米国天然ガス産業の変革及び今後の展望について
レポートID | 1005954 |
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作成日 | 2001-09-30 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | 探鉱開発 |
著者 | |
著者直接入力 | 鈴木 謙次郎 |
年度 | 2001 |
Vol | 34 |
No | 5 |
ページ数 | |
抽出データ | 米国天然ガス産業の変革及び今後の展望についてヒューストン事務所 鈴 木 謙次郎*要 旨米国の天然ガス産業は,1970年代後半から90年代前半にかけての政府による規制緩和,構造改革の実施を経て大きく変革していった。具体的には,1978年天然ガス政策法,1989年井戸元価格規制撤廃法により,生産者の販売価格,いわゆる井戸元価格の規制が撤廃され,更には,1992年636号命令をはじめとする幾度かの命令により,パイプライン利用がパイプライン事業者以外の需要者,卸売業者等他者に開放されることとなった(パイプラインのコモンキャリア化)。この結果,卸売業者,需要者等がパイプライン事業者を介さずに自ら生産者等と直接取引できる環境が整備され,多くの者が市場に参加することとなり,また,生産地・消費地の取引拠点では,透明性の高いスポット価格市場が形成され,それに基づき取引がなされることとなった。今後の米国の天然ガス需給については,DOE,EIAの長期需給見通しでは,電力需要等を背景に需要は大幅に伸びていくものと予測しており,今後の天然ガス産業が抱える問題としては,この需要増に見合う供給をいかに確保するかということである。本年5月に政府が発表したエネルギー政策レポートでも,現在開発が制限されている,メキシコ湾,カリフォルニア沿岸等の海上油田・ガス田の開発の再検討,アラスカノースロープの開発推進,天然ガスパイプライン網の整備等天然ガス供給確保のための提言を行っている。はじめに米国は我が国とは異なり天然ガス資源に恵まれた国である。1999年の米国内天然ガス生産量は約19兆平方フィート(tcf)でロシアに次いで世界第2位、国内消費量は約21tcfと日本の約9倍であり、不足分をカナダからの輸入、LNG輸入等が賄っている。また、米国全体の1次エネルギー消費量のうち約25%を天然ガスが占めている状況にある。さらに、埋蔵量も豊富であることから、量的にも米国にとって理想的なエネルギー源であるとともに、他の化石燃料と比較しクリーンなエネルギーであることから、ブッシュ政権のエネルギー政策においても「国家エネルギー戦略」*E-mail:suzuki@jnoc.orgの柱として、天然ガス生産の増大、インフラの充実が唱われている。現在の米国の天然ガス産業は、開発、生産、輸送、販売すべての分野において、多くの市場参加者による競争的な市場が形成され、また、合計で30万マイルを超えるパイプライン網が全米を縦横無尽に走っており、より廉価な天然ガスが、より効率的に供給されている[生産者:約8000(独立系)、24(メジャー)、パイプライン業者:約160、卸売業者(マーケッター、地域ガス供給会社):約1500、需要者:家庭用約45百万、商業用約4.5百万、電力供給会社:約500]。本レポートはこうした米国の天然ガス産業構造・市場が80年代、90年代の価格規制緩和、パイプラインラインへのアクセス開放等を通じていかに形成されていったかを解説するとともに、今後の天然ガス需給等を展望する。―11―石油/天然ガス レビュー ’01・9cid:0).規制緩和・構造改革以前の米国天然ガス産業1.産業構造の概要後述する1978年天然ガス政策法(NaturalGas Policy Act)制定以降の政府による規制緩和・構造改革が始まる以前の天然ガス産業は非常に単純なものであった。当時の産業構造は生産者、パイプライン業者、地域供給会社の3者にはっきりと分かれていた。流通構造も非常に単純で、生産者は天然ガスをパイプライン業者に販売し、パイプライン業者はその大部分を地域供給会社に販売、さらにそこから最終消費者へ販売されていた。特徴的なのは、パイプライン業者は、輸送業者であるとともに、中間卸売業者の機能も担っており、生産者から購入した天然ガスとともに、貯蔵サービス、需給バランスの調整等のサービスをパッケージで地域供給会社へ販売していたということである。2.価格規制ることとなった。この価格規制は、陸上・海上のそれぞれにおける発見・開発コストを厳密に計算し、それに基づく適正な価格での販売を生産者に求めるものであった。しかしながら、政府はこれら、価格設定において、老朽化した設備の入れ替えコスト等開発・生産コストを過小評価したため、生産者販売価格は低く抑えられ、生産者は州をまたがる天然ガスの供給に関するインセンティブを失い、この結果、1966年から78年にかけて天然ガスの確認埋蔵量は48州で低下していった。