ページ番号1006418 更新日 平成30年2月16日

ロシア・ウクライナ他:大水深掘削技術で注目される黒海の石油開発

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レポートID 1006418
作成日 2010-11-19 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 技術探鉱開発
著者 本村 真澄
著者直接入力
年度 2010
Vol 44
No 6
ページ数
抽出データ ロシア・ウクライナ他:大水深掘削技術で注目される黒海の石油開発・黒海では北西側のルーマニア沖、ウクライナ領オデッサ湾およびアゾフ海に広く大陸棚が発達しており、石油ガス開発も1970年代以降、主にこの海域で展開されてきた。・一方、他海域では大陸棚の発達はあまり見られず、離岸距離とともに水深は急激に深くなる。水深100m以深の大陸斜面部分と海盆部(中央部で最大水深2,206m)は石油が手付かずで残されている。・近年、ブラジル沖、メキシコ湾などで大水深油ガス田開発技術が進歩するに伴い、黒海の大水深域は残されたフロンティア地域として注目を集めるようになった。トルコ、ロシア、ウクライナ、ルーマニアでは鉱区開放が進み、メジャーを中心に各国の石油企業が積極的に進出している。・特にウクライナでは、2010年2月にヤヌコビッチ大統領が就任し、石油ガス分野ではボイコ燃料エネルギー大臣の下、大幅な人事の入れ替えがなされ、現在新たな体制が整いつつある。大水深域では、本年中にも33鉱区が開放される予定であり、メジャー各社は注目している(ただし、同国の鉱区開放に関連した情報入手には、事前にConfidentiality Agreementの締結が求められる)。・黒海深海部の炭化水素ポテンシャルとしては、始新統石油根源岩(Maykop層)が確認されていることから、白亜系~第三系の貯留岩の発達が期待できる地域では一定の有望性があると見られる。・大水深用掘削リグは絶対的に不足している。一方、ボスポラス経由での曳航では、橋桁の高さの関係から櫓(やぐら)を取り外す必要があるなど、外部からのリグ調達は容易でない。今後、新規リグの建造・運用のためにリグクラブを創設して掘削作業を円滑にしていくことが必要と思料される。1. 黒海とは?-残されたフロンティア地域- 黒海はトルコ、ブルガリア、ルーマニア、ウクライナ、ロシア、グルジアの6カ国に囲まれる内海で、東西約1,300km、南北最大約600km、面積は43万6,400km2の規模である。このうちトルコが海岸線の長さで突出し、海域面積でも2/5を占める。大陸棚面積ではウクライナが最大であり、海域面積でトルコに次いでいる。黒海に流入する大河川は、ルーマニアのドナウ(Donau)河、ウクライナのドニエステル(Dniester)河、ドニエプル(Dnepr)河、ロシア領アゾフ海に注ぐドン(Don)河、トルコのクズルウルマク(Kizil lrmak)河等であり、外洋とはわずかに浅海部がボスポラス海峡を経て地中海とつながっている。 このため黒海の海水は表層部で塩分濃度は1.7%と低く、酸化環境にある。一方、水深200m以深の深層部では、嫌気性環境で生物はほとんど棲息できない。塩分濃度は2.2~2.3%となる。深層部では海水中に硫化水素が生成し海水中の鉄イオンと結合して黒色の硫化鉄を生じる。黒海の名称は黒味を帯びた色調の海水に由来すると言われるが、一説にはこの硫化鉄の存在が黒色の原因とされる。海底の泥の有機物含有量は1~5%と高く*1、将来、石油根源岩が形成される場とも言える(図1)。 堆積の場としての黒海は、“Silled Basin”(敷居<sill>で隔てられた堆積盆地)と呼ばれ、外海との導通がほとんどない。大西洋などの実際の大洋底は、海表面付近から下降する冷水塊が約1,000年かけて循環する「深層水循環」のメカニズムのなかにあり、この冷水塊が酸素を運搬することから深海底といえども基本的に酸化環境にある。例えばメキシコ湾の海底でもその含有有機物は酸化されるため残存することはまれで、その含有量は0.5%程度と非常に低い。したがって、石油根源岩となる能力はない。一方、黒海の海底は、地球上で還元環境を維持している世界でも珍しい堆積の場と言える。 海底地形を見ると、大陸棚はルーマニア沖、ウクライナ領オデッサ湾、アゾフ海に発達しているが、ブルガリア、ロシア、グルジア、トルコ沖は総じて大陸棚の発達に乏しく、水深は直ちに1,000m以深となる(図2)。中央部は大水深域を形成し最大水深は2,206mである。