ページ番号1006240 更新日 平成30年2月16日

特集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業 掘削分野の技術革新 ─水深 3,000m を克服

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レポートID 1006240
作成日 2006-09-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 技術探鉱開発
著者
著者直接入力 梅津 覚 古谷 昭人 市川 祐一郎
年度 2006
Vol 40
No 5
ページ数
抽出データ 日本海洋掘削株式会社 掘削技術事業部長satoru.umezu@jdc.co.jp梅津 覚akito.furutani@jdc.co.jp古谷 昭人作業部担当次長yuichiro.ichikawa@jdc.co.jp市川 祐一郎代表取締役専務アナリシス特集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業掘削分野の技術革新─水深3,000mを克服1. はじめに 未探鉱・未開発の石油・天然ガスフィールドの一つとして、大水深海域はかなり以前から注目されてきたが、近年における大水深海域での探鉱開発プロジェクトの増加には目を見張るものがある。本稿では、石油・天然ガス探鉱開発にかかる最近の大水深掘削技術に焦点を当てて、その技術動向および今後の展望などを解説する。 最初に「大水深」の定義に関して触れておく。「大水深」とは、あくまでも相対的な比較に基づいて使われる言い方であり、対象とするものや比較する相手によって基準は大きく異なる。またそれは、年月の経過とともに変化している。たとえば、ジャッキアップ(甲板昇降)型海洋掘削リグでは、稼働水深100mクラスは現在も大水深仕様である。セミサブ(半潜水)型海洋掘削リグでも、1970年代には稼働水深200mクラスが大水深仕様であった。また、掘削技術だけを対象とする場合と、フィールド開発を対象とする場合とでは評価が異なるであろう。 現在もすべての分野で共通認識となっている「大水深」の具体的な数値はないが、石油開発業界の中で広く知られている機関が具体的な数値を公表しているものに、米国MMS(Mineral Management Services)のリポート(Deepwater Gulf of Mexico 2006:America’s Expanding Frontier, OCS Report MMS 2006-022)がある。このリポートでは、「大水深(deepwater)は1,000ft(約300m)、超大水深(ultra-deepwater)は5,000ft(約1,500m)以深」と定義している。したがって、300m以深の水深であれば「大水深」と言って差し支えないであろう。しかし、海洋掘削技術に限って言えば、最近の趨勢では水深1,000mあるいは3,500ftが「大水深」の一つの目安になるのではないかと考えられる。このため、本稿はそのレベルの水深を念頭に話を進める。すうせい2. 大水深探鉱開発エリアとその特徴 大水深プロジェクトは1990年代から活発化して現在に至っており、掘削・生産ともに最大水深記録は近年大幅に伸びている(図1)。掘削分野における現時点での最大水深記録は2003年に樹立された3,051mであり、メキシコ湾でダイナミックポジショニングシステム(DPS:dynamic positioning system)*1を装備したドリルシップ(drillship:掘削船)により記録された。アンカー係留方式では、2005年にやはりメキシコ湾で記録された水深2,805mが最大である。 大水深掘削技術の各論に入る前に、主な大水深探鉱開発エリアをピックアップして、各エリアの開発技術分野に関する特徴を概説する(図2)。(1)メキシコ湾 大水深掘削技術および大水深生産技術のさまざまな先端技術が、このメキシコ湾で実証・確立されていったので、大水深に関する数々の記録はこのエリアから出ている。“Atlantis”と命名された開発プロジェクトのように水深2,000mを超えたものもあり、試掘井および探掘井の掘削海域の水深は、既に3,000mクラスまで達している。 大水深の開発技術分野のJIP(joint industry project:共同研究プロジェクト)として、“DeepStar”と呼ばれる研究開発が、メキシコ湾を中心とした大水深フィールドの開発に貢献していることはよく知られている。また、海底パイプラインのインフラが整っていることが、大水深海域の開発コスト低減に寄与している。 一方、このエリアはハリケーンが襲来するとともに、ループカレント(loop current)*2と呼ばれる特異な強潮流が発生するため、掘削リグや生産プラットフォームの設計基準は、他のエリア*1:海底面のウェルヘッド近傍に設置したトランスポンダー(音響発信器)と船体に取り付けたハイドロフォン(トランスデューサー:音響受信器)により音響信号をコンピューターで解析し、環境条件(風、潮流など)に合わせてスラスター(可変式の推進動力)の向きと回転数を自動制御する動的位置保持システム。*2:ユカタン半島付近の海域を通ってカリブ海からメキシコ湾に流れる亜熱帯性海域由来の馬蹄(ばてい)の形をした潮の流れで、流速は5ノットに達することもある。47石油・天然ガスレビューAナリシス掘削最大水深記録:3,051m(2003年)プリセット係留による掘削最大水深記録:2,805m(2005年)通常係留による掘削最大水深記録:2,160m(2005年)海底仕上げ最大水深記録:2,307m(2004年)洋上生産設備最大水深記録:1,920m(2003年)出所:2005 Deepwater Solutions & Records for Concept Selection, Offshore Magazine, May 2005図1掘削および開発の大水深記録の推移北 海メキシコ湾西アフリカ沖ブラジル沖既存大水深フィールド今後の大水深フィールド出所:2005 Deepwater Solutions & Records for Concept Selection, Offshore Magazine, May 2005図2世界の大水深石油ガスフィールド分布クな技術開発・適用も、このエリアの特徴として挙げられる。 具体的には、Petrobras社によって1986年より、大水深技術開発の一環として1,000mまでの水深を対象とした“PROCAP”と呼ばれるプロジェクトが開始された。以降、1993年には“PROCAP-2000”、2000年には2006.9 Vol.40 No.548かいょう象し(2)ブラジル沖 大水深海域の油層ポテンシャルが高かったため、比較的早くから開発プロジェクトが進行し、現在も大水深海域での掘削や生産操業が活発である。 比較的穏やかな気象・海条件や、海底下の比較的浅深度からの重質油の生産などが考慮された、非常にユニーと比較して高いレベルにあった。 しかし、昨年(2005年)メキシコ湾を襲った巨大ハリケーン“Katrina”と“Rita”が掘削リグおよび生産プラットフォームに甚大な被害をもたらしたため、それらの設計基準に関するさらなる見直しが行われている。チ集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業 掘削分野の技術革新─水深3,000mを克服“PROCAP-3000”と進化し、3,000m水深をターゲットとして研究開発が進められている。現在、開発対象フィールドの水深は2,000mに近づき、掘削海域の水深は3,000mクラスとなっている。(3)西アフリカ 西アフリカは比較的新しい大水深開発海域である。各国の政情不安によるカントリーリスクが徐々に小さくなるにつれて、海洋油田開発のインフラも整い、近年は大水深開発が活発になっている。開発対象フィールドの水深は既に1,000mを超えているため、今後は1,500mクラスに進むであろう。 開発が進んでいる主要な大水深フィールドは、比較的穏やかな気象・海象条件である。海域にもよるが、河川の影響による複雑な海流などが指摘されている。術開発活動とは別に、DEMO2000と呼ばれるJIPがあり、ノルウェーと英国が中心の研究開発体制が存在する。(4)北海 北海は大水深開発の進んだ海域、という認識があるが、実際に開発されているのは水深200~300mの海域であり、1,000mクラスの開発は始まったばかりである。 この海域の気象・海象条件の厳しさ、環境・安全に関する法規制の厳しさなどから、掘削リグや生産プラットフォームの設計基準および操業のHSQE-MS(health, safety, quality, environment-management system)*3は、他のエリアと比較してトップレベルにある。 メキシコ湾など米国を中心とする技(5)その他の海域 アジア、オセアニア、インド洋、地中海などにも幾つかの大水深開発プロジェクトは存在するが、主要海域に比べると、開発移行しているケースは依然として少ない。しかし、油価の急騰に伴って、オーストラリア、インドネシア、インドなどの大水深フィールドが注目されており、今後は探鉱開発がかなり急速に進むものと見込まれる。 海域によっては、台風、サイクロン、強潮流などの影響を考慮した海洋設備の設計および操業の管理が必要になる。3. 大水深掘削の技術課題と技術進歩 大水深に関する最新の技術文献は、探鉱段階から開発段階へ移行するプロジェクトが多くなるにつれて、掘削技術よりも生産技術の占める割合が大きくなっている。