ページ番号1010249 更新日 令和6年11月11日
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概要
天然ガスのバリューチェーンにおける低炭素化の取り組みの中で、二酸化炭素に次ぐ地球温暖化の原因であるメタンの排出管理が注目を集めています。具体的には、排出係数を用いて算定されたメタン排出量と実際の測定データを用いて算定されたメタン排出量に大きな乖離があるという課題、把握されていない未報告のメタン排出をどのように防ぐことができるのかという課題に、焦点が当たっています。メタン排出抑止を目的とした枠組みのOGMP2.0や天然ガスバリューチェーンのMMRVでは、実際の測定データを活用することを促すためのフレームワークや方法論を準備しています。一方、メタン排出量を測定する技術の検証手法に関する取り組みも進んでいます。
1. メタン排出削減の取り組み概要
天然ガスの主要な成分であるメタンは、温室効果が二酸化炭素の28倍程度であり、産業革命以来の地球気温上昇において、二酸化炭素に次ぐ、地球温暖化の原因と言われています[1]。天然ガスのバリューチェーンの低炭素化において、二酸化炭素と同様に、メタンの排出を適切に管理することは重要です。
二酸化炭素は、熱や動力を与えるために、必要な燃料を利用した結果排出されることから、投入燃料の量から二酸化炭素の排出量を算出されています。一方、メタンは、生産・加工段階での各種事由による大気放出(ベント)や燃焼時の未燃ガス、または設備からの漏洩として排出されることから、排出量は天然ガス生産量に過去の調査や論文等で確認された排出係数を用いて、算定されています。
天然ガスバリューチェーンにおけるメタン排出削減の取り組みとしては、世界銀行による「Zero Routine Flaring by 2030」というイニシアティブのもと、設備の安全運転に必要なメタンの燃焼以外は、設備の追加や設計の変更を検討して、未燃メタンの排出量を減らす活動が進められています。他には、メタンの漏洩を検知し、即時に漏洩箇所を補修するためのシステムの導入や、設備の設計変更や運転を工夫し、ベントする量を削減する取り組みも行われています。
これらの取り組みは実施されていますが、国際的に議論されているメタン排出削減における課題があります。1つ目は、排出係数を用いて算定されたメタン排出量と、実際の測定データを用いて算定されたメタン排出量に大きな乖離が存在することです。乖離は、多い場合も少ない場合も確認されています。2つ目の課題は、把握されていないメタン排出をどのように特定し、未報告のメタン排出を防ぐことができるかです[2]。
これらの課題を解決するためには、メタンの排出量を平均的な排出係数で計算するのではなく、実際に測定されたデータに基づいて算定することが必要です。これによって報告されるデータの正確性と完全性を高め、実際の排出状況と報告内容に大きな乖離が生じることを防ぐことが可能になります。国連機関の一つである国連環境計画(UNEP)のInternational Methane Emissions Observator(IMEO)の2023年の報告においても、排出係数で算定された量に対して、測定されたデータは、2.3倍であることが報告されています。[2]
2. メタン排出量算定における測定データ活用の動き
国連環境計画(UNEP)は、2014年に設置したメタン排出抑止の枠組OGMP(The Oil & Gas Methane Partnership)を拡大する形で、CCAC(Climate and Clean Air Coalition)、欧州委員会、Environmental Defense Fund、および62の石油・ガス企業とともに、2020年にOGMP2.0を設置しています[3]。この枠組みには2024年10月時点で、140を超える企業が参加しています[4]。OGMP2.0は、メタン排出量の報告の正確性と透明性を高めていくために、測定データに基づく報告を実施する枠組みです。本枠組みでは、メタン排出量が測定データに基づいて算定され、さらに測定データによって算定値が検証・確認されている報告に対して、Gold Standardという基準を設定しております。参加企業は、自社で操業する設備を加盟後3年で、自社で操業していないが自社が関与する設備を5年でGold Standardを達成することを目指すことになっています(図1)。
米国、欧州、日本を含めた天然ガスの供給国や消費国の政府機関は、天然ガスサプライチェーンにおけるMMRV(測定、モニタリング、報告、検証)フレームワーク構築の取り組みを進めており、このフレームワーク構築にあたっては、天然ガスサプライチェーン上で報告されるメタン、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量の正確性、完全性、透明性を高める手法、また、算定されたデータ品質の示し方や認定プロセスが議論されています[5]。
更に米国では、US Environment Protect Agency(EPA)が、石油・天然ガス事業者のメタン排出量に対して、規制を設定しています。定められたメタン排出の規制値を超えることがないように、操業する設備に基づいて排出量を算定する必要があり、その際には、検証もしくは認定された測定技術を利用していることが求められます。[6]
3. メタン排出量の測定技術の検証の取り組み
メタン排出量の報告において、測定データを使用することの重要性が高まっている中で、利用する測定技術が正確な測定データを取得できるかが重要になってきます。測定技術が計測した大気中のメタン濃度から算定したメタン排出量を検証することで、測定技術を検証する取り組みが始まっています。
米国ではコロラド州立大学(CSU)において、Methane Emissions Technology Evaluation Center(METEC)が設立され、米国の陸上ガス田やパイプラインを模した設備を建設しています(写真1)。実際に設備から一定量のメタンを放出し、その放出量と測定技術による測定結果を比較することで、測定技術の検証をしています。この施設は測定技術の実証や研究の他、測定技術会社の製品開発にも用いられています。2024年には米国エネルギー省と民間企業団体が25百万米ドルを支援し、さらなる設備の改修も検討されています[7]。
