ページ番号1001972 更新日 平成30年2月16日

LNG タンカーlng たんかー
英語表記
LNG tanker
同義語
MOSS タイプ [ MOSS たいぷ ]
分野
その他

LNG を超低温のまま輸送する船舶。
天然ガスは、その輸送の便のために、常圧、-162 ℃まで冷却、液化し、その体積を 1/600 とした LNG とすることで輸送コストの低減が可能である。この LNG を輸送する船舶が LNG タンカーである。
LNG は-162 ℃の超低温液体であるため、タンクの断熱や低温収縮を吸収する必要がある。また、万一の事故等によるタンクからの LNG の漏洩は、通常の鋼の船体に触れると脆性破壊が生じる危険があることから、LNG を容れるタンクの材質や構造には特別な工夫が施されている。
現在一般的に使用されている LNG タンカーのうち、代表的な 3 種類を以下に挙げる。
(1) モス(MOSS)方式 LNG タンカー:ノルウェーのモスローゼンベルグ(MOSS ROSENBERG)社が開発し、タンクは独立球形タンクの構造をとる(図 1)。このタンクは、球形赤道部を囲うスカートによって船体に固定される。材質はアルミ合金または 9 %ニッケルを使用し、タンク外周部の断熱材は硬質ウレタンフォームやグラスウールなどが用いられている。モス式の大きな特徴としては、航海中の荒波等によるタンク内部のスロッシング(液揺れ)にも強いことで、中間液位においても航海可能であることが各船社にてシミュレーションされている。現在 145,000m3 クラスが最大級として就航している。
(2) GT 方式 LNG タンカー:フランスのガストランスポート(GAZ TRANSPORT: GT)社が開発し、LNG タンクはメンブレンと呼ばれる金属薄膜で造られていることから、メンブレン方式とも呼ばれる(図 2)。GT 社のメンブレンは厚さ 0.7mm 、36 %のニッケルを含有するニッケル鋼(インバー:低温収縮が最も小さい)を使用しているが、この他、テクニガス(TECHNIGAZ)社が開発した厚さ 1.5mm のステンレス鋼も使われている。後者のステンレス鋼タイプでは、本船の貨物タンクのメンブレンを 2 層とし(それぞれ液と接触する内側から一次メンブレン、二次メンブレン)、2 層のメンブレンの間に断熱材を挟み、さらに外側に断熱材を設けている。断熱材の材質は木板、およびパーライトが使用されている。2001 年には住友金属工業株式会社と住友商事株式会社が、日本で始めてインバー(同社製:36 %ニッケル合金)を三菱重工業株式会社から受注し、出荷している。なお、上記のガストランスポート社、テクニガス社は 1994 年に合併し GTT 社(GAZ TRANPORT & TECHINIGAZ)を設立・運営している。現在 135,000kL クラスが最大級として就航している。
(3) SPB 型 LNG タンカー:日本の石川島播磨重工業(IHI)が開発した。LNG タンクは自立角型であり、タンクは甲板下に内蔵している。石川島播磨重工業は 1993 年に本タイプを 2 隻建造し、現在も日本-アラスカ間を定期運行している。このタイプはタンクが甲板下にあることから、モス型に比較して、風圧等の気象条件の影響が少ないことに加え、中間液位での航行も可能であり、衝突にも強いことが特徴として挙げられる。タンクの構造としては、一次防壁、二次防壁構造などは、GT 方式と大きな差はない。この 2 隻は 75,000kL クラスである。
上記に現在就航している 3 種類のタイプを列挙したが、現在でも輸送コストの低減を目的に LNG タンカーの大型化が進んでおり、200,000kL クラスの就航が早くて 2007 年には始まる見込みである。
一方、過去に遡ると、LNG の船舶による海上輸送は、1959 年に米国のコンストック社が、戦時標準貨物船を改造した実験船「メタン・パイオニア号」によって、米国のルイジアナから英国キャンベイ島までの試験航海に成功したことによって道が開かれた。最初の実運用は 1964 年のアルジェリア-英国、翌 1965 年のアルジェリア-フランス間での LNG 輸送事業で、LNG タンカーはいずれも独立タンク方式で、積荷量 11,000 ~ 12,000 トンの 3 隻であった。
LNG タンカーについての政府間海事機構(IMO)による安全規準の要点を特記すると、次のとおりである。
(1) 衝突・座礁の際もタンクが破損しないように二重船殻とすること。
(2) タンク支持・断熱構造は船殻のいかなる部分でも一定温度以下とならないようにすること。
(3) メンブレン方式および独立支持タンク方式のうち、タイプ A の場合は、タンク内液が全量漏洩しても、それが直接船殻に触れないように断熱保留する完全二次防壁を持つこと、タイプ B の場合は、船の一生にわたる繰り返し荷重を予想した上でタンクの破壊機構解析を行い、その破壊はあり得ないことが立証されることを要し、二次防壁は少量の漏洩に対処する限定的なものでよい。この立証のないタンクはタイプ A とされる。独立支持タンク方式のうち、コンチ角型独立方式はタイプ A である。9 % Ni 鋼またはアルミニウム合金製の六面体タンクが船体構造から独立して、内容液の荷重をタンクそのもので受ける。荷重はタンクの載っている断熱性底板(厚いバルサ・パネル)を介して船底にかかり、タンク壁の周囲外側の断熱材には荷重はかからない。タンク外側の断熱層は、バルサ材パネルの前後にグラス・ウール等の断熱材を張り付けた構造で、パネルの接続部は発泡プラスチックで液密にされ、底板とともに断熱層全体が漏洩に対する二次防壁をなしている。