しかし、生産技術にまで対象を広げると本稿の趣旨がぼやけてしまうため、最初にも述べたように掘削技術に焦点を絞って解説する。 他の技術分野を対象とした場合も同じであるが、大水深掘削技術を論じる際には、立場によってさまざまな切り口が考えられる。具体的に言うと、オペレーター(石油会社)、掘削コントラクター、サービス会社、メーカーなどそれぞれの立場によって、興味の対象が大きく異なってくるということである。 たとえば、掘削コントラクターの場合は掘削リグのオーナーであるため、興味の対象はどうしても掘削設備(掘削リグの機器・設備)やそのメカニズムに集中する。一方、オペレーター(石油会社)の場合、まず掘削計画を策定し、*3:業務従事者の健康や安全、業務成果品の質、業務を取り巻く環境を健全な状態に維持するための体系的な管理システム。その後立案した計画を実行可能な掘削リグを市場から調達すればよいことになるため、掘削設備の個々のメカニズム等に大きな注意を払う必要はない。しかし、オペレーターとして大水深掘削オペレーションをリードするのであれば、知識の濃淡はともかく、掘削コントラクター、サービス会社、メーカーの提供するすべてのサービス・資機材の特徴を把握しておく必要がある。 大水深掘削を構成する各要素技術について解説する場合には、切り口により分類の仕方が異なる。掘削技術の一般的な分類方法(坑井計画、掘削作業、掘削機器、マリンオペレーションなど)もあれば、前述のような立場による分類(オペレーター、掘削コントラクター、サービス会社、メーカー)もある。 ここではそれらを意識しつつ、技術課題および技術進歩の視点から特に注目すべき項目を抽出し、それぞれの項目に関して解説する。こうせい(1)大水深掘削の技術課題について 大水深掘削と浅水深掘削を比較して、根本的な違いの要因は、やはり地層圧力と地層破壊圧力の関係に集約されるであろう。それ以外の要因も含め、以下の項目で大水深掘削の技術課題についてまとめる。?地層圧力と地層破壊圧力の関係?地層温度および海水温度の影響?大水深の浅部地層の特徴?水深そのものの影響?リモートエリアであること?掘削コストへの影響こうげき(a)地層圧力と地層破壊圧力の関係 大水深下の地層では水深による流体圧力の影響のため、地層孔隙内流体圧力と地層破壊圧力の差(比率)が比較的小さい。それは、坑内に掛けることが可能な圧力の許容範囲(オペレーションウインドー)が小さくなることを意味する(図3)。極端な場合には49石油・天然ガスレビュー006.9 Vol.40 No.550アナリシス海面海底面泥水水頭圧(坑内圧力)地層破壊圧力 ケーシング設置深度 地層圧力 この深度でのオペレーションウインドー圧力出所:JDC海水水頭圧深度図3大水深掘削でのオペレーションウインドー概念図は比較的少ない。しかし逆に低温度が思わぬ問題を引き起こすことがある。 一つは、海底坑口装置付近に生成するメタンハイドレートである。大水深でのメタンハイドレート生成の問題は2種ある。坑内での生成と、坑外での生成の問題である。メタンハイドレートは、高圧低温環境下でメタンガスが水分と混合すると生成する氷状の固体である。メタンガスが存在し、温度と圧力の条件が揃えば、坑内でも坑外でも生成する。一般に、500m以上の大水深海底は、メタンハイドレートが生成する温度・圧力環境になる。 坑内で生成すれば、坑井の閉塞やサブシーBOP内部の障害を生み、坑外で生成すれば、やはりサブシーBOPの作動不良が起こる(固着によりサブシーウェルヘッドからサブシーBOPの切り離しができなくなる)。 低温によるもう一つの問題は、掘削流体(掘削泥水)の性状変化である。通常、掘削流体は、常温より高温側で所定の流動特性を示すように設計されている。しかし、大水深掘削では、掘削泥水は常温よりはるかに低温環境にさらされる場合がある。したがって、海底近くの低温になる個所での流動特性が問題となる。坑井圧力制御(ウェルコントロール)時などのように、坑内流体の循環を一時中止した後の循環再開時には、前述のメタンハイドレートの問題と併せて注意が必要である。(c)大水深の浅部地層の特徴 大水深掘削での掘削障害の多くは、海底下浅層掘削時に生じる。結局は、前述の地層圧力と地層破壊圧力の関係に帰着するが、海底下浅部ではその影響が最も顕著に現れるためである。 具体的には、海底面下のシャローガス(shallow gas)*7、シャローウォーオペレーションウインドーがほとんどなくなったり、マイナスになったりする場合も起こり得る。 オペレーションウインドーを外れる圧力を与えてしまった場合には、逸泥(lost circulation)*4、キック(kick)*5、アンダーグラウンドブローアウト(underground blowout)*6などが生じるほか、坑内の崩壊や掘管の抑留などのトラブルにもつながる。 対処策としては、短いインターバルでケーシングパイプを設置してオペレーションウインドーを確保する方法と、坑内圧力を正確にコントロールして狭いオペレーションウインドーの中での掘削を可能にする方法がある。 いずれの対策にもさまざまなバリエーションがあるが、現在の大水深掘削技術のなかで頻繁に遭遇する技術が多く含まれている。その点からも、地層圧力と地層破壊圧力の関係が、大水深掘削で最も特徴的な技術課題であることは理解できる。(b)地層温度および海水温度の影響 水深1,000mを超える大水深海域では、一般に海底近くの海水温度は0℃に近く、海底から上方の海面方向、下方の地層中へいくにつれて、それぞれ温度が上昇する。結果的に、陸上掘削あるいは浅水深掘削と比べて、全体に坑井を囲む環境温度が低い。特に海底坑口装置(サブシーウェルヘッドおよびサブシーBOP〔blowout preventer:防噴装置〕を含む)周辺の温度が低くなる。 陸上坑井などでは、掘削深度が深くなると高温度が問題となるケースが多いが、大水深坑井ではそのような問題*4:通常の掘削作業では泥水を循環させて坑内の安定化を図っているが、異常低圧層などに遭遇した場合には泥水が地層内に浸入していくため、泥水の戻り量が減る状況(坑内に満たされている泥水の水頭が下がる状況)になる。これを「逸泥」という。*5:通常の掘削作業では泥水を循環させて坑内の安定化を図っているが、異常高圧層などに遭遇した場合にはその地層に賦存している流体(油、ガス、水)が坑内に浸入していくため、泥水の戻り量が増える状況になる。これを「キック」という。*6:坑内にキック層と逸泥層が両方存在する状態をいう。発生原因としては、高圧層の下に低圧層が存在する場合、キックコントロール中に地層破壊が起きた場合などが考えられる。特に高圧層とバランスする泥水比重で低圧層へ掘り込み、逸泥が発生し、坑内の泥水の水頭が低下することで高圧層からキックを誘発するケースが多い。*7:海底面から浅い領域の地層にたまったガス。サブシーBOPを設置する前の浅層で遭遇すると、坑井を密閉できない。地層の圧密が進んでいないので、ガスの動きが早く非常に危険である。チ集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業 掘削分野の技術革新─水深3,000mを克服器をハンドリングするための掘削リグ上の設備も大きくなり、ひいては掘削リグそのものも大型化(図4、図5)し、浅深度用の数倍の大きさを持つ掘削リグが必要になる。出所:Deepwater Gulf of Mexico 2006:America,s Expanding Frontier, MMS図4大水深掘削リグ:セミサブマーシブルターフロー(shallow water flow)*8、天然メタンハイドレート(natural methane hydrate)*9層の存在、あるいは軟弱・未固結の地層の存在などである。 浅部の掘削作業は、全作業のなかでは比較的短時間で終了するために、それらへの対策は比較的見過ごされがちである。しかし、海底下浅部は坑井全体の基礎となるために、もし問題が起これば、直ぐに廃坑につながる危険性はらを孕んでおり、十分な注意が必要である。つまり、ガスや水の噴出による坑井の崩壊や、設置したケーシングパイプ(casing pipe)*10、海底坑口装置の沈下等が実際に起こっている。(d)水深そのものの影響 水深が深くなることによって直接的に影響を受けるものは、掘削リグの定点保持システムおよび海上の掘削リグと海底の間に必要なサブシーシステムである。 アンカー(anchor)および係留索(チェーンやワイヤロープなど)による係留システムを装備した掘削リグは、水深が深くなればなるほど係留システムの規模も大きくなり、係留作業時間の増加も課題になる。この点において、DPSを装備した掘削リグは優位である。 大水深では、海上の掘削リグと海底坑口装置を結ぶライザーパイプをはじめとするサブシーシステムも長大となる。ライザーパイプが長大化すれば、受ける外力も増大し、安全確保から連鎖的にあらゆる機器が大きく複雑になってしまう。さらにそれらの長大機(e)リモートエリアであること これまで記述した技術的条件と比較すると大きな要素ではないが、一般に大水深海域は浅海域と比べてリモートエリアであることから、掘削リグにはあらゆる面で大きな搭載量が要求される。前述のような大水深特有の問題対処とリモートエリアでの操業ということに起因して、必要な資機材および人員は多大な量になる。 一方、衛星通信の技術進歩により、リモートエリアである大水深海域においても、陸上基地とのコミュニケーションはスムーズになったと言える。