ページ番号1003861 更新日 平成30年3月5日

ロシア: 繰り返されたロシアとウクライナとの天然ガス係争

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レポートID 1003861
作成日 2009-01-28 01:00:00 +0900
更新日 2018-03-05 19:32:42 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 本村 真澄
著者直接入力
年度 2008
Vol 0
No 0
ページ数
抽出データ 更新日:2009/01/28 調査部:本村真澄 ロシアからウクライナに供給する2009年の天然ガス価格は、ロシアが$250/1,000m3をウクライナが$235 ・/1,000m3を主張して譲らず、2009年契約が締結できないまま、2009年1月1日を迎えた。ロシア側は、ウクライナ向けのガス輸出分相当に当たる1/3の量の天然ガスを削減し、欧州向けのガスについては契約量を輸出をした。 ・ロシアの立場は、天然ガスの国際価格へのシフトであり、中央アジアからの天然ガスも2009年から国際価格で受け入れ始めた。この価格転嫁を国内の経済問題からウクライナが拒んでいたのが実態である。・2006年の紛争時に比較して、欧州各国は天然ガスの地下貯蔵設備の拡充に努めてきており、多くの国で2~3カ月分の備蓄がある。今回の係争の解決を急ぐインセンティブは必ずしも強くなかった。 ・その後、1月5日には欧州への供給量が減少し、ロシア側はウクライナが抜き取っているとして、供給を制限、両国は非難合戦となり、ロシアは1月7日に欧州への輸出を完全停止した。13日、EUからの監視団を受け入れ、輸送再開を期すも、ウクライナ内の輸送体制が整わず、供給不能となった。 ・17日にモスクワでEUも参加する関係国首脳会議が開かれ、翌18日のプーチン・ティモシェンコ両首相の会談で基本合意に達し、19日にはGazpromとUkrayiny Naftogazが天然ガス供給契約に調印し、問題は解決した。20日には、欧州において天然ガスの供給再開が確認された。 ・新規の合意内容は、石油価格を欧州と同様の石油製品価格に連動したフォーミュラ方式とし、2009年第1四半期を欧州価格の2割引きの$360/1,000m3、契約期間は10年間、通過料は2009年は据え置きの$1.7/100km/1,000m3というもので、ティモシェンコ首相は「ウクライナの勝利」と宣言した。 ・ウクライナは昨年後半からの世界的な経済危機の中で、アイスランドと並んで最も打撃を受けた国で、IMFからの$165億の融資を受けている。天然ガス価格の引き上げは、国内的には受け入れ難く、経済破綻寸前で、ロシアに対して非妥協的な「瀬戸際外交」を展開して問題を国際問題化させたが、最終的には当初より悪い条件でロシア側の要求を受け入れざるを得なかった。 ・ロシアの狙いは、ウクライナとの経済問題の解決であるが、更にエネルギー通過国としてのウクライナの信頼性の低さを国際社会にアピールすることにより、ウクライナ迂回を目指すNord Stream, South Streamの建設を促進しようという意図があったと推察される。 ・一方、EUはウクライナ迂回、ロシア代替のガス・ソースとして、Nabuccoパイプライン計画を再び加速しており、一部の国でLNG計画が進むなど、紛争解決後はロシア離れの動きが目立っている。 ・ウクライナのパイプラインは老朽化が進んでおり、ロシア側はこれに資本参加することにより維持・改修 し、且つ管理したい意向であるが、ウクライナ側は強硬に反発している。 ロシア: 繰り返されたロシアとウクライナとの天然ガス係争 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 1 - . ロシアとウクライナとのガス係争の経緯 (1)ロシア、ウクライナとEUの動き 2008年10月2日:ウクライナと3年間段階値上げで合意(その後、2009年は取り敢えず33%の値上げで$179.5→$250/1,000m3とすることで合意したと報じられる)。 10月26日:ウクライナがIMFから$165億の融資枠受ける。 12月18日:Gazpromは、Ukrainy Naftogazに対して滞納金21億ドルの支払い要求。支払いがない場合には2009年契約を締結しない意向を表明。 12月29日:ウクライナはガス価格を$201/1,000m3と主張。ロシアは$250/1,000m3を主張。 12月30日:GazpromのMiller社長:滞納金を支払わなければ同国へ供給停止と警告。 12月31日:ウクライナは$235、及びパイプラインタリフの10%値上げへ修正。ウクライナからGazpromに対して$15億ドルの入金。残金$6.14億。プーチン首相がEUのBarroso委員長に、天然ガス供給に関してEUに影響の及ぶ可能性を電話で事前通告。 2009年1月1日:契約不成立によりモスクワ時間10:00amウクライナ向けガス供給停止。ウクライナへの供給価格について2009年第1四半期には欧州と同一レベルの$418/1,000m3が必要とMiller社長発言(契約未成立のdefault positionでの価格)。 1月2日:ウクライナはEUによる仲裁の可能性を模索するが、EU議長国であるチェコのボンドラ副首相は、欧州に影響が出ておらず、本件がビジネスを巡る係争で、且つbilateral issueであるとして、仲裁要請を拒否。 1月3日:Gazpromはウクライナのガス抜き取りに関して、ストックホルム国際仲裁判所に提訴する意向を表明。 1月4日:現状、ガス価としては$450/1,000m3になっているとMiller発言。 1月5日:新たな供給量減少の国はGreece, Croatia, Bulgaria, Macedonia, Turkey, Slovakia。 