ページ番号1010094 更新日 令和6年4月15日
原油市場他:ウクライナによるロシアの製油所等に対する攻撃、及び中東における緊張の高まりに伴い、上昇を続ける原油価格
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概要
- 米国では春場のメンテナンス作業や不具合が発生した装置の改修が完了したこともあり、製油所での石油製品製造活動が上向きとなった。また、気温上昇とともに個人の外出が活発化した結果需要が堅調となったガソリンの在庫は減少傾向となったものの平年幅上限を超過する状態は維持された。他方、暖房シーズンが終了しつつあったことにより製造が抑制された留出油の在庫は限られた範囲内で推移し、平年幅上方付近に位置する量となっている。また、輸出が低調であったこともあり、原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する水準となっている。
- 2024年3月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加となった他、欧州でも一部製油所における装置不具合発生等に伴い原油精製処理活動が不活発化したこともあり在庫は増加した。また、日本においては、在庫はほぼ横這いとなった。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本においては、一部地域における気温低下もあり暖房向けの灯油需要が喚起されたこと等から在庫は減少した。しかしながら、米国ではガソリン在庫の増加が牽引する格好となり石油製品在庫は増加した。加えて、1月下旬以降ウクライナが発射したものと見られる無人機等によりロシアの製油所等が攻撃されたことにより、それら施設が操業を停止するとともに石油製品供給が削減されることに伴い大西洋圏を中心として石油需給引き締まり観測が市場で広がったこともあり、ロシアから距離的に近い欧州において、軽油等の価格が米国に比べ一時強含んだことから、欧州方面に軽油等が流入した結果、同製品を中心として欧州の石油製品在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体としては、石油製品在庫は増加となった他平年幅上限付近に位置する量となっている。
- 2024年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場においては、3月12日以降ウクライナが発射したものと見られる無人機等がロシアの製油所等をしばしば攻撃したことや、4月1日にシリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺が攻撃された結果イラン革命防衛隊幹部が死亡したことにより、イランがイスラエルに対し報復措置を実施する方針である旨表明したことに伴い、ロシア及び中東からの石油供給途絶懸念が市場で増大したこと、中国経済が回復する兆しを見せつつあることを示唆する経済指標類が複数明らかになったことにより、同国石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となった他、4月5日には1バレル当たり86.91ドルの終値と2023年10月20日以来の高水準の終値に到達した。
- 今後北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近することにより季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大する中、中東及びロシア・ウクライナにおける緊張の高まり等を巡る状況の今後の展開次第では、これら地域からの石油供給への支障に対する懸念が増大するとともに原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。そのような中、米国金融当局関係者による同国政策金利引き下げを巡る動き、中国経済を巡る動向、OPECプラス産油国の減産遵守状況、石油市場関係者による原油価格見通し等が原油相場に影響するものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2024年1月の米国ガソリン需要(確定値)は日量824万バレル、前年同月比で0.5%程度の減少となり(図1参照)、2023年12月の当該需要である同884万バレルから需要量が減少した他同月の前年同月比2.8%程度の増加から減少に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比0.2%程度減少の日量826バレル)から僅かに下方修正されている。2023年12月はクリスマス及び年末年始に伴う休暇シーズンに突入していたことから、個人の外出が活発化したことが自動車運転距離数を下支するとともに同月のガソリン需要が喚起されたものの、2024年1月はその反動に加え、同月は中旬を中心として厳しい寒波が米国の広い地域にまで来襲したことに伴い気温が低下したこともあり、個人の外出が不活発化したことが同国のガソリン需要を抑制することになったことから、当該需要は前月比で減少した(また、2023年12月の同国自動車運転距離数(1日当たり85.0億マイル)の前月比での減少(同年11月の同距離数は同88.4億マイルであった)に比べガソリン需要の下振れ幅は比較的限定的なものにとどまった(11月の当該需要は日量885万バレルであったので、12月の同需要は前月比で微減と言うことになる)こともあり、その反動で2024年1月の同国ガソリン需要が押し下げられた格好にもなっている)。また、2023年1月も前月のクリスマス及び年末年始の休暇シーズンに伴う個人の外出の活発化の反動でガソリン需要は前月比で減少したものの、寒波が来襲した2024年1月に比べれば個人の外出は相対的に促されていたことから、2023年1月の米国ガソリン需要は2024年1月を上回る(つまり、2024年1月のガソリン需要は前年同月を下回る)こととなった(因みに2024年1月の同国自動車運転距離数は1日当たり79.7億マイルと2023年12月の85.0億マイルから減少している他、2023年1月の80.4億マイルを下回っている)。なお、2024年1月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2020年1月の当該需要(日量872万バレル)(確定値)を5.6%程度下回っている。他方、2024年3月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量893万バレル、前年同月比で0.8%程度の減少と、2024年2月の当該需要(速報値)である日量847万バレルから需要量が増加した他、同月の前年同月比2.8%程度の減少からは減少率が縮小した。2024年1月は中旬を中心として米国の広い範囲に来襲した寒波に伴う個人の外出の不活発化によりガソリン消費が抑制されたと見られるが、その影響が同国のガソリン出荷の鈍化という形になって2月にも及んだものと考えられる一方、2024年3月はそのような寒波来襲の影響が低減するとともに、気温が上昇したことに伴い個人の外出が促進されたことにより、前月比で当該需要が増加するとともに2024年3月は前年同月と比べても温暖であったこともありガソリン需要の前年同月比での減少率が縮小したものと見られる(因みに2024年3月の米国自動車運転距離数は1日当たり90.0億マイルと前年同月(同88.3億マイル)比で2.0%増加しているが、それにもかかわらずガソリン需要が前年同月比で減少しており、この部分は燃費効率の改善が寄与していることによる可能性があるものと考えられる)。なお、2024年3月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染流行前の2019年3月の当該需要(日量918万バレル)(確定値)を2.8%程度下回っている。また、2024年1月中旬頃に米国テキサス州等のメキシコ湾岸地域にまで厳しい寒波が南下したことにより、気温低下に伴い同地域の一部製油所において装置に不具合が発生した結果操業が停止した。寒波が過ぎ去った後これら製油所は稼働を再開し始めたものの、他の製油所において春場のメンテナンス作業実施や停電等に伴う装置の不具合発生等により操業が停止したこともあり同国製油所での原油精製処理活動は低迷気味となった(図2参照)。2月下旬以降は装置不具合の改修が進んだこともあり米国製油所における原油精製処理量は多少なりとも増加するとともにガソリン製造活動は活発化し始めた(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ものの、3月のガソリン需要が2月に比べ増加したことにより相殺されて余りある状態となった。このため、2024年3月上旬から4月上旬にかけての同国におけるガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。
2024年1月の米国留出油需要(確定値)は日量387万バレル、前年同月比で0.8%程度の減少となり(図5参照)、2023年12月の同361万バレル(前年同月比4.7%程度の減少)から需要量が増加した他前年同月比での減少率は縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比5.0%程度減少の日量371万バレル)から上方修正されている。2024年1月は中旬を中心として米国の幅広い地域に厳しい寒波が来襲した(なお、2023年1月は米国には厳しい寒波は来襲しなかった)ことにより、鉱工業生産活動に支障が発生等した(2024年1月の鉱工業生産は前年同月比で0.3%程度の減少と、2023年12月の同1.2%の増加から減少に転じたことに加え、2024年1月の同国物流活動は前年同月比2.3%の減少と2023年12月(同0.7%の増加)から減少に転じている)ことが同部門における軽油需要を抑制する格好となったものの、厳しい寒波の来襲に伴い米国の暖房油需要の中心地である北東部においても気温が低下したことに伴い暖房向け留出油需要が喚起されたため、その分だけ2024年1月の留出油需要の前年同月比での減少率が縮小する格好となった(このようなことに加え、2022年12月は下旬を中心として厳しい寒波「エリオット(Elliott)」が来襲し気温が低下したことにより暖房向けの留出油需要が旺盛となった反動で、2023年12月の米国留出油需要の前年同月比での減少率が拡大する格好となったことも、2024年1月の当該需要の前年同月比での減少率を2023年12月から縮小させる一因となった)ものと考えられる。なお、2024年1月の米国留出油需要は2020年同月の当該需要(日量402万バレル)(確定値)を3.8%程度下回っている。他方、2024年3月の米国留出油需要(速報値)は推定日量364万バレル、前年同月比で11.3%程度の減少となり、2月の当該需要量(速報値)の日量377万バレル(前年同月比6.2%程度の減少)から需要量は下振れしたうえ、前年同月比の減少率も拡大した。2024年3月は米国北東部が前月及び前年同月に比べ温暖となったことにより、暖房向けの暖房油需要が不振であったことが、同月の留出油需要を押し下げた一因となったものと考えられる。なお、2024年3月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量418万バレル)(確定値)を13.0%程度下回っている。また、2024年1月中旬を中心とする時期に来襲した寒波や停電等による装置の不具合発生、及び春場のメンテナンス作業実施等に伴う製油所における石油製品製造活動が不活発化に加え、冬場の暖房シーズンに伴う暖房向けの留出油需要期が終了に接近しつつあったこともあり、留出油生産活動は抑制気味となった(図6参照)。ただ、米国の留出油需要が低調に推移したことにより相殺されたことから、3月上旬から4月上旬にかけ米国留出油在庫は比較的限られた範囲内で変動したうえ、平年幅上方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2024年1月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比2.3%程度増加の日量1,959万バレルとなり(図8参照)、2023年12月の同2,029万バレルから需要量が減少した他、同月の前年同月比5.0%程度の増加から増加率は縮小した。2023年12月のクリスマス及び年末年始の休暇シーズン到来に伴い個人の外出が活発化した反動で2024年1月は個人の外出が前月に比べ不活発化するとともにガソリン及びジェット燃料の両需要が低調となったことが一因となり、2024年1月の同国石油需要は前月比で減少している。ただ、2024年1月は中旬頃を中心として米国の幅広い地域に厳しい寒波が来襲したこともあり、暖房のための液化石油ガス(LPG)及び留出油の需要が前月比で増加したことが、同月の同国石油需要の前月比での減少幅を抑制する形で作用している。また、2024年1月のエタン価格が前年同月比で総じて安価であったことに加え、米国テキサス州パサデナにおいてベイスター(Baystar、大手国際石油会社トタルエナジーとオーストリア石油化学会社ボレアリス(Borealis、オーストリア大手石油会社OMVが同社株式の75%、アブダビ国営石油会社ADNOCが25%を、それぞれ保有)の合弁会社)のベイ3(Bay 3)ポリエチレン製造装置(年産62.5万トン)が操業を開始(2023年10月3日に操業を開始した旨ベイスターが発表)したことや、大手国際石油会社シェルが操業を中断していたペンシルバニア州モナカのエタン分解装置(エチレン生産能力年産160万トン)が2023年12月上旬頃操業を再開した(2022年11月16日に本格的操業開始を発表したものの、その後大気汚染規制抵触の疑いや装置の不具合発生等により、操業を停止した旨2023年5月8日に報じられていた)旨2023年12月13日に伝えられたことにより、在庫積み上げを含め、原料となるエタンの需要が拡大したものと見られることが、その他の石油製品の需要を押し上げる一因となったものと考えられ、それが米国石油需要の前年同月比での増加に寄与する形となっている。ただ、その他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことから、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比3.9%程度増加の日量1,989万バレル)から下方修正されている。なお、2024年1月の米国石油需要は2020年1月の当該需要(日量1,993万バレル)(確定値)を1.7%程度下回っている。他方、2024年3月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,027万バレル、前年同月比で0.9%程度の増加となっており、2月の同国石油需要(速報値)である日量1,952万バレル、前年同月比1.2%程度の減少から、需要量が増加した他前年同月比でも減少から増加に転じた。3月に入り気温の上昇とともに個人の外出が活発化したこともあり、ガソリン及びジェット燃料の需要が喚起されたことから、両製品需要が前月比で増加した他、その他の石油製品の需要が前月比で増加したことが、同月の米国石油需要の前月比での増加に寄与している。