図5出所:Deepwater Gulf of Mexico 2006:America,s Expanding Frontier, MMS大水深掘削リグ:ドリルシップ(f)掘削コストへの影響 石油ビジネスという観点から、大水深掘削の作業コストの問題は、大きな要素として避けて通れない。大水深掘削技術の内容を調査していると、単に技術課題克服というロジックだけでなく、コスト削減という考え方が大きな位置を占めていることがわかる。 すなわち、あらゆる場面において作業時間の短縮が要求されているという*8:海底面から浅い領域にたまった地層水が一気に坑内へ浸入するケースで、これに遭遇する時点までに掘削していた裸坑部分を完全に壊してしまうケースも多い。メキシコ湾の大水深海域のジオハザードとして報告されて以来、頻繁に使われるようになった用語。*9:メタンハイドレートは、氷のように固体で、大気中で火を近づけると気化したメタンガスが燃える。その構造は、水分子が形成するかご構造の中にメタン分子が取り込まれており、低温・高圧の条件下では安定して存在しているが、常温常圧ではメタンガスと水に分解する。天然のメタンハイドレートの起源は、地層中のメタンガスが低温・高圧の環境で水と結合してメタンハイドレートになったと推測されている。わが国周辺海域の海底下には相当量の天然メタンハイドレートが賦存していると考えられており、将来の有望なエネルギー資源の候補の一つとして注目されている。*10:坑壁の維持、異常高・低圧層の隔離、坑口装置のベース、ドリルストリングの坑壁抵抗の軽減、坑内トラブル防止、採油・ガスを目的に裸坑に挿入されるパイプをいう。挿入されるケーシングの数や長さは、掘り抜かれる地層の状況や掘削される深度によって、それぞれの坑井ごとに異なる。ケーシングパイプの径はビットで掘進された坑径によって定まる。ケーシングは、管体寸法、スチールのグレード、コネクションの寸法と形式によって、米国石油協会(API:American Petroleum Institute)で分類されている。管体寸法は、4-1/2”から20”まで14のサイズで分けられ、呼び径は管体の外径を示す。これより大きな径は、ラインパイプの分類に入る。小さい径は、チュービングパイプとなる。51石油・天然ガスレビューAナリシスことである。通常、問題視されるようなトラブル等によるダウンタイム(作業休止時間)を削減することは言うにおよばず、通常は避けられない掘進以外の作業時間(ドリリングチャート〔掘削工程表〕の水平部分)をも縮めようという努力がなされている。 大水深掘削では、掘削リグのデイレート(日割り傭船料)をはじめとして、時間に比例するコストが非常に高く、作業時間の遅延・短縮が即、大きなコストの増加・削減につながる。ようせん(2)大水深掘削の技術進歩について ここでは、前述の各種技術課題に対してどのような技術開発がなされ、現在どのような具体策が採られているのかを、以下の項目に従って解説する。?MPD(managed pressure drilling)?ケーシング計画?ジオハザード(geo-hazard)対策?サブシー機器?掘削リグ上の掘削機器?掘削リグの位置保持?安全管理・環境保全?作業時間短縮に関する技術(a)MPD(managed pressure drilling) MPDという用語を、掘削分野で最近よく耳にするようになった。MPDは、特定の作業手法を指すのではなく、非常に広い範囲の作業手法あるいはコンセプトを指し示す用語である。既述のとおり、大水深掘削ではオペレーションウインドーが非常に狭くなるため、坑内に掛ける圧力を正確に制御しなければならない。 MPDは、そのような作業方針に基づいて実施する掘削手法を総称するものである。狭義には、圧力的に密閉された循環系統(クローズドループ)による循環手法を指すが、広義には、以下で述べるケーシング計画などほとんどの掘削計画の要素を含む。後述するデュアルデンシティドリリング(dual density drilling)などはMPDの発展形と言えるし、アンダーバランスドリリング(underbalanced drilling)やケーシングドリリング(casing drilling)なども、近年MPDに分類される場合がある。(b)ケーシング計画 大水深掘削の持つ狭いオペレーションウインドーという問題対策のため、まずケーシング計画の面からの対策がなされる。正攻法としてはケーシングの段数を増やすことになるが、当然限界があり、ケーシング段数の増加は作業時間およびコストの増加につながる。 ケーシングおよびライナー(liner)*11の段数が多くなればなるほど、サブシーウェルヘッドの機構が複雑になるほか、ライナーハンガー(liner hanger)*12の機構にも影響を及ぼすため、作業トラブルの可能性も増加すると考えられる。 できるだけ海底下深い深度までライザーレスで掘削することによってケーシング計画に余裕を与えるという考え方もあるが、次に述べるジオハザード(geo-hazard)*13を考慮に入れたケーシング計画が重要である。 最新のLWD/PWD(logging while drilling*14/pressure while drilling*15)ツールを使って坑内圧力管理を厳密に行い、MPDの実践を前提にすれば、ケーシング計画時の安全マージンを小さく取ってケーシング計画を楽にすることも可能になった。(c)ジオハザード対策 基本的には、シャローガスやシャローウォーターフロー、天然メタンハイドレート層などの浅部トラブル層の可能性がある掘削位置は避けるべきである。しかし、どうしても避けられない場合、あるいは存在を検知できない場合は、十分な対策を講じた上で作業を実施しなければならない。具体的には、パイロットホールの掘削とLWD/PWDツールを用いたトラブル層の検知、ライザーレス掘削での加重泥水の使用がある。また、特別な設計の海底坑口装置を用いることによって、異常高圧層や出水層中でのケーシングセメンチングを行う方法もある。(d)サブシー機器 大水深掘削に用いるサブシーシステムは、海底面から海上の掘削リグへ向かう順に、サブシーウェルヘッド(subsea well head)*16、サブシーBOPスタック(subsea BOP stack)*17、ライザーパイプ(riser pipe)*18、ライザー*11:坑口まで接続されていない(その頭部が地下にある)ケーシングの総称である。ライナーにはプロダクションライナーとドリリングライナーがある。前者は、仕上げのため、後者は中間ケーシングで坑口から目的深度まで降下する場合、ケーシング重量が掘削リグの巻き上げ能力を超えるような場合使用され、通常、降下後、タイバックされる。*12:ライナーを中間ケーシングに保持(吊り下げる)させるための装置。ライナーを保持させるためスリップが取り付けられており、メカニカルあるいはハイドロリックでスリップを利かせる。タイバックさせるため上部にはタイバックレセプタクルが取り付けられている。また中間ケーシングとライナーハンガー間の気密を保持させるため、パッカーが取り付けられているものもある。この場合、降下時にパッカーが利く、あるいはクリアランスが小さくなるのでセメンチング中逸泥を発生させる等のトラブルのリスクがある。この場合の作業は注意が必要である。*13:地質学上の観点から見られる危険因子。シャローガスやシャローウォーターフローは、ジオハザードに含まれる。*14:MWD(measurement while drilling:掘削同時計測伝送システム)技術を用いて、掘削作業中に坑内センサーで地質データを取得し、リアルタイムで地表に取得データを伝送するシステム。掘削作業の効率化および安全性向上に有効なシステム。*15:MWD技術を用いて、掘削作業中に坑内センサーで坑内圧力データを取得し、リアルタイムで地表に取得データを伝送するシステム。掘削作業の効率化および安全性向上に有効なシステム。*16:海底面に設置される坑口部分を指す。このサブシーウェルヘッドの真上にサブシーBOPスタックが接続される。*17:浮遊式掘削リグ(セミサブ型掘削リグやドリルシップ)では、数種類のBOP(防噴装置)を組み合わせて一体化させた形でサブシーウェルヘッドの真上に接続する。この一体化させたBOP群をサブシーBOPスタックという。*18:サブシーBOPスタックから掘削リグまで連結されている大径のパイプを指す。ライザーパイプの外径は21”前後または16”であり、長さはさまざまなものが用意され、水深に合わせて全長を調節する。ビットから噴射された泥水は掘り屑(くず)とともにこのライザーパイプのアニュラスを通って掘削リグ上に返される。2006.9 Vol.40 No.552チ集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業 掘削分野の技術革新─水深3,000mを克服やぐらアニュラーBOP アニュラーBOPフレキシブルジョイントフレキシブルジョイントフレキシブルジョイント アニュラーBOPライザーコネクターアニュラーBOPライザーコネクターアニュラーBOPライザーコネクター ウェルヘッドコネクター ウェルヘッドコネクター ウェルヘッドコネクター ラムBOPラムBOPラムBOPラムBOPラムBOPアニュラー2段&ラム5段型アニュラー1段&ラム6段型(f)掘削リグの位置保持 大水深用の掘削リグは、DPSが主流になってきているが、アンカーによる係留も依然有効なオプションである。 掘削リグ市場の問題だけではなく、定点保持の信頼性に優れたアンカー係留方式の掘削リグが選定されるケースは多々ある。