ページ番号1005946 更新日 平成30年2月16日

資産/会社 買収ケーススタディ:Shell はなぜ Barrett を買収できなかったのか

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レポートID 1005946
作成日 2001-07-30 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 企業
著者
著者直接入力 宮本 善文
年度 2001
Vol 34
No 4
ページ数
抽出データ トピックス資産/会社 買収ケーススタディ:ShellはなぜBarrettを買収できなかったのか日本のE&P企業の事業展開の選択肢を拡大し,企業戦略の構築に多様性を持たせるため,本年6月,石油公団法が改正され,石油公団は生産油田の資産買収・企業買収に対して,出資金にて資金援助することが可能になった。日本のE&P企業はこれまで「資産買収」の経験はあるが,実質的な「企業買収」の経験はない。隠れた不良資産,係争にまきこまれたくない,そして,外国人社員を管理するのは難しい---と考えていたのがその理由かもしれない。しかし,企業買収をすることで,地下資源(=ハード)だけでなく,買収となる会社の社員が持つ経験・知識(=ソフト)を得ることができるので,短期間でコアエリアを作ることができるのではないか。石油企業がグローバルに展開している時代である。今後,日本のE&P企業が,企業買収について積極的に事業展開する際,このケーススタディを参考にして頂ければ幸いである。Royal Dutch/Shell Groupの100%子会社であるShell Oil Company(以下「Shell」)は,同社のE&P部門であるShell Exploration & Production Companyを通じて,米国における天然ガスの埋蔵量を増やすため,主にコロラドに天然ガス資産を持つ独立系上流専業会社Barrett ResourcesCorporation (以下「Barrett」)に買収を持ちかけた。Shellの提示金額は低すぎると判断したBarrettは相対での交渉ではなく,他社を入れた競争入札の方式に持ちこんだ。その結果,Shellの最終的提示額2,011百万$に対し,Williams Companiesという米国のパイプライン会社が約2,800百万$を提示し,Barrettを買収した。本稿では,①Shellの交渉方法の問題点,②Williamsが高い金額を提示できた理由----について焦点をあてて紹介する。(BarrettとWilliamsの概要は表1,ShellとWilliamsの買収提示金額は表2を参照。)1.経緯いう事実を発表した。さらにBarrettの役員会(3/7&8)で拒否することを決定した場合は敵対的買収に乗り2001年3月~5月の買収劇の主な経過を要約出す旨警告した。(Shellが提示したする。$55は,Barretに買収を持ちかけた23/1 ShellはBarrettの役員会に対し,Barrett/28(3/1の前日)の終値$44.25に対1株あたり$55での現金による買収をし24%のプレミアム率。株価は前日3提案した。(この段階ではShellが買収/6の終値の$45.62から提示価格を大を提案したことは非公表。Barrettにと幅に上回る$61.11に上昇した。同社のって“寝耳に水”であったらしい。)株価は12月末に$60をつけているため,3/7 Shellはプレスリリースにて,3/1に市場は,Shellがいずれ提示価格を上方Barrett役員会に対し,同社の株式を修正すると判断したと考えられる。$55/株で買収することを提案したと(図1参照)石油/天然ガス レビュー ’01・7― 130 ―}1:Barrett株価チャート(1年)3/8 Barrettは,Shellから会社買収の提案がて長期的にガス需要が高まることをあった事実を公表した。“Shellは公表評価していない。②Barrettは,米国でされているデータだけで買収価格をも探鉱が進んでいないロッキー山脈決めているが,非公開資料を考慮して地帯に資産を保有している。2001年末買収価格を決めることは重要である”には埋蔵量が大幅に増えると予想さとコメントしている。株主の価値を上れ,キャッシュフロー・借入比率が改げるため,交渉相手をShellに限定せず,善されている。③ファイナンシャルアデータルームを開設して他社と競争ドバイザーもShellの提示金額は低すさせることを発表した。(株価は“買ぎるとの意見である。