政府はこの生産量低下を憂慮し、幾度かの価格引き上げ命令を発したが、1973年第1次石油ショックがさらに供給不足を悪化させていった。しかしながら、政府の井戸元価格規制は州をまたがるパイプライン取引に適用されるものであったため、州内で生産、販売されるガスの供給に関しては、不足を生じなかった。実際、当時の州内で生産、販売されるガスの取引価格は、州をまたがるパイプライン取引価格の4倍から5倍高く、生産者も州内での販売に傾倒していった。①1938年天然ガス法(Natural Gas Act)(cid:0).規制緩和・構造改革の進展のEnergy Federal 本法制定以前、天然ガス市場は、その流通ルートを完全に牛耳っていたパイプライン事業者の独占状態にあった。これに対し、連邦政府(Federal PowerCommission(FPC)、後RegulatoryCommission(FERC))は、低廉なガスを需要者に供給するため、1938年天然ガス法を制定、複数の州にまたがるパイプライン輸送事業を行う者(以下、「パイプライン業者」)の天然ガス販売価格を、適正なパイプライン輸送コストを算出し、それに基づくよう規制した。②1958年Phillips Decision vs Wisconsinケースの最高裁判例1938年天然ガス法においては、パイプライン事業者の需要者への販売価格を規制するものであるが、本判例によって、さらに、井戸元価格(wellhead price)の規制が認められ1.1978年天然ガス政策法1977年の厳冬及びその後の第二次石油ショックにより、州をまたがるパイプラインによる供給不足は深刻化していった。これに対し、政府は、供給側に関する対応策として1978年天然ガス政策法(Natural Gas Policy Act)を、需要側に関する対応策として1978年発電所及び産業の燃料使用に関する法律(Powerplant andIndustrial Fuel Use Act)をそれぞれ制定した。天然ガス政策法は、新たなガスの開発・生産を促すために、1985年1月までに新たに生産されるガスの井戸元価格の上限を大幅に引き上げることとし、その一方で、既存のガス価格の上限は据え置くことで、ゆるやかな価格引き上げを図ろうとするものであった。また、発電所及石油/天然ガス レビュー ’01・9―12―ム産業の燃料使用に関する法律では、新たなガス発電所の建設禁止を含み、ガスを燃料とする施設に関する規制を行った。その後、1990年まで、発電用としてガスを使用することは禁止されていた。天然ガス政策法により、州をまたがるパイプライン取引の井戸元価格は上昇したが、むしろ問題は価格要因よりも、パイプライン業者と生産者の間のtake or payによる契約形態にあった。take or pay 条項による契約とは、生産者?パイプライン業者、パイプライン業者?需要者の取引において適用されるもので、実際のガスの引き取りの有無に関わらず、一定の量のガスを一定の価格で長期にわたって引き取ることをあらかじめ約する契約のことである。1973年から79年までの供給不足時には、パイプライン業者は一定のガス供給を長期的に確保するために、take or payによる契約を生産者との間で締結しても問題は生じず、かえって好都合であった。2.供給過剰下での構造変革の進展1978年天然ガス法の制定後まもなく、それまでの政府による井戸元価格の引き上げ命令、価格上昇による産業需要の減退により、天然ガス市場は供給過多に陥った。1981年には、産業用需要は1972年と比較し、25%減退した。さらに、1978年発電所及び燃料使用に関する法律が消費の減少を助長した。このような供給過剰の状況下においては、これまでのtake or pay 契約に起因する、実際のマーケットを反映しない産業全体の高コスト構造が露呈することとなった。パイプライン業者は、take or pay契約に基づき、供給過剰の状況下においては、生産者に対し、実際の引き取り量を上回る量のガスに対する対価の支払い債務を負うこととなっていた。したがって、需要者に対して高値で販売することを試みたが、かえって、高価格が需要の減退を促すという悪循環をもたらす結果となった。一方生産者は、take or pay 契約により、多くのパイプライン業者に対する不良債権を抱えることとなり、キャッシュフローを確保するために、スポット市場でガスを販売しはじめた。スポット市場では供給過多を反映し、価格は下がりはじめていたことから、生産者はキャッシュフロー確保のために、さらに大量のガスをスポット市場で売りさばこうと試み、これが井戸元スポット価格の下落を助長することとなった。