また、その他の石油製品の需要が前年同月比で相当程度(日量63万バレル程度)増加したことが、同月の同国石油需要の前年同月比の増加をもたらしている。米国における石油化学製品製造施設の操業開始等により原料となるエタンの需要が前年同月比で増加していることがその他の石油製品需要を押し上げている側面はあるものと考えられるものの、同月のその他の石油製品需要(日量464万バレル)は2023年2月~2024年1月の当該需要(確定値)である日量385~467万バレルに比べても高水準であることから、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で下方修正される可能性があるので注意が必要であろう。なお、2024年3月の米国石油需要は2019年3月の当該需要(日量2,018万バレル)(確定値)を0.5%程度上回っている。また、2024年1月中旬頃に米国テキサス州等のメキシコ湾岸地域にまで厳しい寒波が南下したことにより、同地域の一部製油所では気温低下に伴い装置に不具合が発生した結果操業が停止した。寒波が過ぎ去った後これら製油所は稼働を再開し始めたが、他の製油所において春場のメンテナンス作業実施や停電等に伴う装置の不具合発生等より操業が停止したこともあり同国製油所の原油精製処理活動は低調気味となった。2月下旬以降は春場のメンテナンス作業が完了したり装置不具合の改修が進んだりしたこともあり米国製油所における原油精製処理量は多少なりとも増加傾向となったものの、米国からの原油輸出がもたつき気味となった(欧州等における製油所メンテナンス作業実施に伴う原油精製処理活動の不活発化により同地域等における米国からの原油受け入れが不活発化したことが、米国の原油輸出に影響した旨指摘する向きがある)ことから、3月上旬から4月上旬にかけての同国原油在庫はそれ以前と比べ伸びが鈍化気味にはなったものの増加傾向となった他、当該在庫が平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、そして留出油在庫が平年幅上方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2024年3月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加となった他、欧州でも一部製油所における装置不具合発生等に伴い原油精製処理活動が不活発化したこともあり在庫が増加した。また、日本においては、製油所での処理水準に相当する量の原油が概ね輸入された格好となったこともあり在庫はほぼ同水準となった。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本においては、一部地域において3月に気温が低下する場面が見られたことから、暖房向けの灯油需要が喚起された他、年度末を控えて工事実施のために稼働する重機類向けの軽油需要が増加したと見られることから、両製品を中心として在庫は減少した。しかしながら、米国ではガソリン在庫の増加が牽引する格好となり石油製品在庫は増加した。加えて、1月下旬以降ウクライナが発射したものと見られる無人機等によりロシアの製油所等が攻撃されたことにより、それら施設が操業を停止するとともに石油製品供給が削減されることに伴い大西洋圏を中心として石油需給引き締まり観測が市場で広がったこともあり、ロシアから距離的に近く、かつ中東及びアフリカ等の間で代替の石油製品供給を巡って競争が激化する恐れのあった欧州において、需要の中心となる軽油等の価格が米国に比べ一時強含んだ。このため、かえって欧州方面に軽油等の石油製品が流入した結果、同製品を中心として欧州の石油製品在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体としては、石油製品在庫は増加となった他平年幅上限付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅上限付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2024年3月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.9日と2月末の推定在庫日数(60.9日)からほぼ横這いであった。
3月13日に1,500万バレル台後半程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、3月20日には1,500万バレル強程度の量へと減少した。ただ、3月27日及び4月3日には1,500万バレル台前半程度、そして4月10日は1,600万バレル強程度の、それぞれ水準へと回復した。結果として、4月10日時点の在庫量は3月13日時点の水準を若干ながら上回っている。2024年1月21日未明(現地時間)にロシアのウスチルーガ(Ust-Luga)にある同国天然ガス会社ノバテックのコンデンセート分離装置において火災が発生した結果操業が停止したとされる(その後2月11日に当該コンデンセート分離装置が操業を再開した旨伝えられる)が、その原因が無人機の攻撃によるものである旨ウクライナ報道機関が報じた。また、ロシア南部黒海沿岸都市トゥアプセ(Tuapse)にある製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレルとされる)に1月24日深夜から1月25日未明(現地時間)にかけ無人機(ウクライナが発射したと伝えられる)が飛来した結果火災が発生した(1月25日朝(同)に鎮火したとされるが、その後メンテナンス作業を実施するとされ、操業再開までに数ヶ月を要する旨2月20日に報じられる)。さらに、2月3日にウクライナの無人機がロシア南部のボルゴグラード(Volgograd)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量日量30万バレル)に落下(ロシア側はウクライナからの無人機を迎撃したと主張)した結果、火災が発生した(その後鎮火し、製油所の操業は正常通り行なわれている旨ルクオイルが表明したと2月3日に伝えられるが、常圧蒸留装置5号機が損傷しており、修理を行なったうえ2月21日に操業を再開した後平常通りの操業を実施している旨4月10日に伝えられる)。加えて、ウクライナの無人機がロシア南西部クラスノダール地方にあるイルスキー(Ilsky)製油所(操業者:KNGKグループ、原油精製処理能力日量13.3万バレルとされる)及びアフィプスキー(Afipsky)製油所(操業者:サフマー(Safmar)、同12.1万バレルとされる)を攻撃した(イルスキー製油所では火災が発生した)旨2月9日に伝えられた(イルスキー製油所はメンテナンス作業実施後操業を再開したと2月21日に伝えられるが、4月14日時点でアフィプスキー製油所は操業を再開したとは報じられていない)。このようなこともあり、2月から3月上旬にかけてはロシアからシンガポールへのナフサ等の軽質留分供給は抑制されるように見受けられた。しかしながら、その後操業を再開したロシアの一部製油所において製造されたナフサ等が、イエメンのフーシ派武装勢力による紅海周辺の船舶攻撃激化の影響で、紅海及びスエズ運河経由の代わりに喜望峰経由へと迂回した結果、遅延して到着し始めたことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を増加させる方向で作用した。一方、2024年第1回の中国石油製品輸出枠1,900万トンが付与された(因みに2023年第1回は1,899万トンであった)(別途低硫黄重油輸出枠も前年比同水準の800万トンで付与された)こと(2023年12月29日に中国当局が当該輸出枠付与を発表したとされる)に伴い、2024年1月以降中国からガソリンを含む軽質留分が輸出され始め、2月から3月前半を中心とする時期にかけシンガポールに流入したものの、中国の未使用の石油製品輸出枠が減少しつつあるものと見られることにより、シンガポールへのガソリン等の軽質留分流入の勢いが低下しつつあったうえ、中国を初めとしてアジア諸国及び地域は春場の製油所メンテナンス作業の実施時期に突入しつつあったことにより、これら諸国及び地域によるガソリン等軽質留分の輸入が活発化する反面輸出が低調になるとともに、シンガポールの軽質留分の流入が鈍化した格好となったことが、シンガポールの軽質留分在庫を減少させる方向で作用した。結果として、シンガポールの軽質留分在庫は増減した結果、若干ながらも増加傾向を示した。ただ、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入りつつある米国においてガソリン在庫が減少傾向となった。また、夏場のガソリン需給逼迫を回避するために3月1日から6ヶ月に渡りガソリン輸出を禁止したロシア(ノバク副首相の報道官が当該禁輸措置の実施を認めた旨2月27日に報じられる)において、3月中旬以降、ウクライナが再び無人機等による攻撃を実施したものと見られることにより、複数の製油所で火災等が発生するとともに操業が停止したこと(後述)に伴い、石油製品製造活動に支障が発生したことから、大西洋圏を中心としてロシアがガソリンの輸入を活発化させる(もしくは、ロシアにガソリンを供給したロシア友好国が代わりにガソリンの輸入を活発化させる)結果、同地域でのガソリンの需給が引き締まる可能性があるとの懸念が市場で強まった。そしてこのような大西洋圏を中心とするガソリン需給引き締まり観測がアジアのガソリン市場に波及する格好となったことから、3月中旬から同月末にかけてはアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(従来ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っていた)は拡大する傾向を示した。しかしながら、3月末以降は原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かなかったこともあり、ガソリンとドバイ原油との価格差は縮小する場面が見られた。
他方、3月12日に少なくとも9発のミサイルと25機の無人攻撃機がロシア各地を攻撃したとロシア国防省が発表、同国のノルシ(Norsi)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量32万バレル)及びキリシ(Kirishi)製油所(操業者スルグトネフチガス(Surgutneftegaz)、原油精製処理量36万バレル)が標的にされたものと見られ、うちノルシ製油所では火災が発生するなど被害が深刻である(同製油所は操業を停止、なお、キリシ製油所は被害無しとされる)旨同日伝えられた(ノルシ製油所において損傷を受けた常圧蒸留装置6号機及び接触分解装置はメンテナンス作業実施を含め2024年第2四半期に操業を再開する予定であると4月10日に伝えられる)。また、3月13日にロシアのリャザン(Ryazan)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量34万バレル)及びノボシャフチンスク(Novoshakhtinsk)製油所(操業者:ノボシャフチンスク石油精製、原油精製処理能力日量11.2万バレル)が、ウクライナ保安局が発射した無人機が攻撃された結果火災が発生するなどして操業を停止した旨3月13日に報じられる(なお、その後ノボシャフチンスク製油所については操業を再開した旨3月13日に伝えられる)。さらに、3月16日には、ロシア南西部サマラ州にあるシズラニ(Syzran)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量17万バレル)及び同州のノボクイビシェフスキー(Novokuibyshevsky)製油所(操業者:同、同推定日量17万バレル)をウクライナが攻撃した結果シズラニ製油所で火災が発生した旨報じられる(ノボクイビシェフスキー製油所への攻撃は阻止されたとされる)うえ、ロシア南部クラスノダール地方にあるスラビャンスク(Slavyansk)製油所(操業者:スラビャンスクECO、同推定日量17万バレル)にウクライナから発射された無人機が飛来、迎撃されたものの落下した残骸により同製油所で火災が発生した旨3月17日に報じられる。加えて、3月23日朝(現地時間)、ロシアのサマラ州にあるクイビシェフ(Kuibyshev)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)においてウクライナから発射された無人機の落下後火災が発生した旨報じられた(数時間後に火災は消し止められた旨伝えられる)。そして、4月2日には、ロシア南東部のタタルスタン共和国にあるタネコ(Taneco)製油所(操業者:タトネフチ、原油精製処理能力日量36万バレル)がウクライナにより発射された無人機により攻撃された結果、同製油所で火災が発生した(20分後には鎮火し、生産には影響はない旨ロシア通信が同日報じている)。このため、ウクライナが発射したとされる無人機等による攻撃に伴いロシア製油所の原油精製処理能力の14%程度に相当する日量90万バレル程度が稼働を指定している旨3月26日にロイター通信が伝えた他、ウクライナにより発射されたとされる無人機等の攻撃に伴い、ロシアの製油所の原油精製能力の少なくとも15%が影響を受けた可能性がある旨4月4日に北大西洋条約機構(NATO)関係者が明らかにした。このようこともあり、ロシアからアジア方面へのナフサの供給が減少するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場におけるナフサ価格に上方圧力を加えた。また、米国を初めとするところの北半球における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入り始めたことにより、ガソリンに混入するためのナフサの需要が上向くとの観測が市場で発生しつつあることも、アジア市場におけるナフサ価格を下支えする形となった。しかしながら、2023年に入り中国国内におけるナフサ分解装置(及びプロパン脱水素化装置(PDH))の稼働率が上昇しつつある(ナフサ分解装置に投入される原料であるナフサは中国が輸入等した原油を精製することにより製造されているものと推測される)ことが示唆される旨指摘されており、同国の石油化学製品輸入が限定される格好となっている(2024年2月の同国のエチレン輸入量は約13万トンと直近のピーク時である2019年1月(約29万トン)の半分以下の規模となっている)こともあり、(中国を除く)アジア地域における石油化学製品需要は好調ではなかった。このような状況に対処すべく、アジア諸国及び地域ではナフサ分解装置のメンテナンスを実施したり、もしくは稼働率を引き下げたりしたことにより、石油化学部門向けのナフサ需要が低迷する格好となった。加えて、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の終了が視野に入り始めるとともに暖房向けに利用されていた液化石油ガス(LPG)の需要が減退する結果LPG価格が下落することに伴い、石油化学製品の原料となるナフサとLPGとの間での価格面の競合が激化するとともに、石油化学製品の原料となるナフサの需要が一層軟調になるとの観測が市場で増大した。このようなことから、ナフサ価格に下方圧力が加わる格好となったことから、3月中旬から同月末頃にかけてのアジア市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は徐々にではあるが拡大する傾向を示した。さらに、3月末頃から4月中旬にかけてはドバイ原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かない格好となったことから、同時期のナフサとドバイ原油との価格差はさらに広がることとなった。
