ページ番号1000670 更新日 平成30年2月16日

鉱業権こうぎょうけん
英語表記
mining right
分野
その他

(1) 鉱業権の意味と態様:石油、天然ガス、石炭、金属鉱物などの地下に存在する鉱物を探鉱・開発・生産し、生産物を取得・処分する権利。
いずれの国においてもこの権利は排他的なものとして法的に明確化され、特定地点の特定鉱物を探鉱・採掘する権利を持つ者はだれであるかは一定の法的手続により明示されており、その特定者すなわち鉱業権者以外が当該鉱物を採掘・取得することはできない。この権利の源は、そもそも地下に天然に存在する鉱物はだれのものであるかについての法理に由来するが、これには二通りあり、英米法では土地の所有権はその地下にまでおよび、地下の鉱物はその直上の土地の所有者の所有物であるとしたのに対して、欧州大陸の国々では地下の鉱物は土地の所有権とは別で、国またはその主権者である国王のものであるとの法理が展開され確立されてきた。これら後者(大陸法系)の国では国がその鉱物の鉱業権を特定の者に免許するという手段をとり、その手続と付与される権利およびそれに伴う鉱業権者の義務を定める鉱業法を制定している。明治初期にドイツ法の体系を導入したわが国の鉱業法は「無主の鉱物は国に属する」と規定して、大陸法系の法体制をとっている。
一方、英米法の国々では鉱物採掘の権原が私権であるので、鉱物の採掘を意図する者と土地の所有者とが契約して、後者がその土地所有権の一部をなす地下の鉱物採掘権を一定の条件の下で前者に賦与することになる。このような契約をリース契約というが、その権利義務関係の内容は幾多の判例の積み重ねによって慣習法(common law)として確立されている。米国やカナダには連邦所有地や州有地が広くあり、連邦政府や州政府がこれらの土地での鉱物採掘権をリースするにあたっての手続並びにロイヤルティの率、リースの期間などを定めた公法(例えば米国連邦法では Mineral Leasing Act 1920 など)があるが、権利義務の詳細については慣習法に任せており、国の領土全体をカバーして鉱業権の権原を政府に与えている鉱業法は存在しない。このため米国では 1920 年代後半から 30 年代前半にかけて石油の乱掘の弊害が広がり、これを防止するため 1930 年代に連邦の指導の下で各州のコンサーベーション法が制定され、これに基づく生産規制その他の措置が実質的に同国の石油鉱業の操業を規制している。英国およびオーストラリアは第一次大戦後に「地下の鉱物資源は国または連邦・州政府に帰属する」として鉱業法を制定した。20 世紀初頭以来、英・米などの先進国の石油会社が中東その他の開発途上国に石油採掘権を得ようとしたとき、これらの国々は専制君主国で鉱業関係の法体系は何もなかったし、またこれらの国々では土地の所有権も国王に属していた。このためこれらの国々では外国石油会社が国王との簡単な契約によって広範な鉱業権を得た。この種の契約による鉱業権は石油利権といい、その後契約内容の改訂が重ねられ、特に 1970 年代になってからは OPEC の共通政策として「事業参加」の名の下にホスト国の国営石油会社が利権の一部の持分を譲り受けるという変化があり、なかには実質的に持分の 100 %がホスト国の国営会社に移っている例もあるが、これらの国では今でも利権という形は変わらず鉱業法はない。一方、開発途上産油国の中には 1938 年のメキシコ、1951 年のイラン、1960 年のインドネシア、1974 年のイラクなどの例のように、石油産業の国有化を法的に明確化した国々も多くあり、これらの国々では法によって「石油の鉱業権は国営石油会社のみに与えられる」とされている。これらの国々のなかには外国石油会社の資金力・技術力を活用するために、国営石油会社が外国石油会社と生産分与契約、サービス契約を結び、実質的にそれらの外国石油会社が探鉱・開発・生産の操業を行っている例が多いが、鉱業権、したがって生産原油の取得権は飽くまでも国営会社のみのものであり、外国石油会社は「コントラクター」と呼ばれ、契約に基づいて操業計画・予算・会計については年度ごとあるいは重大な意思決定ごとに国営会社の承認を受けて、その監督下に操業し、生産原油の一部を分与され、あるいは特定の価格で買い取る権利を与えられているにすぎない。したがってこれらの契約下で操業する外国石油会社の権利は鉱業権と区別して、契約に基づく石油開発操業権というほかない。