Putin 首相は、ウクライナ経由欧州向けガスから、ウクライナ抜き取り分を削減するよう指示。ウクライナの裁判所は対抗措置として、同国経由でのロシア産ガスの欧州向け輸送について、従来の通過料では行わないようNaftogazに命じる決定。 1月6日:欧州向け供給が約8割減。Bulgaria, Greece等6ヶ国で供給途絶。Gazpromはウクライナが欧州に向かうパイプライン4本の内、3本を止めたと主張。 1月7日:ウクライナ経由欧州向けガスの輸送は、Gazpromによればウクライナが4本目のパイプも止め、完全停止。Naftogazはロシア側が完全停止と発表。プラハで開催されたEU議長と首脳の会談で、議長国チェコのTopolanek首相は、「供給が早期に再開されないならば、EUとして介入を強める」と表明。スズキがハンガリー工場の操業停止。Wood米国務省副報道官は、ロシアによる欧州への供給停止について、容認できないとロシアを非難。深夜から翌8日未明にかけて、モスクワでMillerとDubyna(Naftogaz Ukrayinyウクライナ)の両ガス企業代表が事前打ち合わせ。その後、ブリュッセルに移動。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 2 - 月8日:午後、Miller(Gazprom)、Dubyna(Naftogaz Ukrayiny)の両ガス企業代表とPiebalgs(EU)がブリュッセルで会合。EU監視団をウクライナに送り込み、ロシア側は直ちにガス輸送を再開の方向。 1月10日:EU議長国であるチェコのTopolanek首相は、ロシアを訪問しロシアとウクライナへの国際監視団の派遣で合意。ロシアは参加要請。同日、Topolanek首相はウクライナを訪問。 1月11日:ウクライナは国際監視団のウクライナへの受け入れで合意。その後、ウクライナ側が「ウクライナは抜き取りをしていない」旨の但し書きを合意書に書き加えたため、メドヴェージェフ大統領が合意破棄を宣言。ガスの輸送再開は延期。 1月12日:ウクライナ側が但し書きを撤回。天然ガス輸送契約調印。ハンガリーのガス企業Emfeszがガスの輸送を妨げたとしてNaftogasに$3,000万ドルの賠償請求。 1月13日:ウクライナ時間8:00am(モスクワ時間10:00am)に、ウクライナ中央北国境にあるSudzhaガス計量ステーションから日量7,600万m3(280億m3/年)の天然ガス輸送を再開するも、3時間後、輸送圧が上昇しウクライナ側での輸送がブロックされていることが判明。ティモシェンコ首相によれば、これはウクライナ国内用に使われるもので技術的な対応が困難であり、Pisarevka, Valuikiなど他の計量ステーションへルート変更を要請した(図2参照)。また、パイプラインの圧力を維持するための「技術的(technical)」ガスが日量2,100万m3必要と表明。一方、メドヴェージェフ大統領は、同日の事態に対して「不可抗力(force majeure)」を宣言。 1月14日:Barroso委員長はロシア、ウクライナに対して法的措置も辞さないとの考えを表明。ブルガリアのスタニシェフ首相、スロバキアのフィツオ首相がモスクワ訪問、対応を協議。メドヴェージェル大統領は、関係国の首脳会議を17日モスクワで開催するようBarroso委員長に提案。ウクライナは反対を表明。Topolanekチェコ首相は、今回の問題が、ウクライナのEU加盟問題に影響が及ぶ可能性を示唆。 1月17日:モスクワでメドヴェージェフ大統領、チェコのMertin Rimanエネルギー相、EUのAndris Piebalgsエネルギー委員等が会合。呼び掛けられたウクライナのYushenko大統領は不参加。ガスプロム、イタリアのENIを含むエネルギー企業のコンソーシアムが、ウクライナが必要とする「技術的」ガス15億m3を供給する件で協議。ドイツのE.On、フランスのGdF Suezも参加の方向。プーチン・ティモシェンコ首相協議。 1月18日:プーチン・ティモシェンコ首相協議(2日目)。ウクライナ向けガス価格で基本合意し、欧州並み価格の2割引き、通過料は据え置きとする。来年は、ガス価格、通過料ともに欧州並み。19日まで合意文書作成を指示。 1月19日:Naftogaz UkrayinyのOleh Dubyna社長とGazpromのMiller社長は、プーチン・ティモシェンコ両首相の立ち会いのもと、10年間の天然ガス供給契約に調印(後述)。係争関係は完全に集結。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 3 - E2006年の係争は3日で終結。欧州消費国において天然ガスの圧力低下はあっても、実質的な供給停止はなかった。今回は3週間に及び、かつ欧州消費国で天然ガス供給が停止する事態となり、これまでで最悪のケースとなった。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 4 - 図1 ロシアから欧州にかけての天然ガス・パイプライン図(RPIの図にJOGMEC加筆) 2)2006年のウクライナ・天然ガス係争との違い (1月20日:欧州各国で天然ガス供給を確認。紛争は終息へ。 E2006年以降の学習効果で、事実の検証が進み、パニック的な報道は影を潜めた。 ・欧州各国で天然ガス貯蔵施設の拡充し、多くの国が備蓄ガスで対応した。但し、ブルガリアなど天然ガス地下貯蔵設備の整備の遅れている国は苦境に立たされた。 ・一方、ウクライナは備蓄が約4ヶ月分あり、交渉スケジュールに切迫感がなかった。 ・Gazprom側はEUに対して、事前に十分説明を行っており、EU関係者からは一方的なロシア批判は起こっていない。基本的にロシア、ウクライナ両国に適切な対応を求めるという姿勢である。 ・新聞の論調では、従来と同様のロシア批判の他に、ウクライナに対する批判が出るようになる1。 ・一方で、米国の対ロシア批判は、極めてローキーなものであった。 図2 ウクライナ国内での天然ガスパイプライン図 (3)各国の天然ガス貯蔵レベル ウクライナには、13箇所の天然ガス地下貯蔵設備があり、約4ヶ月間の備蓄期間がある2。このために、早期の交渉妥結のインセンティブがなく、年越ししても交渉が長引いた要因となってい る。欧州主要各国の地下貯蔵の水準を図3に示す。 1 PIW, 2009/1/12, 日経1/09, IHT/1/07 2 FT, 2009/1/15 - 5 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ロシアからウクライナを経由して欧州に至る天然ガス・パイプライン網を図1に、ウクライナ図3 各国の天然ガス備蓄水準(Wingas 資料による) . ウクライナの天然ガス・パイプラインを巡る問題 2国内の天然ガス幹線パイプラインを図2に示す。 (1)ウクライナを経由する天然ガス・パイプラインの実態 1)「兄弟(Bratstvo, Brotherhoood)パイプライン」 「兄弟」パイプラインは、国内を西方に延び、チェコ経由で欧州に供給するラインで、1月6日から減少が目立ち、7日には完全停止した3。 同パイプラインは、1967年にウクライナからチェコ=スロバキアへ、ソ連から初めて域外を目指すパイプラインとして建設されたもので、翌年にはオーストリアのBaumgartenまで延長され、最初の西側への輸出用天然ガス・パイプラインとなった。このパイプラインは更に、1973年10月にはTransgasパイプライン経由で西ドイツまで延長され、東西両陣営を結ぶ最初のエネルギーラインとなった。欧州主要部への天然ガス供給はこのパイプラインを用いてなされている。 2)「連合(Soyuz)パイプライン」 「連合(Soyuz)パイプライン」は主に南西方向へ供給するラインで、1月5日からギリシャ、クロアチア、ブルガリア、マケドニア、トルコ、スロバキアに影響が出始め、1月7日には完全停止した。天然ガス貯蔵施設を持たないBulgariaは深刻な影響を被った。 3 PON, 2009/1/06 - 6 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ッパイプラインは、ボルガ=ウラル堆積盆地のOrenburgガス田が開発された際に、1978年に新たにバルカン半島方面までを視野に入れてウクライナ南部に向けて建設されたパイプラインである。これは更に、モルドバ、ルーマニア、ブルガリアを経由して更にトルコまで延長されている。 3)「北光(Northern Lights)パイプライン」 同パイプラインの内、ミンスクから南に枝分かれし、ウクライナの西縁部を伝わり、Uzhgorod経由でチェコに至るラインは、一時的に閉鎖された。但し、ベラルーシ、ポーランド、経由でドイツに至るラインは通常通り稼働した。これについて専門誌は、ロシア以外の供給ソースを捜していた欧州へ天然ガスを安定的に供給したのは、他ならぬロシアであったと皮肉っている4。 2)1月13日の供給再開の事情 (ウクライナ国内の天然ガス・パイプラインを図2に示す。 前述の通り、ウクライナは欧州からの監視団を受け入れ、1月13日、ウクライナ時間8:00am(モスクワ時間10:00am)に、ウクライナ中央北国境にあるSudzhaガス計量ステーションから日量7,600万m3(年産280億m3)の天然ガス輸送を再開した。ウクライナ側関係者の説明では、西の国境を越えて欧州へガスが到達するのに36時間を要するとしていたが、供給開始から3時間後、輸送圧が上昇しウクライナ側での輸送がブロックされた。このため、ロシアからの天然ガス供給は再び停止した。 Naftogazによれば、ロシアからのガス供給は、Sudzhaからでなく、PisarevkaおよびValuykiの計量ステーションからなされるべきであったという。Gazprom側の説明では、こちらはウクライナ東部の重工業地帯に向かうラインであり、ウクライナの国内需要の最も大きい地域で、欧州への輸出再開には繋がらないという。 これに対して、13日夕刻、Gazpromのメドヴェージェフ副社長は、「ウクライナが1月1日から、欧州向けガスをすべて国内向けに回すよう輸送システムを変更した結果であり、当初から欧州向け供給の維持を意図していなかった」としてウクライナを非難した。一方、NaftogazのDubina社長は、同日、技術的な理由でウクライナの欧州向けパイプラインを開けられなったことを認め、「Gazpromから要請された方法を使うと、国内のいくつかの地域でガス供給ができなくなる」と釈明した5。 図2及び図1から明らかなように、当初ガスを送ったSudzhaステーションは、「兄弟」パイプラインにあり、同パイプラインが欧州向けであることから、ロシア側が欧州への輸出を志向していたことは明らかである。図2には天然ガスの地下貯蔵設備を記入してあるが、これらがキエフ周辺でのガス消費に活用された可能性が高く、この場合には天然ガス・パイプラインを逆走させるために、ロシア国境付近のバルブを閉じていた可能性が高い。このため、ロシアからウクライナへのガス供給がブロックされたものと思われる。 4 PIW,2009/1/12 5 毎日、2009/1/14 - 7 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 但し、ロシアは当初、モルドバやブルガリアでの天然ガス不足を懸念しており、同地域へのガス供給を優先させる発言も行っていた。ウクライナ側がこれを真に受け、ロシア側の意向を忖度して、まずはモルドバやブルガリアへの供給ができる「連合(Soyuz)パイプライン」からの輸送を優先して準備に当たっていた可能性もある。