3月13日には1,000万バレル台後半程度の水準であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、3月20日には1,000万バレル台前半程度、3月27日には1,000万バレル強程度の量へと、それぞれ減少した。ただ、4月3日には1,000万バレル台前半程度、そして4月10日には1,100万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと回復している。この結果、4月10日の在庫量は3月13日の水準を若干ながら上回る状態となった。2023年第1回の石油製品輸出枠が付与された中国からシンガポールに向け軽油が輸出され続けたことが、シンガポールにおける中間留分在庫を下支えする方向で作用したものの、アジア諸国及び地域において春場の製油所メンテナンス作業時期に突入し始めたことにより、それら諸国及び地域からの中間留分輸出が鈍化したことに加え、ウクライナにより発射されたものと見られる無人機等による攻撃に伴いロシアの一部製油所の操業が停止したこと(前述)により、同国からの中間留分供給に支障が生ずる結果大西洋圏において軽油等の需給引き締まり感が強まるとの見方が発生したことから、インドや中東の製油所等で製造された中間留分がアジア方面ではなく欧州方面に向け輸出され始めたことが、シンガポールへの中間留分の流入を押し下げる形となったことを通じ同国における中間留分在庫を抑制する形で作用した。それでも、結果として、シンガポールにおける同留分在庫は僅かに増加傾向を示すこととなった。ただ、シンガポールにおける中間留分在庫が小幅ながら増加したこともあり、3月中旬から末頃にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大及び縮小を繰り返しながらも傾向が見えにくい展開となった。しかしながら、3月末頃から4月中旬にかけては、ドバイ原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かなかった結果、ドバイ原油と軽油の価格差は縮小する傾向を示した。
3月13日に2,100万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、3月20日には2,200万バレル強程度の量へと増加した。しかしながら、3月27日には2,100万バレル台半ば程度、4月3日及び4月10日は2,100万バレル強程度の、それぞれ水準へと低下した。結果として、4月10日の重油在庫量は3月13日の量を若干ではあるが下回る水準となった。1月下旬から2月上旬にかけウクライナが発射したものと見られる無人機等による攻撃に伴いロシアの一部製油所の操業が停止したこともあり、ロシアからアジア方面への重油の供給が減少したことが、シンガポールにおける重油需要を減少させる方向で作用したものの、冬場の暖房のための電力供給向けの発電部門における重油需要が、春場が接近するに従って気温の上昇とともに減退した他、中東の一部諸国で実施されている製油所の高度化(重油を分解し軽質製品を製造する)施設におけるメンテナンス作業の実施に伴い、当該施設が操業を停止した結果余剰となった重油がシンガポールに流入しているものと見られることや、船舶用重油需要が低調であった(従来のスエズ運河及び紅海経由航路から喜望峰経由航路へと迂回したことに伴い航行期間が拡大したことにより、船舶のシンガポール寄港頻度が低下したことや、中国浙江省舟山が船舶向け重油販売を積極化させた結果当該製品販売を巡る競争が激化したことが背景にあるものと見られる)(2月のシンガポールの船舶向け重油販売量は451万トン(推定日量100万バレル)と前年同月比では約15%増加したものの、前月比では若干ながら減少している)ことが、シンガポールにおける重油在庫を下支えする方向で作用したものと考えられる。結果として、シンガポールにおける重油在庫は比較的限られた範囲内で変動した。このようなこともあり、3月中旬から末頃にかけての同市場における高硫黄原油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄原油価格がドバイ原油価格を下回っている)及び低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油の価格がドバイ原油価格を上回っている)は上下に変動しつつも方向感に欠ける展開となった。しかしながら、3月末頃から4月中旬にかけては、ドバイ原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付かなかった結果、高硫黄重油とドバイ原油との価格差は拡大、低硫黄重油とドバイ原油との価格差は縮小すると言った、それぞれ傾向を示した。
2. 2024年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場等の状況
2024年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場においては、3月12日以降ウクライナが発射したものと見られる無人機等がロシアの製油所等をしばしば攻撃したことや、4月1日にシリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺が攻撃された結果イラン革命防衛隊幹部が死亡したことにより、イランがイスラエルに対し報復措置を実施する方針である旨表明したことに伴い、ロシア及び中東からの石油供給途絶懸念が市場で増大したこと、メキシコが原油輸出を削減する方針である旨4月1日に報じられたことに加え、中国経済が回復する兆しを見せつつあることを示唆する経済指標類が複数明らかになったことにより、同国石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となった他、4月5日には1バレル当たり86.91ドルの終値と2023年10月20日以来の高水準の終値に到達した(図15参照)。
ロシア南西部サマラ州にあるシズラニ(Syzran)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量17万バレル)及び同州のノボクイビシェフスキー(Novokuibyshevsky)製油所(操業者:同、同推定日量17万バレル)を3月16日にウクライナが攻撃した結果シズラニ製油所で火災が発生した旨報じられた(ノボクイビシェフスキー製油所への攻撃は阻止された他、ウクライナ軍はサマラ州にあるクイビシェフスキー(Kuibyshevsky)製油所(操業者:同、同推定日量14万バレル)を攻撃した旨主張したが、同製油所は攻撃を受けていない旨ロシア報道機関は伝えている)うえ、ロシア南西部クラスノダール地方にあるスラビャンスク(Slavyansk)製油所(操業者:スラビャンスクECO、同推定日量17万バレル)にウクライナから発射された無人機が飛来、迎撃されたものの落下した残骸により同製油所で火災が発生した旨3月17日に報じられたことに加え、3月18日に中国国家統計局から発表された2024年1~2月の同国製油所の原油精製処理量が1億1,876万トン(推定日量1,449万バレル)と日量ベースで前年同月比(1億1,605万トン(同1,440万トン))0.6%増加したことにより、同国石油需要拡大期待が市場で増大したこと、3月18日に中国国家統計局から発表された2024年1~2月の同国鉱工業生産が前年同期比7.0%の増加と2023年12月の同6.8%から伸びが加速した他市場の事前予想(同5.0~5.2%の増加)を上回ったうえ、2024年1~2月の同国固定資産投資が前年同期比4.2%の増加と市場の事前予想(同3.2%の増加)を上回った他、同時期の不動産投資が前年同期比9.0%、不動産販売が同20.5%の、それぞれ減少と2023年12月(不動産投資前年同月比24.0%、不動産販売同23.0%の、それぞれ減少)から減少率が縮小したこと、自国の減産目標(自主的なものを含む)遵守のため、今後数ヶ月間原油輸出を削減する(2024年2月の同国原油輸出は日量343万バレル(3月3日同国石油省発表)であったが、それを同330万バレルとする)旨イラクが3月18日に表明した(同国の2024年1~2月の原油生産量は目標を超過していた)ことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、3月18日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.68ドル上昇し、終値は82.72ドルとなった。また、3月19日も、この日米国商務省から発表された2月の同国新築住宅着工件数が前年同月比で10.7%増加の年率152.1万戸と市場の事前予想(同144.0万戸)を上回ったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速への期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり83.47ドルと前日終値比で0.75ドル上昇した。この結果原油価格は3月18~19日の2日間で1バレル当たり合計2.43ドル上昇した。ただ、3月20日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.68ドルと前日終値比で1.79ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2024年4月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年5月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり81.27ドル(前日終値比同1.46ドルの下落)であった)。また、3月21日も、この日スイス国立銀行(中央銀行)が市場の事前予想(据え置き)に反し政策金利を0.25%引き下げたことによりスイスフランが下落したうえ、3月21日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(3月16日の週分)が前週比0.2万件減少の21.0万件と市場の事前予想(21.3~21.5万件)を下回ったこと、同日全米不動産業協会(NAR)から発表された2月の同国中古住宅販売件数が前月比9.5%増加の年率438万戸と2023年2月(この月は同453万戸)以来の高水準となった他市場の事前予想(同394~395万戸)を上回ったこと、同日米国フィラデルフィア連邦準備銀行から発表された3月のフィラデルフィア地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)がプラス3.2と市場の事前予想(マイナス2.3~2.5)に反し上昇していたこと、同日米国金融サービス会社S&Pグローバルから発表された3月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が同国景気拡大と縮小の分岐点)(速報値)が52.5と2月の52.2から上昇した他市場の事前予想(51.7~51.8)を上回ったこともあり、米ドルが上昇したから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.61ドル下落し、終値は81.07ドルとなった。また、3月21日に発表された米国経済指標類が軒並み市場の事前予想よりも同国経済が良好である旨示唆していた流れを引き継いだこともあり3月22日も米ドル上昇が継続したことから、3月22日の原油価格の終値は1バレル当たり80.63ドルと前日終値比で0.44ドル下落した。この結果原油価格は3月20~22日の3日間で1バレル当たり合計2.84ドルの下落となった。
ただ、3月25日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、3月23日朝(現地時間)ロシアのサマラ州にあるクイビシェフ(Kuibyshev)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)においてウクライナから発射された無人機の落下後火災が発生、数時間後に火災は消し止められたものの、同製油所の原油精製処理能力の半分が停止した旨3月25日に伝えられたことにより、同国からの石油製品輸出の混乱を巡る懸念が市場で増大したこと、2024年第2四半期におけるOPECプラス産油国の自主的な減産遵守に向け、ロシア政府が同国石油会社に対し6月末までに原油生産量を削減するよう指示した旨3月25日に報じられたことにより、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.95ドルと前週末終値比で1.32ドル上昇した。しかしながら、3月26日には、前日の原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.33ドル下落し、終値は81.62ドルとなった。また、3月27日も、この日EIAから発表された米国石油統計(3月22日の週分)において、原油在庫が前週比317万バレル、ガソリン在庫が同130万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同100~128万バレル程度、ガソリン在庫同165~170万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加している他、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比211万バレル増加している旨判明したことにより、米国石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.35ドルと前日終値比で0.27ドル下落した。この結果原油価格は3月27~28日の2日間で1バレル当たり合計0.60ドルの下落となった。それでも、3月28日には、この日米国商務省から発表された2023年10~12月期の同国国内総生産(GDP)(確定値)が前期比年率3.4%の増加と2月28日に発表された改定値である同3.2%の増加から上方修正されたことにより、同国経済成長と石油需要の伸びに対する楽観的な見方が市場で増大したことに加え、3月28日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で506基と前回発表時比3基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は494基と同4基減少)となった旨判明したこともあり、この先の米国の原油生産の伸びの鈍化観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり83.17ドルと前日終値比で1.82ドル上昇した。なお、3月29日は聖金曜日(グッド・フライデー)に伴う休日であったことにより米国等の原油先物市場は休場となった。