この井戸元スポット価格の下落により、パイプライン業者を経由することなく、スポット市場でガスを購入しようとするトレーダー、需要者の参入が増加してきた。この結果、パイプラン業者は、ガスを購入・販売することなく、輸送サービスのみを提供するよう迫られることとなった。また、パイプライン業者にとっても、抱える負債を解消するために、輸送サービスのみを提供することが賢明であることが、認識されはじめていった。3.価格規制緩和、パイプラインへのアクセス開放このような供給過剰下での天然ガス産業の構造変革の芽生えを契機として、レーガン政権、ブッシュ政権は、いくつかの命令により、段階的にパイプラインへのアクセス開放、価格規制撤廃を実施し、マーケットメカニズムの導入に注力していった。①1983年380号命令政府は、パイプライン業者と顧客の販売契約において定められた、実際の必要量にかかわらず最低量を引き取る義務を顧客に課すtake or pay 条項を無効とした。②1985年436号命令政府は、パイプライン業者が第三者の天然ガスの輸送にパイプラインを供した場合(自由なアクセス)、新たなパイプライン建設認可を簡便化することとした。この命令により、その後2年間で州をまたがるパイプラインにより供給されるガスの75%は、パイプライン業者に再販売されることなく輸送されることとなった。すなわち購入者が、パイプライン業者の保有するパイプラインに対するアクセ―13―石油/天然ガス レビュー ’01・9Xを通じて、生産者、供給者から直接ガスを購入する取引形態が主流となっていった。③1989年井戸元価格規制撤廃法(NaturalGas Wellhead Decontrol Act)政府は、1978年天然ガス政策法制定以降残っていた、井戸元価格規制を1993年1月までにすべて撤廃することとした。④1992年636号命令(最終構造改革命令)本命令により、パイプラインへのアクセス開放は完全に実現した。すなわち、卸売業者、消費者等は天然ガスを生産者から直接購入し、コモンキャリアであるパイプラインを通じて消費地に輸送することが可能となった。○パイプライン輸送サービスの切り離し(unbundling)既存のパイプライン業者によるガスの販売は輸送・貯蔵サービスから切り離され、その販売は独立子会社が行うことを義務付け、パイプラインの利用の独占を排除した。○輸送・貯蔵施設への自由なアクセスさらに、パイプライン業者に対して、全ての消費者に対する輸送・貯蔵施設への自由なアクセスを義務付ける一方で、彼等に対し、需要増に見合う施設の拡張義務は何ら負わせないこととした。また、新たなパイプライン建設許可については、建設者が、他者によるパイプラインへのアクセスを保証するための以下のサービスを提供をする限りにおいて、いかなる者に対しても認めることとした。・継続的な輸送サービス(unbundled firmtransportation service)・非継続的(需要に応じ、何時でも打ち切り可能な)輸送サービス(interruptibletransportation service)・事前通知を必要としない継続的な輸送施設の提供(unbundled no-notice firmtransportation):荷主がパイプライン事業者に対して事前通知を行わなくても、パイプライン業者は余剰パイプラインの利用を認めること。・輸送施設の再提供:その施設を必要としなくなった荷主に対して、彼等の利用権を第三者に譲渡できることとした。(cid:0).天然ガス産業の変革このような井戸元価格規制の撤廃、パイプライン輸送・貯蔵システムへの自由なアクセスの保証といった一連の施策により、80年代半ば頃から、生産者、マーケッター、需要者に対し、(注)(注)LDC : Local Distribution Company(地域供給会社)図1 天然ガス市場参加者の物流利用状況石油/天然ガス レビュー ’01・9―14―_軟な輸送・貯蔵サービスを提供する数多くの取引市場が形成されていった。またそこでは透明性の高いスポット価格情報が提供され、それに基づき取引がなされている。1.マーケッター(卸売り業者)の出現マーケッターの多くは、636号命令により、パイプライン業者が子会社化した業者であり、生産者からガスを購入しそれを消費地の入口(City Gate)で地域供給会社又はそれを越えて、大口需要家に販売している(図1参照)。2.数多くの取引市場の形成636号命令は、パイプライン業者に柔軟なガスの受け渡し地を定めることを規定し、そこを拠点とした取引市場が形成されていった。各市場はそのメカニズムが有効に機能するように、一定の能力を有する者のみを参加者として認めている。各市場では、供給・輸送コストの低減が図れるよう、パイプライン業者による荷主に対する、供給、輸送、貯蔵に関するアレンジを円滑に進めるためのサービスの提供や、透明性の高い価格情報(スポット価格)の提供がなされ、膨大な売買がそこで成立するようになった。