黒海69石油・天然ガスレビューボスポラス海峡200m黒海の概要塩分濃度1.7%塩分濃度2.2%?2.3% 嫌気性環境S8 + 8Fe → 8FeS 硫化鉄海底の泥の有機物含有量 1%?5%N河川0m×最大水深 2,206m出所:JOGMEC作成図1黒海の海水の状況GolitsynoGolitsynoOdessaOdessaLebadaLebadaSubbotinaSubbotinaGalataGalataAkcakocaAkcakoca出所:TPAOによる図にJOGMEC加筆図2黒海の水深および主要油ガス田コンターの間隔は250m出所:Sofia Morning News, 2010/5/19図3ブルガリア沖のGalata、Kavarna、Kaliakraガス田の石油・ガス開発はこれまで大陸棚域で行われてきたが、掘削技術の進歩によってその対象域は深海に及ぼうとしている。 黒海は1970~1980年代に、大陸棚で中小規模の油ガス田開発がなされたのみで、必ずしも有望地域と見なされていたわけではない。当時の地質ポテンシャル評価では、大水深域にも言及されているが、開発は技術的に困難である、と必ず一言付け加えられている。しかし、今世紀に入ってから、ブラジル沖、次いでメキシコ湾深海部での大水深開発技術が進歩すると、それまで手付かずであったにフロンティア地域として関黒海は、俄心を集めるようになった。現在、沿岸国のうち、トルコ、ロシア、ルーマニアでの鉱区開放が進んでおり、停滞していたウクライナも政権交代に伴う政策変更かにわから鉱区開放の議論が進められている。本稿ではこのような新しい動きに着目し、今後の新規事業の可能性を探る。2. 黒海における石油ガス探鉱の歴史と最近の鉱区付与状況(1)ブルガリア沖 ブルガリアの大陸棚の幅はルーマニアの大陸棚(幅約100km)に比べると20~30kmと、はるかに狭い。ここでは、Melrose Resources PLC(英)が開発するGalataガス田はじめ、2009年には同社が開発するKavarnaガス田(埋蔵量6億8,000万m3)に対し政府が商業宣言を行い、同じくKaliakraガス田(同16億4,000万m3)も商業宣言の申請がなされている(図3)。2010年には生産開始となる見込出所:Offshore Energy, 2010/8/01写1ブルガリア沖Kavarnaで操業するジャッキアップ型リグGSP Jupiterみである。これらの開発にあたっているジャッキアップ型リグGrup Servicii Petroliere(GSP)Jupiterを写1に示す。 ブルガリア政府は、Silistar大水深域鉱区(6,935km2)の入札を9月2日に実施した。Total、ExxonMobil、Anadarko Petroleumなどメジャークラスが応札すると見られていたが、応札したのは、Overgas(Gazprom傘下のBulgariaの配ガス企業)、Prouchvane l dobiv na nefte i gas、Lederbel、Integrity Tower(米)の4社のみで比較的低調であった*2。2010.11 Vol.44 No.670X-27EX-28EX-29EX-30LebadaLebadaHISTRIA XVIIIHISTRIA XVIIIEX-25EX-25MIDIAMIDIANEPTUNNEPTUNRomaniaBulgariaGalataGalataSILISTARSILISTAR100km出所:JOGMEC作成図4ブルガリア、ルーマニア沖の公開鉱区(2)ルーマニア沖 ルーマニアの油田を操業している最大手の石油企業はPetromで、かつては国営石油企業であったが、2004年末に民営化され、現在51.01%はオーストリアのOMVが保有している。黒海では、Lebada油田(埋蔵量8,500万bbl)が1980年に発見された(図2)が、現在ではこれを含むHistria XVIII鉱区でPetromの操業するLebeda Est、Lebeda Vest、Sinoe、Pescaru、Deltaの5油田が生産している。Lebada油田の貯留岩は始新統石灰岩および下部白亜系オーブ統(Albian)砂岩で、オーブ統砂岩からは石油が坑井あたり平均1,100bbl/dで出油する。始新統からはガスが見られる。Lebada East油田とLebada West油田は、オーブ統砂岩貯留岩が一部炭酸塩岩セメントにより隔てられているためで、同層の貯留岩性状の変化は激しい。 また、ルーマニアとウクライナとの黒海における隣接海域が係争状態となっていたが、2009年、係争海域がルーマニア側に帰属することで決着した。この海域にはウクライナのChernoMorNefteGaz(黒海石油ガス開発会社)が発見したOlimpiskoyeガス田があるが、ルーマニア側が開発することになった。 Melrose Resourcesは、2008年12月に黒海Histria鉱区の南東に広がるMidia鉱区と黒海沿岸北部のPelikan鉱区の2鉱区の32.5%を取得し、オペレーター権をSterling Resources(カナダ)から取得した。