ページ番号1010013 更新日 令和6年1月25日

(短報)インドの需要サイドの水素支援策(SIGHTプログラムモード2)

レポート属性
レポートID 1010013
作成日 2024-01-25 00:00:00 +0900
更新日 2024-01-25 10:53:20 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 水素・アンモニア等
著者 佐藤 陽介
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 5
抽出データ
地域1 アジア
国1 インド
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,インド
2024/01/25 佐藤 陽介
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概要

  • インドは2023年1月に閣議決定された国家グリーン水素ミッションの下、様々な政策プログラムを展開している。
  • グリーン水素移行への戦略的介入(SIGHT)プログラムに関しては、2023年に電解槽製造とグリーン水素および派生品の製造に関する支援先選定のための入札が開始され、2024年1月に落札者が決定されたところである。
  • このほど、国内需要を集約し競争的プロセスを通じて最も低コストでグリーンアンモニアおよびグリーン水素を調達することを目的とする需要面に焦点を当てた政府支援が発表された。
  • グリーンアンモニアについては、入札を通じて選定した事業者に対して固定インセンティブが付与される予定である。支援期間3年間であり、固定インセンティブはkgあたり1年目8.82ルピー(0.1米ドル)、2年目7.06ルピー、3年目5.30ルピーとなる。
  • グリーン水素については、入札を通じて選定された事業者に対して固定インセンティブを付与する予定であり、支援期間3年間、固定インセンティブはkgあたり1年目50ルピー(0.6米ドル)、2年目40ルピー、3年目30ルピーとなる。
  • 入札のタイムスケジュールは明らかにされていないが今後発表されることになる入札要綱にて詳細が規定されることとなる。

 

1. はじめに

インドは、グリーン水素とその派生品の生産、使用、輸出の世界的ハブとなることを目指しており、国家グリーン水素ミッションにおいて具体的施策および2030年までの5年間の予算規模を定めている[1]。これらの施策は大きく分けるとグリーン水素移行への戦略的介入(SIGHT)プログラム(1,749億ルピー、21億米ドル)、パイロットプロジェクトプログラム(グリーン水素ハブ)(146.6億ルピー)、R&Dプログラム(40億ルピー)、規制や訓練などその他プログラム(38.8億ルピー)の計1,974.4億ルピー(23.7億米ドル)である。

グリーン水素移行への戦略的介入(SIGHT)プログラムに関しては、2023年に支援先選定のための入札が開始され、2024年1月に落札者が決定されたところである[2]。SIGHTプログラムは複数の対象領域を設定しており、まずは電解槽の製造(コンポーネントI)、そしてグリーン水素および水素派生品の製造(コンポーネントII)である。後者のコンポーネントIIは、さらにグリーン水素および水素派生品の製造(モード1)とグリーン水素およびその派生品の調達(モード2)が予定されていた。

このほど、このモード2のプログラムガイドラインが明らかになった。内容は国内需要を集約し競争的プロセスを通じて最も低コストでグリーン水素およびグリーンアンモニアを調達することを目的とするもので、供給者に対してkgあたりの固定インセンティブを付与するというものであり、いわば需要面に焦点を当てた政府支援となっている。目下、需要面に特化した公的支援制度は事例が少なく情報としては貴重であるため、本稿において概要を紹介したい。

 

2. SIGHTプログラムコンポーネントIIモード2

グリーン水素およびその派生品の調達に関するモード2は、グリーンアンモニア(モード2A)とグリーン水素(モード2B)を対象としている。制度の内容としては大枠において両者は類似している。なお、SIGHTプログラムのコンポーネントI(電解槽製造)やコンポーネントIIモード1(水素およびその派生品の製造)の落札者は、本入札への参加は妨げられないが、既に前入札制度における支援対象となっているグリーンアンモニアやグリーン水素の数量については今回の入札の支援対象外となるため、追加的数量を提示しなければならない。また、今般インド新・再生可能エネルギー省(MNRE)が発表したプログラムガイドラインには入札のタイムスケジュールが記されていないが、MNREサイト情報から推察するに応札期限はグリーンアンモニアを対象とした入札は2024年3月31日、グリーン水素を対象とした入札は2024年3月16日と推察される。参考情報として、SIGHTプログラムの他の入札については、プログラムガイドラインの発表から10日程度で入札要綱が発表されていたことを付記しておく。

 

(1) モード2A(グリーンアンモニア調達)[3]