アンカー係留方式の掘削リグは大水深対応のためのアップグレードが施されたものがほとんどであり、大水深での係留を可能にするために高把アンカー、高強度合成素材の軽量係留索、アンカー・係留索の事前設置(pre-set mooring)*23など、力り駐ちゅうょくはラムBOPラムBOPラムBOPラムBOPラムBOPラムBOP図6 大水深用サブシーBOPスタックの構成例テンショナー(riser tensioner)*19、サブシーBOPコントロールシステム(subsea BOP control system)*20などがある。 大水深用のサブシーウェルヘッドは、浅水深用のものと比べ、長大なライザーパイプによる応力が許容できる強度と、多段のケーシングが設置できる機構が必要である。 サブシーBOPスタックは、特にDPSが装備されている掘削リグの場合には特別な考慮が必要となる。DPS掘削リグの定点保持の喪失に備え、いかなる時点でもライザーパイプの緊急離脱を可能とする機構が必要になる。具体的には、13-3/8”程度までのケーシングの切断を可能とするスーパーシアラムBOP(super shear ram BOP)*21の装備が必要であることから、ラムBOPが従来標準の4基より1基増え、最低5基必要となっている(図6)。最新鋭の大水深用掘削リグの中で、ラムBOP6基、アニュラーBOP2基、総重量約400トン(空中重量)という巨大サブシーBOPスタックが装備されたものもある。 ライザーパイプは、要求される強度を確保するために管体の肉厚が厚くなるほか、コネクター強度も増大し、管内圧力や掘削リグの動揺を含むダイナミックな荷重に耐えられるよう設計されている。 ライザーテンショナーも、ライザーパイプに掛けるべき張力に合わせて容量が大きくなっている。従来はワイヤラインによる間接的な機構のみであったが、油圧ピストンを直接ライザーパイプに作用させるダイレクト式テンショナーも導入されている。 サブシーBOPコントロールシステ*19:ライザーパイプの自重、ライザーパイプ内の泥水の重量、潮流などによる外力に見合った上向きの力で、ライザーパイプを吊り上げるための機器。*20:サブシーBOPスタックを制御するための装置を指す。電気信号や流体圧力を介して、BOP(防噴装置)および各種バルブ等を作動させる。*21:BOP(防噴装置)の種類の一つで、9-5/8”または13-3/8”サイズのケーシングパイプを切断できるように開発された特殊なもの。一般的なシアラムBOPムは、BOPの迅速な操作を可能にするために、従来の全油圧式に代わって電子制御油圧式(EH-MUX:electro hydraulic multiplex control system)が装備されている。また、同システムを用いて海底部のデータモニタリングや各種自動緊急操作が可能になっている。DPS掘削リグの場合、定点保持喪失の緊急時には、秒単位の短時間でサブシーBOPからライザーパイプを安全に切り離す必要があるため、ライザーテンショナーとサブシーBOPを組み合わせた高度な制御が、同システムに要求される。 大水深でのサブシーシステムの運用にはROV(remotely operated vehicle)*22が不可欠であり、近年のROV高性能化が大水深掘削操業の重要な役割を果たしている。るサブシーシステムのためのハンドリング機器、泥水ポンプをはじめとする泥水循環のための機器やパイプラインなどは、そのすべてが重量・容量のより大きなものに変わってきている。 また、従来3本つなぎのドリルパイプスタンドを4本つなぎにできる櫓の高さに変更し、かつパイプのハンドリングを機械化・自動化することによって、揚降管作業の効率化および安全性の向上が図られている。(e)掘削リグ上の掘削機器 掘削リグ上に装備される各種掘削機器に関する大水深対応のための要求は、大型化・大容量化および機械化・自動化に集約される。 長大なライザーパイプをはじめとすアニュラー2段&ラム4段型(従来型)ラムBOPラムBOPラムBOPラムBOP出所:JDCはドリルパイプの切断に限定される。*22:有索水中自航式無人潜水機をROVという。水深が深いために、人が潜水して作業を行うことが困難な場合にROVを使用する。ROVには、推進操縦、照 明、テレビカメラ、作業用のマニピュレーター(メカニカルの腕)などが付いており、海上からのケーブルを通してROVを操作する。*23:アンカー(anchor)および係留索(ワイヤロープやチェーンなど)を使用して位置保持を行うセミサブ型掘削リグでは、通常掘削ロケーションに到着してからアンカー設置のための作業を開始する。プリセットムアリングは、掘削リグが掘削ロケーションに到着する前にアンカー設置作業を終了しておく方法を指す。この方法を採用することにより、掘削リグはロケーション到着後、事前設置したアンカーと係留索を接続するのみの作業となるため、作業時間を短縮することができる。53石油・天然ガスレビューAナリシスさまざまな工夫がなされている。 一方、DPS掘削リグは大型化・大容量化だけではなく、あらゆる面で冗長性の追加が施されて、信頼性が増している。(g)安全管理・環境保全 大水深での掘削作業は、浅水深掘削に比べて安全管理や環境保全上、より問題が大きいと考えられる点が幾つかある。いったん事故が起これば、大水深の場合、そのインパクトもさらに大きくなる。たとえば、DPS掘削リグの定点保持システムやライザーパイプの緊急切り離しシステムの不具合による海洋汚染、大型化し重量の増した掘削資機材による人身災害などである。事故によるダウンタイムは、大水深の場合、非常に高価なものになる。 それらのリスクに対しては、ハードウェアに高い冗長性を求めること(特にDPSやBOPコントロールシステムなど)、危険作業から人間を遠ざけること(ドリルフロアのパイプハンドリングの機械化・自動化)、体系的なリスク管理を日常のものとすること、などにより対処している。(h)作業時間短縮に関する技術 直接の大水深掘削技術とは言えないものも含まれるが、作業時間の短縮によるコスト削減を目指す技術を幾つか紹介する。? デュアルアクティビティ(dual activity) 大水深掘削では、掘削リグから海底のウェルヘッドまで距離が長いため、パイプ類を坑井にアクセスさせる場合、まずパイプが海底面の坑口にたどり着くまでに時間を要する。掘削リグのデュアルアクティビティはそのような時間の削減を動機として開発されたものである。ドリルフロアに主副二つの掘削装置を持ち、一つの坑井の掘削作業のために複数の仕事を並行して進める能力を持たせることを指す。 デュアルアクティビティにも同時並行で実施可能な仕事の内容によって幾つかのレベルがある。掘削作業中同時にパイプのスタンド組み立てのみが可能なレベルから、全く同じ掘削設備を2セット持ち、掘削開始からライザー設置に至る期間両者を使い分けて可能な限りの時間を節約するレベルまでさまざまなバリエーションが存在する。後者のレベルでは、特にフィールド開発など連続して複数の坑井にアクセスする場合にさまざまな応用が可能である。?ウェルヘッド関連ツール ケーシング設置後や定期的なBOPテストでは、ウェルヘッドに頻繁にウェルヘッド関連ツールをアクセスさせる必要が生じる。浅水深では大した時間にはならないが、大水深ではツールの揚降に水深に応じた長い時間がかかることになる。そのため大水深用のウェルヘッド関連ツールでは、一つのツールに複数の機能を持たせ、ウェルヘッド作業のためのパイプ揚降を最小限に抑えようという工夫が見られる。?生産試験・坑井仕上げ関連技術 最近、坑井サービス各社より、掘削中に生産試験を簡便に実施可能にするようなツールが相次いで紹介されている。また、少ない揚降管回数での坑井仕上げを可能とするシステムも、競うように紹介されている。これらは必ずしも大水深坑井のみを対象に開発されたものではないが、前述のように、大水深坑井では作業時間の短縮がコストの削減に強いインパクトを持っている。したがって、いずれのサービス会社やメーカーも大水深坑井に適した技術であるとして紹介している。4. 新しい技術との融合 大水深掘削作業を、より安全に、より経済的に実行するため、これまでさまざまな技術開発が行われ、実際のフィールドに適用されてきた。 ここでは、過去10年間の中で特に注目すべき大水深掘削関連技術を取り上げて、それぞれを解説する。ただし、ここで紹介する技術の幾つかは、大水深掘削に適用することを直接目指したものではなく、陸上および海洋の掘削作業全般に適用するための技術として開発されたものも含まれる。(1)SX Drilling UNOCAL社は、インドネシアやタイの大水深海域の探鉱プロジェクトに“SX Drilling(saturation exploration drilling)”と名付けた手法を使って、100坑以上の試掘井の掘削コストの大幅な削減に成功した。 このSX Drillingでは、試掘井の掘削目的は油・ガス発見のための作業であると強く認識し、掘削計画の立案にあたっては生産テストや坑井仕上げなどの作業を考慮せず、掘削作業全体がオーバースペックにならないようにしている。 具体的な手段として、アンカー係留方式のセミサブ型掘削リグに改造を施し、サブシーBOP(海底設置型BOP)ではなくサーフェスBOP(船上設置型BOP)を装備するとともに、一般の13-3/8”ケーシングパイプをライザーパイプとして使用している(図7)。 また、貯留層性状や生産性の評価のためにはドリルステムテスト(DST: drill stem test)*24が有効であるもの*24:ドリルパイプなどのドリルストリングを用いて、裸坑あるいはケーシング内で行う油・ガスの産出試験をいう。