Midia鉱区では、既発見のAnaガス田、Doinaガス田(埋蔵量は合計0.345Tcf)の開発工事を2011年初、生産PrykerchenskaPrykerchenskaWest ChernomorskyWest ChernomorskyTuapse TroughTuapse TroughSilistarSilistar出所:諸データーにJOGMEC加筆図5黒海における鉱区取得71石油・天然ガスレビュー@1978年には、クリミア半島西部のセバストポリでジャッキアップ型リグSivah号が建造された。この稼働水深は70m(230ft)、掘削深度は約6,100m(2万ft)である。 クリミア半島北東側のアゾフ海では、冬季は結氷する。アゾフ海のストレロヴォイェ(Strelovoye)ガス田では、ソ連で最初の耐氷プラットホームが設置された。 黒海大陸棚における石油ガス開発は、ChernoMorNefteGaz社によって展開されたものであるが、ソビエト連邦の崩壊、ウクライナの独立に伴い、同社はウクライナ側とロシア側にそれぞれ分割された。ただし、両社とも、現時点では同一の名称をそのまま使用している。ウクライナ側のChernoMorNefteGazは国営ガス企業Naftogazの100%子会社で本部をクリミア半島の首府Simferopolに置き、オデッサ湾とアゾフ海西部の事業を行う。ロシア側はアゾフ海東部のガス田開発を行っている。2)新規の鉱区付与 2005年7月に、OMVはNaftogazと黒海で操業するその100%子会社Cherno MorNaftoGazと共同で、クリミア半島西方のSkifska鉱区で探鉱事業を行うことで合意した*6。ただし、その後の動きはない。 2006年にクリミア半島沖の大水深域がテンダーに付され、Vanco Prykerchenska(米Vanko、DTEK他2社各25%のJV)がPrykerchenska PSA鉱区を取得した(鉱区付与は2007年10月)。鉱区は面積1万2,960km2、水深300~2,000m、Tatyaev構造およびSudak褶曲帯において20億boeが見込まれる(図5、図6)。 鉱区付与時の首相はViktor Yanukovich(現大統領)であったが、その後首相となったYulia Tymoshenkoが2008年5月に、この鉱区付与に異議を唱え、同年7月Vancoはストックホルムの仲裁裁判所に提訴し、ウクライナ政府と係争状態となっていた*7。2010年2月の大統領選挙を経てヤヌコビッチ政権が発足すると、両者はこの審理を凍結して交渉に入ることとした。Yanukovich大統領に近いオリガルヒのRinat Akhmetovは自ら保有するSystems Capital Managementを通じてDTEK(2009/12/31からJVの25.5%を保有)の一部を保有しており、このことが影響しているとの見方もある*8。 同鉱区南部は、黒海中央部をNNW-SSEに走るAndrusov ridgeという基盤高に掛かるが、プロスペクトは同ridgeよりも、よりクリミア半島に近い地域に集中している(図6)。 Yanukovich大統領は9月2日から3日間、北京を訪問した。Yuriy BoykoエネSudak 3D surveySubbotina oildiscoveryShatsky ridgeUKRAINEUKRAINEUKRAINEUKRAINEtleudak Fold BSAndrusov ridgeTetyaev 3D surveyAndrusov ridge出所:Argus FSU Energy, 2010/7/16図6VancoのPrykerchenska PSA鉱区2010.11 Vol.44 No.672開始を2012年末とする計画である*3。 2010年7月4日、ルーマニア政府のNational Agency for Mineral Resources(ANRM)は、第10次ラウンドの入札を行い、20の探鉱鉱区を公開した。うち5鉱区は黒海沖合で、一部大水深を含んでいる。Lukoil/VancoのJV(80:20)は、Trident鉱区(EX-30)およびEest Rapsodia鉱区(EX-29)を取得したが、これはExxonMobilが参加している最大水深1,700mのNeptun鉱区(図5)の北東側に位置する。Melrose ResourcesとPetromar Resources(ルーマニア)のJVは、ウクライナ水域と隣接する500m以浅であるEast Cobalcescu鉱区(EX-28)、Muridava鉱区(EX-27)を取得した。Petro Ventures(ルーマニア) は大陸棚域のLuceafarul鉱区(EX-25)を取得した*4(図4、図5)。