ページ番号1002022 更新日 平成30年2月16日

S波sは
英語表記
secondary wave / shear wave / distortional wave
同義語
横波 [ よこなみ ] PS変換波 [ PSへんかんは ] SH波 [ SHは ] SV波 [ SVは ]
分野
その他

地震によって励起され、地球を伝わる弾性波である地震波は、地球内部を伝播する実体波(body wave)と地球表面を伝播する表面波(surface wave)の2つに大きくわけることができる。さらに実体波には波の伝播方向と媒質粒子の振動方向によりP波(縦波:primary wave)とS波(横波:secondary wave)に分けることができる。地震波の縦波は、地震波の中で最も速く伝わることからラテン語で「最初の」という意味を表す"primae"(英語の"primary"の語源)の頭文字をとってP波と呼ばれる。また横波はP波の次に速く伝わることから、ラテン語で「2番目の」という意味の"secundae"(英語の"secondary"の語源)の頭文字をとってS波と呼ばれる。
S波は波の伝播方向(進行方向)と粒子の振動方向が垂直な波であり、そのうち地表面に平行に振動するものをhorizontalの頭文字をとってSH波、地表面に垂直方向に振動するものをverticalの頭文字をとってSV波という。SV波はSV波のまま伝播するほか、SV波からP波に変換する場合(SV-P変換波)やP波からSV波に変換する場合(P-SV変換波)もあり、データ処理などで取り扱いが面倒となるが、SH波はSH波のまま伝播するため扱いが単純になる。S波の振動方向が進行方向に直交する向きであることから、S波は横ずれ、ねじれなど剪断性{せんだんせい}の変化を伝える波である。このためshear wave、distortional waveとも呼ばれる。
また流体では剪断力が生じないため、S波は固体中でのみ存在しうる。なおS波の伝播速度は密度をρ、剛性率をμとするとVs=√(μ/ρ)で表される。
S波速度は孔隙内流体の種類による変化を受けないことから、貯留層にガスが存在する場合でもブライト・スポットなどの異常振幅が見られない。一方P波速度は体積弾性率に関係し、体積弾性率は気体の影響を大きく受けるため、ガスの存在でP波速度は大きく減少する。石油・天然ガス探査ではこのようなS波の性質を利用することによって貯留層の物性を推定することも可能となっている。一般にP波よりもS波のほうが振幅が大きく、地面は大きく揺れるため、土木工学や地震防災の観点からS波速度は建物の耐震設計や地盤の動的特性の把握・検討などには不可欠なパラメータである。またS波の速度はP波の速度に比べかなり遅いため、同一の周波数の波ではS波のほうが波長が短く、構造探査の分解能を高めることになり、探査上の利点ともなる。

(西木 司、2008 年 5月)