ただ、3月31日に中国国家統計局から発表された3月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.8と2月の49.1から上昇、2023年9月以来の50超となった他、2023年3月(この時は51.9)以来の高水準に到達したうえ、市場の事前予想(49.9~50.1)を上回った一方、同日同国国家統計局から発表された3月の同国非製造業PMIも53.0と2月の51.4から上昇、2023年6月(この時は53.2)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(51.5)を上回ったことに加え、4月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された3月の同国製造業PMIが51.1と2月の50.9から上昇、2023年2月(この時は51.6)以来の高水準となった他、市場の事前予想(51.0)を上回ったこと、シリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺が攻撃され、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の上級司令官モハンマド・レザ・ザヘディ(Mohammad Reza Zahedi)氏を含む軍事関係者7人が死亡した旨4月1日に報じられた(イスラエルが攻撃した旨4月1日にニューヨーク・タイムズが報じた他、その後死亡者は軍事関係者7人、シリア民間人6人の計13人と伝えられた)ことに伴い、報復措置を講ずる方針である旨イラン外務省が4月1日に表明したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したこと、6月2日に実施される予定であるメキシコ大統領選挙投票日を控え、同国内に十分なガソリン及び軽油等の石油製品の供給を行なうため、今後数ヶ月間同国国営石油会社ペメックス(Pemex)は原油輸出を削減する計画である旨4月1日に報じられたことにより、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、4月1日の原油価格の終値は1バレル当たり83.71ドルと、前週末終値比で0.54ドル上昇した。また、シリアにあるイランの在ダマスカス大使館が4月1日攻撃されイラン革命防衛隊幹部他が死亡したことに対し、4月2日にイランの最高指導者ハメネイ師及びライシ大統領が報復措置を講ずる方針である旨表明したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大し続けたことに加え、4月2日にロシア南東部のタタルスタン共和国にあるタネコ(Taneco)製油所(操業者:タトネフチ(Tatneft)、原油精製処理能力日量36万バレル)がウクライナにより発射された無人機により攻撃された結果、同製油所で火災が発生(20分後には鎮火し、石油製品の製造には影響はない旨ロシア通信が同日報じている)ことにより、ウクライナによるロシアの石油関連インフラ攻撃に伴う同国からの石油供給への支障の可能性に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.44ドル上昇し、終値は85.15ドルとなった。さらに、4月3日には、この開催されたOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)において、従来の減産措置を継続することが事実上承認されるとともに、減産遵守徹底が事実上呼びかけられたことにより、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり85.43ドル前日終値比で0.28ドル上昇した。4月4日も、シリアにおけるイランの在ダマスカス大使館攻撃に対するイランの報復措置に備え、各国のイスラエル大使館を一時閉鎖する一方、イランとその支援者に対する作戦を実施するとともにそれを防止しようとする者に対しては攻撃を行なう旨イスラエルのネタニヤフ首相が同国の安全保障に関する閣議で表明した旨4月4日に報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、ウクライナは最終的に北大西洋条約機構(NATO)に加盟するものと考えている旨4月4日に米国のブリンケン国務長官が明らかにしたことにより、ロシアと西側諸国等との対立が先鋭化することに伴いロシアからのエネルギー供給が一層脅かされる恐れがあるとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.16ドル上昇し、終値は86.59ドルとなった。そして、4月5日も、シリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺への攻撃に伴いイラン革命防衛隊幹部等が死亡したことを受け、4月5日に親イランイスラム武装勢力ヒズボラの指導者ナスララ師が、イランによるイスラエルに対する報復の実施が迫っている旨警告したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大するとともに、週末を前にして原油の購入が進んだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり86.91ドルと前日終値比で0.32ドル上昇した。この結果原油価格は4月1~5日の5日間で1バレル当たり合計3.74ドルの上昇となった他、4月5日の原油価格の終値は2023年10月20日(この日の終値は同88.75ドル)以来の高水準に到達した。
4月8日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが発生したことに加え、4月10日にEIAから発表される予定である米国石油統計(4月5日の週分)で原油在庫が前週から増加しているとの事前予想が明らかになったことにより石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.48ドル下落し、終値は86.43ドルとなった。4月9日も、エジプトのカイロにおいて、パレスチナ自治区ガザ地区の休戦を巡る交渉が当事者間等で継続する中、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが継続したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり85.23ドルと前日終値比で1.20ドル下落した。この結果原油価格は4月8~9日の2日間で1バレル当たり合計1.68ドルの下落となった。しかしながら、4月10日には、イスラム武装勢力ハマスの指導者であるハニヤ氏の息子及び孫がイスラエル軍の空爆により死亡した旨4月10日にハニヤ氏が明らかにしたことにより、パレスチナ自治区ガザ地区の休戦を巡る協議が複雑化するとの不安感が市場で増大した他、4月1日夜(現地時間)にシリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺が攻撃されイラン革命防衛隊の上級司令官等13人が死亡したことに対し、今後数日以内にイランもしくはイランと関係のある組織がイスラエル政府もしくは同国の軍事関連施設を標的としてミサイルや無人機により大規模な攻撃を実施するものと関係者が認識している旨4月10日にブルームバーグ通信が報じたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり86.21ドルと前日終値比で0.98ドル上昇した。それでも、4月10日にEIAから発表された米国石油統計(4月5日の週分)で原油在庫が前週比584万バレル、ガソリン在庫が同72万バレル、留出油在庫同166万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(原油在庫同240万バレル程度の増加、ガソリン在庫同130万バレル程度、留出油在庫同120万バレル程度の、それぞれ減少)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことにより、同国石油需給緩和感が意識された流れを4月11日の市場が引き継いだことに加え、短期的には米国政策金利引き下げの必要はない旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が4月11日に明らかにした他、政策金利引き下げまでには時間を要することになるであろう旨同日同国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁も示唆したことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.19ドル下落し、終値は85.02ドルとなった。ただ、シリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺への攻撃によりイラン革命防衛隊幹部等が死亡したことに対し、早ければ48時間以内にイランがイスラエルに対し報復措置を実施する可能性がある旨4月12日に報じられたことにより、イランとイスラエルとの対立が先鋭化する(また、イランによる報復措置実施に際し、如何なる展開にも対応する準備は出来ている旨4月7日にイスラエルのガラント国防相が表明していた)結果、週末を控えて中東情勢が不安定化することに伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、4月12日にベーカー・ヒューズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で506基と前週比2基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は495基と同2基減少)となった旨判明したこともあり、この先の米国の原油生産の伸びの鈍化観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり85.66ドルと前日終値比で0.64ドル上昇した。
3. 原油市場における主な注目点等
足元石油市場においては、中東、及びロシアとウクライナ等を巡る政情不安に伴うこれら地域からの石油供給途絶懸念が原油相場に上方圧力を加えやすい状況となっている。
パレスチナ自治区ガザ地区の休戦を巡る米国、カタール、エジプト、イスラエル及びイスラム武装勢力ハマスとの間での交渉は、カタールの首都ドーハで2024年3月18日以降に再開されたものと見られる(同日イスラエル交渉団がドーハ入りしている)。ただ、米国が反対したとしても、イスラエル単独でハマスとの間での戦闘を継続する意向である旨3月22日にイスラエルのネタニヤフ首相が米国のブリンケン国務長官に伝えている。3月23日には、イエメンのフーシ派武装勢力が、中国が運行する石油タンカー「黄浦(Huang Pu)」(パナマ船籍)に対し5発のミサイルを発射、同船は小規模の被害を受けるとともに火災が発生(30分以内に鎮火)、救難信号を発信したものの、支援を要請することはなかった旨同日夜遅く(米国東部時間)に米国中央軍が明らかにした。カタールのドーハで実施されていたパレスチナ自治区ガザ地区の休戦を巡る交渉は不調で、イスラエルが交渉団を引き揚げる旨3月26日に同国が表明した(後に、カタールがハマスに対し十分な圧力を加えていない旨イスラエル側は明らかにしたと4月4日に報じられた他、交渉を仲介しているカタールは信用できない旨イスラエルのバルカト(Barkat)経済産業相が明らかにした旨4月4日夕方(米国東部時間)に報じられた)。パレスチナ自治区ガザ地区の人質解放等を巡る交渉はその後エジプトのカイロにおいて継続したものの行き詰まっている旨4月4日に報じられる(イスラエル側の事実上の妨害行為により休戦交渉が停滞している旨イスラム武装勢力ハマスが同日明らかにした)。4月7日には、パレスチナ自治区ガザ地区の南部から1部隊を除き、軍を撤収させた旨イスラエルが発表したうえ、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での停戦交渉がエジプトのカイロにおいて再開される旨同日伝えられた。ただ、パレスチナ自治区ガザ地区南部からの撤収は、イスラエル軍側の態勢を再構築することにより将来のガザ地区最南部の都市であるラファへの侵攻作戦実施のための準備をするためのものである旨イスラエルのガラント国防相が4月7日に表明した他、ラファへの侵攻日程は決定済である旨4月8日にイスラエルのネタニヤフ首相が表明した(それでも、ラファへの侵攻日程は未決定である旨イスラエルのガラント国防相が4月8日に米国のオースティン国防長官に説明した旨4月9日に伝えられる)。4月7日に再開されたパレスチナ自治区ガザ地区における休戦を巡るイスラエルとハマスとの交渉においては、基本的な事項につき関係者間で合意が成立した旨4月8日に報じられたものの、当該交渉は進展していない旨4月8日にハマス関係者が明らかにしており、交渉はハマスの要求を何も充足していないとして、ハマス側は不満を表明したものの、イスラエルによる提案を検討する意向である旨4月9日に伝えられた。
そのような中、シリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺に攻撃があり、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の上級司令官モハンマド・レザ・ザヘディ(Mohammad Reza Zahedi)氏を含む軍事顧問7人が死亡した旨4月1日に報じられた(イスラエルは攻撃の実施につき何も表明していないが、攻撃はイスラエルによるものである旨4月1日にニューヨーク・タイムズが報じている)こと(その後死亡者は軍事関係者7人、民間人6人の計13人と伝えられた)に伴い、報復措置を講ずる方針である旨イラン外務省が4月1日に表明した。4月2日にはイランの最高指導者ハメネイ師及びライシ大統領も報復措置を講ずる方針である旨明らかにした。また、シリアにおけるイランの在ダマスカス大使館攻撃に対するイランの報復措置に備え、各国のイスラエル大使館を一時閉鎖する他、イスラエルはイランとその支援者に対する作戦を実施するとともに、それを防止しようとする者に対し攻撃を加える旨同国の安全保障に関する閣議で同国のネタニヤフ首相が表明した旨4月4日に報じられた。4月5日には親イランイスラム武装勢力ヒズボラの指導者ナスララ師がイランによるイスラエルに対する報復実施が迫っている旨警告した。これに対し4月7日にイスラエルのガラント国防相は如何なる展開にも対応する準備は出来ている旨表明した。また、イスラム武装勢力ハマスの指導者であるハニヤ氏の息子及び孫がイスラエル軍の空爆により死亡した旨4月10日にハニヤ氏が明らかにした。同日には、今後数日以内にイランもしくはイランと関係のある組織がイスラエル政府もしくは同国の軍事関連施設を標的としてミサイルや無人機を使用し大規模な攻撃を実施すると米国等が認識している旨ブルームバーグ通信が報じた。そして、イランが早ければ48時間以内にイスラエルに対し報復措置を実施する旨4月12日に伝えられた。実際4月13日夜から4月14日未明(現地時間)にかけ、イラン革命防衛隊がイスラエルの施設を対象として無人機やミサイルを発射した旨発表している(イスラエルのネタニヤフ首相は300基超の無人機等が発射された旨4月14日に明らかにした)。