ロシア側が意図的に、当初通告していなかったSudzhaからの輸送を開始して、ウクライナの非協力的な姿勢を国際的にアピールしようとしたとの指摘もあるが、むしろ、両者の意思疎通の不足がトラブルの原因と見るのが自然と思われる。 なお、ウクライナ側が、欧州からの監視団によるキエフのNaftogaz本社におけるガス輸送スクリーンへのアクセスを拒否する状態となっており、Barroso欧州委員長はウクライナ側の、より非協力的な態度を指摘している6。 ティモシェンコ首相の発言によれば、ウクライナ側の対応はガスの抜き取りではなく、欧州向けパイプラインのブースターを稼働させる為に、必要なガスを使用していただけであり、その量は2,200万m3/日になるとのことである7。これは、年間80億m3、即ちウクライナのロシアからの輸入量の15%に相当し、尋常ではない規模である。しかも、ウクライナ側の認識では、これはパイプラインシステムを機能させるのに必要なガスであり、無料で提供されるべきであるとしてい3)ウクライナ側の要求する「技術的(technical)」ガスについて (る。 ガスプロムが技術的ガスと呼ぶものには下記の3種類がある。 ① パイプラインの充填ガス(パイプ・フィル) ② コンプレッサーステーションのガスタービン等の燃料として使われる燃料ガス ③ バルブの開閉に必要となるシリンダー等に使用するガス 量的な面で言うと、①はパイプラインの口径により異なるが、基本的に膨大であり、②の燃料ガスは送ガスの8%程度の水準、③は非常に微量で量的なカウントには入らない。今回の場合、ウクライナ側が必要とした「技術的」ガスは、年間輸入量の15%という量から判断して、①と②の双方を含むものと思われる。 石油の場合は、パイプ・フィルはパイプラインを機能させる為、その設備の一部となっていることからパイプライン会社の所有であるのが通常であるが、1973年にソ連から西ドイツへ天然ガスの供給が始まった際には、生産地であるウレンゴイ・ガス田からドイツ国内のターミナル直前まで区間の天然ガスはソ連の所有物という契約であった。 今回、ウクライナはロシアがパイプラインを停止した後も、パイプ内の充填ガスを使った可能性が高く、この分に関しても、ウクライナ側は支払の義務が生じると思われる。また、②に関しては、パイプラインの通過タリフに当然含まれるものと思われるが、両国の契約が不完備であった場合には、係争の要因となり得る。 6 PON, 2009/1/15 7 日経、2009/1/14 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 8 - この技術的ガスの供給に関して、その後、ガスプロムが欧州のバイヤーに対してコンソーシアムを組んで対応することを提案した。対象となるのは、ENI(伊)、E.On Ruhgas(独)、GdFSuez(仏)、OMV(オーストリア)、Wingas(独)、Gas Terra(蘭)である8。これは、ウクライナ側の主張を受け入れたものと思われる。但し、ウクライナが、平均$153.9/1,000m3で「技術的」ガスを購入するとの報道もなされており9、情報が十分出ていない感がある。 一方で、今回ロシア側が、ガスの安定供給を名目に、国際企業体構想を取り上げ、欧州主要国の政府やガス企業にその必要性を説明し、一定の理解を取り付けた、との報道もなされており10、上記のコンソーシアムが単なる「技術的」ガスを扱うに留まらない可能性がある(後述)。 ロシアから欧州方面に輸出される天然ガス価格の2005年~2009年までの推移を表1に示す。西欧、旧東欧諸国とCISの中でもバルト3国は10年間の契約で、特に独、伊、仏、デンマークのエネルギー企業とは20年~25年の長期契約を結んでいる。天然ガス価格は、欧州での石油製品に連動する方式である。ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、アルメニア等は1年ごとの固定価格契約となっていたが、ウクライナは今年から10年契約となった。 4)天然ガス価格の推移とパイプライン資産の売却 (2006 245-285 190 130-145 115-155 46.68 95 110-160 110 110 110 2007 2008 2009 備考 293 260 217 210 100 130 170 230-110 369 340340353127.9179.5 250235-110384(Q1) 340(Q1)340(Q1)353(Q1) 160 親ロ政権、PL売却 360(Q1)315(Q1) アゼルからガス輸入 - ガス2007年輸出開始 154* 親ロ政権PL売却 EU Estonia Latvia Lithuania Belarus Ukraine Moldova Georgia Azerbaijan Armenia 250 90 92-94 85 46.68 50 80 63 60 54 2005 SD/1000m3 U表1 ロシアから欧州各国への天然ガス価格 ここでは、いずれの国においても天然ガス価格は引き上げられ、欧州における市場価格へ引き寄せられている。ウクライナに当初提示された$250/1,000m3という価格についても、この時点で$450/1,000m3といわれる欧州価格の約半分であり、日本の新聞も「ガスプロムが当初提示してい 8 IOD, 2009/1/20 9 Prime-Tass, 2009/1/:21 10 毎日, 2009/1/24 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 9 - スのは国際価格以下で、そう不当とも思えない」11との論評を行っている。 この中で、ベラルーシとアルメニアの天然ガス価格の低さが際立っている。