しゅうょく曲き(3)ウクライナ沖1)これまでの黒海石油ガス開発 黒海の石油開発は、当初は1970年代のソ連時代に、主にクリミア半島西方のオデッサ湾と東方のアゾフ海の浅海域で行われていた。Rigassi(1982)*5によれば、1981年までに342坑の試掘がなされ、191坑で出ガスを見ている。これらは主に構脚を用いて極浅海部で掘削されたものである。 本格的な海洋ガス田としては、オデッサ湾で1975年に発見されたゴリツナ(Golitsyno)ガス田がある(図2)。位置はクリミア半島の西約80km、水深は35m(115ft)である。貯留岩は、暁新統の炭酸塩岩で、オデッサ湾における主要貯留岩となっている。油田は細長い背斜を形帯と成し、“Golistyna trend”という褶なっている。ガスの生産開始は1981年12月、1987年には新たなプラットホームが追加され、翌年の生産量は640万m3/年であった。アゾフ海では出ガスを見ているが、クリミア半島東端でロシア領と対峙するケルチェンスキー(Kerchenskiy)海峡の南側にはSubbotino構造があり、ここでは出油を見ている。このことが、ウクライナ沖黒海での石油賦存期待の根拠の一つとなっている。泣Mー相によれば、中国企業とウクライナ大水深域で石油探鉱を進めるにあたり、協力を仰ぐ予定であったが*9、特段の報道はまだなされていない。3)今後の鉱区公開の予定 筆者が現地出張で聴取したところでは、ウクライナ政府は近い将来、黒海大水深域およびアゾフ海を対象とした国際入札を行うべく、準備を進めており、国営ガス企業Naftogazも関与する予定である。公開鉱区は33に上る。ただし、鉱区図等の入手にはConfidentiality Agreementの締結が必要である。公開鉱区には、炭化水素ポテンシャルが高いと思われる以下の2地域が含まれると言われている。① Skifskaya地域:クリミア半島西方に位置し、ルーマニアの専管水域に接する。未探鉱地域。② Subbotinskaya地域:クリミア半島の東方にあり、かつて沖合のSubbotina構造で油徴を見ている。(4)ロシア領黒海1) Chevronの参加 ロシア領黒海の深海鉱区開発に関し、RosneftのBogdanchikov社長(当時)とChevronのWatson社長が2010年6月17日、プーチン首相公邸で契約書に署名した。両社は本年12月を目途にロシアで黒海開発のためのJVを設立する予定である。作業対象域はWest Chernomorsky鉱区の一部であるVal Shatskogo鉱区で、水深は最大で2,200mである。Rosneftは同鉱区のライセンスを2007年にYukos破産の際のオークションで獲得した。同鉱区には10のプロスペクトがあり、そのうち5構造では全体の80%にあたる8億6,000万t(63億bbl)の埋蔵量があると言われている*10(図5)。 Val Shatskogo鉱区でRosneftは、2008年に2D、3D地震探鉱を実施し、2010年8月には、追加の3D地震探鉱を開始している。Rosneftは2011年末に1坑目、2012年に2坑目の掘削を行う計画である。2014年には、Val Shatsky構造から石油生産開始の見通しを持っている*11。出所:TPAO図7Akcakoca沖ガス田73石油・天然ガスレビュー2)ExxonMobil RosneftとExxonMobilは、Rosneftがライセンスを取得している黒海のTuapse沈降帯(Trough)の共同開発について協議中である。この鉱区は黒海の石油輸出港Tuapseの沖合に位置し、West Chernomorsky鉱区よりも、より陸域に近い(図5)。Rosneftによると、当該地域には約70の有望構造がある。 ExxonMobilは、数年前にRosneftが黒海開発に参加する外国企業を募った際に名乗りを上げていた。Totalも立候補を検討していたが、地質的リスクが高いとして断念したと伝えられる。一方、RosneftはShellに対し、Shellがドイツに保有するMiro製油所とTuapse Troughとのスワップを提案したが、合意には至らなかった。ExxonMobil側によると、関心を有してはいるものの最終決定には至っていないという。ExxonMobilは6月、サンクトペテルブルク経済フォーラムでSechin副首相と会談した際にTuapse Troughについても協議したが、その後同副首相はExxonMobilとの交渉がスタートしたと言明するなど、ロシア側の積極的な姿勢が目立つ*12。(5)グルジア沖 2008年のグルジア紛争以降独立宣言したアブハジア(Abkhazia)共和国エネルギー省は2009年8月に、沖合鉱区に関してロシアのRosneftに対して5年間の鉱区権益を付与した。地震探鉱は2011年末まで実施される予定である*13。