ユーラシア:アゼルバイジャンとトルコがガス販売・通過の条件で基本合意/正念場を迎えるナブッコ・パイプライン計画
レポートID | 1004014 |
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作成日 | 2010-06-14 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-03-05 19:32:42 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガス資源情報 1 |
分野 | 天然ガス・LNG探鉱開発 |
著者 | |
著者直接入力 | 古幡 哲也 |
年度 | 2010 |
Vol | 0 |
No | 0 |
ページ数 | |
抽出データ | 更新日:2010/6/14 調査部:古幡 哲也 公開可 ユーラシア:アゼルバイジャンとトルコがガス販売・通過の条件で基本合意/正念場を迎えるナブッコ・パイプライン計画 (主要専門誌等) ? ? ? ? 6月7日、アゼルバイジャンのアリエフ大統領がトルコを訪問し、トルコのエルドアン首相との間で、これまで懸案となっていたアゼルバイジャン産天然ガスの購入及び欧州向け出荷の際のトルコ国内通過の条件に関して合意した。その内容は断片的に報じられているだけで、まだ詳細検討の余地があるとの見方あり。 この合意を受けて、トルコ経由・欧州向けのガスパイプライン(ナブッコ・パイプライン、ITGIパイプライン、アドリア海横断パイプライン(TAP))の事業者は、アゼルバイジャン国営石油会社SOCARなど、シャーデニス・ガス田のパートナーに対する供給源の囲い込み競争が本格化させる。また、これに合わせて、上流のシャーデニス・ガス田開発計画の検討も本格化する見込みで、早ければ2017年に生産開始となる。 このうち、ナブッコ・パイプラインは、シャーデニス・ガス田の生産規模から見て、輸送能力があまりに大きく、他のパイプライン計画と比較して準備に時間がかかる。ここ数ヶ月間が正念場か。 一方、ナブッコの対抗馬であるサウスストリーム・パイプラインは、関係国との間で「政治的」な合意の取り付けが進展し、FEEDも完了したとも報じられているが、今回の合意では打撃を受け、一方でウクライナとロシアの関係改善が進んで必要ないとの議論や経済性やルート選定でパートナーのENIとの確執が取りざたされるなど、その実現性を危惧する声も聞かれる。 写真1:勢ぞろいしたアゼルバイジャンとトルコの関係者(アゼルバイジャン大統領府HPより、左から、【アゼルバイジャン】アブドラーエフSOCAR社長、ナティク・アリエフ 産業・エネルギー大臣、イルハム・アリエフ 大統領、【トルコ】エルドアン 首相、イルディス・エネルギー自然資源大臣、セネルBOTAS会長) Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 1 - - . トルコとアゼルバイジャンの合意 1これまで拙稿でもしばしば紹介してきたように、アゼルバイジャンは自国産天然ガスの欧州向け輸出に関して、その通過国となるトルコとの間で、ガス販売価格やガスのトルコ国内通過の条件について、2年以上の長きにわたって交渉を続けていたが、6月7日、ようやく一定の合意にこぎつけた。 Aゼルバイジャンのアリエフ大統領がConference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asiaに参加するためにトルコを訪問したこの機会にこの合意を実現するため、水面下ではかなり精力的に事務的な交渉が行われていた模様だ。先月5月15日から16日にかけても、トルコのエルドアン首相がバクーを訪問する機会があり、その際にも合意に向けて下交渉が進められたのだが、「技術的な理由(?)」により、6月7日まで先送りされたという経緯もある。 今回の合意は、法的な拘束力はなく、今後、さらに詰める点も残されていると言われるが、ナブッコなど、欧州向けパイプライン計画を推進している事業者たちからは一様に歓迎されており、アゼルバイジャン産ガスの欧州向け出荷の基礎はある程度定まった、と評価する向きが多い。現在、トルコ経由で出荷するガスパイプラインはいくつか計画されているが、その実現に向けいよいよ正念場を迎えることになる。また、これとは別にサウスストリーム・パイプライン計画を進めているガスプロムおよびロシア政府にとっ これまで拙稿では、アゼルバイジャンとトルコが以下の三点をパッケージで交渉していることをご紹介してきた。果たして、これらの点は合意されたのであろうか。 (1) 2008年4月に期限切れしたシャーデニス・ガス田フェーズ1開発からの年間6.6Bcmのガス価格 (2008年4月までは120ドル/千cm) (2) シャーデニス・ガス田の第二期開発からのガス価格 (3) シャーデニス・第二期開発からのガスを欧州に販売する場合の通過条件 (トルコが通過するガスの15%を優先的に安価に引き取り、自国で使用しない場合に欧州向けにより高い価格で再輸出することを要求) アリエフ大統領とエルドアン首相がサインした宣言書やアゼルバイジャンのアリエフ産業・エネルギー大臣とトルコのイルディス・エネルギー資源大臣がサインした覚書の内容が断片的にしか報じられていないため、これらの課題が本当に解決されたかどうかは、実はよくわかっていない。まだ詳細まで決まっていない可能性も高く、今後、最終調整のうえ合意に達することが必要なようだ1が、本項では可能な限りの分析を試みたい。 .「三点セット」は合意されたのか? 2て今回の合意は痛手となった。 1 レポートの表題には「The (Almost) final gas agreement」(Eurasia Group)や「Turk-Azeri talks fall short on Shah Deniz Gas」(PIW, 2010/6/1)4というものもある。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 2 - - i1)第一フェーズのガス価格 図1:買いたたかれていたシャーデニス・第1フェーズのガス シャーデニス・ガス田 第一フェーズのトルコ向けガス価格上限($120/千cm=約22p/th) 2008年4月までのシャーデニス・ガス田第一フェーズのガス価格は、2001年に締結された供給契約(15年)に基づきフォーミュラによって算出されていたが、120ドル/千cmの上限2が設定されていた。この価格はかなり下落してしまった欧州の今の価格よりもずっと安いし、過去数年のレベルから見ても価格の振れ幅の下限近くでしか売れていないことになる(図1参照)。2008年4月に先の価格体系が失効したのをきっかけに、価格をもっと引き上げたいとの主張は当然だろう。 この第一フェーズのガス価格については、2010年2月以降、トルコ側関係者が「実質合意した」との発言を繰り返していたこともあって、比較的順調に交渉が進んでいたようだ。今回、価格の引き上げに図2:シャーデニス・第1フェーズガス生産プロファイル (出所:BPWebsite)合意したこともほぼ間違いないだろう。この価格は2008年4月に遡って適用され、これまでトルコが支払ってきた120ドル/千cmの価格との差額も支払うことになっており、その合計は15億ドルに上る3 とも言われている。 ただ、実際の価格ははっきりしておらず、「190~220ドル/千cm」4、あるいは「300ドル/千cm」5というトルコ紙の 2 Eurasia Group, 6/10 3 Gas Matters Today, 2010/6/8 4 Nefte Compass, 2010/5/13 5 Gas Matters Today, 2010/6/8 3 - - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ケもある。前者は現在の欧州におけるガス価格を良く反映した価格といえそうだが、いずれにせよトルコ向けの販売価格は欧州の長期契約に基づくガス価格フォーミュラに連動していると考えるのが自然であろう。 また、今回アゼルバイジャン産ガスの引き取り価格を引き上げたとはいえ、トルコがロシアから購入しているガスの価格よりも30%程度は安い6との評価もあるので、トルコにとってはぎりぎり受け入れられる価格だったのかもしれない。 (2)第二フェーズのガス価格 第二フェーズのガス価格についての言及ほとんど見られないが、普通に考えれば、(1)と同様に、欧州における長期契約価格ベースで定めるのが一般的な考えと思われ、第一フェーズと第二フェーズはほぼ同じ価格になるものと思われる。 3)欧州向けのガス通過条件 (この通過条件については、もっとも合意が難しいと思われていた。単位当たりのガス通過料金など、詳細は明らかにされていないものの、「トルコはシャーデニス・フェーズ開発2から年間6Bcmの供給を受ける」、「シャーデニス・ガス田第2フェーズ開発から年間10Bcmを欧州向け7に出荷する」、といった内容に合意したとされている。さらに、SOCAR(アゼルバイジャン国営石油会社)とトルコの民間石油・ガス会社Turcasが大株主になっているトルコの石油化学会社Petkimに年間1Bcmのガスが供給され、ガス化学に用いられるとの情報8もある。 このようなガス出荷数量についての合意事項は、いままではほとんど報じられたことがなく、それだけでも大きな前進であることは間違いないが、アゼルバイジャン側が求めていたトルコ国内でのガス直接販売など、詳細な条件は決まっておらず今後も両国の間で詰めの協議は続くものと見られている。 3.地政学的な要素 なお、今回の合意に関しては、このエリアの地政学的な要素も影響していた可能性が高い、との指摘もある。昨年来、トルコとアルメニアの関係改善の機運が高まっていた。