これは、一部の報道で、親ロシア政権において天然ガス価格の優遇措置を受けている、ロシアによるエネルギーの政治利用は明らかだ、との指摘がなされているが、これは皮相な観察と言わざるを得ない。ベラルーシは2005年に国営ガス・パイプライン会社のBeltransgazの株式の50%、及び国際パイプラインであるYamal-Europeパイプラインの100%をGazpromに売却した。アルメニアは、2006年にイランからの天然ガス・パイプラインをGazpromに売却した(これはイランからのパイプラインのコーカサス地方へのそれ以上の伸長を未然に摘み取るための対抗策でもある)。これら国家資産の切り売りに対する見返りとして、天然ガス価格の割引がなされているのが実態である。しかし、これとても、段階的な値上げが図られている。 但し、両国がともに親ロシア政権であることは偶然ではない。即ち、政権の性質からして、自国資産のロシアへの売却にはあまり警戒心がない。ロシアの最大の関心は、ガス輸出の80%を担うウクライナの輸出用高圧パイプラインであり、これへの資本参加が可能になればパイプラインのモニターが可能となるため、過去にもウクライナに対して再三資産売却を打診した経緯があるが、ウクライナからは強烈な拒絶に逢っている。Gazpromは既に、Interconnectorの10%、Bacton-Balgzand Line(BBL)の9%、ドイツ国内のdistributorであるWingasの49%を取得し、欧州におけるガス輸送網の確保は戦略の柱の一つである。 ウクライナの天然ガス・パイプラインは老朽化が進んでおり、ウクライナにはこれを修復するだけの経済的な余裕がない。2002年6月の初めには、プーチン大統領、クチマ・ウクライナ大統領、シュレーダー独首相(いずれも当時)の間で、ウクライナのガス・パイプライン・システムを改修し、操業する、(但し所有するのではない)国際コンソーシアムの設立で合意した12。この計画はその後の「オレンジ革命」で頓挫し、代替としてバルト海を経由するNord Stream構想へと引き継がれて行ったが、ウクライナのパイプラインに関する国際管理の構想は当時からあった。 ウクライナのユーシェンコ大統領は13日の記者会見で、「ロシアとのガス紛争は独立と主権のための戦いである」と大袈裟とも思える発言を行っているが13、支払い不能に陥ったウクライナが「敗戦処理」として、輸出用幹線パイプラインに対する何らかの国際管理や、最悪の場合には権益売却を迫られることのないよう、そのような動きを警戒しての発言と思われる。 今回のロシアのぶれない強硬姿勢についても、ロシアのコメルサント紙は、「今回の紛争を利用してウクライナのパイプライン運営にガスプロムを参加させ、欧州への輸送網を完全に掌握する狙い」と指摘した14。ウクライナとしては、このような構想が、今回の紛争決着の「落とし所」と看做されることのない様、必死の防戦に努めているところである。 11 日経, 2009/1/08 12 Nefte Compass, 2002/6/13 13 毎日、2009/1/14 14 日経, 2009/1/15 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 10 - i5)中央アジアからの天然ガスの買い付け 2008年3月11日のGazpromと中央アジア3カ国の国営石油との合意で、中央アジアからの天然ガス価格は「欧州基準」へシフトすることとなった。同年3月13日、ウクライナに対しては、天然ガス価格を「中央アジア基準」にするとした。これは、対中輸出を進めるトルクメニスタンを牽制することが主たる目的であるが、同時に間接的にウクライナに対しては、欧州価格を提示したものであり、中央アジア諸国からの値上げ要求を呑むと言っても、その付けは殆どウクライナに負わせるとした決定である。この時、ウクライナ側からの反発が殆どなかったが、ここに来て泥沼化の様相を呈することになった。 ロシアが買い付ける中央アジア産天然ガス価格を表2に示す15。但し、別の報道ではTurkmenistanからの買取り価格は、1月初めで$365/1,000m316とのことで、情報ソースにより依然として開きがある。ちなみに、昨年のロシアが購入する時のトルクメニスタン産天然ガスの価格は、1-6月が$130/1,000m3、7月-12月が$150/1,000m3、年平均で$140/1,000m3であった。 国 2008年価格 2009年価格 対ロシア輸出量備 考 Kazakhstan Uzbekistan Turkmenistan $180 $145 $140 $340 $305 $340 5Bcm/y 10Bcm/y 50-60Bcm/y ウクライナで$380/1,000m3表2 ロシアが買い付ける中央アジア産天然ガス1,000m3辺りの価格 .最終的な合意 31月19日、Naftogaz UkrayinyのOleh Dubyna社長とGazpromのMiller社長は、プーチン・ティモシェンコ両首相の立ち会いのもと、10年間の天然ガス供給契約に調印した。 新規の合意内容は、石油価格を欧州と同様の石油製品価格に連動したフォーミュラ方式とし、2009年第1四半期を欧州価格の2割引きの$360/1,000m3、契約期間は10年間、通過料は2009年は据え置きの$1.7/100km/1,000m3というものである。供給量は例年は550億m3であったが、2009年は400億m3とする。これは、価格の高い2009年初頭に関しては、なるべく備蓄ガスで対応するというものである。今回決定した価格方式は、欧州と同様にフォーミュラに基づくもので、2009年に限り2割引とし、2010年は欧州水準となる。ガス価格は$360/1,000m3と報じられたが、これは第1四半期の分である。油価の下落が完全に石油製品価格に反映するまで半年近くかかるとされ、欧州市場での石油製品価格はこれから大きく下降に向かう。