この結果、天然ガスの販売契約は1ヶ月から18ヶ月の中期契約、及びそれ以上の長期契約は激減した。また中長期契約でさえもスポット価格をベースとするようになった。各取引市場は、生産地の近隣の輸送拠点(Hub)や都市部の消費地の入り口(City Gate)などに存在しており、各市場での取引価格(スポット価格)は、生産地周辺であれば、そこでの売買状況を反映し決定され、そこから供給を受ける消費地の入り口では、プラス輸送コストという生産地連動価格が採用されている。例えば、消費地である東海岸のNew York CityGate の取引価格は、そこへの供給元であるHenry Hubの取引価格に連動している。一方で、東海岸の需要が高まれば、Henry Hub の取引価格は上昇する(図2参照)。図2 天然ガス各取引市場でのスポット価格例―15―石油/天然ガス レビュー ’01・9R.先物市場の形成季節要因等による需給を敏感に反映し変動するスポット価格に基づく取引市場が形成されたことに伴い、そのリスクを回避するための先物市場が求められることとなった。先物取引は、1990年、NYMEXがルイジアナ州のHenryHubガス先物市場を開設、更に92年にはオプション市場を開設し、市場参加者のリスクマネージメントのために活用されてきている。4.輸送サービスの変革(cid:0) 輸送関連情報の整備米国は現在、約50万Kmにも及ぶパイプライン網(地域供給ラインを除く)を有している。パイプライン業者は24時間パイプラインを監視する義務を負っており、彼等はSCADAシステム(Supervisory Control and Data AcquisitionSystem)という監視システムを活用し、ガスの流れをコントロールしている。同時に、生産者もこのシステムを余剰パイプライン輸送能力の把握に活用している。更に、これらのパイプラインの利用情報は、EBB(Electronic Bulletin Boards)に公表されており、需要者、マーケッター等が輸送サービス契約の締結、ガスの貯蔵のアレンジ、支払い決済のために活用している。一定の要件を備えればだれでもパイプライン施設にアクセス可能となった状況においては、パイプライン業者またはマーケッター、需要者にとって、余剰輸送能力等を迅速に把握するために、このような輸送関連情報の整備は不可欠であった。(cid:0) 輸送サービスの変化636号命令は、輸送サービスの契約形態を大きく変えることとなった。それまで多かった荷主とパイプライン業者による、非継続的(需要に応じ、何時でも打ち切り可能な)輸送サービス契約が減少し、それに代わって継続的な輸送サービスまたは事前通知を必要としない継続的な輸送サービスが増加していった。これは636号命令により、荷主は自身が必要としなくなった余剰パイプライン利用権を第三者に譲渡することが可能となったことから、あらかじめ打ち切り可能な輸送契約をパイプライン業者と結ぶ必要がなくなったためである。このように余剰輸送能力が弾力的に利用可能となったとにより、ガスのパイプライン輸送は大きくその規模を拡大していった。輸送サービスの契約期間については、特に地域供給会社は、10年から20年という非常に長期の契約によってその輸送能力を確保してきたが、それが終了するに従って、比較的短い輸送石油/天然ガス レビュー ’01・9―16―図3 輸送契約期間の推移_約にシフトしつつあり、それは今後とも顕著になってくると見られている。今後のマーケットの規模が必ずしも定かでないこと、小口需要者でさえも、マーケッター等と直接販売取引することが本格化することを想定した場合、短期契約のほうがより柔軟な対応が可能となるからである(図3参照)。5.末端供給構造の変化地域供給会社(LDC: Local DistributingCompany)は、従来一定の地域での消費者への排他的な供給権を有する者であった。その代わりLDCは、十分な量のガスを適性な価格で消費者に提供し、また、出資者に適正な配当を与えることが義務付けられていた。しかしながら80年代半ば以降、地方政府は、LDCが有していた排他的供給権を自由化し、最終消費者も、ガスを生産者・パイプライン業者・マーケッターから購入することが可能となった。現在では、大口需要家は、ガスの購入を輸送サービスから切り離して行っており、それに伴い、LDCも自己が保有する地域のパイプラインを活用して、輸送サービスのみを彼等に提供するようになった。一方、小口の需要者や一般家庭は、その供給をLDCに依存しているが、多くの州で、一般家庭を含む小口の需要者がLDC以外の者からガスの供給を受ける実験が試みられている。6.産業構造の変革に伴う天然ガス価格の変化規制緩和、構造変革は、実際の需給を反映したスポット・先物市場価格の形成をもたらし、それらを指標としたより低廉なガスが最終消費者に供給されることとなった。