(6)トルコ沖 チュルク語で、黒海は“Kara Deniz”と言う。トルコの石油開発は、イラクに隣接する南東部の陸域で1930年代から始められ、小規模な油田を開発するのみであったが、2004年に黒海の南西部の浅海部で始新統砂岩を貯留岩とするAkcakoca沖ガス田を発見し(図2、図7)、i1)黒海周辺の地質構造 黒海(およびカスピ海)を取り巻く地域の地体構造に関する議論としては、ソ連時代に主張された大陸地殻の「海洋化」(basification)説、中生代初期のテーチスざんとする説などがあった。しかし海の残れき近年は、クリミア半島の上部ジュラ系礫んが南から、すなわち黒海の側から供給を受け、イランのエルブルース山脈が北さい岩の供給を受けてのカスピ海側から砕いる事実から、二つの海はより新しく、中生代後期に背弧盆地*17として拡大したものと考えられている(図9)。黒海の堆積物は15km、カスピ海のそれは20kmに及ぶ。白亜紀中・後期にユーラシア大陸に衝突したアラビアプレート(Arabian Promontory)は、現状でも北方に突き立てるようにトルコ、イラン小プレートに接し(図10)、かつユーラシア側に年間1cmずつ逆断層でもぐり込みつつある。Crimea、Caucasus、Kopet Dagの山脈が二つの盆地の外縁を形成している*18。岩が滓しつ屑せ3. 黒海の石油地質黒海開発に弾みがついた。同ガス田はトルコ国営石油企業TPAOが51%の権益を保有する。現状52万m3/d(年産540万m3)という生産規模である。 2006年8月にTPAOはExxonMobil、ブラジルのPetrobrasとJVを結成し中央南部のSinop鉱区(AR/TPO/3922)を、また2008年にはExxonMobilとのJVでKastamonu鉱区(AR/TPO/3921)、Samsun鉱区(AR/TPO/3922)を取得した。2010年1月にTPAO、ExxonMobil、Petrobrasの3社は、Ayancik鉱区、Carsamba鉱区(AR/TPO/3922)を取得した*14(図5)。2010年2月に試掘されたSinop-1は、不成功に終わった(図8)。なお、東部のTPAO、BPによる試掘井Hopa-1では、油徴を見ている。 2010年9月3日には、ChevronとTPAOが黒海の共同探鉱において50:50のJV設立で合意した。対象鉱区は既にTPAOがライセンスを保有しているKastamonu鉱区(AR/TPO/3921)の西部にあたるYassihoyuk鉱区で、既に大水深用掘削リグLeiv EirikssonによりYassihoyuk-1号井が9月から掘削に入っている*15。TPAOは、黒海における資源量を天然ガス1兆5,000億m3、石油を100億bblと見積もっている*16。出所:Energy-Pedia Exploration, 2010/1/5にJOGMEC加筆図8AR/TPO/3922 Sinop鉱区の位置出所:Zonenshain & Le Pichon(1986)による出所:Yilmaz(2010)による図9黒海とカスピ海を取り巻く地体構造図10アラビアプレートのユーラシアプレートへの衝突(境界部がZasgros Suture)2010.11 Vol.44 No.674i2)石油地質 Robinson(1996)の論文*19によれば、石油地質の概要は以下のとおりである。1)黒海の地質構造 黒海の南縁を形成するトルコ側の小アジア陸域は、Pontides褶曲帯から成り、一方クリミア半島からグルジアにかけては大コーカサス褶曲帯が延び、黒海はこの両褶曲帯に挟まれた盆地である。ただし、黒海の中央部では、基盤を成すAndrusov Ridge(Mid-Black Sea High)により、西黒海と東黒海とに分けられる(図11)。2)石油根源岩 黒海において、岩石サンプルの全有機物量(TOC)およびパイロリシス分析によって石油根源岩の能力を有すると判断されたのは、上部デボン系炭酸塩岩、下部白亜系(アプト統~オーブ統)黒色泥岩、上部始新統泥岩Maykop層であるが、このなかでMaykop層は油指向で全有機物量が1.4~8.4%あり、圧倒的に優秀な根源岩となっている。Maykop層の露出地域はKrasnodar近辺であるが、同層はカスピ海の主要根源岩にもなっており、広域に分布することが分かっている。 3,000万年~3,500万年前のMaykopianには、黒海が閉鎖的な環境になり始め、広範にMaykop層泥岩が堆積した。