強力なアルメニア人ロビー活動 6 Eurasia Group, 2010/6/10 7 10Bcm/年の欧州向け出荷量は欧州向けにコミットしたものではなく、シャーデニス・ガス田 フェーズ2の生産量16Bcm/年の生産量のうち、6Bcm/年をトルコに、残りの10Bcm/年を「その他」に供給するとの報道もある。(Argus FSU Energy, 6/11) 8 Platt’s Oilgram News, 2010/6/8 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 4 - - フ圧力を受けて米国国務省も積極的になり、トルコに対してアルメニアとの関係改善を強く働きかけたとされる。この結果、2009年10月、トルコ政府はアルメニア政府との間で国交樹立について合意したが、この間、確かにトルコ向けガス出荷に関する交渉ではかばかしい進展はなかった。 その後、トルコが国交回復の条件として、アルメニアにナゴルノ・カラバフ問題9の解決に努めることを突き付けたため、業を煮やしたアルメニアは4月に態度を硬化させて、国交回復の動きは完全に停止してしまった。政治的にはアゼルバイジャンにとって望ましい形に収まったわけだが、まるでタイミングを合わせるように、5月に入ってガス価格・通過条件交渉が一気に動き出した。 アゼルバイジャンとアルメニアの間にはナゴルノ・カラバフ問題があるが、この問題で伝統的にアゼルバイジャンの立場を支持してきたトルコがアルメニアとの国交を回復することは、アゼルバイジャンにとって面白かろうはずがない。そしてこの問題が、どうやらガス価格・通過条件交渉に影を落としていたのは事実のようである。アゼルバイジャン側はたびたび「ガス交渉は純粋に経済的な問題」と発表していたのだが、一方のトルコ、イルディス・エネルギー自然資源大臣は、「トルコとアルメニアの関係改善の動きの結果、アゼルバイジャンとの交渉が停滞している」と指摘していた10。ガス価格・通過条件交渉が停滞していた主たる理由がトルコとアルメニアの関係改善だったとは考えにくいが、一つの障害となっていた可能性は高いだろう。 ちなみに、米政府は長らく駐アゼルバイジャン大使ポストを空席のままとし、上記のようにアルメニアとトルコの関係改善を働き掛けたりしたため、アゼルバイジャン政府は米政府に対し極めて強い不信感を抱くに至った。アゼルバイジャン議会では、アゼルバイジャンに投資している米国の石油企業の権益比率を減らすべきだ、というような過激な案も議会で議論されたほどである。11 米政府は5月22日、元欧州・ユーラシア担当次官補で、ナゴルノ・カラバフ問題の交渉にも経験のあるマシュー・ブリザを大使に任命した。加えて6月に入ってからはオバマ大統領がアリエフ大統領に書簡を送り、またアリエフ大統領もこれを評価するコメントを発表するなどしており、関係の修復が図られつつある。 今回のトルコとアゼルバイジャンの合意でもっとも大きな痛手をこうむったのは、ロシア政府とガスプロム、伊ENI、そして最近フランスEDFも参加の意向を示しているとされるサウスストリーム・パイプラインで.打撃を受けたサウスストリーム・パイプライン 4 9 アゼルバイジャン国内にあるナゴルノ・カラバフ自治州はもともとアルメニア人が多く居住していたが、1992年に自治州側が独立を宣言し、武力衝突が発生。1994年には停戦が成立したが、同自治州はアルメニアに実質的に支配されている状態。 10 Nefte Compass, 2010/4/11 11 Turan Energy, 2010/4/11 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 5 - - ?ろう。サウスストリームは、大産ガス国のロシアが控えているため、供給源の確保には問題はないが、アゼルバイジャン産のガス10Bcm/年が新たに欧州市場に供給されるようになれば、ガスプロムが抱えている欧州のガス市場が侵食されることになってしまう。 図3:欧州向けガスパイプラインの構想 ロシア政府とガスプロムはこれをおそれて、あの手この手でアゼルバイジャンから欧州向けのガス供給を阻止しようとしてきた。例えば、サウスストリーム計画を推進してナブッコ・パイプラインやその他の欧州向けパイプラインに対抗するだけでなく、2009年4月以降、供給源であるシャーデニス・ガス田第二フェーズのガスを全量買い取るオファーを提示してきた。 また、Conference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asiaには露プーチン首相も急遽参加し、アゼルバイジャンとトルコの合意の翌日にエルドアン首相との直接会談の場を設定した。JOGMECモスクワ事務所によれば、プーチン首相のトルコ訪問は急に決まった外交日程とのことであり、トルコとアゼルバイジャンの合意が確実となったため、これをけん制しようとした可能性は高い。 しかしロシア政府によるこれらの努力もむなしく、アゼルバイジャンとトルコはガス価格・通過条件に合意してしまったわけである。 