1985年の436号命令によりパイプラインシステムは自由なアクセスが可能になり、パイプライン業者は再販売をやめ、輸送サービスのみを提供することとなった。この結果、生産者とパイプライン業者間の高値硬直的な長期販売契約は減少していき、井戸元価格は84年から87年にかけ43%下落した。現在の価格水準はほぼ1987年の時点で達成されたと言ってよい(図4参照)。(cid:0) 今後の天然ガス需給動向?需要増と懸念される供給不足?1.需給構造(cid:0) 発電需要等を背景とした需要の増加近年の米国の好景気を背景にエネルギー需要は堅調に推移してきた。特に天然ガスは、環境面、安全面、コスト面からの優位性により、すべての部門において需要が増加してきており、その中でも発電用エネルギーとして大きな需要の伸びが今後とも期待されている。天然ガス発電は、近年のコジェネ技術の進展、発電所建設図4 需要者別販売価格の推移―17―石油/天然ガス レビュー ’01・9Rストが比較的低廉であることが背景にある。米国エネルギー統計局(EIA:EnergyInformation Administration )の統計によると、99年から2000年にかけて天然ガス需要は4.3%伸びてきており、2010年までには更に26%の伸びが予測されている。また、これまで天候要因が天然ガス需要に与える影響は大きかったが、ガス発電需要の伸びにより、冬季の暖房用、夏季の冷房用としての年間通じての需要が見込まれる。(cid:0) 供給一方供給については、消費量の約90%は国内生産によってまかなわれており、残りの太宗はカナダからの輸入及びLNG輸入でカバーしている。可採埋蔵量は、米国石油協会の推定によると、48州及びアラスカ合計で167cfである。これは現在の米国需要の7年分に相当するものである。一方、埋蔵ポテンシャルは1,779tcfと膨大であるが、現在のガス価及び開発技術を前提にすればそのうちわずかの開発しか期待できない。2.短期的需給見通し周知のとおり、2000年後半以降天然ガス価格は大きく上昇し、2000年12月には、スポット価格が一時10ドル/mmbtuを超える水準にあった。今後の価格見通し、それを踏まえた短期的需給見通し、とりわけ、2001年以降も同様の価格上昇が起こり得るのかということが、天然ガス産業、需要者の大きな関心となっている。本年5月、米国EIAは「天然ガス産業の最近の動向、今後の見通し」を発表、この中で昨年来の天然ガス価格高騰の要因を次のとおり分析している。①国内生産能力の減少価格高騰以前の1998年、99年の天然ガス井戸元価格は,それぞれ1.93ドル/mmbtu,2.11ドル/mmbtuと下落し,これが生産者の開発・生産投資意欲を大幅に減退させた。この結果,確認埋蔵量は1990年が169tcfであったの対し,1999年は164tcfまで落ち込んだ。②需要の著しい増加米国経済の好景気,さらには猛暑,厳冬という天候の要因により需要は前年比で4.8%,1tcf増加。③在庫の減少昨年夏の在庫積み増し時期に,生産者は価格下落を危惧し,また,ガスの調達コストが著しく上昇していったことから,需要に見合う十分な積み増しを行われなかった。さらに,ニューメキシコでのエルパソパイプラインの事故がカフォルニア州南部への供給能力を減少させた。また,EIAは,これら要因を踏まえた短期的需給見通しについて次のように見ている。①供給天然ガス産業が直面している最も重要な問題は,2001年の暖房シーズン終了時までに低下してしまった在庫水準をいかに回復させるかである。2000年11月1日時点の在庫水準,2.7tcfまでに回復させるためには,4月から10月にかけ2.0tcf,1日あたり9bcfの積み増しが必要である。もう1つの問題は,生産能力をいかに増加させるかである。最近の高価格を背景に開発投資は進んでいるが,投資から生産設備の設置,パイプラインの整備,実際の供給に要する時間は6ヶ月から18ヶ月と言われている。②需要需要の伸びは,価格,天候に大きく左右されるものであるが,電力需要が引き続き好調であること等を背景に,2000年から2002年にかけて年平均3.4%と予想(94年から99年が年平均0.9%)している。③価格天候が例年並との前提の下,2001年の井戸元価格は5.18ドル/tcf(1999年ドルベース),2002年は,在庫の状況が回復し,4.82ドル/tcfと若干軟化するものの依然として高水準で推移するものと予想している。3.