この時、黒海中央部のAndrussov Ridgeと黒海北東のロシア側にあるShatsky Ridgeは水面上にあったが、1,500万年前には完全に埋積され、周辺の地形の急峻化に伴い、盆地は強嫌気性(euxinic)となり、Area of major Tertiary compressional deformationArea forced by oceanic or extended continental crustLimit of major ExtensionLimit of major CompressionOther boundariesMajor strike-slip fault zone出所:Robinson, A.G. et al,(1996)による図11黒海の地質構造表黒海の国別探鉱プレイと石油地質ブルガリア沖既存油ガス田Galataガス田ルーマニア沖Lebada油田参入外資企業中小のみ参入MelroseExxonMobil新規探鉱のプレイタイプ既往の貯留岩始新統砂岩(層位トラップ)第三系海底扇状地砂岩、上部白亜系~第三系傾始新統石灰岩白亜系砂岩(断層block)オデッサ湾Golitsynoガス田暁新統石灰岩(背斜)ウクライナ沖クリミア半島 Subbotinskaya(油徴)VancoPrykerchenska-アゾフ海Strelovoyoガス田漸新統~鮮新統砂岩ロシア沖トルコ沖Akcakoca沖-始新統砂岩(背斜)ExxonMobilPetrobrasChevron出所:Robinson(1996)等を基に作成75石油・天然ガスレビュー動ブロック、ジュラ系~白亜系rudist礁下部白亜系断層ブロック新第三系rollover背斜暁新統石灰岩の背斜狙い漸新統泥質砂岩下部白亜系(アプト~オーブ)砂岩Andrusov隆起帯上の下部白亜系砂岩の傾動断層プロック漸新統~鮮新統砂岩のmud diapirに起因する背斜構造傾動断層ブロックの白亜系石灰岩海盆では中新統砂岩のドレープ背斜(圧縮場)D勢な石油根源岩が形成された。このことから、Maykop層の分布域は黒海全体に及んでいると思われる。3)石油貯留岩 表に見るとおり、黒海の既往油ガス田においては、白亜系~古第三系にかけて、多くは砂岩、一部に石灰岩から成る多様な貯留岩を見ることができる。 第三系に限れば貯留岩は周辺大陸棚上では、河川成~浅海成砂岩が発達する。大陸棚縁辺から深海にかけては、大陸棚から供給される深海扇状地のタービダイト砂岩が主たる貯留岩になるものと推測される。(3)主な地域の炭化水素ポテンシャル1)ブルガリア沖 第三紀に形成されたBalkanides褶曲帯は、陸域では東西に伸長するが、沖合で南北に転じ、トルコのPontides褶曲帯に連なる。この北東側に逆断層を挟んで併走するKamchia Troughが前地盆地を形成し、北方ではルーマニア国境のMoesian Platform上で薄化する。水深1,000m以深では、第三紀(始新統~漸新統)の海底扇状地が発達して貯留岩となり、背斜および断層傾動ブロックによるトラップが発達する。背斜に掘削されたSamotyno More-1で下部始新統のタービダイト砂岩から出油を見ている。上位に根源岩のMaykop層が見られるが未熟成で、熟成深度にあるMaykop層に近いプレイが有望と思われる。 他に水深2,000m付近のPolshkv Highに発達する傾動ブロックの上部白亜系~第三系砂岩のプレイ、Moesian Platformに向けて薄化する始新統砂岩の層位トラップ(Galataガス田がこのタイプ)、Moesian Platformの沖合深海部のジュラ系~白亜系rudist reef等が考えられる。2)ルーマニア沖 ルーマニア領の黒海は3万5,000km2あり、ウクライナと国境を成すドナウ河デルタの発達により、100m以浅の大陸棚が2万km2と広く覆っている。ここは黒海でも明確に石油指向の地域である。大陸棚北部にある白亜紀以前に活動したPedeneaga-Camena逆断層により、北東のNorth Dobrogean変動帯(古生界~上部ジュラ系)と南西のMoesian Platform(古生界~下部白亜系)が明確に分けられる。下部白亜系オーブ統砂岩および始新統石灰岩が主たる貯留岩となっている。 今後の探鉱プレイとしては、①Lebada油田タイプ:断層ブロック内の下部白亜系アプト統~オーブ統浅海砂NNWLine OD-411SSEGolitsyno fieldKarkinit TroughLine OD-411Kalamit ridge010kms出所: Robinson et al.(1996)による。一番左にGolitsynoガス田、次いでKartkinit Trough、そしてKalamit Ridgeを通る図12オデッサ湾を北北西-南南東方向に切った地震探鉱断面図とその解釈図岩、②上部白亜系でシールされたMoesian Platform内の傾動断層ブロック、③大陸棚外縁部での新第三系のロールオーバー背斜がある。ドナウ河から供給される新第三系砂岩は優勢であるが、根源岩がガス指向と思われリスクとなる。3)オデッサ湾(ウクライナ沖西部大陸棚) オデッサ湾の100m以浅の大陸棚面積は5万km2と最大でほとんどがウクライナ領である。