ページ番号1006064 更新日 平成30年2月16日

BP 、政治リスク回避のグローバル戦略を鮮明化

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レポートID 1006064
作成日 2003-05-30 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 企業探鉱開発
著者
著者直接入力 佐々木 育子
年度 2003
Vol 36
No 3
ページ数
抽出データ トピックスBP、政治リスク回避のグローバル戦略を鮮明化2002年末よりポートフォリオの抜本的な見直しに着手したBPは,2003年初に北海及びメキシコ湾の主要資産をApacheへ売却したのを皮切りに,4月末現在までに,英領北海,ベネズエラ,米国陸上,メキシコ湾浅海など約20億ドルの成熟資産を売却,一方でロシアへの大規模投資(新会社TNK-BP設立,67.5億ドル)を発表すると同時に今後の対イラク投資には消極姿勢を明確にするなど独自の戦略を進めている。欧米各社は,株安,油ガス価の変動性増大,需要低迷など厳しい経営環境にさらされており,さらに米国の外交・軍事的圧力,世界的な政治・社会不安や不確実性が増大する世界情勢の中で,上流資産を生産減退の進む欧米生産地域から,成長と収益が期待できる新たな地域へ大規模にシフトさせなければならない瀬戸際に立たされている。投資判断のきわめて厳しい環境下で,BPは中東等政治的不安定地域を避けつつ,ロシアの石油事業,アジアLNGガス事業などへ統合的に投資する独自のグローバル戦略を策定し,これに則って,他社に先駆けて中長期的な収益基盤を確保する投資を実施に移している。1.資産ポートフォリオの変革◆大規模な成熟資産の整理BPは,2003年初に北海の代表的なオペレーター油田であるFortiesとメキシコ湾浅海域の113鉱区61油ガス田をApacheへ13億ドルで売却したのを皮切りに,ベネズエラ・北海資産を322百万ドルで英Perencoへ,メキシコ湾資産を136百万ドルでNexenへ,また米陸上Permian Basin資産を235百万ドルでOccidentalへ売却するなど,次々と成熟資産を放出している。2003年4月現在も米国陸上資産(103Mmcfe/d相当)をオファーしている他,アルジェリア複数資産の売却を他企業と協議中と伝えられる。既に確定中の売却額だけで20億ドル規模に達しており,ポートフォリオの抜本的な整理による同社の資産放出は最終的に50億ドルに達すると推測されている。◆リスクバランスBPはArco,Amocoの吸収合併により,アラスカ・北海の二大生産地域を主体とした資産構成から,世界各地に上流活動を分散させることに成功した。しかし,全社的にはカスピ海等新地域,大水深,LNG事業など成長性の高い新規の大規模投資へ集中する方針であり,これらの投資リスクを軽減するため,投資環境が将来に亘り不安定と見られる地域は非戦略地域として,ポテンシャルが大きい場合でも探鉱・開発事業を整理・放出している。中東では新規案件(サウジアラビアのガスイニシアティブ,プロジェクトクウェート,イラン等)の交渉に名前を連ねるものの積極的な投資意欲は見せておらず,2002年には旧Arcoのカタール権益をAnadarkoへ売却している。これにより現在の中東での操業は,実績の長いUAEの2コンセッションに限られている。またカザフスタンでも政治情勢を理由の一つとして巨大油田Kashaganの権益を売却しており,Tengiz油田のマイナー権益等旧Arco資産も売却対象と推測されている。また,国内情勢の緊張が続くOPEC産油国ナイジェリアの大水深からも撤退し,西アフリカの大水深投資をアンゴラに集中させている。さらに2003年初にはHessと資産スワップを行い,インAmeradaドネシア/タイJDA権益を譲渡して東南アジアの上流投資をTangguhやベトナムに集中,一方でコロンビアの成熟資産Cusiana/Cupiagua油田の権益を積み増し,売却価値を高めて将来的に投資リスクの高い同国から撤退するものと見られている。石油/天然ガス レビュー ’03・5―62―Q.新たな投資地域同社は,過去30年で最大の投資シフトの時機を迎えている(Browne CEO)。今後5年間で資本投資の半分以上(約200億ドル)を,中期的な収益基盤となる①メキシコ湾大水深,②アンゴラ大水深,③トリニダード・ドバゴ,④カスピ海南部(アゼルバイジャン),⑤アジア天然ガスに集中投資する。より長期的な上流投資先としては,米国のガス事業が約5割を占め,大水深開発(23%),LNG/GTL事業(15%),ロシア石油事業(14%)がこれに続き(ドイツ銀行調べ),中東・OPEC地域は対象外となっている。同社は,埋蔵量ポテンシャルが大きく政治リスクが低い地域として,中東ではなくロシアを選択し,同社の「6番目の収益基盤とする」(Browne CEO)意向である。◆中東投資に消極的一般に大手石油企業の中東ポジションは相対的に低いが,BPは中でも最も低くなっている(図1参照)。イラク復興事業の中心と期待されるイラク石油投資も,「イラクが世界No.2の豊富な埋蔵量をもつ国であることは認識しているが」,「投資環境が整うまでに数年間を要し」,現在のところ「投資を行う段階ではなく」「戦略的な位置付けもない」との見解を明らかにしている。◆ロシア投資の独自性BPは1997年にSidanko株式10%を取得して欧米の大手企業としては初めて石油会社の株式投資に乗り出した。