Gazpromは、2009年の欧州における平均価格は$280/1,000m3であり、ウクライナにおける平均価格は$250/1,000mn3を若干下回ると見ている17。一方、ティモシェンコ首 15 PON, 2009/1/06 16 FT, 2009/1/08 17 IOD, 2009/1/21 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 11 - 鰍ノよれば、2009年の平均ガス価格は$228.8/1,000m3と予測し18、今回の妥結内容については、昨年来の交渉条件に比較して優位であることから、「ウクライナの勝利」と宣言した。 欧州と同様のフォーミュラに基づく10年間の長期契約になったということは、これまで年中行事のように繰り返されてきたガス紛争が、今後は一切なくなるということである。 通過料に関しては、2010年1月からは、欧州水準の約$2.5/100km/1,000m3となる19。 残された問題は、$11億と言われるGazpromの被った売上減という被害、$6億の未払い金、「技術的」ガスの支払い、の3点である。 ロシア側の得た成果は、欧州価格並みへのガス価の引揚げ、長期契約、ウクライナ国内での天然ガス輸送のEU監視団によるモニター制の導入(但し、ウクライナ側の主張では2009年1月のみの措置)、の3点で大きな進捗と言える。 なお、Vedomosti紙が報じた契約書の内容によれば、天然ガス価格は、先行する9ヶ月、即ち2008年4月から12月までの重油と軽油に価格基づき、公式に拠って$450と算定したもので、また、契約期間は2009年1月1日から2019年12月31日と11年間であるという20。 多くの報道は、今回の事件を経済事件ではなく、政治的なゲームと見ている。多くの一般紙に見られる推測は以下のようなものである。 「オレンジ革命を遂行し、NATO加盟を目指すユーシェンコ政権は、ロシアにとって敵対的なものであり、同政権を排除することはロシア外交としては高い優先度がある。今回の係争はウクライナへの天然ガス供給を停止することで、ウクライナ国民に対してエネルギー支配権をロシアが支配していることを知らしめ、ユーシェンコ政権の弱体化を図り、NATO加盟を阻止しようとする.パイプライン係争の政治的な解釈について 4(1)パイプライン係争に関する政治的な議論 ものである」 (2)経済的な解釈からの反論 これに対する反論として、まず歴史的な事実を挙げておきたい。 ソビエト連邦崩壊後では、ウクライナに対して1994年3月、同年12月、1997年7月、1999年11月と4回の供給停止があり、クラフチェク政権(1991年12月~1994年7月)、及びロシア重視のクチマ政権(1994年7月~2004年10月)下での出来事である。即ち、ロシアは、特段反ロシアを掲げる政権でなくとも、天然ガス供給停止を行っている。ロシアが政治的な理由からクチマ政権を追い詰めようとしたことはない。クチマ政権時代の天然ガス供給停止は、あくまで経済がその理由であった。今回に限って、その目的が経済でなく政治であると主張するためには、90 18 PON, 2009/1/23 19 IOD, 2009/1/21 20 Vedomosti, 2009/1/23 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 12 - この他、ロシアとクチマ人脈が利益を得ている中間業者RosUkrEnergoの影響が、事態を複雑化させているとの指摘もある。中央アジアの天然ガスを扱うハンガリー法人Ural Transgazが2004年7月、捜査を受けた。この時、トルクメニスタンではエネルギー担当で日本にも知己の多かったGurbanmuradov副首相が収賄の疑いで逮捕されている。 同社を廃止して、その直後に、クチマ大統領(当時)とプーチン大統領(当時)との間で、設立したのがRosUkrEnergoであり、これに近い人脈の資金源との噂がある。この株主は、Gazprom 50%、Reifaisen銀行(クチマ人脈のウクライナ人ビジネスマンが所有)50%である。しかし、2006年のウクライナ問題を処理する過程で、2月、突如第2中間業者UkrgazEnergoが設立された。これはウクライナ国内での天然ガスを扱う業者で、株主はRUE50%、Naftogaz50%(つまりロシアが1/4)である。これは、その時期からしてユーシェンコ大統領に連なる中間業者と解される。してみると、今回の天然ガス係争は、ロシア、ウクライナ双方の前近代的な利権構造が問題を複雑化させていると見ることができる。そして、これはメドヴェージェフ大統領が排除を目指し、一方でガスプロムに連なる人脈では関与する人物が多いという、複雑で微妙な問題を多く孕んでいる。 2006年時点での組織と天然ガスの取り扱いフローを図4に示す。 年代の天然ガス供給停止と異なるという根拠を示す必要があるだろう。 3)中間業者RosUkrEnergoの問題 ( 図4 2006年におけるロシアとウクライナの天然ガスの流れと中間業者(その後、2008年3月のプーチン・ティモシェンコ会談でUkrgazEnergoの排除が決定した) 2008年3月のプーチン・ティモシェンコ会談では、UkrGazEnergo排除で合意した。即ち、ウクライナ国内企業に対するGazpromの株式保有はなくなったが、同時に議論されたRosUkrEnergo 排除も議論されたが実現していない。 このような不透明な組織がいかなる人脈で動き、今回のような係争でどのような影響を与えているのかは報道も少なく不明である。ただ、ロシア-ウクライナ問題の本質的にもっている分かGlobal Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 13 - 闢?