このように、中東を巡る情勢は複雑化しつつあるように見受けられる。今後も、イスラエルとハマスの対立がさらに強まるとともに、イスラエル、イスラエルを支援する米国、及びイスラエルとの外交関係の改善に向かいつつあったサウジアラビアと、ハマス、ハマスを支援するとされるイラン、同じくイランが支援するとされるレバノンの武装勢力ヒズボラ、イエメンのフーシ派武装勢力、及びイラクやシリア等を拠点とする他の親イラン武装勢力等との間での対立が先鋭化することにより、2023年3月10日に発表されたサウジアラビアとイランとの間での外交関係正常化の合意(サウジアラビアが2016年1月2日にテロ行為に関与した等の理由によりイスラム教シーア派指導者ニムル師の処刑を執行したことに対し、イランでデモ隊が抗議行動として在テヘランサウジアラビア大使館を襲撃したことから両国は2016年1月3日以降断交状態となっていた)後、それまでサウジアラビアが支援するハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で内戦状態となっていたイエメンにおいて両勢力間での和平の機運が相対的に高まりつつあったものの、再びハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で内戦状態に戻るとともに、フーシ派武装勢力によりサウジアラビアの石油関連施設へミサイルや無人機が発射される等する結果、サウジアラビアからの石油供給に支障が発生したり、紅海のみならずペルシャ湾等他の地域においてタンカーを含む船舶が拿捕されたり、もしくは攻撃を受けたりすることにより、中東産油国等からの石油供給を巡る懸念が一層拡大したり、さらにはイランがホルムズ海峡(2023年前半時点で原油及びコンデンセート日量1,470万バレル、石油製品同580万バレル、合計同2,050万バレル相当分の石油を積載したタンカーが通過する)を封鎖したりする(4月9日には、イラン革命防衛隊海上部隊司令官であるタングシリ(Tangsiri)氏が、アラブ首長国連邦(UAE)におけるイスラエルの存在がイランにとって脅威となっており、必要と見做せばホルムズ海峡を封鎖することもありうる(現在はそのようなことは実施しないことになっているが、敵がイランを妨害するのであれば、その方針は見直す意向であるとした)旨表明した)結果、相当量の石油供給が途絶する恐れがあるとの懸念が増大したりする(カーグ島を含めイランの主力石油積出港はホルムズ海峡内のペルシャ湾岸地帯に位置することもあり、イランが同海峡を封鎖する確率は高くないものと認識されてはいるが、実際に封鎖された場合世界石油需要の20%程度が影響を受けるなどするため、市場での懸念が発生しやすい)ことにより、原油相場に上方圧力が加わる可能性があるので、注意する必要があろう。
1月下旬から2月上旬にかけてのウクライナ関係者が発射したものと見られる無人機によるロシアの製油所等への攻撃は、その後しばらくの間は沈静化したように見受けられた。しかしながら、3月中旬以降再び活発化する様相を呈している。3月12日には、少なくとも9発のミサイルと25機の無人攻撃機がロシア各地を攻撃したとロシア国防省が発表、同国西部ニジニー・ノブゴロド州のノルシ(Norsi)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量32万バレル)及び同国西部レニングラード州キリシ(Kirishi)製油所(操業者:スルグトネフチガス(Surgutneftegaz)、原油精製処理量36万バレル)が標的にされたものと見られ、うちノルシ製油所では火災が発生するなど被害が深刻である(同製油所は操業を停止、なお、キリシ製油所は被害無しとされる)旨同日伝えられた。また、3月13日にロシアのリャザン(Ryazan)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量34万バレルであるが、通常時の原油精製処理量は同28万バレル前後と推定される)及びノボシャフチンスク(Novoshakhtinsk)製油所(操業者:ノボシャフチンスク石油精製、原油精製処理能力日量11.2万バレル)が、ウクライナ保安局が発射した無人機により攻撃された結果、火災が発生するなどして操業を停止した旨3月13日に報じられる(なお、その後ノボシャフチンスク製油所については操業を再開した旨3月13日に伝えられる)。さらに、3月16日には、ロシア南西部サマラ州にあるシズラニ(Syzran)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量17万バレル)及び同州のノボクイビシェフスキー(Novokuibyshevsky)製油所(操業者:同、同推定日量17万バレル)をウクライナが攻撃した結果シズラニ製油所で火災が発生した旨報じられる(ノボクイビシェフスキー製油所への攻撃は阻止された他、ウクライナ軍はサマラ州にあるクイビシェフスキー(Kuibyshevsky)製油所(操業者:同、同推定日量14万バレル)を攻撃した旨主張したが、同製油所は攻撃を受けていない旨ロシア報道機関は伝えている)うえ、ロシア南部クラスノダール地方にあるスラビャンスク(Slavyansk)製油所(操業者:スラビャンスクECO、同推定日量17万バレル)にウクライナから発射された無人機が飛来、迎撃されたものの落下した残骸により同製油所で火災が発生した旨3月17日に報じられる。3月23日朝(現地時間)にもクイビシェフ製油所においてウクライナから発射された無人機が落下した後火災が発生した旨報じられた(数時間後に火災は消し止められた旨伝えられる)。また、ロシアのリャザン製油所(3月13日に無人機攻撃により火災が発生したことに伴い6号機(原油精製処理能力日量17万バレル)及び4号機(同推定7.4万バレル)が操業を停止したとされる)は今週常圧蒸留装置4号機の稼働を再開、原油処理量が日量16.9万バレルと正常時の60%程度の稼働率となっている旨3月27日にロイター通信が報じた。他方、ロシアのサマラ州にあるクイビシェフ製油所はウクライナによる攻撃後全体の能力の半分に当たる能力相当分の施設の操業が停止したとされたが、被害を免れた精製施設も被害を受けた施設と技術的に連携していることから、精製能力全体の稼働が停止している旨3月28日にロイター通信から伝えられた。また、石油価格の上昇要因になりうるとして米国がウウライナに対しロシアにおける製油所等のエネルギー関連施設に対する攻撃を停止するよう要請した旨3月22日にフィナンシャル・タイムスが伝えたものの、ウクライナによるロシア製油所等への攻撃は正当化される旨3月22日にウクライナのステファニシナ副首相が表明した。そして、3月22日時点で、2024年初頭以降13ヶ所の主要製油所が(ウクライナが発射したと見られる無人機等により)攻撃され、日量48~90万バレルの原油精製処理能力が喪失された旨3月22日にブルームバーグ通信が伝えた。また、ウクライナが発射した無人機による攻撃に伴いロシア製油所の原油精製処理能力の14%程度の相当する日量90万バレル程度が稼働を停止している旨3月26日にロイター通信から伝えられる。さらに、4月2日にはロシア南東部のタタルスタン共和国にあるタネコ(Taneco)製油所(操業者:タトネフチ、原油精製処理能力日量36万バレル)がウクライナにより発射された無人機により攻撃された結果、同製油所で火災が発生した(20分後には鎮火し、生産には影響はない旨ロシア通信が同日報じている)。そして、4月4日には、ウクライナにより発射されたとされる無人機等の攻撃に伴い、ロシアの製油所の原油精製能力の少なくとも15%が影響を受けた可能性がある(2022年時点のロシアの原油精製能力は日量682万バレル程度と推定されるため、同100万バレル前後の原油精製能力が影響を受けた可能性があることになる)旨北大西洋条約機構(NATO)関係者が明らかにしている。他方、ロシア南西部オレンブルグ州においては雪解け水により記録的規模の洪水が発生した結果、同州にあるオルスク(Orsk)製油所(操業者:フォルテインベスト(Forteinvest)、原油精製処理能力日量12万バレルであるが、2023年の原油精製処理量は同9万バレルとされる)の操業が停止した旨4月6日に伝えられる。ロシア国内には十分な在庫があるため、同製油所の停止に伴う同国国内市場への影響はないものと予想している旨4月8日にロシアのインターファクス通信が報じているが、同製油所は4月8日に燃料出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言(ロシアエネルギー省は、同製油所は大部分がメンテナンス作業実施中であるため燃料供給への影響は限定的であるとした旨報じられた他、操業者のフォルテインベストは、同製油所は依然在庫から燃料を出荷している(但し出荷が遅延するかもしれない)旨発言したと4月10日に伝えられる)。また、ロシアのノルシ製油所は(ウクライナから発射された無人機による攻撃により破損した)常圧蒸留装置6号機はメンテナンス作業実施後2024年第2四半期に操業を再開する予定である旨4月10日に明らかにした他、ロシア南西部にあるボルゴグラード(Volgograd)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量日量30万バレル、2月3日にウクライナの無人機が落下した結果、火災が発生したとされる)の常圧蒸留装置5号機(無人機の落下により火災が発生した装置であるものと推定される)は2月21日に操業を再開し、現在設計能力で稼働していると関係筋が明らかにしたと4月10日に伝えられる。さらに、ロシア南西部ロストフ州の都市であるノボシャフチンスク(3月13日にウクライナによる無人機が同地にある製油所を攻撃した結果、短期間同製油所の操業が停止したとされる)にウクライナによる無人機が飛来したため撃墜した旨同日報じられる。
このように、ロシアにおいては、ウクライナによるものと見られる攻撃により複数の製油所等が被害を受けた結果、同国からの石油製品供給に支障が発生する状況となっている。今後も、ウクライナ等によるロシアの製油所等石油関連インフラへの攻撃が継続することにより、それら製油所等における石油製品の製造に支障が発生する結果、ロシアからの石油製品輸出が減少したり、ロシアからのガソリン輸入が増加したりする(夏場等に向けたガソリン需要増加に伴う国内需給引き締まり見込みのためロシアはガソリン輸出を3月1日より6ヶ月間に渡り禁止する旨2月27日に報じられた他、2月29日にはロシア政府もガソリン輸出禁止策の実施を認めたうえ、ウクライナによるロシアの製油所等の攻撃に伴い石油製品供給が不足した場合にはロシアがカザフスタンに対し10万トンのガソリンを供給するよう要請した旨4月8日に伝えられたものの、そのような要請はしていない旨ロシアのエネルギー省が4月9日に明らかにしている)ことにより、大西洋圏等の石油製品需給(また、ロシア産ナフサ等はアジアにまで輸出されているため、石油製品によっては太平洋圏の石油製品需給)を引き締める方向で作用する結果、欧米諸国及びアジアの製油所の春場のメンテナンス作業実施や装置不具合発生等による石油製品製造活動の不活発化と相俟って、石油製品価格が上昇する結果、原油相場にも上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
2024年6月2日に実施されるメキシコ大統領選挙投票日を控え、同国国内に向け十分なガソリン及び軽油等の石油製品の供給を行なうため、同国国営石油会社ペメックス(Pemex)は今後数ヶ月間同国からの原油輸出を削減する計画である旨4月1日に報じられた。また、ペメックスが新規に操業を開始する予定であるドス・ボカス(Dos Bocas)製油所(原油精製処理能力日量34万バレルで2024年4月上旬には操業を開始する旨同国のロペス・オブラドール大統領が3月12日に明らかにしていた)に原油を供給するために、最大日量43.6万バレルの4月分原油(重質高硫黄原油マヤ(Maya)、中質高硫黄原油イスムス(Isthumus)及び軽質高硫黄原油オルメカ(Olmeca)とされる)輸出を取り消すよう、ペメックス(経営陣)は同社取引部門に要請した他、同国のロペス・オブラドール大統領は近い将来同国の原油輸出は停止するであろう旨4月4日に明らかにしたと同日伝えられる。さらに、4月6日午後(現地時間)には、メキシコのカンタレル油田群生産関連施設におけるアケルB(Akel-B)プラットフォーム(操業者:ペメックス、原油生産量日量20万バレル、天然ガス生産量日量90万立方フィートとされる)において火災が発生した(同油田の原油生産量が日量2万バレル減少した旨4月9日に伝えられる)。そして、ペメックスは4月に続き、5月においても少なくとも同33万バレルの原油輸出削減を行う意向である旨4月8日に報じられる。メキシコで生産された原油の相当部分は米国メキシコ湾岸で操業する製油所に向けて輸出される(2023年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量63万バレルの原油を輸入したが、ペメックスが原油輸出を削減する旨表明した直後の4月5日の週の米国のメキシコからの原油輸入量は日量20.9万バレルと2010年6月4日以降の米国週間統計開始以降で最低水準に到達した)ことから、この先北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の接近に向け、米国を中心とした大西洋圏において、原油もしくはガソリンを含む石油需給の引き締まり懸念が市場で増大するとともに、原油価格に上方圧力が加わると言った展開も想定されうる。