Golitsynoガス田に代表されるように、ウェットガスが卓越する。中央部はKarkinit沈降帯(Trough)がENE-WSWに延び、第三系が約4kmの厚さで堆積する(図12)。その南にはKalamit隆起帯が併走するが、これはクリミア半島南部の白亜系山地(Gorni Crimea)の延長である。主たる探鉱プレイは上部暁新統のグレインストーン石灰岩の背斜構造で、始新統の泥岩/泥灰岩が帽岩となる。背斜は漸新世から中新世にかけて形成された。次いで漸新統の泥質砂岩貯留岩が期待される。更に下部白亜系(アプト統~オーブ統)砂岩からの出油の例もあり、探鉱の目的層となる。4) アゾフ海(ウクライナ沖東部大陸棚~ロシア領) アゾフ海は、大コーカサス山脈の背弧盆地であり、同様の性格を持ってクラスノダール付近に発達するIndolo-Kuban盆地の西方延長と言える。大コーカサス山脈はKerchenskiy海峡付近で一旦低下するが、そのまま南西方向に延びてクリミア半島南部の白亜系山地(Gorni Crimea)に連なる。主要な貯留岩は、漸新統~鮮新統の砂岩で、下位に主要な根源岩である始新統Maykop層泥岩を伴い、かつこれによるmud diapirに起因する浅部の背斜構造がガス田になるケースが多い。その他、上部白亜系石灰岩や下部白亜系砂岩などが一部でガス鉱床を形成している。2010.11 Vol.44 No.676@期待されるプレイとしては、Andrusov ridgeにおける下部白亜系(アプト統~オーブ統)砂岩の傾動断層ブロックによる三つのクロージャーがある。面積は各1,000km2である。砂の供給は北方のロシア卓状地からと考えられており、より細粒の遠洋相を呈しているものと思われる。根源岩は広域に分布する上部始新統のMaykop層である。生成された石油・ガスは中央部の隆起帯に集まるものと思われる。また、これら背斜構造の周辺のドレープも対象となり、特にlow-stand期の上部中新統砂岩が期待される。Andrusov ridgeでは、地震探鉱により、主要な背斜構造の上位の浅部堆積物中にガス由来のvelocity pull-downが確認されており、また一部海底ではガスの滲しんが見られる。ゅつ出し8)トルコ沖西部 西部黒海を擁する海域においては、陸域に西部Pontides逆断層帯が形成されているが、これらは火山岩が主体であり、5)ロシア~グルジア沖(Shatsky Ridge) これは、ロシアの海岸線に並行し、その沖合側に西北西-東南東方向に伸長して広がる基盤隆起帯で、その外縁は東黒海の海盆に正断層で接する。隆起帯の内部は北側に傾動する一連の正断層ブロック帯から成る。これらの岩体は白亜系の石灰岩で、その上位を始新統泥岩(Maykop層)が不整合で覆う。白亜系石灰岩に貯留岩性状の良好な場所があれば、横方向の移動により石油鉱床を形成し得るものと期待されている。6)グルジア~東部トルコ沖 この黒海南東部は、東部Pontides-Adjaria=Trialet Zoneと称し、主に白亜系から始新統の火山岩および花崗岩から成り、一部に熱変成で大理石化した白亜系石灰岩が見られる。海岸沿いに白亜系~暁新統石灰岩、下部始新統砕屑岩が見られるが、上位を上部始新統の火山岩に覆われ、基本的に石油の賦存を期待することはできない。一方、グルジア側のRioni盆地では、中新統~鮮新統砂岩に出油が見られる。ただし、砂岩は火山岩起源のもので貯留岩性状は著しく悪い。沖合の大水深域には、南西-北東にechelon状に伸長する背斜群があるが、背斜軸は北東方向にプランジし、明確なクロージャー*20を形成しないリスクがある。7)黒海中央部(ウクライナ~トルコ沖) 黒海の中央部は、水深が2,200mある。トルコ側から北西-南東方向にArchangelsky ridgeが伸長する。これは北西方向に向かって沈降して行き、黒海中央部付近でこれとは別にAndrusov ridgeが北西方向にクリミア半島に向けて伸長する。Archangelsky ridgeは第三紀の圧縮で数多くの小規模の逆断層背斜を形成する。一方、Andrusov ridgeにおいては展張断層による傾動地塊化が進んでいる。 黒海海盆は上部始新統の石油根源岩から上位の遠洋堆積物に広く覆われる。出所:Today's Zaman Istanbul, 2010/1/01写2大水深用掘削リグLeiv Eirikssonのボスポラス海峡通過の状況(掘削リグが取り外されている)77石油・天然ガスレビュー剽ッ岩性状に乏しい。ここでは圧縮性の背斜構造が見られ、始新統ではなく、より古い時代の根源岩、例えば上部石炭系の石炭をソースとする石油を探すことも考え得る。同様の例が始新統砂岩を貯留岩とする沖合のAkcakocaガス田である。より沖合には展張性の断層が見られる。