地層流体の確認、産出能力の把握、地層圧力・温度の測定等に関する調査を目的として行われる。坑内機器としてパッカー、ダウンホールバルブ、坑井圧力測定器等がドリルストリングに接続され実施される。このほか、地表にはセパレーター、バーナー等からなる簡易生産施設を設置し産出流体の処理を行う。2006.9 Vol.40 No.554チ集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業 掘削分野の技術革新─水深3,000mを克服掘削リグの動揺(ヒービング)を吸収するためのテンションシステム海面出所:JDC図7セミサブ型掘削リグにサーフェスBOPを設置した時の概念図の、その作業コストが高いので、ワイヤラインフォーメーションテスター(Schlumberger社のMDT:modular formation dynamics tester等)のデータを多数取得し、それに基づいて綿密なDST計画を立て、最小限のDST作業を実施している。 これらの具体策によって掘削作業日数が短縮できるため、掘削コストの低減にたいへん有効である。UNOCAL社はSPE(Society of Petroleum Engineers)の論文番号59404で、1996年からインドネシアの東カリマンタン海峡の大水深海域(水深1,400~3,400ft)において、前述の手法で探鉱プロジェクトを実施し、商業ベースの炭化水素集積フィールドを2カ所発見したと報告している。 大水深掘削作業において、海底面に坑井制御装置を持たないサーフェスBOPを用いたSX Drillingについては、UNOCAL社が既に実フィールドで適用してきた。しかしながら、この手法を適用する海域の条件によっては、緊急時の坑井制御とライザー切り離しシ13-5/8”サーフェスBOP13-3/8”ケーシングパイプステムを装着しない限り安全性の確保が難しいケースがあり、Shell社などはサブシー機器メーカーであるCooper Cameron社が技術開発した海底面に設置する緊急離脱システム(seabed disconnect system)を採用している。 Geoprober Drilling社はSPEの論文番号92560で、大水深におけるスリムホール掘削の新しい技術として、緊急用のシャットオフ機能(Geo-SOSTM:Geoprober shut off system)を有するサブシー装置、サーフェスBOP、ケーシングドリリングを組み合わせたシステムについて紹介している。 このGeo-SOSTMは、13-5/8”のシアラムBOPをメインとするサブシーシャットオフ装置、13-3/8”ケーシングパイプ、7-5/8”ケーシング(ライナー)ドリリング編成で構成され、ワントリップで7-5/8”ケーシング(ライナー)を降下・設置するシステムになっている。緊急離脱が必要な場合には、下段のシアラムBOPが7-5/8”ケーシング(ライナー)ドリリング編成を切断し、上段のシアラムBOPで坑井をシャットインする。各サブシー機器はアコースティックコントロールシステム(acoustic control system)*25によって制御される。(2)ケーシングドリリング 従来の坑井掘削作業では、ドリルストリング(ドリルカラー、ヘビーウォールドリルライプ、ドリルパイプ等)を使用して目的深度まで掘削した後、使用していたドリルストリングをいったん地表に全部揚管(回収)してから、ケーシングパイプまたはライナーパイプを降下・設置している。 これに対して、ケーシングドリリングまたはライナードリリングと呼ばれている手法は、ケーシングパイプまたはライナーパイプを使用して、掘進しながら目的深度に到達させてケーシングやライナーをそのまま設置する。この手法の優位性に関しては、以下が挙げられる。? 坑井掘削にかかわる作業時間の短縮とコスト削減? 不安定な地層(崩壊層・出水層・逸泥層等)の存在や時間経過などに伴う坑内状況の悪化によって生じる、ケーシングまたはライナーの降下・設置失敗の解消やリスク回避 ケーシングドリリングのコンセプトは、スリムホールドリリング(slim hole drilling)*26技術に由来する。スリムホール掘削では、通常ドリルロッド(drill rod)と呼ばれる肉薄のドリルパイプが使用され、目的深度まで掘削後、そのままドリルロッドをケーシングとして設置することが一般的に行われていた。その後、ワイヤラインによって、ビットあるいはインナーコアバーレル(inner core barrel)*27を回収するシステムが開発された。揚降管作業が少なく連続的な掘削が可能となり、ケーシングドリリングへと発展し、スリムホールを前提としたケーシングドリリングが最初に商業化された。 1999年から「Casing Drilling?」の登録商標でフィールドサービスを開始したTESCO社が実績を積み重ね、そのメリットを宣伝するにつれて、ケー*25:音響信号による無線の遠隔制御システムをいう。電気信号や流体圧力を用いた有線の遠隔制御システムのバックアップシステムとしても利用されている。*26:石油開発業界でのスリムホールとは、一般的に坑径が6”程度以下の穴(坑井)を意味し、坑井の最終坑径を小径化した坑井をスリムホール坑井という。スリムホールドリリングでは、掘削コスト削減のために、従来よりも小径のケーシングを用い、坑径も小径化しているため、坑壁とストリングのクリアランスが小さく、アニュラスの圧力損失が大きくなる。また、小径のストリングを使用するので、その強度が小さく、トルクなどに制限を受ける。*27:通常のコアリングツールはアウターとインナーの二重管構造であり、インナーコアバーレルの中にコアサンプルが収まるように設計されている。55石油・天然ガスレビューrillShoe? : Drillable Casing Bit出所: Weatherford社提供プレゼンテーション資料からの抜粋, December 2005シングドリリングは石油開発業界で広く知られるようになっていった。現在、TESCO社、Hughes Christensen社、Weatherford社がケーシングドリリング/ライナードリリング・システムのフィールドサービスを行っており、それぞれ特徴を持ったシステムをユーザー(石油開発会社)に提供している。 TESCO社のシステムは、ケーシングパイプ下端内部に装着する掘進編成(BHA:bottom hole assembly)をワイヤラインで回収するシステムである。Hughes Christensen社とWeatherford社のシステムは、ケーシングあるいはライナーのパイプ先端部にビットを接続し、地上のトップドライブシステムでケーシングパイプを回転させて掘進するシステムである。 後の2社のシステムは非常にシンプルであるため、信頼性の面では優位であるが、ケーシングビットの交換ができず、傾斜掘りやLWD検層などのためのツールスを組み込むこともできないので、オプションに乏しいシステムと言える。 TESCO社のCasing Drilling?は、実績だけで既に220坑井(2005年11月時点)に達しており、他の2社を含め事例は近年急速に増加している。ただし、適用事例は既発見の油・ガス田がほとんどであり、近傍坑井の地質データに基づいたスタディによるケーシングドリリング技術の採用と考えられる。 Santos社は2002年末に、サーフェスBOPが装備できるセミサブ型掘削リグを使用して、インドネシアのジャワ島北方のMadura海峡(水深69m)でWeatherford社のDwCTMシステム(図8)によるケーシングドリリングを行い、成功した。これはフローター(floater:浮遊式掘削リグ、セミサブ型とドリルシップを指す)からケーシングドリリングを行った世界初の事例であり、さ図8らにサーフェスBOPが採用されたということでも画期的である。フローターからのケーシングドリリングは、コストを削減する手段としてどのフィールドでも活用できるが、特にリグレートの高い大水深において有効である。 1坑目は18-5/8”サブシーBOPを装備したセミサブ型掘削リグにより掘削され、2坑目にケーシングドリリングが行われた。パイロットホールの掘削と13-3/8”ケーシングの作業リスクを最小限に抑えるため、水深69mの海底部にはテンポラリーガイドベースが設置された。この坑井は30”ケーシングが省略され、最初にテンポラリーガイドベースを通して8-1/2”パイロットホールが270mまで掘削された。これによりシャローガスが存在しないことを確認している。次にWeatherford社の17-1/2”Drill ShoeTM Ⅱが13-3/8”(72#,N-80)ケーシングに接続され、深度270mまでケーシングドリリングが実施された。ケーシングドリリングを採用することにより、トリップやケーシング降下作業中のブローアウトリスクから開放された。 サーフェスBOPの直下は、ウェルヘッドコネクター(H4コネクター)を介して13-3/8”ケーシングライザーと接続する。13-3/8”ケーシングライザーはNSCCスレッドのP-110が使用され、海底面から下はバットレススレッドのN-80が接続された。 フローターでサーフェスBOPを使えば、海底面にBOPを設置しないため、海底面の土質強度が不足する場合に利点を発揮すると同時に、BOPおよびマリンライザー関連作業が著しく短縮できる。フローターにおいて、サーフェスBOPとケーシングドリリアナリシスWeatherford社のDrilling with Casing(DwC?)