現在、就航隻数の多い方式の一つであるモス球形独立方式のタンクは、球形で防撓材{ぼうとうざい}はなく、LNG の荷重、熱伸縮などにより、タンクにかかる応力はタンク板材の膜応力として分散され、全重量は球の赤道部において、スカートと呼ばれる円筒形の支持材を介して二重船殻に据え付けられている。高精度の応力解析が可能であるためタイプ B と認定され、断熱はタンク外側に直接張り付けるだけで、漏洩に対する二次防壁は少量の漏洩受けを船底内壁上に設けるだけでよい。
石川島播磨重工業製の SPB 型は、独自に開発した方型の独立支持方式のタンクについて、IMO からタイプ B の認定を得ている。メンブレン方式のタンクは、二重船殻の内壁に断熱を施し、その内側の LNG に接する表面に、低温材の薄膜(メンブレン)を取り付けた船殻とタンクが一体となった構造で、タンク内容液の漏洩はメンブレンで防ぐが、その荷重は断熱材を介して全面的に船殻に伝えられる。40cm 幅の平板であるメンブレンは端部で溶接され、液が浸透しないようになっている。このメンブレンと断熱箱の組合せを二重に重ねることによって二次防壁を構成している。
2005 年現在で世界で 175 隻の LNG 船が就航しているが、隻数が多いのは、モス球形タンク方式とメンブレン方式である。なお、上記に掲げた 3 方式以外に、エッソ角型タンク方式、コンチ角型タンク方式(いずれもアルミニウムタンク)、1965 年にフランスで建造されたウォルムス円筒形タンク方式の「ジュールベルヌ」(現在名「シンデレラ」、船齢 40 歳でなおも現役)などが建造されている(表)。タンクの材質としては低温耐性があり、かつ加工性、溶接性に優れるアルミニウムが、半数以上で採用され、最も多く使われている。
独立支持タンク方式はタンク材の金属が高価であるのに対し、メンブレンタンク方式は金属材料が節約される代わりに、薄いメンブレンの溶接や断熱材積上げなど工作上の手間がかかる。いずれの方式にしてもタンクには 1 タンクごとに厚い断熱層を持ち、保安上、船殻は二重殻としてその内板を漏洩に対する二次防壁としなければならないことなどによって、船容積に対する積荷タンク容積比は通常のオイル・タンカーのそれに比べて約半分と小さい。さらに積荷である LNG の比重も原油のそれの約半分であるために、積荷トンあたりの船容積は、オイル・タンカーの約 3 倍になる。しかも高価なタンク金属材料や断熱材の使用のほか特殊な工作、二重船殻などの諸要素によって LNG タンカーの積荷トンあたりの建造費は、オイル・タンカーの約 8 ~ 10 倍という高価なものである。このことが運賃に響き、LNG 事業全体の経済性に影響する。
最近わが国における LNG 使用の増加に伴い、国内での二次輸送用として内航船の需要も増加してきた。2003 年には株式会社川崎造船および株式会社檜垣造船により、国産初の 2500m3 蓄圧式 LNG タンカー「第一新珠丸」が就航を開始している。この蓄圧式タンカーはその使用目的が国内の短距離二次輸送にあることから、航海日数も少ない。そのため、通常、BOG の処理は、大型 LNG 船ではボイラー燃料として燃焼で処理を実施しているのに対して、この蓄圧式タンクにおいては、タンク内の液温上昇による蓄圧にて BOG 処理を不要なものとしている。そのタンクの構造は、横置き円筒形で、材質をアルミ合金、断熱方式は川崎パネル方式と呼ばれるフェノール樹脂とウレタンを組み合わせたパネルタイプの断熱材で、外部入熱を断熱している。また、本船は LNG 撹拌装置を設け、約 3 週間の蓄圧期間を実現している。
LNG タンカーのタンクへの LNG の積込みは、陸上のポンプを使って行われ、タンカーからの揚げ荷にはタンク部につり下げられている耐冷液中モーターポンプを使う。揚げ荷にあたっては、タンク内が負圧にならないよう陸上タンクから-162 ℃に冷えた天然ガスを送り込む。空船で帰路航海中にも外からの熱の入射でタンク内が暖まらないよう若干の LNG を底に残しておく。積載 LNG の、外界からの熱入射による蒸発量は毎日 0.2 ~ 0.3 %であるが、これは通常再液化せず、船の燃料として使用する。

(江波戸 邦彦、2006 年 3 月)

図1 モスローゼンベルグ独立球形タンク方式(中央横断面図) 図2 ガストランスポート・メンブレン方式(中央横断面図)
表 就航中のLNGタンカーの方式別分類

型式 タンク建造方式 隻数
独立 コンチ角型タンク方式(単壁) 2
エッソ角型タンク方式(二重壁) 4
ウォルムス円筒形タンク方式 1
モス球形タンク方式 75
IHI-SPB タンク方式 2
メンブレン ガストランスポートメンブレン方式 49
テクニガスメンブレン方式 21
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