以来,金融危機やSidanko破産によるTNKとの資産係争など辛苦をなめたものの,2001年8月にはTNKのオーナーであるAARと和解してSidankoの株式を25%へ引き上げ,マネージメントに参画。さらに,TNKとの統合について協議を継続してきた結果,2003年2月にはTNKと新会社TNK-BPを設立することで合意し(株式比率50/50),67.5億ドルを投じる決定を下した。Brown CEOは,ロシアへの投資拡大はBPにとって歴史的な決定であり,約1年を要して調査した結果,これまでの同国での経験を活かして,リスクを軽減できると判断したことを明らかにしている。他の大手企業がPSAによる投資リターン確保を求めて本格的な投資を躊躇している中で,BPはロシア企業を直接使って低コスト埋蔵量へアクセスし,上下事業を拡大する事業機会を作りだした。AARとの利害が中長期的に一致するかどうか懐疑的に見る向きもあるが,少なくと図1 主要企業のOPEC及び中東生産量比率*Shell,TFEを除き大手各社の中東生産比率は一桁(0?7%)。中東外OPECを加えてもTFEの27%を除いては20%以下。BPは最も中東・OPEC生産比率が低い。*出所:各種資料より作成―63―石油/天然ガス レビュー ’03・5熏。後数年間は,他社が様子見を続ける中で,BPは自社の技術及びマネージメントを再開発事業を中心に投入し,利益の源泉を拡大させようとしている*。◆ガス戦略2010年までの同社の新規生産の多くは石油であり,競合他社同様に上流ガス資産の商業化が経営課題の一つとなっている。しかし,BPはこれまで商業化が進まなかったタングーLNGについて,2002年9月に中国企業との提携による同国福建向け260万t/yの販売契約を締結し,これに基づき2003年2月にはCNOOCへTangguh権益12.5%を譲渡,同年4月下旬には液化プラント建設のEPC先を選定し,近く最終契約を締結すると発表した。現在のところ販売済み契約量は,液化能力の3分の1程度であり,BPは販売リスクをとって事実上,投資の見切り発車を決断,太平洋LNG圏で他社に一歩先んじた。一方,欧州では地中海圏(北アフリカから南欧向け)のガス商業化を進めるが,欧州向けガス上流事業の要であるアルジェリアでは,InSalah Gas(17億ドル,BP権益35%,2004年?,9bcm/y),In Amenas(2005年?,11億ドル),Rhourde el Baguel(石油開発,2000年にArcoが権益取得,以来14億ドルを投資,38千b/d)の3件の大型投資を抱えており,インフラ投資を軽減する意向と伝えられる(上述のように資産売却交渉中)。In Salahではスペイン向けパイプライン輸送能力の増設,Sonatrachとの共同マーケティングが課題となっており,リスク適正化を図るものと推測されている。*BPによれば,新会社TNK-BPの生産量は2002年実績で1.1百万b/d以上,うちBPのシェア分は460千b/d以上で,新会社のBPへの生産シェアは13%に相当する(注:460千b/d/2002年BP全世界生産量3,519千boe/d?ロシア既存生産量+新会社460千b/d=13%と推測される)。なお,新会社設立は2003年夏までに調整・認可手続きが終了する見込みで,同年1月1日に遡って発効する。3.政治リスク回避のグローバル戦略以上のように,BPは商業リスク(大水深,LNGマーケティングなど)は適度に受け入れつつ,一企業がコントロールできないような政治リスクを小さくすることによって,全体として投資のリスクバランスを図り,将来の投資リターンを確実にするグローバル戦略を進めている。Browne CEOは,株主へ利益を約束するには,事業を取り巻く全てのもののバランスを図り,実務においてコントロールを効かせる(=投資の選択能力)ことが必要であると述べている。2003年4月24日の同社年次総会において,一部株主は「北海など安全な地域の権益を売却して,ロシア,アゼルバイジャン,アンゴラなど,より政治的に不安定な地域へ投資を拡大する戦略を懸念する」と同社の戦略を批判した。これに対しSutherland会長は「ロシアの投資環境は改善しており」,「リスクは査定済みであり」「限定的」で「マネージメントできる」ものであると弁明し,同社の新たなグローバル戦略に理解を求めた。総会が行われたロンドンRoyalFestival Hall周辺でも,イラクへの関与やインドネシアPapuaの流血事件等に関する反対デモが行われ,石油会社の世界的な投資が世間や投資家の厳しい目にさらされていることが改めて浮き彫りとなっている。BPのように政治リスクを忌避してリスク低減を図っても,なおアゼルバイジャン・トルコ周辺,アンゴラ,インドネシアなど主要投資国における政治的・社会的不安は残っており,適切な投資が行われているかどうか,投資家からの厳しい監視は続く。しかし,競合企業はより多くの地域で同様のリスクにさらされており,明確にリスクを絞り込んだBPの独自戦略は,数年後に大きな競争力の差となって表れるものと推測される。(担当:佐々木 育子)石油/天然ガス レビュー ’03・5―64―
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2003/05/30 [ 2003年05月号 ] 佐々木 育子
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