長期的需給見通しまた,昨年12月にEIA,DOEにより発表された「2020年までのエネルギー需給動向」石油/天然ガス レビュー ’01・9―18―i第1表)米国天然ガス長期需給見通し(cid:0)(cid:0)2010(cid:0)2015(cid:0)2020(cid:0)23.20(cid:0)23.14(cid:0)0.06(cid:0)5.06(cid:0)4.81(cid:0)?0.25(cid:0)0.50(cid:0)28.25(cid:0)28.05(cid:0)5.54(cid:0)3.78(cid:0)9.33(cid:0)6.94(cid:0)2.4526.30(cid:0)26.24(cid:0)0.06(cid:0)5.50(cid:0)5.21(cid:0)?0.33(cid:0)0.62(cid:0)31.80(cid:0)31.61(cid:0)5.83(cid:0)3.94(cid:0)9.76(cid:0)9.30(cid:0)2.7829.10(cid:0)29.04(cid:0)0.06(cid:0)5.80(cid:0)5.46(cid:0)?0.40(cid:0)0.74(cid:0)34.90(cid:0)34.73(cid:0)6.14(cid:0)4.02(cid:0)10.18(cid:0)11.34(cid:0)3.051999(cid:0)18.77(cid:0)18.67(cid:0)0.10(cid:0)3.38(cid:0)3.29(cid:0)?0.01(cid:0)0.10(cid:0)22.15(cid:0)21.41(cid:0)4.72(cid:0)3.07(cid:0)7.95(cid:0)3.78(cid:0)1.89 非随伴ガス(cid:0) 随伴ガス(cid:0)逆 輸 入(cid:0) カ ナ ダ(cid:0) メキシコ(cid:0) LNG(cid:0)総 供 給(cid:0)消 費(cid:0) 民 生 用(cid:0) 商 業 用(cid:0) 産 業 用(cid:0) 電 力 用(cid:0) そ の 他(cid:0) 産(cid:0)(cid:0)生出所:EIA(Annual Energy Outlook 2001 with Projectionto 2020)においては,天然ガスの長期的需給動向,特に今後の天然ガスの供給可能性について大きく取り上げており,次のとおり分析している(全体の需給見通しは表1参照)。つ小規模の開発,生産に移行し,コスト上昇を招くこと,が挙げられる。ただし,一方で開発,生産技術の進展が,より大きな価格上昇に歯止めをかけるであろう。(cid:0) 需要(cid:0) 天然ガス価格天然ガス井戸元価格は,年約2.0%の割合で上昇,1999年が2.08ドル/tcfであったのに対し,2020年には3.13ドル/tcf(1999年ドルベース)と見込まれる。(図5参照)。上昇の要因としては,①天然ガス需要の増加,②それにより,経済的かつ大規模なガス田から経済性が落ち,か1999年の米国における全エネルギー消費のうち,すでに23%を天然ガスが占めているが,天然ガス火力発電の伸びを背景に今後とも急速に増加していくことが見込まれる(図6参照)。具体的には,99年が21tcfであったのに対し,2013年には30tcfに,2020年には34.7tcfまで増加していくであろう。図5 米国48州天然ガス井戸元価格見通し図6 米国エネルギー別消費見通し―19―石油/天然ガス レビュー ’01・9}7 米国天然ガス部門別消費見通し特に発電用の天然ガス需要の上昇は激しく,2020年には全体消費の57%を占めるであろう。99年が3.8tcfであったのに対し,2020年には11.3tcfと約3倍増加するであろう(図7参照)。これは,電力需要全体の伸びに加えて,原子力発電,旧来の石油,天然ガス蒸気発電がガスタービン,コジェネ施設にとって代わるであろうとの予測に基づくものである。(cid:0) 供給今後とも,パイプライン網の拡大,生産技術の進展等により,国内生産,輸入併せて十分な供給が確保できると見ている。①国内生産生産活動はその時の天然ガス価格に大きく左右されるものである。今後とも価格が高水準で推移するという予測のもと,生産活動に対する投資の活発化,更には生産性向上をもたらす技術革新により,生産リグ数は99年の10,200に対し,2020年には23,400に達するであろう(図8参照)。生産増は,その太宗が,ロッキー山脈地方のtight sands ,coalbedmethane といった非在来のソースを持った陸上の非随伴ガス田,メキシコ湾の海上油・ガス田からもたらされると見込んでいる。この結果,米国の天然ガス生産量は,99年が18.7tcfであったのに対し,2020年には29.0tcfまで,年平均で2.1tcf増加すると見ている。埋蔵量については,1980年代初めから1990年代半ばまで,年間の生産量が追加埋蔵量を石油/天然ガス レビュー ’01・9―20―図8 米国48州天然ガス生産油田数見通し上回っていたが,1994年以降逆転し,2010年までの間も同様であると予測している。この結果,2020年までの間,生産を維持するだけの十分な埋蔵量が確保できると見ている。