ここでは多くの深海扇状地の発達が見られ、地震探鉱上で中部始新統による多くのdown-lap構造を摘出できる。沖合のYassihoyuk鉱区では、2010年9月からTPAOがYassihoyuk-1の試掘を開始した。4.黒海探鉱の問題点(1)地質学的リスク 石油根源岩に関しては、黒海の既往探鉱の成果を見る限り、優れた根源岩性状を有する始新統Maykop層が広く分布していることが確認されており、根源岩リスクは低いものと判断する。 一方、貯留岩に関しては、表に見るとおり複数存在し、プレイに応じてそのいずれもが貯留岩として機能する可能性があり、特段リスクが高いとは言えない。ただし、より浅い中新統の海底扇状地砂岩(low stand sand)を貯留岩として期待する場合、黒海中央部に行くにしたがってより細粒の遠海相となり、貯留岩性状が劣化することは免れ得ない。(2)掘削におけるリスク1)高い掘削コスト 現在、トルコの黒海の大水深域において掘削作業が進行しているが、1坑あたりの掘削コストは$150MM~$300MMと言われ、極地を除けば世界で最も高コストの地域と言える。2)厳しいリグの調達 トルコのKastamonu鉱区(AR/TPO/3921)の西部にあたるYassihoyuk鉱区で、Yassihoyuk-1号井を掘削するために、大水深用掘削リグLeiv Eirikssonが、昨年末ボスポラス海峡を通り運び込まれた(写2)。ここに見るとおり、掘削櫓が橋桁に触れるため、外されている。今後、掘削活動が活発化するにつれ、新規のリグを別途黒海に搬入する必要が出てくるが、内陸部の大河川を経由するよりは、基本的にはボスポラス海峡経由となると思われる。しかし、いずれの場合でも同様の措置が求められる可能性が高く、リグ調達は容易ではない。新規に建造する場合には、リグクラブを作る必要があろう。(本村 眞澄)追記:ウクライナ側とConfidentiality Agreementを結び、より詳細な鉱区情報を得たいとお考えの会社がございましたらJOGMECまでご連絡ください。<引用文献等>*1: Shimkus K.M. & Trimonis E.S. (1974), Modern Sedimentation in Black Sea,pp.249-278, in AAPG Memoir 20, The Black Sea- Geology, Chemistry, and Biology. 633p.*2: PON 2010/9/03*3: PON, 2010/8/18*4:IOD, 2010/8/17*5:Rigassi, Danilo(1982), World Oil, Aug. 15, 1982, p.186-206.*6:Oil and Gas International, 2005/7/13*7:PON, 2010/8/06、ArgusFSU 2010/7/16*8:ArgusFSU 2010/7/16*9:PON, 2010/9/02*10:IOD, 2010/6/18*11:Prime-Tass, 2010/8/02*12:IOD, 2010/8/24*13:Oil and Gas International, 2009/8/12*14:IOD, 2010/8/17*15:PON, 2010/9/06*16:PON, 2010/9/06*17: 背弧海盆(Back-arc basin):島弧に対して沈み込む(subductする)海洋プレートの反対側に形成される堆積盆地。*18: Zonenshain, L.P. & Le Pichon, X. (1986), Deep Basins of the Black Sea and Caspian Sea as reminants of Mesozoic Back-Arc Basins, Tectonophysics, v. 123, p. 181-211*19: Robinson, A.G. et al, (1996), Petroleum Geology of the Black Sea, Marine and Petroleum Geology, v.13, n.2, pp.195-223*20: クロージャー(Closure):貯留岩の地下構造図上で閉鎖する最も構造的に低い等深度線で囲まれる範囲。2010.11 Vol.44 No.678
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 旧ソ連
国2 ウクライナ
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア旧ソ連,ウクライナ
2010/11/19 [ 2010年11月号 ] 本村 真澄
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