ウの背景には、このような不透明な政治が産んだ組織があり、ロシア・ウクライナ両国は対立すると同時に、関係者たちが様々なレベルで交差し合っている現状がある。 . 今回のガス係争の背景 5(1)ウクライナ側の戦略 ロシアの強硬姿勢は、ガスの支払い問題の解決と解釈できるが、1月第2週までのウクライナ側の強硬姿勢(obstinacy)は際立っていた。ここには、経済的な苦境から、これ以上失う物がないウクライナの「瀬戸際戦略」21が読み取れる。更には、”the-worse-the-better”Strategyと評する専門家もいる22。 ① そもそも、ウクライナは経済破綻状態にあり、2008年暮れには国際通貨基金(IMF)から$165億の借入を行っている。ロシア側の要求する$6.14億の未払い金については、支払う意思が基本的に乏しい。 ② ウクライナとしては、天然ガス価格の先行きの下落を見込んでおり、2008年内にロシアとのガス価格の妥結をする意思はなかった。欧州市場での天然ガス価格は石油製品に連動している。昨年7月以降の原油価格の急落は、約半年で石油製品価格に反映すると見込まれており、ウクライナは時間を稼げば交渉を有利に展開できると見ている。ウクライナは約4ヵ月分のガス貯蔵をしており、この様な対応が可能である。 ③ 今回の通ガス停止は、ガスプロムに多大な経済的損失を与えており、その額は1日で約$1億と言われている。これは、通過国の持つ侮れない影響力を資源国に対して示したことになったと言える。但し、これはガスプロムに損害を与えている行為であり、当然ながら追って賠償責任の議論が待っている。 ④ ウクライナはロシアに対抗することで、欧米の支持を取り付けるという、2006年の事例の再現を狙った節がある。但し、1月1日以降の実際の欧州での世論は、中立を保っており、この目論見は外れたと言える。 ⑤ 供給停止状態を続けることでエネルギー供給国としてのロシアの評価を下げ、欧州においてロシアを除外する天然ガスルートの議論が高まることを目論んだものと思われる。これは、表面的には成功しており、1月16日、IEAはロシアに代替するエネルギーソース開拓の必要性を表明している23。勿論、EUはウクライナに対しても通過国の責任を指摘しており、この成果はプラスマイナスゼロと言うできであろう。 但し、今回の混乱の最大の理由は、ウクライナ内部の不統一、具体的にはユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相との間の確執であろう。両者は、2009年末にも行なわれる予定の大統領選への出馬の準備に入っているが、現職のユーシェンコ大統領は経済政策の失敗から、支持率は5% 21 Energy Compass, 20009/1/16 22 Radio Free EuropeのRussia Today コメンテーターPeter Lavelle, RadioFreeEurope, 2009/1/07 23 PON, 2009/1/19 - 14 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 xと言われている。一方、ティモシェンコ首相は、かねてからポピュリスト的な政治手法を得意としていたが、実際のロシアとの交渉でも成果を挙げており、ユーシェンコとしてはこれを潰す必要から合理性に欠ける政治決断を続けたと言える。これが、ロシアとの2008年10月の実質合意の破棄となって現われており、交渉を繰り返さざる得なくさせたものと思われる。 ティモシェンコ首相は東部の重工業都市Dnjepropetrovskの出身で、その政治基盤には親ロ勢力が多い。大統領選を意識してか、昨年夏から旧来の親欧米路線から親ロに転換したと言われ、2008年8月のグルジア紛争の際にも沈黙を守り、強硬なロシア批判を展開したユーシェンコとの立場の違いを明確にしている。今回はこのような、ウクライナ政界の内部対立が全欧州に悪影響を与えた形になっており、これがウクライナに対する同情が一切湧き起こらなかった理由と思われる。唯一の解決策は、大統領選の実施であろう。 (2)ロシア側の戦略 これに対するロシア側の批判は、「世界のどこに、エネルギーを只で受け取れる国があるだろうか」という、ロシア下院CIS委員会のザチューリン副委員長の発言に集約されている24。 更に、ロシア側としては、エネルギー通過国としてのウクライナの信頼性の低さを強く国際社会に訴えることで、現在進めているNord StreamとSouth Streamという2つのウクライナ迂回パイプライン計画の推進に弾みをかけたい意思がある。Nord Streamに関しては、フィンランド、スウェーデン等がバルト海の環境問題を盾に、建設計画の進捗がはかばかしくない。Nord Streamの必要性に関する認識が高まることは追い風である。 South Streamに関しては、グルジアの不安定性、埋蔵量不足により、グルジアを経由するNabuccoパイプライン計画が後退するなかで、その存在感を高めているが、事業の緊急性を認識させる上で、ウクライナ問題を利用できると考えているものと思われる。但し、現下の国際的な経済危機で全体の進捗が遅れることは避けられないと思われる。 (3)EU側の動き EUは、当初ロシア側が緊密な連絡をとって対処したことから、1月4日まで2国間問題との理解で、仲介に入ろうとはしなかった。1月7日に、送ガスが完全にストップしたことから、EU議長国であるチェコのTopolanek首相が介入を始めたが、終始中立的な姿勢を維持している。これが、2006年の時の対応と違う点である。更に、EUのBarroso委員長もToplanek議長もウクライナに対しては、同国のEU加盟に関して悪影響がある旨警告しており、EU側の不快感はウクライナに対してより強い。 一方、Nabuccoに関しては、示し合わせたかの様に、紛争集結後から活発に動き出している。