なお,現在東海岸全体(31tcf),フロリダ西海岸(24tcf)及び西海岸の大部分(21tcf)がガスの開発禁止区域となっている。また,ロッキー山脈地方についても137tcfがアクセス禁止となっているが,環境規制を遵守しつつ開発を実施するための技術革新により,ロッキー山脈地方については,2015年までに36tcfの開発が可能であろう。②輸入輸入については,2010年までの間に,純輸入量が生産と消費の差を埋めるのに十分であると見ている(図9参照)。カナダ,特にカナダ西部及び大西洋沿岸のスコティアン大陸棚からの輸入増が期待されている。カナダのガス田は米国と比較しても,まだ追加的に低コストで生産できる余地を残しており,しかも,現在の米国ガスの価格水準は,カナダの供給者にとっても非常に魅力的と言える。メキシコについては,1984年以降,メキシコからの輸入よりも輸出が上回っている状況にある。2010年までの間,国境沿いの生産能力の増加等により米国への輸出は増加すると思われるがそれを上回る米国からの輸入が見こまれている。具体的には,2010年までの間,メキシコからの輸入は年間3.9%増加オ,メキシコへの輸出は年間10.8%増加すると見ている。LNGについては,主要な供給ソースとはなり得ないが,今後とも全輸入に占める割合は増加すると見込まれている。過去,主要輸出国であるアルジェリアからの輸入は1979年の253bcfをピークに,その後低価格を理由に1995年には18bcfまで落ち込んだ。その後,オーストラリア,トリニダードトバゴ,カタールといった新たな供給先からの輸入によってその輸入は増加してきており,2020年までの間もその増加が見込まれる。過去,LNG輸入については長期契約によって売買されていたが,近年スポット市場が発達し,短期の需要ニーズに対応できるようになってきている。1999年には,前年を19上回る,27カーゴのLNGスポット契約が成立し,この傾向は今後とも継続すると見ている。また,現在合計840bcfの規模を持つ4つのLNG基地があるが,このうち2つ(メリーランド州Cove Point,ジョージア州 ElbaIsland)は長年閉鎖されたままであった。しかしながら2003年までにはすべてフル稼働する予定である。総括すると,天然ガスの純輸入量は99年が3.4tcfであったのに対し,2020年には5.8tcfまで増加し,LNGは2020年には0.7tcfまで増加するであろう。図9 米国天然ガス純輸入量見通し3.懸念される中長期的供給確保への対応前述のとおり,DOE・EIAの長期需給見通しでは,需要増に見合う十分な供給量の確保が可能との比較的楽観的な見解を示している。しかしながら,米国石油業界においては,中長期的に見て石油・天然ガスの供給不足を懸念する声が多い。新たな供給源としては,アラスカ,カナダ北西部に期待が寄せられているが,実際新たな供給増が期待されるのは,2005年?7年以降との見方が有力である。そのため,当面は,既存の供給源に依存せざるを得ないのであるが,リグ数は増加傾向にある一方で,生産量は低下している。特に近年生産開始されたガス田の生産量が減少傾向にある。したがって,石油開発業界の関心は現在アクセスが禁止されている,西海岸,東海岸,フロリダ沿岸,ロッキー山脈地方の解禁を求める声が多い。また,ブッシュ政権は,これまでの政府の近視眼的なエネルギー政策が,カリフォルニアの電力危機等1970年代以降最も深刻なエネルギー不足を招来させたとして,本年5月,中長期的視野に立ったエネルギー政策レポートを発表した。本レポートにおいては,環境との調和を図りつつ,今後のエネルギー需要増に見合う供給の確保をための100以上にわたる提言が盛り込まれている。天然ガスについては,石油とともにその供給確保のために,次のような提言がなされている。①新たな技術を通じた既存油田・ガス田の生産性向上の推進②連邦所有地の開発リースに関するロイヤリティの引き下げ(新規開発,小規模油田ガス田開発,deep gas formation に適用)③海上油田・ガス田開発の推進現在,油濁による海洋汚染を防止するため,連邦所有のOuter Continental Shelf(OCS)のリースは制限されている。これにより,メキシコ湾の中西部,カリフォルニア沿岸,アラスカ沿岸のリースは禁止されており,また,開発が許容されている地域においても,その活動は厳しく制限されている。政府はこれらOCSの開発制限に関する法律の再検討を提言。