世界経済要因面での中心は米国及び中国と言うことになろう。3月19~20日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては政策金利の据え置きが決定したものの、FOMC開催後の記者会見で米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、雇用が堅調であっても政策金利引き下げ開始延期の理由にはならない旨明らかにしたこと、併せて明らかになった同国金融当局関係者による2024年における政策金利見通しが、3回の政策金利引き下げ(0.75%の引き下げ)を示唆するなど、2023年12月12~13日に開催されたFOMCの際に明らかになった見通しから維持されたこともあり、市場の間で政策金利引き下げに対する期待が強まった。ただ、物価上昇の沈静化を巡る問題から、2024年末までの政策金利引き下げは1回だけと見ている旨アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が3月22日に明らかにした(2023年12月15日には2回と見込んでいる旨同氏は発言していた)旨同日夜(米国東部時間)に伝えられる。また、米国の物価安定性を完全に確保するため、政策金利の引き下げは慎重に実施する必要がある旨3月25日にFRBのクック理事が明らかにした。3月25日には、シカゴ連銀のグールズビー総裁が2024年末までに3回の政策金利引き下げを予想している旨説明した。さらに、国内総生産(GDP)及び雇用の堅調さが継続するとともに物価上昇が2024年末にかけ沈静化していくことを含め米国経済が想定通りに推移していくのであれば、政策金利の引き下げは2024年第4四半期に開始することが妥当であるものと考えている旨4月3日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした(併せて同氏は2024年の政策金利引き下げは1回となる旨改めて示唆した他、物価上昇率が目標の年率2%に収束するのは2026年に入った時点となる旨の認識を披露した)。4月2日には米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が、足元の物価上昇の沈静化ペースは想定通りであるが、さらなる物価上昇の沈静化の証拠が政策金利引き下げ開始には必要であるとして、政策金利の早急な引き下げには否定的である旨示唆した。同日米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁は、2024年末にかけての3回の政策金利引き下げは適切であると見られるものの、物価上昇沈静化ペースが緩やかでありかつ不安定であることから早期に政策金利引き下げを行なう必要はない旨明らかにした。また、同日には、FRBのクーグラー(Kugler)理事が、物価上昇の沈静化及び労働市場の状況が想定通りに推移するのであれば、2024年末までに幾分かの政策金利引き下げを実施するのが妥当となるであろう(しかし2月の物価上昇率は目標の年率2%を相当程度上回っていると認識している)旨明らかにしている。4月3日には、FRBのパウエル議長が、物価上昇の沈静化し続けていると確信を持てるようになるまでは政策金利の引き下げは開始すべきではない旨表明した。4月4日には、米国の物価上昇沈静化過程が停滞するのであれば、2024年末までに政策金利引き下げは開始されないかもしれない旨米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにした他、米国の物価上昇沈静化定着を確認するために、もう数ヶ月間待つ必要がある旨米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が表明した。また、同日には、米国の物価上昇沈静化を確認するために様子を見続ける必要がある旨米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が発言した他、米国の物価は沈静化に向けて進み続けるであろう旨同日米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにしている。さらに、米国の物価上昇率はなお高過ぎる旨4月4日に米国フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁が説明した。4月9日には、米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が、足元では2024年末までに1回の政策金利引き上げを見込んでいるものの、米国の物価上昇沈静化が進展せず、経済が堅調なままであれば、2024年末までの期間における政策金利引き下げを見送る可能性があるとの認識を示唆した。また、4月10日に発表されたFOMC議事録(3月19~20日開催分)において、米国の物価上昇率が沈静化し続けていることに対する確信が持てるまでは、政策金利引き下げ実施は妥当ではない一方、足元のデータは物価上昇率が目標である年率2%に向け持続的に沈静化しつつあるとの確信をもたらすものではないと多くの委員が認識している旨判明した。併せて同日米国商務省から発表された3月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.5%上昇と2月の同3.2%から上昇、2023年9月(この時は同3.7%上昇)以来の高い伸びとなった他市場の事前予想(同3.4%上昇)を上回った。このようなこともあり、2024年1~3月は米国の物価上昇は加速する方向に向かいつつある旨4月10日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした他、同日米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁も米国の物価上昇沈静化にまでは時間を要する可能性がある旨の見解を示した。加えて、短期的には米国政策金利に引き下げの必要はない旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が4月11日に明らかにした他、政策金利引き下げまでには時間を要することになるであろう旨同日同国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が示唆した。そして、高水準の物価上昇率と堅調な労働市場から、政策金利の早急な引き下げの必要性は認められない旨ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が明らかにしたと4月12日に報じられた他、政策金利引き下げには、米国物価上昇が沈静化に向かいつつあることを示す明確で説得力のある証拠が必要となると認識している旨米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が明らかにしたと4月12日に伝えられる。さらに、物価上昇沈静化が緩やかなペースで進行することから2024年の政策金利引き下げは1回にとどまる旨4月12日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が改めて説明した。そして、物価上昇沈静化の過程が緩やかであることや、労働市場や個人消費が堅調であることを踏まえれば、早急に政策金利引き下げを実施する必要性は全くない旨4月12日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにしている。
このように、3月19~20日に開催されたFOMCにおいては、政策金利は据え置きとされた他、物価上昇沈静化の過程が緩やかに紆余曲折を経つつ緩やかに進行しつつある様に見受けられる中、多くの米国金融当局関係者は早急な政策金利引き下げには消極的であることが示唆されている。そして、4月30日~5月1日に開催される予定である次回FOMCにおいては、政策金利が据え置きとなる確率が4月13日時点で94.1%となっている他、4月3日時点では61.8%に到達していた、6月11日~12日に開催される予定である次々回FOMCにおける0.25%の政策金利引き下げ決定確率が4月13日時点では26.9%へと低下(反面、4月3日時点では37.2%であった、政策金利据え置き確率が4月13日時点では71.7%へと上昇)、さらにその次のFOMC(7月30~31日開催予定)における0.25%の政策金利引き下げ確率が44.9%(同金利据え置き確率は43.5%)となるなど、政策金利引き下げ時期は事実上繰り下げられる方向に向かいつつあることが示されている。今後も米国金融当局関係者による発言によっては、政策金利引き下げ期待が市場で後退することにより原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることもありえよう。ただ、政策金利引き下げ期待(最終的には米国金融当局は政策金利引き下げへと傾くとの見方)も市場で根強い部分があるものと見られることから、米国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速観測とともに、原油相場に上方圧力を加わる場面が見られることもありうる。
また、4月中旬以降米国主要企業等の2024年1~3月等の業績等が発表されつつあるため、それら業績もしくは2024年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼす可能性もある。
2024年3月18日に中国国家統計局から発表された2024年1~2月の同国小売売上高は前年同期比5.5%の増加と2023年12月の前年同月比7.4%の増加から増加率が縮小した市場の事前予想(同5.6%増加)を下回った。しかしながら、3月18日に中国国家統計局から発表された2024年1~2月の同国製油所の原油精製処理量は1億1,876万トン(推定1日当たり1,449万バレル)と前年同月比(1億1,605万トン(同1,440万トン))から日量ベースで0.6%増加した。また、同日中国国家統計局から発表された2024年1~2月の同国鉱工業生産も前年同期比7.0%の増加と2023年12月の同6.8%から伸びが加速した他市場の事前予想(同5.0~5.2%の増加)を上回ったうえ、2024年1~2月の同国固定資産投資も前年同期比4.2%の増加と市場の事前予想(同3.2%の増加)を上回った他、同時期の不動産投資が前年同期比9.0%、不動産販売が同20.5%の、それぞれ減少となったものの、2023年12月(不動産投資前年同月比24.0%、不動産販売同23.0%の、それぞれ減少)からは減少率が縮小している旨判明した。さらに、3月27日に中国国家統計局から発表された2024年1~2月の同国工業企業利益は前年同月比で10.2%の増加となった。3月31日には、中国国家統計局が発表した3月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.8と2月の49.1から上昇し2023年9月以来の50超となった他、2023年3月(この時は51.9)以来の高水準に到達したうえ、市場の事前予想(49.9~50.1)を上回った一方、同日同国国家統計局から発表された3月の同国非製造業PMIも53.0と2月の51.4から上昇した他2023年6月(この時は53.2)以来の高水準に到達したうえ、市場の事前予想(51.5)を上回った。4月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された3月の同国製造業PMIも51.1と2月50.9から上昇、2023年2月(この時は51.6)以来の高水準となった他、市場の事前予想(51.0)を上回ったうえ、4月3日に財新伝媒から発表された3月の同国サービス業PMIも52.7と2月の52.5から上昇、2023年5月(この時は55.6)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(52.5)を上回った。他方、中国の製造業等における企業の大規模設備更新等に対し中国政府が資金的支援を実施する方針である旨4月11日に同国国家発展改革委員会の趙辰昕副主任が表明した。ただ、4月11日には中国国家統計局から発表れた3月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比0.1%の上昇と2月の同0.7%の上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同0.4%)を下回ったうえ、3月の同国生産者物価指数(PPI)が同2.8%の下落と2月の同2.7%の下落(市場の事前予想とは一致)から下落率が拡大した旨判明した。また、4月12日に中国税関総署から発表された3月の同国輸出(米ドル建)が前年同月比で7.5%、輸入が同1.9%の、それぞれ減少と、市場の事前予想(輸出同2.3%の減少、輸入同1.4%の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少していた他、3月の同国原油輸入が4,905万トン(推定日量1,158万バレル)と前年同月(5,231万トン、同1,235万バレル)比で6.2%の減少となっている旨判明した。他方、製造業の回復に勢いが増しつつあることを織り込んで、2024年の中国経済成長率見通しを従来の4.8%から5.0%へと上方修正する旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが4月10日明らかにした他、中国政府が供給体制の強化に対する支援等を行なうことに伴い、製造業における設備投資が活発化することにより、2024年の中国の経済成長率見通しを従来の4.2%から4.8%へと上方修正した旨米国大手金融機関モルガン・スタンレーも4月10日に明らかにしている。
このように、足元中国経済指標は引き続き同国経済回復状況がまだら模様であることを示しているものの、以前に比べれば中国経済指標類はどちらかというと同国経済が回復するとともに石油需要が上向く兆しを示している他、中国政府当局等も景気刺激策を講ずる用意がある旨示唆しているうえ、米国大手金融機関も中国経済成長率見通しを上方修正している。今後同国の経済指標類等が引き続き同国経済が回復しつつあるとともに石油需要の伸びが加速しつつあることを示したり、中国政府等がさらなる景気刺激策を講ずる旨表明したり、米国大手金融機関等が同国経済成長見通しを上方修正する旨明らかにしたりするようであれば、世界石油需給の引き締まり感が市場で一層強まることにより、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。
米国では、今後夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2024年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休(5月25~27日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月2日)に伴う連休(8月31日~9月2日)までである)が接近するとともに、製油所が春場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに原油購入を活発化させることから、季節的に石油需給の引き締まり感が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。