1月23日、オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、トルコの各国代表はブリュッセルのECに集結し、更に1月27日には、ハンガリーのブダペストで、”Nabucco Summit”が開催さ 24 Christian Science Monitor, 2009/1/16 - 15 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 黶AハンガリーのGyurcsany首相、EU議長のTopolanekチェコ首相、アゼルバイジャンのAlyev大統領らが参加し、計画実現を目指す宣言を採択した。ここでは、欧州投資銀行(EIB)や、欧州復興開発銀行(EBRD)への融資要請などがなされた25。2月4-5日にはウィーンで政府間合意書に調印することを目指している26。Nabuccoは、総工費79億ドル、総延長3,300km、第1期(2013-18)輸送量80億m3、第2期(2019~)輸送料310億m3という計画であるが、アゼルバイジャンのShah Denizガス田の最大生産量は年間160億m3であり、追加の埋蔵量が必要である。これをイランのガス田に求めるかという点に関しては、依然論争が決着していない。更に、グルジア通過という問題を抱えている。産業界の慎重な姿勢に比較して、政治側が勢い付いている状況があり、表向きはウクライナ問題の結果を踏まえた形となっているが、係争解決直後から各国首脳を揃えた国際会議が目白押しとなるスケジュールは、係争の最中から、或いは係争の前から仕組まれていたとの印象がある。 パイプラインの通過国となるトルコは、1月19日、紛争が解決する前から、トルコのEU加盟が阻止されるならば、Nabucco計画を見直すと宣言し27、今度はNabucco計画を人質にとる動きを見せたが、これも同計画が既にスケジュールに入っているかのような対応振りである。 影響の大きかった東欧諸国では、ロシアからのパイプラインによるガス輸送から、LNGや原子力発電へシフトする構想が相次いで発表された28。Polandは、2020年までに1~ 2基の原子力発電所建設(現状は95%が石炭火力)及びLNG受入港の建設を促進する。Croatiaは、Adria LNGの沖合受入施設(100億m3/年)の建設を促進する。資金規模は10.3億ドルで、ドイツのE.On Ruhrasが最大のパートナーとなる。Hungaryは、Croatia経由のLNG導入を進める方針で、そのために、首相がOman、Qatarを訪問中である。 EU加盟時に稼働を停止させた旧式の原子力発電所を再開する動きが、Bulgaria、Slovakiaであり、CroatiaとSerbiaも検討に入っている。 1月25日、プーチン首相はテレビのBloombergに出演し、「ウクライナのガス問題に関して政治的な混乱を増幅させたのは米国の前大統領である」と、ジョージW.ブッシュを直接非難した。 また、ここ数年のウクライナで起こったことは、米国の前政権とEUの活動の結果であるとし、更にオバマ政権に対しては「慎重ながらも楽観的だ(“cautiously optimistic”)」と付け加えた29。 連邦下院経済政策事業経営委員会のYevgeniy Fedorov委員長も、今回のウクライナとのガス紛争において、米国によるウクライナに対する関与を指摘している30。また、メドヴェージェフ大統領 25 International Oil Daily, 2009/1/28 26 International Oil Daily, 2009/1/26 27 Gas Matters Today, 2009/1/20 28 PON, 2009/1/22 29 The Moscow Times, 2009/1/27 30 Julian Lee(2009), What is blocking a solution to the Russia-Ukraine gas dispute?、FSU Oil & Gas Advisory, 2009/1/15、Centre for Global Energy Studies. - 16 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 4)米国の関与 (ヘ1月13日、ウクライナの非妥協的な態度の背景には、昨年12月19日に交わされた米国とウクライナの間の戦略合意があるとして米国を強く非難した31。この具体的な内容は不明であるが、Lee(2009)は、EUによるNabuccoパイプライン計画が遅々として進まないことに対して、米政権が苛立ちをもって見ていることを指摘している。これは、その後のNabucco計画の迅速な動きと符合する。 2006年のガス問題の際には、ライス国務長官、チェイニー副大統領らがこぞって、ウクライナへの天然ガス供給停止に関してエネルギーの政治利用だとしてロシアを非難した。今回、わずかに国務省の副報道官レベルでの批判に留まり、政権交代期という事情もあるとはいえ、そのローキー振りは目立っている。プーチン首相の言うように、もしも米国の関与があるとすれば、このような対応は驚くに当たらない。 以 上 31 IOD, PON, 2009/1/14 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 17 -
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 旧ソ連
国2 ウクライナ
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア旧ソ連,ウクライナ
2009/01/28 本村 真澄
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