④Shellとの相対収競争”を予想し,$62.59に上昇。)取引で交渉しない方が有利な条件を3/12ShellはBarrettの役員会から返事がな引き出す可能性がある。いため,直接株主に対し,$55での現4/6 Shellは,オファーの期限を4/6から金による買収を発表。オファーの有効4/20に延期する旨発表。前日までに期限を4/6とした。63,087株の売却の申し出があった。3/12Barrettは,“役員会は10日以内に株主(Barrettの発行済株式は33.5百万株なの価値を最大限にするための対処方ので,1%にも満たない。)針を決めるので,それまではShellのオ4/20Shellは,オファーの期限を4/20からファーに乗らないように”と発表した。5/4に延期する旨発表。前日までに3/22Barrettは,“$55/株は同社を過小評価155,420株の売却の申し出があった。している。役員会は事務方に対し,他(依然として1%にも満たない。)社を競争入札に参加させることも含4/26Shellは,買収価格を$5上乗せし,$60/めた戦略を練ることを指示したので,株とすることを提案した。Shellのオファーを拒否する”ことを決一方,BarrettはShellと会談すること定。さらに過小評価している理由を以を拒否し,株主に対し,Shellの提案を下のように述べている。①Shellは長期受けないように提案した。(Barrettは的視点から会社が保有する価値,そし入札を実施することにしているのに,― 131 ―石油/天然ガス レビュー ’01・7hellだけが入札金額を明らかにしたが,それに対し説得力のある説明をしなかっことになり,結果的に非常に不利になた。った。)Barrettが競争入札をする旨宣言した状況下で4/30BarrettはShellに対し,“他社と同様には,Shellは自分の手の内を明かしてはならな入札の期限は5月2日までであり,Shellかったにもかかわらず買収価格を公表したのからの提案があれば検討する”旨の書で,競争相手を一方的に有利にしてしまった。簡を出状したことを発表した。(株価ShellはBarrettを買収できなかったが,それがは$64.35に上昇。)敗北であったかどうかは今のところ判断できな5/2Shellは買収金額$60/株を維持するとい。Shellが市場価格と同額程度の買収価格を提発表したが,同時にBarrettに対し価格示したということは,Shell社内においては経済を含めての条件交渉に応じることを計算の前提がはっきりしており,買収価格を安申し出た旨発表。オファーの期限を5易には上昇させないというポリシーに基づいて/4から5/9に延期した。決定したということであり,日本のE&P企業5/3Wall Street Journal紙がDevon Energyも見習うべき点である。とWilliams が入札に参加したことを報道。両社はノーコメント。3.Williamsが高い金額を提示できた理由5/7米国の“エネルギーコングロマリッShellの目的ト”であるWilliamsは$73/株を提案しShell Exploration & Production Company は米た。その結果,ShellはBarrettの買収の国ではカリフォルニア陸上とメキシコ湾に資産“入札競争”不参加を決定した。を保有し米国第3位の天然ガス生産者であるが,新しい地域としてロッキー山脈地域に進出を目2.Shellの交渉方法の問題点指していた。Williamsの目的Shellは競争入札で価格を吊り上げないために同社は米国の天然ガス消費量の16%を扱っはBarrettの役員会と十分話し合いをして相対ている大手パイプライン会社である。パイプラ取引するメリットを説明すべきであったが,イン総延長は43,000km強であり,また利用しなそうしなかった。その結果,Shellは買収価格くなったパイプラインを用いて光ファイバーをを上げざるを得なくなった。一方,Barrettの設置する事業も手がけている。同社は,①E&P役員会にとっては,株主の価値を高めるため部門では今後更に需要が高まると予想される天には競争入札が唯一の選択肢であった。然ガスの埋蔵量を2003年末までに倍増するといShellは,Barrettの株主が魅力に感じる買収条う目標があったが,Barrettを買収することで埋件(価格等)を提示すべきであったが,あま蔵量ベースでは3倍,生産量で2倍にするといりにも低い価格を提示した。