(2) 鉱業権の一般的内容: 米国・カナダを除く多くの先進国などで広く行われている「鉱業法に基づく鉱業権の付与」においては、探鉱する権利と採掘する権利とを別建てとしている例が多い。探鉱権(exploration permit)の下に探鉱を行って、稼行に足る鉱床を発見した場合は申請に基づいて採掘権(production licence)に切り換えられるのが通例である。ここでいう探鉱権は一般に試掘する権利を含み排他的であるが、国によってはそれ以前の段階として地質調査・物理探査を行う権利を別途探査権としているところもあるが、一般にこれは非排他的である。また英国・ノルウェーの沖合石油鉱業法のように、探鉱権は物理探査と層序試錐{そうじょしすい}までで試掘を行うには採掘権を取得しなければならない例もある。わが国の場合、探鉱する権利は「試掘権」、採掘する権利は「採掘権」と定めている。一般に試掘権の期間は 2 ~ 5 年と短く、採掘権の期間は 15 ~ 30 年と長く、それぞれ実情に応じて延長を認められる規定がある。またいずれの国でも鉱区税、鉱産税の規定があり、採掘鉱区の鉱区税は探鉱鉱区のそれよりも高い。鉱業権の付与には国により先着順、競争入札、政府の裁量の 3 方法があり、同一国でも場合により、地区により、そのいずれをとるか選べるようになっている国もある。わが国では先願主義をとっている。また探鉱権に最低探鉱義務および/あるいは一定期間後の一部鉱区返還義務を課している国とそうでない国とがある。米国とカナダにおけるリースには探鉱権・採掘権の区別はないが、契約中には、x 年以内に石油・ガスが発見されなかった場合には契約を終結させるという条項がある一方、石油・ガスの開発・生産が始まればリース期間は生産が終わるまでは続くとされている。石油利権並びに PS 契約、サービス契約に基づく操業権の権利義務の内容については、それぞれ各項を参照されたい。
(3) わが国の鉱業権:鉱業法上、登録を受けた一定の土地の区域(鉱区という)において、登録を受けた鉱物およびこれと同種の鉱床中に存する他の鉱物を採掘し、取得する独占的・排他的権利である。鉱業権は、通商産業局長に設定の出願をして許可を受け、鉱業原簿に登録されることによって発生する。鉱物は土地を構成しているが、鉱業権は土地所有権とは別個の独立した権利であり、金属鉱物、非金属鉱物、石炭、石油、可燃性天然ガスなど 41 種の法定鉱物を採掘し、取得するためには、鉱業権によらなければならない。 
したがってたとえ土地所有者であっても鉱業権によらずに法的鉱物を採掘し、取得すれば盗掘になり、罰則を受ける。土地所有権その他正当な権限の行使により、鉱業権によらずに土地から分離された鉱物は鉱業権者の所有に帰す。(法第 8 条)鉱業権には、試掘権と採掘権の 2 種類があるが、一般的に試掘権は、将来採掘を行うための準備として鉱物を探査する権利であり、採掘権は、本格的な採掘事業を行うための権利であると解されている。なお、両者は別個の権利であり、権利の継続性は認められていない。鉱業権は物権とみなされ、不動産に関する規定が準用される。また、相続その他一般承継、譲渡、滞納処分、強制執行、仮差押えおよび仮処分の目的となり、採掘権は抵当権の目的となるが、一方、鉱業権は国の特許行為によって創設されるもので、いろいろな監督規定や公法上の義務が課せられており、公権的性質を持った権利で、純然たる私権ではない。