大西洋圏では公式と目されるハリケーン等の暴風雨シーズンの突入までにはなお若干の期間がある(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。しかしながら、現時点までに明らかになっている一部機関による2024年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、記録的な水準に近い頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表1参照)他、一部の暴風雨は6月1日以前に発生する可能性がある旨指摘されている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2023年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量63万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2023年は当該地域で日量186万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,293万バレル)の約14%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2023年の当該地域の原油精製処理能力は日量988万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,825万バレル)の約54%を占めた)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。
2024年4月3日に開催されたOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)においては、従来の減産措置を継続する旨事実上承認されるとともに、減産遵守徹底が事実上呼びかけられた。OPECプラス産油国の中では、2024年1~2月は少なくともイラクとカザフスタンの減産が遵守されていない状況であるとされた。両国は1月の原油生産目標を超過した部分につき、目標を達成すべく2月以降生産を調整させる旨発表した(イラクは2月15日に、カザフスタンは2月14日に、それぞれ発表した)。さらに、イラクは、自国の減産目標遵守のため、今後数ヶ月間原油輸出を削減する(2024年2月の同国原油輸出は日量343万バレル(3月3日同国石油省発表)であったが、それを同330万バレルとする)旨3月18日に表明した。しかしながら、3月においても、少なくともイラクとカザフスタンは減産遵守が不徹底な状況となっている(表2参照)。このため、イラク、カザフスタン及び新たに自主的に減産を強化するロシア(2024年第2四半期において新たに最大日量47.1万バレルの減産強化に向け、ロシア政府が同国石油会社に対し6月末までに原油生産量を削減(し日量900万バレルと)するよう指示した旨3月25日に報じられた)等を含むOPECプラス産油国の今後の遵守状況によっては、減産措置に対するOPECプラス産油国の遵守状況を巡り懐疑的な見方が市場で増大するとともに、原油相場に影響が及ぶといった展開となることも否定できないものと考えられる。
また、現時点の世界石油需給見通しに基づくと、自主的なものを含め、現在OPECプラス産油国が実施している(もしくは今後実施する予定である)減産措置を2025年末まで延長した場合、2024年は世界石油需要が石油供給を日量25万バレル程度上回る(表3参照)一方、2025年は世界石油供給が石油需要を日量20万バレル強程度上回るものと想定される(表4参照)。世界石油需要や石油供給は統計誤差等を含んでいる可能性がそれなりに存在することから、この程度の幅の供給不足及び供給過剰が見られる場合、世界石油需給は概ね均衡しているものと市場では認識されやすい(つまり原油価格への影響としては概ね中立的なものとなりやすい)が、世界石油需給バランス及び原油価格の安定を確保するためには、OPECプラス産油国は、少なくとも現在のところ2024年第2四半期、もしくは2024年末まで実施する予定である、自主的なものを含めた既存の減産措置を2025年末まで延長する(場合によっては、減産の強化、もしくは減産遵守の徹底を図る)必要性に迫られる可能性があることは示唆される。その上で今後の世界石油需要及び石油供給の修正等を考慮しつつ、OPECプラス産油国は原油生産方針につき検討していくものと考えられる。
また、最近(特に3月12日のウクライナによるロシアの製油所等に対する攻撃の再活発化以降)原油価格が上昇傾向を示しつつある状況に併せ、原油価格予想を引き上げたり、原油価格上昇を予想したりする、石油市場関係者が目立ち始めている。3月18日には、OPECプラス産油国による減産とウクライナによるロシア製油所等への攻撃に伴うロシアからの石油供給を巡る混乱により、2024年第3四半期の原油価格予想をブレントで1バレル当たり10ドル引き上げ90ドルとする旨米国大手金融機関モルガン・スタンレーが明らかにした。3月25日には米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、原油価格はファンダメンタル要因を超過して上昇しており、今やブレント原油価格は1バレル当たり70~90ドルの上限に向け地固めしている可能性が高い旨明らかにしたと3月25日に伝えられた。また、3月27日には、米国大手金融機関JPモルガンが、ロシアが実施する減産(2024年4~6月に渡り日量35~47.1万バレル)に対抗して石油需給を均衡させるような要因がなければ、ブレント原油価格は2024年4月に1バレル当たり90ドル、5月に同90ドル台半ば、9月には同100ドルに到達する(米国ガソリン小売価格は1バレル当たり4ドルに到達する)可能性がある(6月にOPECプラス産油国が減産を2024年末まで延長する旨決定するのであれば、原油価格の上昇は一層増幅される可能性がある)旨明らかにした。加えて、米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカは、世界経済見通し改善と在庫減少、OPECプラス産油国減産、地政学的緊張(米国とイラン、ロシア及びベネズエラとの間の緊張、フーシ派武装勢力による紅海周辺船舶に対する攻撃、ウクライナのロシア製油所攻撃等)により、2024年のブレント原油平均価格を1バレル当たり86ドル(夏場には同95ドルに到達)と従来の見通しである同80ドルから引き上げる(2024年のWTI原油平均価格は同81ドルと従来の同75ドルから引き上げる他、米国シェールオイル生産は鈍化すると認識する)旨明らかにしたと4月3日に伝えられた。4月9日には、地政学的リスク要因を理由として、2024年第2四半期のブレント原油価格を従来の1バレル当たり87.50ドルから同92.00ドルに、2024年第3四半期を同90.00ドルから同94.00ドルに、第4四半期を85.00ドルから87.50ドルに、2025年第1四半期を80.00ドルから82.50ドルへと上方修正する旨米国大手金融機関モルガン・スタンレーが明らかにしたと伝えられる(また、同社はOPEC減産、ロシア原油生産のある程度の下振れ、季節的な石油需要増加により、2024年第2及び第3四半期は需給が引き締まると予想している)。そして、4月9日には大手国際商品取引会社ビトルのハーディ最高経営責任者(CEO)が、2024年の世界石油需要は前年比日量190万バレル増加する(因みに4月12日に発表された国際エネルギー機関(IEA)のオイル・マーケット・レポートにおいては、IEAは2024年の世界石油需要が前年比で日量120万バレル増加するものと見込んでいる)他、原油価格は1バレル当たり80~100ドルの範囲で推移すると予想している旨発言した。このように、原油価格上昇予想や原油価格予想の引き上げが主要米国金融機関を含む石油市場関係者から頻繁に示されるようだと、原油価格の先高感及び原油価格に対する強気心理が醸成されるとともに、実際に原油相場が上昇しやすくなるといった展開となる可能性があるので、留意する必要があろう。
全体としては、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近することにより季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大する中、中東及びロシア・ウクライナにおける政情不安やメキシコの原油輸出削減方針を巡る状況の今後の展開次第では、これら地域からの石油供給への支障に対する懸念が増大するとともに原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。そのような中、米国金融当局関係者による同国政策金利引き下げを巡る動き、中国経済を巡る動向、OPECプラス産油国の減産遵守状況、石油市場関係者による原油価格見通し等が原油相場に影響するものと考えられる。
4. 世界石油市場における石油製品と原油との価格差を巡る一考察(重油及びナフサ)
2020年以降の新型コロナウイルス感染流行に加え2022年2月24日以降のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻は世界の石油製品価格にも大きな影響を与えた。ここでは、特に2022年から現在に至るまでの期間を中心とした(但し背景として説明が必要な場合には2022年以前の期間における動向についても適宜言及することとする)重油及びナフサの価格動向等について主に考察を加えることとしたいが、特に重油やナフサを含む石油製品の価格はその原料となる原油価格に左右される面も強いため、石油製品製造利幅の指標と見做されるところの、各石油製品と原油との価格差(そしてこの場合、世界の精製の中心である米国(ニューヨークもしくはメキシコ湾岸)、欧州(ロッテルダム)、アジア(シンガポール)の各地域における石油製品と原油との価格差)を中心に説明することとしたい。なお、原油価格は米国がWTI、欧州がブレント、シンガポールがドバイを、それぞれ使用するため、WTIの価格が、原油の流動性が限定されやすい米国内陸部に位置するオクラホマ州クッシングの石油需給を反映しやすい関係上、ブレント及びドバイの各価格に対して割安になりやすい分、米国の石油製品と原油との価格差が欧州及びシンガポールのそれに比べ拡大しやすい点に留意されたい。
重油については、2020年1月1日に実施される予定であった船舶用燃料の硫黄含有分規制強化(上限を質量比3.5%から0.5%へと引き下げ)を控え船舶用燃料需要が高硫黄重油から低硫黄重油や低硫黄軽油に移行するとの観測が市場で拡大したことにより、2019年後半を中心として世界的に低硫黄重油や低硫黄軽油と高硫黄重油との価格差(この場合低硫黄重油や低硫黄軽油の価格が高硫黄重油価格を上回る)が拡大する傾向を示した。しかしながら、この結果、高硫黄重油の割安感に米国メキシコ湾岸地域を中心とする製油所(この地域の製油所はベネズエラ産等の重質高硫黄原油を大量に処理するため従来から大規模な脱硫装置を設置していたところが多かったものの、米国の対ベネズエラ制裁によりベネズエラからの原油輸入が皆無となったことにより、脱硫装置の能力に余裕が発生する格好となっていた)が着目、高硫黄重油を購入し脱硫処理を施した後低硫黄重油として販売することで、収益を獲得するようになった。それに従って、低硫黄重油の供給が増加するとともに当該製品需給の緩和感が市場で醸成されたこともあり、低硫黄重油と高硫黄重油の価格差は縮小する傾向を示した。また、2020年においては、新型コロナウイルス感染流行による個人の外出規制及び経済活動の制限等に伴い石油製品需要が全般的に低迷したことに対応し製油所の稼働が低下したことにより、他の石油製品と併せて重油の製造活動が不活発化したものの、個人の外出規制の強化が需要の制約要因となったガソリンと異なり、船舶等に利用される燃料、そして重油の需要はそれほど落ち込まなかった(電子取引等を通じた消費者の購買活動はそれなりに継続したことに伴い物品の海上輸送が根強く行われたものと見られる)。このようなこともあり、かえって重油需給に引き締まり感が発生したことにより、例えば、高硫黄重油と原油との価格差(この場合2020年以降は米国、欧州及びシンガポールのいずれの地域も高硫黄原油価格が原油価格を下回っている)は、かえって縮小する傾向を示した。しかしながら、新型コロナウイルスワクチン接種が普及したこともあり各国及び地域の経済とともに石油需要が上向き始めるとともに、2022年2月24日以降のロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴い、同年の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン等乗用車用燃料需要期を控え、ロシアからの原油や石油製品の欧州等への供給混乱を含め西側諸国等を中心としてガソリンや軽油等石油製品需給の引き締まり感が市場で強まり始めると、欧米諸国等の製油所でのガソリンや軽油の生産が活発化するとともに重油の生産も促進されるようになった一方、発展途上国を中心として新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制が残った諸国あるいは地域もある等したことから、労働力を含めたサプライチェーン上の制約により、船舶往来の活発化に支障が発生したと見られることが、重油需要の拡大を抑制したと見られることから、高硫黄重油価格が原油価格を下回る幅は2022年後半に向け拡大傾向を示した(図16参照)。ただ、2022年6月から8月にかけては、原油価格が下落したことに従い、重油価格も下落したものの、特に米国のメキシコ湾岸地域においては、割安な高硫黄重油を高度化された施設で改質することを通じガソリン等の軽質製品の製造に傾注したものと見られることから、夏場のドライブシーズンに伴うガソリンの需要期到来と相俟って米国メキシコ湾岸地域における重油と原油との価格差は欧州及びアジアほどには縮小しなかった結果、2022年7~8月においては米国の重油と原油との価格差が欧州やアジアのそれを上回る場面が見られた。しかしながら、その後は米国において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入り始めたことにより、秋場に向け当該価格差が縮小する場面が見られた。