欧州における取り組みでは、Total EnergiesのTotal Energies Anomaly Detection Initiatives(TADI)が、METEC同様、実際の設備を模擬した施設でメタン等のガス放出を実施し、メタン検知や測定技術を検証する設備として活用されています[8]。
また、欧州委員会と米国政府のエネルギー協力の枠組みのもとで、CSUとTotal Energiesは測定検証設備における標準化したテストプロトコルの作成を開始しており、排出量算定の標準化に向けた議論につながることを目指しています[9]。
また日本国内においては日揮ホールディングス株式会社が、自社の技術研究所内に国内外の計測機器メーカーに対して技術評価や技術開発の場を提供することを目的として、石油・天然ガス関連設備からのメタン排出を想定したメタン排出計測技術評価設備を設置しています[10]。
このような取り組みが進んでいく中で、日本への天然ガス供給地である東南アジアでは、米国に多い陸上ガス田もありますが、海上ガス田も多く存在しています。海上の設備は、設備の形状や外部環境が異なることから、測定方法に制限が生じ、定量化の値に影響を及ぼす可能性が懸念されています。
JOGMECは、2024年10月にASEAN Energy Sector Methane Leadership Program(ASEAN MLP)2.0の枠組みの中で、マレーシア国営会社PETRONASとともに、ASEAN地域の天然ガス生産設備の特徴を踏まえたSoutheast Asia METEC(Methane Emissions Technology Evaluation Center)測定技術検証設備の設立を公表しています[11]。
測定データの重要性が高まる中で、測定技術の検証手法が確立されることは測定データの信頼性につながります。本測定技術検証設備を利用して、各地域の設備と標準化されたテストプロトコルの検討、データの検証手法において知見を有する学識者との連携、設備の運営における中立性や透明性を確保するために国連機関等と議論していくなど、国際的に産学官で取り組んでいくことが重要です。
参考文献
[1] Urgent action to cut methane emissions from fossil fuel operations essential to achieve global climate targets - News – IEA
https://www.iea.org/news/urgent-action-to-cut-methane-emissions-from-fossil-fuel-operations-essential-to-achieve-global-climate-targets(外部リンク)
[2] An Eye on Methane: International Methane Emissions Observatory 2023 Report IMEO 2023 report
https://www.unep.org/resources/report/eye-methane-international-methane-emissions-observatory-2023-report(外部リンク)
[3] History-OGMP 2.0
https://ogmpartnership.com/history/(外部リンク)
[4] Our members-OGMP2.0
https://ogmpartnership.com/our-member-companies/(外部リンク)
[5] Greenhouse Gas Supply Chain Emissions Measurement, Monitoring, Reporting, Verification Framework|Department of Energy
https://www.energy.gov/fecm/greenhouse-gas-supply-chain-emissions-measurement-monitoring-reporting-verification-framework(外部リンク)
[6] Super Emitter Program Informational Webinar (epa.gov)
https://www.epa.gov/system/files/documents/2024-07/superemiiterprogramwebinarslidedeck-508.pdf(外部リンク)
[7] METEC | Colorado State University (colostate.edu)
https://metec.colostate.edu/(外部リンク)
[8] TADI : un centre d’essai d’envergure internationale | ETABLISSEMENT PAU LACQ (totalenergies.fr)
https://cstjf-pau.totalenergies.fr/en/tadi-test-center-international-reach-lacq(外部リンク)
[9] EU-US Energy Council reiterates importance of bilateral cooperation (europa.eu)
https://energy.ec.europa.eu/news/eu-us-energy-council-reiterates-importance-bilateral-cooperation-2023-04-04_en(外部リンク)
[10] 日本初、メタン排出ゼロを目指す世界的なイニシアチブに参加 | 2023年ニュースリリース | 日揮ホールディングス株式会社 (jgc.com)
https://www.jgc.com/jp/news/2023/20230307_2.html(外部リンク)
[11] ASEAN地域初となるメタン排出管理実証設備設立に向け連携を開始~LNG輸入国と生産国の技術連携によりLNGバリューチェーン全体のクリーン化を推進~
https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00204.html(外部リンク)
以上
(この報告は2024年11月11日時点のものです)