Shellは買収の前うメリットと,②発電部門のフィードとして天日の株価($45.62)を基準とし$55/株を最初然ガスを確保することで,電力部門を拡大するに提示したが,2ヶ月前の株価が $60であっことができるというメリットがある。たことを勘案すれば$55は低すぎる。途中でWilliamsにとっての比較優位$60に変更したが,その時の市場は既に$60をShellにとっては,Barrettの保有鉱区は新規エ超えていた。リアであるため比較優位がなかった。一方,ShellはBarrettを公平に評価して買収価格を提Williamsにとっては,Barrettが保有する鉱区は自示したことをBarrettの株主に対して十分説明社保有の鉱区に近く,また,自社保有のパイプすべきであったが,そうしなかった。Barrettラインに繋ぐことは容易であるので,シナジーの役員会が株主に対し“Shellは公表されてい効果がある。るデータだけで評価している”との主張した石油/天然ガス レビュー ’01・7― 132 ―S.その他 特記事項とで,株主へのリターンを最大化した。競争入札方法を採用したことにより,Shellの当初Barrettは1983年に設立されており,現在までの提示価格($55/株)を$73.35/株まで約33%の払込資本は299百万ドルである。今回の売却高めることができた。Barrettの役員会が株主価格(=株主へのリターン)は2,453百万ドルに対し,競争入札ではなく,別の方法で売却(表2)となったので,8.2倍のリターンとなすることを提案する場合は,その方法にはそった。れなりの価値があることを説明しなければなBarrettの役員会は競争入札方式を採用するこらなかったであろう。(表1)Barrett Resources事業内容石油天然ガスE&P社員数(2000/12/31)時価総額(2001/5/12)年間売上税引後利益資産(2000/12/31)負債(2000/12/31)資本(2000/12/31)埋蔵量生産量231人2,378376281,254 838 4162,100BCFE(2001/3/31)345MMcf/d(単位:百万ドル)Williams Companies天然ガスの輸送・販売。商品トレーディング・マーケティング。通信。24,100人19,44310,40052440,19734,3055,8921,200BCFE(2000/12)210MMcfe/d参考:①Williamsの時価総額はEnronの約44%。②Williamsの米国天然ガス埋蔵量は買収により25位から10位に浮上した。③Shell E&Pは米国第3位のガス生産会社。1.Barrett株主が受け取る対価(表2)発行済株式の半分を①現金で、残りの半分を②Williamsの株式で受け取る。①現金:②Williams株式:33,461,000株×50%×73$/株33,461,000株×50%×73.63$/株=1,222百万$(注1)=1,221百万$計加重平均 $73.35/株 2,453百万$(注1)Definitive Agreement締結日(5/7)の前営業日(5/4)のWilliamsの株価に基づき、Barrett株式1株に対しWilliams株式 1.767株を受け取る。2.Williamsによる実質的購入価格支払額Barrettの負債  約 347百万$(注2)2,453百万$実質的購入価格 約 2,800百万$(注2)Barrettは負債を含んだ取引額を2,800 百万$と発表した。支払額は上記のとおりであるので、その差額がBarrettの負債等になる。なお、J.S.Heroldによると、天然ガスMCFあたりの取引額は$1.31とのこと。(参考文献3)(参考文献)1.各社ホームページ掲載のプレスリリース2.Herold Comparative Appraisal Reports -- Barrett Resources Corp (April 26, 2001)3.Herold M&A Alert -- Upstream (5/7/2001)4.Petro Strategies (Vol 16, No.272, May 14, 2001)5.株価チャート http://www.marketguide.com/― 133 ―石油/天然ガス レビュー ’01・7(担当:宮本)
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2001/07/30 [ 2001年07月号 ] 宮本 善文
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