ングの利点を組み合わせた結果、約100万ドルのコスト節約ができたと2003 World Oil Casing Drilling Technical Conferenceの論文番号WOC D-0307-01で報告されている。(3)エクスパンダブルチューブラ 1990年代後半には大水深用の海洋掘削リグが多数建造され、探鉱開発エリアはより水深の深い海域へ進んでいった。大水深海域では、地層圧と地層破壊圧の差が小さくなり、さらにシャローウォーターフローなどの新たな掘削障害が発生し、その結果ケーシング段数の増加などをもたらした。また、既存生産井での採油増進技術の適用による生産期間の延命(長期化)、陸上・海洋を問わず、油・ガス田の開発エリアの拡大によるサワー環境下の増加などでケーシングパイプのトラブル(応力腐食割れ等)も多くなっていった。 これら技術課題に適用でき、掘削コストやワークオーバーコストを低減するためにさまざまな技術開発が行われ、実用化された新規技術が実際のフィールドに適用されてきた。エクスパンダブルチューブラ(expandable tubular)技術もその一つである。 この技術は、自動車のフレーム加工2006.9 Vol.40 No.556フ到達あるいは十分な生産量を得ることが困難となる問題が生じる。 これらの大水深環境の特異性から遭遇する掘削上の諸問題を解決する技術として、デュアルデンシティドリリング(dual density drilling)あるいはデュアルグラディエントドリリング(dual gradient drilling)と称する掘削手法が注目されている。 メキシコ湾の大水深掘削では、地層破壊に対して泥水圧力勾配を維持するため、サーフェスケーシングのサイズを36”、32”、26”、20”の4段階で考えるケースがあった。しかし、十分な最終ケーシングシューの地層強度が得られないケースもあり、高孔隙圧力に必要な泥水比重を維持するためには、さらに、複数のケーシングを必要とした。 初期の大水深掘削では、しばしば泥水のリターンがない状況や、ケーシングパイプ設置深度直下の地層破壊圧の値に対してマージン(余裕)なしでキックが起きるまで掘削するという状況が生じた。このため、掘削深度に制約があった。これは、大水深掘削の長期的な解決策として満足できるものではない。 こうした課題を解決する最も一般的な方法は、海底面から掘削リグ上までブルチューブラを使用する。この技術進歩によって、将来、完全なモノボア坑井が実現されれば、この技術を推進しているエンジニアの究極的な目標を達成できたことになる。 現在、Enventure Global Technology社、Baker Oil Tools社、Weatherford社の3社が、エクスパンダブルチューブラのフィールドサービスを行っている。 当社(日本海洋掘削株式会社)の第3白竜(現“NAGA1”、セミサブ型掘削リグ)では、マレーシア領海内の2004年稼働(水深は80m、オペレータはPCSB社)においてEnventure Global Technology社のSolid Expandable Tubular(SET?)システムを使用する機会があり、11-3/4”x 13-3/8”OHL?(openhole liner)26本の設置作業に成功した経験がある。(4)デュアルデンシティドリリング 大水深における掘削は、地層破壊圧配が低く、孔隙圧力が高いため、結果的にケーシングストリングは短い区間に数多くのサイズが必要となる。ケーシングの数は、ウェルヘッドのサイズによって限界があり、掘削深度を制約する。最終的には、目的深度まで勾こうばい出所:Weatherford社提供プレゼンテーション資料からの抜粋, December 2005図9Weatherford社のエクスパンダブルチューブラの概念図における伸張技術が応用されたものだと言われており、石油坑井に適用できるように新しく開発された特殊機構・ツールを用いてケーシング(ライナー)および仕上げ用のスクリーンなどのパイプ径を拡張する技術である(図9)。 すなわち、これは冷間引き抜き、常温引き伸ばしと同じ技術であり、鋼材(パイプ)を坑内で塑性変形させ、加えた応力を開放し弾性材料に戻した鋼材(パイプ)を使用する技術である。したがって、塑性を受けた鋼材(パイプ)の加工硬化も期待できる。 従来のハンガー/パッカー(hanger/packer)*28技術を用いた場合には、新たに設置しようとするパイプ径がかなり小さくなってしまうために、最終目的を達成するのにコストが増大したり、最終目的を達成できなくなったりすることもある。 これに対して、エクスパンダブルチューブラ技術を用いた場合には、新たに設置しようとするパイプ径は目的に合わせてほとんど小さくすることなく適用できるため、その用途は広く、最終目的であるコスト低減を可能にする技術と言える。エクスパンダブルチューブラ技術は、既存坑井の再利用、坑井デザインの拡大、坑井のスリム化などが実現可能であり、その代表的な用途は以下のとおりである。?損傷ケーシングの補修?トラブル区間の隔離?ライナーの新しいセット手法? 新しい設置コンセプトに基づく坑井仕上げ用サンドスクリーン? モノボア坑井(monobore well)*29の実現 坑井仕上げ用のサンドスクリーン以外は、ソリッドタイプのエクスパンダ特集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業 掘削分野の技術革新─水深3,000mを克服*28:ハンガーは、ライナーをケーシングに保持(吊り下げる)させるための機構。ライナーを保持させるためスリップが取り付けられており、メカニカルあるいはハイドロリックでスリップを利かせる。パッカーは、ライナーハンガーとケーシング間の気密を保持(圧力保持)させるための機構。(「ライナーハンガー」を参照されたい。)*29:モノボア坑井の概念は、坑口から坑底まで口径を変えず(落とさず)に同一のサイズのケーシングを使用して掘削する坑井のことをいう。現在では、鋼管の冷間引き抜き・常温引き伸ばしによりケーシングを塑性変形させて、必要な内径および外径に伸展させるエクスパンダブルチューブラ技術を利用して議論されることが多い。エクスパンダブルチューブラ技術はケーシングハンガーを使用しないため、同一サイズのケーシング設置が期待されるが、当該技術を利用したモノボア坑井はいまだ実現していない。57石油・天然ガスレビューAナリシスの水頭圧を減少させることであり、地層に加わる圧力をライザー内の泥水柱圧力から分離することである。掘削深度(坑底)から地表まで同一比重の泥水を使う従来の掘削法に対し、より適切な圧力プロファイルを得るために、坑内に比重の異なる2種類の比重を有する泥水を使う掘削法をデュアルデンシティドリリング、あるいはデュアルグラディエントドリリングと呼んでいる。その優位性は、以下のとおりである。? ケーシングストリングの段数を軽減できる。? シャローウォーターフロー層に起因する掘削障害の解決策として有効である。? ケーシングにかかわる作業時間の短縮と全体コストの削減が可能である。? プロダクションケーシングの大口径化が可能で、生産量の増加が期待できる。?掘削能力および稼働海域の拡大。? 掘削リグのデッキロードとデッキスペースに優位に働く。 デュアルデンシティドリリングの基本概念は、坑井内の海底部に、海水による水頭圧のみが作用する状況をつくり出すことである。概念図を図10に示す。将来の泥水柱圧のラインが、孔隙・地層破壊圧ラインと急角度で交差していることがわかる。 急な傾斜の従来型ラインのケーシング設置ポイント(①~②)は、デュアルデンシティのライン(①~③)と比べて極めて短く、逸泥や坑井侵入流体を防止するためにケーシングをセットしなければならない。デュアルデンシティのラインは、孔隙圧と地層破壊圧のラインの傾斜角に近い。つまり、デュアルデンシティでは、目的深度まで、少ないケーシング数で大きな径のケーシングを入れることが可能になる。 デュアルデンシティ(2種類の比重)をつくり出すためには、坑内から海底に戻ってきた泥水を掘削リグ上に戻す海面海底面深度出所:JDC従来の掘削方法の泥水柱圧のラインデュアルグラデンシティの泥水柱圧のライン海水柱圧①②圧力地層破壊圧③孔隙圧図10デュアルデンシティドリリングの概念図ため、海底にポンプを設置する必要がある。これはサブシーマッドリフトポンプ(subsea mud lift pump)と呼ばれ、機械的に泥水リターンラインを坑井アニュラスから隔離させ、坑井のアニュラス上の圧力を海水の水頭圧と同じに維持させる。すなわち、リターン泥水が海底に到達すると、ライザーパイプのアニュラスではなく、海底に設置されたポンプによって分岐され、別のライザーを通ってリグ上に戻される。 したがって、海底上部の重い泥水はこのポンプによって坑内と分離されることにより、この重い泥水圧が裸坑部に影響しないように分離される。海底面下の水頭圧には重い泥水の静水圧がキャンセルされ、坑内に作用する泥水比重は地層圧を抑えるのに必要十分な値を維持できることになる。 デュアルデンシティドリリングに関する技術開発は、以下に示す三つの共同プロジェクトが有名であり、1996年頃から開始された。? サブシーポンピングシステム:Shell E&P CO.? デュアルグラディエントドリリングシステム:Arco, Mobil, Chevron, BP Amoco, EEX, Baker Hughes? サブシーマッドリフトシステム:Conoco, BP Amoco, Chevron, Texaco, Hydril, Schlumberger この三つのプロジェクト以外には、Petrobras社とルイジアナ州立大学との共同プロジェクトがある。