グリーンアンモニアの調達であるモード2Aは、MNREがインド太陽エネルギー公社(SECI)を実施機関として実施するもので、SECIはインド国内のグリーンアンモニアの需要を集約し、インセンティブを固定した競争的選考プロセスを通じて最低コストでグリーンアンモニアを製造・供給するための入札を行う。この制度ではグリーンアンモニアの製造・供給開始から3年間、製造・供給されたグリーンアンモニア1kgに対する固定インセンティブが支給される。このグリーンアンモニア1kgあたりのインセンティブは毎年漸減する。

(表1)グリーンアンモニア製造・供給の固定インセンティブ
  1年目 2年目 3年目
グリーンアンモニア製造・供給のインセンティブ(ルピー/kg) 8.82 7.06 5.30

(出所:MNRE公表資料を基にJOGMEC作成)

受け取ることのできる補助の額は、その年のインセンティブに、入札によって割り当てられた数量または実際の製造・供給実績のいずれか低い方を掛け合わせたものとなる。入札者は、グリーンアンモニアの供給に関する見積価格(ルピー/kg)とインセンティブを求めるグリーンアンモニアの年間供給能力を提示し、最も低い見積価格を提示したものから応札した年間供給能力が割り当てられ、計画配分容量に達するまで順次落札する仕組みとなっている。なお、モード2における計画配分容量は年間55万トンと設定されている。また、落札者はグリーンアンモニアの供給に関してアンモニア購入契約(APA)の締結が求められる。インセンティブの支払はこのAPAの遵守状況とリンケージをすることになる。

 

(2) モード2B(グリーン水素調達)[4]

グリーン水素の調達であるモード2Bは、インド石油・天然ガス省(MoPNG)が指名した実施機関が実施するもので、実施機関はインド国内のグリーン水素の需要を集約し、1つの製油所または複数の製油所に対して最も低コストでグリーン水素を製造・供給するための入札を行う。モード2Aと比べて複雑な点は、実施機関の指名対象に石油・天然ガス企業とMoPNG傘下のインド高度技術センター(CHT)が含まれており、双方に異なる役割が期待されている点である。MoPNGの指名を受けた石油・天然ガス企業は入札を行う。すなわち入札書の受理・審査・評価と落札者決定と通知を行うのは石油・天然ガス企業である。一方、CHTはインセンティブの支払に関わる事項、すなわち受益者からの請求の審査や支払、その他所管官庁へのスキームの進捗状況の報告などを行う。これら事務に対しては支払われるインセンティブの0.5%が年間管理手数料として石油・天然ガス企業とCHTとの間で均等に分配され毎年支払われることになっている。

この制度では、グリーン水素の製造・供給開始から3年間、製造・供給されたグリーン水素1kgに対する固定インセンティブが支給される。このグリーン水素1kgあたりのインセンティブは毎年漸減する。

(表2)グリーン水素製造・供給の固定インセンティブ
  1年目 2年目 3年目
グリーン水素製造・供給のインセンティブ(ルピー/kg) 50 40 30

(出所:MNRE公表資料を基にJOGMEC作成)

受け取ることのできる補助の額の算定方法や入札手続についてはモード2Aと同様の考え方が取られているが、計画配分容量は年間20万トンとなっている。また、水素購入契約(HPA)の締結を求められることも同様となっている。

 

(3) 評価

まず指摘しておきたいのは他のSIGHTプログラムも同様であるが、インセンティブの低さである。グリーンアンモニアの製造・供給の1年目のインセンティブは8.82ルピー/kgであり、足元の為替相場0.012米ドル/ルピー程度で考えると0.1米ドル/kg程度となる。グリーン水素の場合は50ルピー/kgなので0.6米ドル/kg程度となる。応札企業の有無が懸念されるが他のSIGHTプログラムの入札は盛況と言ってよく、多数の企業が応札したことは記憶に新しい。これらの入札参加者の目論見としては、例え少額であっても得られる支援は全て受け入れるという姿勢、また、マーケティングの観点(僅かながらでも他の競争者に対する若干のコスト優位、あるいは政府支援を勝ち取れるだけの良質のプロジェクトとの宣伝効果)があるものと考えられる。そのため、今回の入札においても同様の動機が働く可能性がある。

また、支援対象期間がいずれも3年間と比較的短くなっている。水素と化石燃料の差額を支援するCfD(値差支援)という観点からは将来の不確実性を取り除くために10年といった長期の支援期間を採用することが合理的であるが、本制度ではそうなってはいない。これは恐らく値差支援という建付けでは考えていないこと、あるいは、財政的負担の軽減のためとも考えられる。