―21―石油/天然ガス レビュー ’01・9Cアラスカノースロープの開発推進・北極海大陸棚(Arctic Outer ContinentalShelf)・National Petroleum Reserve-Alaskaの一層の開発推進・アラスカ野生動物保護地区(ArcticNational Wildlife Refuge )の開放現在,The Alaska National InterestLands Conservation Actはアラスカ野生動物保護地区を指定し,そのアクセスを禁止しているが,第1002条において,一部石油・ガス資源の豊富なエリア(the1002 Area)について,その資源量の推定,生物学的調査を指示している。現在では,その資源ポテンシャルの高さは再確認されており,また環境維持を図りつつ開発を推進するための技術の進展により,生産関連施設は著しく縮小していることから,政府は本エリアの開放を,環境に最大限配慮しつつ進めるよう提言。⑤天然ガスパイプライン網の整備現在のパイプライン輸送能力は約23tcfと2020年に向けての需要増に対して不足している。また,供給地が米国南西部から,メキシコ湾深海,ロッキー山脈地方さらにはカナダ西部,カナダ大西洋沿岸へ移行し,一方,消費地が従来の産業地帯の中西部から,人口集中の著しい,西部,南部へ移っていることから,供給地から消費地までの距離がより遠くなってきている。このような状況から更なるパイプライン建設が急がされるため,パイプライン建設許可の迅速化のための法令の改正を提言。とりわけ,アラスカパイプラインの整備をはかるため,迅速なパイプライン建設が行えるよう,所要の法律の改正を提言。おわりにエネルギー産業の規制緩和を各国が実施する場合,生産者から消費者への供給の各段階で,多くの市場参加者による適正なコスト競争が行われ,より低廉なエネルギー供給を実現させること,また,透明性の高い価格市場が形成され,価格面,需給面においての安定性を確保することを目的とするものである。その観点から,米国の天然ガス産業の規制緩和,産業構造改革は,パイプラインのコモンキャリア化,価格規制撤廃によりそれら目的を達成した好例と言える。昨年後半以降,天然ガス価格は大幅に高騰し,現在でも比較的高水準を維持しているものの,これは一時的な需給のインバランスを反映した結果の適正価格であり,供給源が絶対的に不足していない限りは,高価格を背景に生産,輸入が増加し,若干のタイムラグを経て,下方修正されるものと思われる。いわゆるマーケットメカニズムが適正に機能するということである。また,一連の政府の命令により,パイプラインの利用がマーケッター,需要者等のパイプライン事業者以外の者に柔軟に認めるられることとなり,本産業への新規参入者が増え,競争が活発化し,その結果,より効率的な供給構造の確立,需給拡大が図られた経緯は,現在わが国において議論されているパイプラインアクセス開放の問題に対しても非常に示唆に富むものと思われる。需給問題については,EIA,DOEの予測によれば,今後とも天然ガス需要は大幅に伸びていくものとみており,今後の米国の天然ガス産業が抱えている問題は,この需要増に見合う供給の確保,適正な在庫水準の維持をいかに図っていくかというところにある。電力需要を中心に天然ガスは今後とも米国の主要エネルギー源として位置付けられており,その価格が昨年の如き高騰を繰り返す場合は,昨年来のカリフォルニア州での電力危機等,米国の経済活動にも少なからず影響を及ぼすものと思われる。このため,新たな供給源として,アラスカノースロープの開発,ベネズエラ等からのLNG輸入,さらにはメキシコ湾深海の開発に期待が寄せられており,価格面,需要面からもマーケットは十分保証されているといってよい。近年,米国及び近隣諸国での石油・天然ガス開発に二の足を踏んでいた我が国石油開発産業にも少なからずこれら地域への参入のチャンスがあるのではないか。石油/天然ガス レビュー ’01・9―22―ヮQ考資料>・The Evolution of Natural Gas Regulationand Pricing in the U.S.(Mr. Hisanori Nei, JETRO Houston)・Energy Policies of EIA Countries - TheUnited States 1998 Review・U.S Natural Gas Markets: Recent Trendsand Prospects for the FutureMay 2001(EIA)・Annual Energy Outlook 2001 withProjections to 2020December 2000(EIA . DOE)・Reliable, Affordable, and EnvironmentallySound Energy for American’s Future-Report of the National Energy PolicyDevelopment Group,May 2001―23―石油/天然ガス レビュー ’01・9 |
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