政治的な動きはともかく、実際の需給の面でもガスプロムは苦しい状況に追い込まれている。欧州のガス需要が今後伸びるとしても、米国におけるシェールガスなど非在来型ガスの大増産により余剰となっGlobal Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 6 - - ス大西洋圏のLNGが欧州市場に押し寄せていることに加えて、ガスプロムが自ら進めるロシアとドイツを直接結ぶノルドストリーム12も4月9日に海底パイプラインの敷設を開始、2011年の後半にはガスの供給が始まる可能性がある13。また、ウクライナで新たに選出されヤヌコビッチ大統領はロシアとの関係改善を図る姿勢を示しており、ウクライナ国内の既存パイプラインシステムを改修して活用する動きが出てきている。毎年の恒例行事のようにとなっていた欧州向けガスの停止というエネルギー安全保障上の懸案も解決に向かう可能性が出てきた。ポーランドはガス供給源の多様化のためLNGターミナルを建設中、またクロアチアにもLNG受け入れ基地建設構想がある。また、東欧圏内では、これまでガス幹線パイプラインをネットワーク化しようとする動きも見られる。このようにガス供給の多様化・安定化が進んでいることもあり、サウスストリームがガスプロムにとって本当に必要なのか、疑問を呈する見方も増えてきている。 ガスプロムにも巻き返しに望みが無いわけではない。ロシア政府は強い決意でサウスストリーム・パイプラインを推進しようとしていると言われており、6月7日にはギリシャ政府との間でサウスストリームの建設・操業JVの建設に合意し、また黒海海底区間のFEED(Front End Engineering Design)が完了したと発表した。また、今回のアゼルバイジャンとトルコの合意には法的拘束力はなく、ナブッコにガスを流さないためにはアゼルバイジャン産のガスを安定的・独占的に購入(=高値購入)することを約束して囲い込む必要がある。2009年4月にガスプロムはトルクメニスタンからのガス引取量を一方的に減らした前科があるため、アゼルバイジャン政府やシャーデニス・ガス田事業者を囲い込むのは非常に難しいと思われるが、果たしてどうなるか。また、ガスプロムには自国産のガスをサウスストリームで輸送する選択肢も持つ。ただ、自国産のガスをコストの高いパイプラインで輸送したり、せっかく作ったサウスストリームを結局は使わなくなったりするリスクを自ら負うことにはなる。加えて、共同でサウスストリームを進める伊ENIとの間では、新たに参加する仏EDFの参加比率や、サウスストリームの経済性について揉めているというネガティブな情報も今後、どのような巻き返しがあるのか注目したい。 5.正念場を迎えるナブッコ・パイプライン/欧州向けガスパイプラインプロジェクトの最近の動き 不完全な形ではあるが、トルコとアゼルバイジャンの間のガス価格・通過条件交渉が一定の合意を見たことについて、シャーデニス・ガス田からのガスをトルコ経由で輸送する予定のナブッコ・パイプライン、ITGIパイプライン(Inter-Connector Turkey-Greece-Italy)、TAP(Trans Adriatic Pipeline)の関係者は一様に歓迎の意を表明した。 12 Gazprom51%、E.ON20%, Wintershall20%, Gasunie9%の資本参加比率。GDFがE.ONとWintershallから4.5%ずつ獲得して、9%のシェアを持つ方向で交渉が進んでいる。年間27.5Bcmの能力のあるパイプラインを2本併設する予定。 13 Oil Daily, 2010/5/24 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 7 - - 今後、これらパイプラインプロジェクトとSOCARをはじめとするシャーデニス・ガス田のガス権益保有者との間で、交渉が活発化することになるものと考えられる。特にナブッコ・パイプラインは米国や欧州政府が「非ロシア・非イラン」との理由で政治的に大きなサポートを表明しており、EU政府も欧州向け新規パイプライン計画にあてがう2億ユーロの予算を計上している14。 しかし、パイプラインの建設にはその数十倍のコストが係る。これをファイナンスするためには、①はっきりとしたガス供給コミットメント、そして②信頼性の高いパイプライン建設契約(あるいはその見通し)、そして③借入金の返済を確実に行うための収益が確実に上げられるフレームワークが整っていなければならない。これらの要素を念頭に置くと、ナブッコ・パイプラインは、現段階では、必ずしも優位な立場にあるとは言えない。以下に、報じられている限りのポイントをパイプライン構想ごとに整理してみた。 [表1:欧州向けのパイプライン計画] 供給源の確保 ナブッコ・パイプライン ・ なし ・ RWE はアゼルバイジャン、トルクメニスタンでのガス探鉱に積極的 ITGI ・ アゼルバイジャン政府と2012年から8Bcmの供給を受けるMOU締結済み、法的拘束力はなし TAP ・ Statoilはシャーデニス・ガス田の25.5%権益を保有ガス輸送能力 ・ 年間31Bcm ・ 年間8Bcm ・ 年間10Bcm ・ アゼルバイジャン産ガスの輸送には能力が大きすぎ、輸送運賃が高い可能性大 ・ 通過国が多く、各国で利害・ ・ が対立する可能性 トルコ国内の輸送能力増強が必要。トルコの事業管理は? トルコのガス先取権:ガス生産者のネットバック悪化の可能性あり(トルコのMOU変更可?)・ トルコ国内の輸送能力増強必要だが、工事・管理能力は十分か? ・ 他のパートナーを募集中、資金不足? ・ アゼルバイジャン国内のパイプライン能力の引き上げの必要あり(シャーデニス・ガス田事業者の負担?) カギとなるのは①供給をコミットするガス権益保有者の判断である。シャーデニス・ガス田事業者の立場に立てば、最も高い価格で売れるマーケットと最も輸送料金の経路を選択したいところだ。つまり輸送 14 Platt’s Oilgram News, 2010/3/5 8 - - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ・ なし(新設) ・ ・ 79億ユーロ トルコ(RWE発電所も)、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、オーストリア ・ オーストリア経由でドイツ他の国にも出荷可能 5カ国 ・ 既存インフラの活用 建設コスト シャーデニス・ 第二フェーズの マーケット 経由国数 (グルジア除く) 主なリスク ・ ・ ・ ・ ・ ・ (12Bcmに拡張可能) トルコの既存パイプライン使用トルコ~ギリシャ:年間12Bcm通過可能なインフラ開通済み 10億ユーロ トルコ、ギリシャ イタリア(発電所) 15%のガスをトルコが先取りするMOU締結済み ・ ・ ・ (20Bcmに拡張可能) トルコの既存パイプライン使用 15億ユーロ トルコ、ギリシャ、アルバニア、イタリア ・ 3カ国 ・ 4カ国 ソ金が高くなりそうなナブッコは不利となる。ナブッコが輸送料金を抑えるためには他のガス供給源を確保することが必要となるが、イラン・イラク(クルド地域含む)からのガス供給は当面現実的ではなく、カスピ海横断パイプラインも短期間には成立しそうもない。これに対し、ITGIやTAPはコストも低く、アゼルバイジャン産のガスだけでパイプラインの経済性が確保できる可能性は高い。数量も少ないので、マーケットも確保しやすい。 ITGIやTAPにもリスクはあるが、読者の皆さんが、シャーデニス・ガス田のパートナーだとしたら、どのパイプラインを使いたいと思うだろうか。早くガスで売って収益を上げたいのであれば、ナブッコは選びにくいのではないだろうか。ITGIやTAPは数ヶ月間でシャーデニス・ガス田第二フェーズのガス供給のコミットを取り付けられるかもしれない。大風呂敷のナブッコ・パイプラインは今後数ヶ月間が正念場にな.アゼルバイジャンの「AGRI」構想 6ると言えるだろう。 2010年4月13日に、アゼルバイジャンは、グルジア、ルーマニアとの間で、アゼルバイジャン産のガスをグルジアのクレビでLNG、或いはCNG化してルーマニアに供給する、「Azerbaijan-Georgia -Romania Interconnector(AGRI)」の実現に向け、WG等を設置する政府間合意書に調印したが、最後にこれについても触れておこう。 このアイデアは興味深いが、出荷・受け入れターミナルや専用タンカーに多くの資本コストを要すること、CNGタンカーはまだ世界中どこでも実用化されていないこと、LNG輸送としては距離が短すぎること、ボスポラス海峡を通じてガスを地中海市場に売り出すことは環境面から難しそうであることから、ハードルは高い。 このAGRI構想は、ロシア向けやイラン向けのガス輸出増を匂わせるのと同様に、トルコからのガス価格・輸送条件で譲歩を引き出すためのアゼルバイジャンによる戦術であるという見方が一般的になっている。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 9 - 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地域1 | 旧ソ連 |
国1 | アゼルバイジャン |
地域2 | 中東 |
国2 | トルコ |
地域3 | |
国3 | |
地域4 | |
国4 | |
地域5 | |
国5 | |
地域6 | |
国6 | |
地域7 | |
国7 | |
地域8 | |
国8 | |
地域9 | |
国9 | |
地域10 | |
国10 | |
国・地域 | 旧ソ連,アゼルバイジャン中東,トルコ |
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