予算規模については本制度に対する特定の額が提示されていないが、固定インセンティブと計画配分容量から逆算するに、モード2Aは最大18億ルピー(2,160万米ドル)、モード2Bは最大240億ルピー(2億8,800万米ドル)と推計される[5]。なお、モード1とモード2との合計予算額は1,305億ルピー(15億6,600万米ドル)とされている。

最後に言及しておきたいのはモード2の各入札のターゲットについてである。IEAによると2022年の水素需要は9,500万トンと推定され、内訳は石油精製4,100万トン、産業利用5,300万トンに大別される[6]。産業利用についてはさらにこのうちの60%、すなわち2,460万トンがアンモニア製造向けである。モード2Aの対象はグリーンアンモニアであるが、アンモニアについては特に肥料部門における利用が知られており、この点、モード2Aにおける需要は主に肥料部門から生じることが想定される(モード2AのMNREの協議先機関としてインド肥料省も含まれている)。また、供給元については海外と国内について特に規定されていないため制限がないが、輸送コストを考慮するとインド国内からの供給がより優位となることが想定され、さらに肥料プラントへの供給を想定した立地や事業者が選定される可能性がある。この点、ドイツのH2グローバルのスキームが、明確に調達先をEUおよび欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国以外の国と規定していることとは対照的であり、モード2Aはやはりインド国内の産業の育成に焦点を当てているとも解釈できる。一方、モード2Bグリーン水素調達は製油所をターゲットにしているが、MoPNGの統計によるとインドの石油精製能力は世界第4位(処理容量501.8万bbl/d, 2021年)であり、中国、米国、ロシアに次ぐ規模を誇っている[7]。製油所では石油製品の製造に際して石炭や天然ガスなど化石燃料由来のいわゆるグレー水素が活用されており、製油所はいわば水素の大消費者となっている。モード2Bの狙いは製油所で使用される水素のグレーからグリーンへの転換であるが、価格面でどのように折り合いをつけるかという論点はあるものの、量の観点や迅速なグリーン水素の普及という観点からは理に適っていると言える。モード2Bにおいても供給元に関する制約はないため、モード2Aと同様にインド国内からの供給が優位になることや製油所に隣接あるいは製油所内における水素プロジェクトの組成といった状況が現れてくることが想定される。

 

3. おわりに

以上本稿ではインドにおける需要サイドに焦点を当てた政府支援策について紹介した。内容はMNREが発表したプログラムガイドラインに依ったが、今後SECIといった実施機関が入札要綱を発表するため詳細は追って明らかとなろう。

インドは2023年1月に閣議決定された国家グリーン水素ミッションの下、様々な政策プログラムを展開しており、近頃はそれらの進捗が明らかになってきている。制度のアウトカムを得るにはまだ時間が必要であり、全体の評価を行うには時期尚早ではあるが、インドの水素産業にかける意気込みを強く感じる。

 

 

[1] Cabinet approves National Green Hydrogen Mission, India Gov, January 4, 2023, https://pib.gov.in/PressReleseDetailm.aspx?PRID=1888545(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[2] 水素・アンモニア海外公的支援制度の動向, JOGMEC, 2024年1月16日, https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009992/1010010.html

[3] Scheme Guidelines for Implementation of Strategic Interventions for Green Hydrogen Transition (SIGHT) Programme Component-II (under Mode-2A), MNRE, January 16, 2024, https://mnre.gov.in/notice/scheme-guidelines-for-implementation-of-strategic-interventions-for-green-hydrogen-transition-sight-programme-component-ii-under-mode-2a/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[4] Scheme Guidelines for Implementation of Strategic Interventions for Green Hydrogen Transition (SIGHT) Programme Component-II : (under Mode-2B), MNRE, January 16, 2024, https://mnre.gov.in/notice/scheme-guidelines-for-implementation-of-strategic-interventions-for-green-hydrogen-transition-sight-programme-component-ii/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[5] スキームガイドラインによればグリーンアンモニア1kgを製造するのに必要となるグリーン水素(換算係数)は0.1765kgとされる。

[6] Global Hydrogen Review 2023, IEA, September 22, 2023, https://www.iea.org/reports/global-hydrogen-review-2023(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[7] Indian Petroleum & Natural Gas Statistics 2021-2022, MoPNG, https://mopng.gov.in/files/TableManagements/IPNG-2021-22_L.pdf(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

以上

(この報告は2024年1月23日時点のものです)

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