デュアルデンシティドリリングとは別の方法として、ライザー内の掘削流体に窒素を送るガスリフト方式の技術開発を行っており、その実現性や経済性に関する検討結果を公表している。 現在までに、フルスケールの機器を製作して実証実験を行ったという報告はかなりあるが、いずれのシステムも完全な商業化には至っていない。(5)その他の技術(a)SBM(synthetic oil base mud) 掘削作業では、油層障害を防ぐ手段として、オイルベース泥水(oil base mud)が古くから使用されてきた。最初は軽油ベース泥水が広く使われていたが、1980年代に環境問題が取りざたされるようになってから、低毒性ミネラルオイルベース泥水が出現した。1990年代には環境問題が一層厳しくなり、合成油ベース泥水(SBM)が開発されて、北海やメキシコ湾などで広く使用されるようになった。 米国環境庁によれば、synthetic oilとは「Synthetic material not occurring naturally which is synthesized from pure components 2006.9 Vol.40 No.558all Valve LatchSleeve ValveSample and Drain PortBall ValvePressure RegulatorProtection SpringSeparator PistonOuter BarrelUpper SealBall Valve OperatorCore BitInner Tube LatchLanding SubRunning ColletNitrogen ReservoirSeal SubInsulated Inner Tube withTemperature SensorsRunning ToolSealed Heavy Duty BearingTemperature & Pressure RecorderCore Catchers(cid:12368)(cid:12450)(cid:12409)(cid:12364)(cid:12386)(cid:12366)(cid:12415)(cid:12443)(cid:12442)(cid:12386)(cid:12366)特徴24.4ft(7.4m)2-3/4"(69.9mm)5-1/2"(139.7mm)5-11/16"(144.5mm)全長外径外径最大内径圧力容器耐圧3,500psi(24.1MPa)採取最大長約11.5ft(約3.5m)採取最大外径2-5/8"(66.7mm)・(cid:12446)(cid:12368)(cid:12435)(cid:12440)(cid:12368)(cid:12450)(cid:12316)(cid:12323)(cid:12368)(cid:12450)(cid:12409)(cid:12364)(cid:12386)(cid:12366)(cid:12415)(cid:12443)(cid:12442)(cid:12323)降下・回収・(cid:12427)(cid:12364)(cid:12442)(cid:12415)(cid:12442)(cid:12421)(cid:12320)(cid:12349)(cid:12352)圧力保持機構・二重管(cid:12368)(cid:12450)(cid:12409)(cid:12364)(cid:12400)(cid:12436)(cid:12364)(cid:12421)(cid:12320)(cid:12349)(cid:12352)断熱効果・(cid:12443)(cid:12379)(cid:12436)(cid:12443)(cid:12364)(cid:12398)(cid:12364)(cid:12320)(cid:12349)(cid:12352)圧力補償(cid:12390)(cid:12392)(cid:12405)(cid:12431)・(cid:12394)(cid:12450)(cid:12398)(cid:12364)(cid:12418)(cid:12402)(cid:12407)機構出所: JOGMEC 技術センター年報 平成15年度 第2編 V-D-2 ②PTCSの改良 201頁からの抜粋, August 2004図11Pressure Temperature Core Sampler(PTCS)の概念図体で存在し得る。したがって、「天然メタンハイドレート本来の諸物性を知るために、メタンハイドレートを分解することなく、原位置(in-situ)の温度と圧力を保持したままコアサンプルを地上まで回収してほしい」というメタンハイドレート研究者からの要請がある。これに応えるには、コアリングツールに圧力と温度の保持機構を持たせることが必要となり、“Pressure Temperature Core Sampler(PTCS)”と名付けられた特殊コアリングシステムが開発された(図11)。このPTCSは、ワイヤライン作業によりインナーコアバレルを降下・回収できる。 南海トラフ海域におけるメタンハイドレートの産状把握や資源量算定に資するために実施された平成15年度基礎「東海沖~熊野灘」では、静岡県の沖合の東海沖エリアと第二渥美海丘エリア、三重県・和歌山県の沖合の熊野灘エリアを調査対象とし(水深:722~2,033m)、ライザーレスドリリ錐す試しいhead)*30、RCH制御・駆動ユニット、三相セパレーター(ガス、油、カッティングスの分離)で構成されている。(c)特殊コアリング わが国周辺に相当量の賦存が期待されるメタンハイドレートについて、エネルギー資源としての利用を図るため、経済産業省は2001年7月19日に「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」を公表し、フェーズⅠ、フェーズⅡ、フェーズⅢの段階的なアプローチによる16年間全体の研究基本計画を明らかにした。その後、2002年1月から「MH21」という略称で呼ばれているメタンハイドレート研究が本格的に開始されたことは広く知られている。 天然のメタンハイドレートは、極地に近い地域の永久凍土層の下や水深500mを超える大水深海域の海底面から数百メートルの地層中に存在している。メタンハイドレートは、一定範囲の低温・高圧の環境下(メタンハイドレート安定領域)において、氷状の固with known compositions」(編集部訳:既知の組成による純粋な成分要素から合成された、自然発生ではない合成物質)と定義されている。軽油およびミネラル油は毒性のある芳香族化合物を含んでいるが、synthetic oilには含まれていない。 一般に、合成油ベース泥水は非常に高価であるが、環境問題から今後も世界各地で使用されるであろう。(b)アンダーバランスドリリング 通常の掘削作業では、掘削泥水の比重によって坑底に加わる圧力が地層圧よりも高くなるように保ち、坑内に浸入する流体を防ぎながら掘削するが、逆に坑内流体(掘削泥水)が地層中に浸入して貯留層にダメージを与えるケースが多い。アンダーバランスドリリング(underbalanced drilling)は、掘削泥水による貯留層への悪影響を最小にすることができ、かつ掘進率を飛躍的に向上させることができる利点があるため、陸上および海洋(プラットフォームやジャッキアップ型掘削リグ)の生産井の掘削作業で適用されてきた。アンダーバランスドリリングは、前述のように近年MPDに分類されることもある。 海洋での油ガス田がより水深の深い海域へと広がるにつれて、海底仕上げも増加している。アンダーバランスドリリングをセミサブ型掘削リグで使用する場合はフローターに適用できるように工夫されたシステムが必要であり、フローター用のシステムの商業化が待たれていた。このニーズに応える形で、Weatherford社はRiser CapTMシステムを商業化した。このRiser CapTMシステムは、ローテイティングコントロールヘッド(RCH:rotating control 特集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業 掘削分野の技術革新─水深3,000mを克服*30:アンダーバランスドリリングを実施する際に使用する機器。坑井のアニュラス部を密閉しながらドリルストリングの上下動および回転を許容できるように設計されている。最大使用圧力は500psi前後である。*31:セミサブ型掘削リグなどを使う海洋石油掘削では、通常ライザーパイプを用いるが、科学調査などの目的の坑井(こうせい;穴)掘削ではライザーパイプを使用しないケースも多々ある。また環境条件からライザーパイプを使用しないケースもある。このようにライザーパイプを使用しない掘削手法をライザーレスドリリングという。59石油・天然ガスレビュー塔O(riserless drilling)*31手法で合計32本の坑井が掘削された。そのうちPTCSによるコアリングは、東海沖エリアの4坑井と第二渥美海丘エリアの2坑井の計6坑井で行われた。その6坑井におけるPTCSのコアリング回数は合計82回(コアリング長203.5m)で、採取されたコアサンプルは合計161.3m(平均コア回収率:79.3%)であり、PTCSの有効性が実証された。