して熱湯を注ぎ加温してビチューメンを流動化させ、砂や水と重力分離する方法で、オイルサンドの存在深度が浅い(地表から 75m 以浅)場合にのみ経済性がある。カナダには露天掘りの対象になる埋蔵量がアルバータ州に 300 億バレル程度あり、現在、サンコールエナジー社(1967 年生産開始、23 万バレル/日)、わが国から新日本石油開発が参加しているシンクルード社(1978 年生産開始、24 万バレル/日)、およびアルビアンサンドエナジー社(2002 年生産開始、11 万バレル/日)が商業生産を行っている。
一方、アルバータ州では、地下 75m から 300m 程度の深度に 1,500 億バレルのオイルサンドが賦存すると言われており、露天掘りでなく in-situ 法によるオイルサンド開発の対象となるため、同法に対し積極的な技術開発が進められている。in-situ 法の基本原理は、地下でビチューメンの粘性を下げ、流動化させて坑井にて回収することであり、水蒸気圧入法、水蒸気の代わりに有機溶剤を圧入する方法(VAPEX法)、あるいは火攻法などがある。このうち、現時点で商業生産を可能としている水蒸気圧入法には CSS(Cycle Steam Stimulation)法と SAGD(Steam Assisted Gravity Drainage)法の二つがある。CSS 法とは、同一の坑井にて水蒸気圧入、密閉、ビチューメン回収を 1 サイクルとして、数カ月単位でこのサイクルを繰り返しビチューメンを生産する方法である。現在インペリアルオイル社(1985 年生産開始、14 万バレル/日)およびカナディアンナチュラルリソーシズ社(1980 年代生産開始、4 万バレル/日)がこの手法にて商業生産を行っている。わが国からは、石油資源開発が中心のカナダオイルサンド社が、SAGD 法プロジェクト(生産能力 1 万バレル/日)を推進している。
なお、回収されたビチューメンは流動性がないため、そのままではパイプラインにて輸送できない。よって、生産現場に隣接する改質プラント(アップグレーダー)にて通常原油と同程度の品質の合成油に精製するか、ビチューメンに希釈剤(コンデンセートや合成油)を 30 %程度混ぜた後にパイプライン輸送することになる。
カナダオイルサンドについては、技術革新による開発/操業費の低減や、油価の高騰による経済性の好転などにより、今後ビチューメンの生産は急増し、 2004 年末で 90 万バレル/日のオイルサンド生産は 2010 年には 180 万バレル/日にも至ると予測されている。この生産量増大に備え、従来の主要輸出先であった米国中西部のみならず、新規出荷市場として米国西海岸および東アジアへ販路を拡大したい意向がオイルサンド生産者およびカナダ政府にあり、そのための新規出荷パイプライン候補としてゲートウェイパイプライン(Gateway Pipeline)計画などが提案されている。

(磯江 芳朗、2006 年 3 月)