(d)TL(technical limit) Shell社およびBP社は、「掘削前の段階で徹底的に事前調査やスタディを実施し、掘削リグの大改造や作業実施方法の大胆な変更などを必要に応じて行い、最高効率のオペレーションを成し遂げ、技術限界(TL:technical limit)を目指す」という考え方を導入し、掘削日数の短縮を達成して掘削コストの削減に成功している。 TLを実践するための具体策は以下のとおりである。?坑井計画の最適化近傍坑井の状況、問題点の原因、使用掘削リグの能力、最新の理論・技術などの情報を十分に整理・分析し、トラブル原因の認知方法や対策まで盛り込んだ掘削計画を立案する。これによって、実作業時のロスタイムをなくし、掘削作業全体の最適化を目指す。?エンジニアリングに基づいた掘削泥水循環量の最大化、必要最低限のアナリシス泥水比重、ソリッドタイプのビットの積極的な採用など、掘削に関するエンジニアリング・スタディを徹底的に行い、平均掘進率を最大化するとともに、ビット交換の頻度を最小化する。これによって、通常は避けられない掘進以外の作業時間(ドリリングチャートの水平部分)を限界まで減らす。?掘削記録の書式統一と情報共有化体系的なプロジェクトマネジメントを推進するとともに、新技術やエンジニアリングスタディに基づく改善提案を積極的に実践できるような体制を整備し、継続的な効率向上を目指す。5. おわりに 米国の石油開発業界誌「Offshore Magazine」の2006月7月号の“2006 Worldwide Survey of Deepwater Drilling Rigs”によると、最大稼働水深が3,500ft(約1,000m)以上の海洋掘削リグは101基に達している。内訳は、セミサブ型掘削リグが70基(62%)で、ドリルシップが31基(38%)になっている。また現在、建造中の大水深用掘削リグも数基あり、増加傾向は変わっていない。 昨今の原油価格の急騰および価格高止まり予測により、大水深海域での探鉱開発活動が加速しているため、水深1,000mクラスの大水深掘削は特別なものではないという認識に変わりつつある。 しかしながら、本稿で紹介してきたように、大水深掘削を支えている要素技術は非常に多岐にわたっており、浅海で遭遇し得なかった技術的な課題あるいは浅海ではさほど重要視されなかった技術的な課題も多数含まれている。このため、従来の海洋掘削技術・ノウハウを踏まえて各要素技術を発展させる必要があった。1990年代後半より最大稼働水深10,000ft(約3,000m)級の大水深掘削リグが建造され、水深3,000mクラスの大水深掘削は既に実証されている。現在までのところ水深3,000mクラスの掘削は実績に乏しいものの、原油価格の急騰などにより今後は増えていくと見込まれる。 一方、油ガス田の開発コストの中でも掘削コストは大きな部分を占めるため、掘削コストの低減あるいは掘削作業の安全性を高める努力が継続的になされ、それらを実現可能な新規技術の導入も進められてきた。 大水深掘削は、陸上や浅海での掘削に比べて、掘削コストが増加するため、新しい技術の導入による掘削コスト低減は非常に重要であり、さらなる技術進歩が望まれる。 近年の大水深油ガス田開発プロジェクトの急増によって、大水深掘削リグの市場は極めてタイトな状況にある。掘削リグのデイレート(日割り傭船料)の高騰をはじめとして、掘削関連の資機材価格および各種サービス価格も急騰している。それらの価格表は毎月更新されるような状態であり、サプライボート(supply boat)*32やROVなどの関連サービスも同様である。同時に各種サービスのアベイラビリティや資機材の長納期化も重大な問題となっている。このような現状から、大水深掘削作業の実施に際しては、現在、技術的な問題よりもロジスティクスの問題のほうが大きくなってしまうケースが多くなっていると考えられる。* 文中に出てくる単位については、巻末の一覧表を参照。*32:掘削作業期間中、陸上基地(掘削資機材補給基地)と海洋掘削リグ間の資機材(燃料、セメント、調泥剤を含む)運搬用船舶を指す。2006.9 Vol.40 No.560チ集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業 掘削分野の技術革新─水深3,000mを克服参考文献1.2005 Deepwater Solutions & Records for Concept Selection, Offshore, May 20052. Deepwater Gulf of Mexico 2006:America,s Expanding Frontier, U.S. Department of the Interior Minerals Management Service Gulf of Mexico OCS Region, May 20063.IADC Deepwater Well Control Guidelines, International Association of Drilling Contractors, 1998, 20004. 石油技術協会創立70周年記念出版「石油・天然ガス資源の未来を拓く」,2.1.2 大水深掘削技術 187-194頁,石油技術協会,2004年11月5. MacArthur, J., Vo, D.T., Pala, S., Terry, A., Brown, T., Hariyadi, May, R.:“Integrating Pressure Data from Formation Tester Tool and DST to Characterize Deepwater Fields, East Kalimantan, Indonesia” paper SPE59404 presented at the 2000 SPE Asia Pacific Conference, Yokohama, 25-26 April 2000.6. Leach, C., Bamford, T.:“Use of Drilled-in Casing in Slim Deepwater Exploration Wells” paper SPE92560 presented at the 2005 SPE/IADC Drilling Conference, Amsterdam, 23-25 February 2005.7. Sutriono, E., Adams, R., Galloway, G., Dalrymple, K.:“Drilling with Casing Advances to Floating Drilling Unit With Surface BOP Employed” paper WOCD-0307-01 presented at the World Oil 2003 Casing Drilling Technical Conference, Houston, 6-7 March 2003.8. Eggemeyer, J.C., Akins, M.E., Brainard, R.R., Judge, R.A., Peterman, C.P., Scavone, L.J., Thethi, K.S.:“SabSea MudLift Drilling:Design and Implementation of a Dual Gradient Drilling System” paper SPE71359 presented at the 2001 SPE Annual Technical Conference and Exhibition, New Orleans, 30 September-3 October 2001.9. 稲田徳弘,大備勝洋:「埋蔵量を増加させるもう一つの技術革新-アンダーバランス掘削技術について-」,石油公団(現JOGMEC)石油/天然ガス レビュー,Vol.37,No1・2,39-52頁,2004年10. 栃川哲朗:「技術シリーズ『Downhole Talk』」,石油公団(現JOGMEC)石油/天然ガス レビュー,Vol.33,No2,72-77頁,2000年3月11. 川崎正行,梅津覚,安田優人:「Pressure Temperature Core Sampler(PTCS)-圧力・温度保持コアサンプリング技術-」,石油協会誌,第71巻,第1号,139-147頁,2006年1月12. 石川正紀:「TL(Technical Limit)手法の基礎試錐「新津」への適用について」,石油公団(現JOGMEC)石油/天然ガス レビュー,Vol.36,No2,38-47頁, 2003年3月執筆者紹介梅津 覚(うめづ さとる)古谷 昭人(ふるたに あきと)市川 祐一郎(いちかわ ゆういちろう)会社紹介社名:日本海洋掘削株式会社(Japan Drilling Co., Ltd.)本社所在地:東京都中央区日本橋堀留町2-4-3 新堀留ビル6階創立:1968年4月23日日本で唯一の海洋掘削コントラクターであり、現在、関連会社を含めて海洋掘削リグ7基と陸上掘削リグ4基を運用し、中東やメキシコなどで石油・天然ガスの探鉱開発に関する掘削工事を請け負っている。また現在、シンガポールの造船所で3基の新しい海洋掘削リグを建造中である。URL:http://www.jdc.co.jp61石油・天然ガスレビュー
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2006/09/20 [ 2006年09月号 ] 梅津 覚 古谷 昭人 市川 祐一郎
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