また、2022年10月5日にOPECプラス産油国が閣僚級会合を開催し、2022年11月から2023年12月にかけてのOPECプラス産油国の原油生産目標を2022年8月(及び10月)比で日量200万バレル削減する旨決定した。このため、サウジアラビアを初めとする中東湾岸OPEC産油国を中心として、製油所等において重油が多く製造される傾向のある重質原油の生産が削減される結果、重油の供給が抑制されるとともに同製品の需給が相対的に引き締まるとの観測が市場で増大したこともあり、10月以降、世界的に重油価格が原油価格を下回る幅は縮小し始めた。さらに、2023年2月5日を以てEU加盟国は海上輸送経由等のロシア産石油製品の輸入を禁止した他、主要7ヶ国政府(G7)及びEU等は同日を以てロシア産石油製品に上限価格(ナフサ及び重油等については1バレル当たり45ドル)を設定した。加えて、2023年の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が意識され始めた2月以降、製油所ではガソリンの製造が優先される反面重油の製造が劣後するとの見方が市場で強まった。そして、2023年の春場になると、中国の一部製油所が石油製品製造のため高硫黄重油を調達する(厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されつつあることにより中国の石油需要が増加するものと予想される中、十分な原油輸入枠が政府により付与されない同国一部製油所は代替として高硫黄重油を原料としたと指摘する向きもある)との見方が市場で発生したことが、北半球における製油所のメンテナンス作業実施に伴う石油製品製造活動の不活発化と併せ、重油需給の引き締まり感を市場で醸成させた結果、米国、欧州及びアジア市場における重油価格に上方圧力を加えた。また、サウジアラビアやクウェート及びUEA等一部OPECプラス産油国が2023年5月1日から12月末にかけ合計で日量116万バレルの自主的な追加減産を実施する旨4月2~3日に明らかになったこともあり、中東湾岸OPEC産油国を中心として重質高硫黄原油の供給が一層削減されるとの見方が市場で広がった。このような要因が、重質高硫黄原油価格に上方圧力を加えた結果、2023年3月から同年夏場にかけては米国、欧州及びアジア市場において高硫黄重油と原油との価格差は縮小する傾向を示した。それでも、その後夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越える(また、米国においては、2023年9月29日の週の同国ガソリン需要が日量801万バレルとこの時期としては2000年(9月29日の週において日量782万バレル)以来の低水準に到達しており、熱帯性低気圧「オフェリア(Ophelia)」衰退後の低気圧の来襲により9月下旬に同国北東部に大雨がもたらされるとともに一部地域で洪水等が発生したことに伴い個人の外出が敬遠されたことが影響したと示唆する向きもある)とともに、製油所でのガソリン製造が縮小する反面、重油の製造が相対的に拡大したことが、重油価格に下方圧力を加えた。また、2023年の夏場の高気温の時期が峠を越えるとともに、中東や南アジア諸国等において空調のための電力供給向けの発電部門における高硫黄重油の需要が減退したことから、アジア市場における高硫黄重要価格にも下方圧力が加わった。このため、2023月9月以降世界各地域の重油価格が原油価格を下回る幅は拡大し始めた。ただ、10月7日にイスラエル南部のガザにあるパレスチナ自治区を実質的に支配するイスラム武装勢力ハマスがイスラエルに対し大規模な攻撃を実施、イスラエル治安部隊との間で戦闘状態となった他、11月19日以降はフーシ派武装勢力が紅海周辺において航行する商業船舶等に対しミサイルや無人機を使用した攻撃を実施するようになった。このようなことから、船舶が紅海及びスエズ運河を経由する航路から喜望峰を経由する航路へと迂回するとともに航行距離が拡大することに伴い、欧州において船舶向けの重油需要が増加するとの観測が市場で増大したこともあり、米国への重油の流入が減少した結果、同国の重油在庫が2023年12月末にかけ減少傾向となったこともあり、米国での重油需給引き締まり感が強まったことから、米国の重油価格に上方圧力が加わるとともに、2023年12月には同国の重油と原油の価格差が大幅に縮小する場面が見られた。しかしながら、その結果かえって2024年1月には米国に重油が流入することとなったことにより、例えば高硫黄重油と原油との価格差は再び拡大する傾向を示している。
また、2022年2月24日以降のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻実施以降、ロシアからの欧州方面への天然ガス供給削減に伴う欧州そしてアジアにおける天然ガス需給引き締まり懸念が市場で強まったことにより、アジアにおいてもLNG価格が上昇傾向となった。このため、特に夏場の空調のための電力供給向けの発電部門での代替燃料として先進国を中心として低硫黄重油の需要が高まるとの観測が市場で広がったことにより、夏場の初期(2022年6~7月)においてはアジア市場において低硫黄重油と高硫黄重油(この場合低硫黄重油価格が高硫黄重油価格を上回っている)が拡大する場面が見られた(図17参照)。しかしながら、天然ガス価格上昇に伴い欧州を中心として天然ガス需要が抑制された一方、欧州における冬場に向けた天然ガス貯蔵が例年に比べ加速したことにより、天然ガス需給の引き締まり感が市場で後退したこと、夏場の空調のための発電向け燃料需要期が峠を越え始めたことにより、2022年8月以降は低硫黄重油と高硫黄重油の価格差は縮小し始めた。さらに、秋場の終わり頃には、冬場の暖房向け天然ガス需要の増加に伴う代替燃料としての低硫黄重油の需要促進観測が市場で発生したことが、アジア市場における低硫黄重油価格の上方圧力を加える場面も見られたが、果たして2022~23年の北半球の冬場は暖冬であったことにより、暖房用燃料需要が盛り上りを欠いたまま冬場は終わりを迎えたため、低硫黄重油と高硫黄重油の価格差の拡大も限定的な規模となったうえ、春場の暖房用燃料不需要期突入で価格差は縮小した。また、2022年11月6日にはKuwait Integrated Petroleum Industries Company(KIPIC)がクウェートのアル・ズール(Al Zour)製油所が第1段階(原油精製処理能力日量20.5万バレルの原油精製処理装置1基)の商業運転開始を発表したが、2023年3月7日には第2段階(同20.5万バレルの原油精製処理装置1基)の操業を開始した。さらに、同年7月6日には、3基目(そして最後)の原油精製処理装置(原油精製処理能力日量20.5万バレル)が操業を開始した(これにより同製油所の原油精製処理能力は同61.5万バレルとなった)旨明らかになった。そして、それに先立つ同年6月下旬には同製油所から2023年7~12月において新たに低硫黄重油を供給する意向が示されたこともあり、この先同製油所からアジアに向け低硫黄重油供給が増加されるとの観測が市場で強まった。このようなことから、低硫黄重油価格に下方圧力を加えたことにより、同年3月以降低硫黄重油価格は高硫黄重油価格に対し相対的に弱含む傾向が見られた。しかしながら、秋場のメンテナンス作業実施に伴う製油所の稼働低下により重油の製造が不活発化したことに加え、クウェートのアル・ズール製油所からの重油供給(低硫黄のものが中心と見られる)が低迷した(実際2023年10月9日にKIPIが数日中に同製油所での原油精製処理量が日量61.5万バレルに到達する旨発表したとから、3基目の常圧蒸留装置の操業が開始されたとされる7月6日以降も稼働が不十分であった結果同製油所での重油製造が制限されていた可能性がある)。それでも、10月9日以降もクウェートからの低硫黄重油の国外販売が拡大しているようには見受けられなかった(クウェートの既存のミナ・アルアマディ(Mina Al Ahmadi)製油所(原油精製処理能力日量46.6万バレル)及びミナ・アブドラ(Mina Abdullah)製油所(同27万バレル))において、どちらか、もしくは双方の脱硫装置に不具合が発生した一方、クウェート国内の電力供給を賄うための発電所や同国内の塩水淡水化装置において利用される重油について、環境規制に適合させるため低硫黄のものを出荷する必要があったことが影響している他、11月12日には装置の不具合によりアル・ズール製油所の稼働がほぼ停止した他、11月16日には同製油所で火災が発生したことが影響しているものと見られる)ことがアジア市場における低硫黄重油価格を下支えするとともに、低硫黄重油価格が高硫黄重油価格を上回る場面が見られた。それでも、アル・ズール製油所がほぼ完全な操業状態に到達した旨KIPIが12月3日に声明を発表したことにより、同製油所からの低硫黄重油供給増加観測が市場で発生したことから、2023年12月にはアジア市場における低硫黄重油価格に下方圧力が加わり始めた。それでも、2024年1月下旬においては、同製油所からの低硫黄重油の供給が左程増加していないと指摘する向きが出てきたこともあり、低硫黄重油の引き締まり感が市場で意識されるようになったこともあり、同年2月にかけ低硫黄重油価格に上方圧力が加わった結果、アジア市場における低硫黄重油と高硫黄重油との価格差が拡大する場面が見られた。しかしながら、2024年2月に入り同製油所からの低硫黄重油の供給が拡大しつつあるものと見受けられるようになったことから、同製品の需給緩和感が意識された他、発電部門(春場が接近し始めたことにより先進国を中心とする諸国において、暖房等空調のための電力供給向けの発電部門での低硫黄重油需要が低下した他、天然ガス(LNG)価格が下落傾向となったこともあり、割安感のある天然ガスが優先して調達された結果、低硫黄重油の購入が劣後しているものと見られる)及び、イエメンのフーシ派武装勢力による紅海周辺を航行する船舶への攻撃を回避するために喜望峰へと迂回した結果航行距離の拡大に伴い増加した船舶用の重油需要が、その後輸送期間の長期化に伴い船舶の燃料充填頻度が低下したことにより船舶部門における低硫黄重油に対する需要が沈静化し始めたことが、アジア市場における低硫黄重油価格に下方圧力を加えた結果、2024年2月から3月にかけての同市場における低硫黄重油と高硫黄原油との価格差は縮小する傾向を示している(それでも冬場の先進国等における暖房等の空調向け需要期が意識されたことが、2023~24年の冬場における低硫黄重油と高硫黄重油の価格差の縮小を阻む格好となっている)。
続いてナフサについて説明することとする。2020年12月14日に新型コロナウイルスワクチンの接種が開始されて以降、米国では個人の外出が回復傾向となったこともあり、ガソリン需要が上向きとなるとともに、ガソリンに混入されるナフサの需要も喚起されたことから、2022年第1四半期においては同国のナフサ価格は原油価格をそれなりに上回って推移した。ただ、2022年2月24日にロシアがウクライナに事実上侵攻した後、3月8日に米国等がロシア産の原油を含むエネルギー輸入の禁止を発表して以降、原油価格が上昇するとともに同国ガソリン小売価格が高騰した(2022年6月には全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり5.032ドルと1993年4月以降の全米平均ガソリン小売価格統計史上最高水準に到達した)ことにより、かえってそのようなガソリン小売価格の高騰で同国のガソリン需要が下振れするのではないかとの懸念が市場で発生した(そして実際2022年4月及び同年6~12月は同国のガソリン需要が前年同月を下回る状態となった)ことが、ガソリンに混入するナフサ需要に影響することを通じナフサ需給の緩和感を市場で醸成する格好となったことによりナフサ価格に下方圧力を加えた結果、米国におけるナフサ価格は2022年4月から2023年3月にかけ原油価格を下回ることとなった(図18参照)。その後全米平均ガソリン小売価格が下落するとともに夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が意識されつつあった2023年4月以降は、ガソリン需要は前年を上回るようにはなったものの、米国金融当局による一連の政策金利引き上げの影響もあり、同国経済成長が抑制されるとともにガソリン需要が引き続きもたつき気味となったことが一因となり、2023年1~3月にはガソリンの原料となるナフサ価格は原油価格を上回る場面が見られた(後述)ものの、そのような状態は持続せず、同年4月から11月にかけては再びナフサ価格は原油価格を下回る状態となった。
他方、2022年3月28日以降上海市を初めとした一部都市において、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めたことにより、中国においては、都市封鎖措置の実施を含む厳格な個人の外出規制及び経済活動制限等が実施されたことから、医療用機器及び消耗品等の需要が拡大したことがプラスチック等石油化学製品向けのナフサの需要を増加させたものの、個人の外出が厳しく規制されたことによりガソリンに混入されるナフサの需要が縮小したことから、結果としてアジア市場におけるナフサ価格には下方圧力が加わった(2022年の中国のナフサ需要(おもに石油化学製品製造向けと見られる)は前年比で12.1%増加の日量187万バレルであった反面、同国のガソリン需要(原料としてナフサが使用される)は同9.3%減少の同297万バレルであった)。また、2023年に入ってからは中国国内におけるナフサ分解装置の稼働率が上昇した(2023年の中国のナフサ輸入量は前年比で推定日量8万バレル程度増加したのに対し、同年の同国製油所におけるナフサ生産量は同推定50万バレルの増加となるなど、中国におけるナフサ分解装置に投入される原料であるナフサは中国が輸入等した原油を精製することにより供給されたものと推測される)ことが示唆される旨指摘されており、同国の石油化学製品輸入が限定される格好となった(2023年の同国のエチレン輸入量は推定213万トンと2019年の同251万トンに比べ約17%の減少となった)こともあり、(中国を除く)アジア地域における石油化学製品需要が不調となったことに伴い、原料となるナフサの需要が軟調になったものと見られたことが、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えた。結果として、同市場においては2022年4月以降ナフサ価格が原油価格を下回る状態が継続している。また、2022年は米国のガソリン価格高騰に伴う同国のガソリン需要の伸びの鈍化観測が市場で発生した(このため米国方面にガソリンを輸出している欧州のガソリン製造活動が軟化したことにより、ガソリン原料となるナフサの需要も下振れした)こと、さらに2023年はアジア方面からのナフサ需要が軟調となった(欧州はナフサをアジア方面に輸出すると言った側面があった)ことが、欧州市場におけるナフサ価格に下方圧力を加える格好となったことから、同市場においても、2022年3月以降ナフサ価格は原油価格を下回り続けた。
他方、ナフサ価格にはある程度の季節性が認められた。春場が接近するにつれ、欧米及びアジア諸国もしくは地域において気温が上昇するとともに、暖房用燃料である液化石油ガス(LPG)の需要が減退するとの見方が市場で強まる結果、LPGの価格が下落するとともに、石油化学原料向けにLPGとナフサとの間での価格面での競合が激化するとの観測が市場で増大したことが、ナフサの価格に下方圧力を加えた結果、2022年1~6月においては、米国、欧州及びアジアにおいてナフサ価格の原油価格を下回る幅は拡大する傾向を示した。もっとも、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあった米国においては、ガソリンへの混入に向けた需要が増加することにより、ナフサ価格に上方圧力が加わった結果、ナフサ価格は下げ止まる格好となり、結果として、米国におけるナフサと原油価格との価格差は欧州やアジアにおけるそれを上回る格好となった。しかしながら、2022年夏場のガソリン需要期が終わり2022~23年の冬場の暖房シーズンが接近するとともに暖房向けLPG需要が増加するとの見方が市場で強まることに伴い、LPG価格が上昇することにより、石油化学部門においては価格が相対的に割高なLPGよりも割安なナフサを利用しようとする動きが強まる結果、同部門でのナフサ需要が拡大するとともに当該製品の需給引き締まり感が市場で増大したことから、欧州、米国及びアジアのナフサ価格に上方圧力が加わるとともに、同製品価格の原油価格を下回る幅は縮小した。特に米国では2022年12月は下旬を中心として大寒波「エリオット(Elliott)」がテキサス州にまで南下するなど気温が相当程度低下したことにより、2023年1月上旬頃にかけ製油所の装置に不具合が発生したことから、原油精製処理活動が大幅に鈍化した(2022年12月30日の週の同国原油精製処理量は日量1,382万バレルとこの時期としては1993年(12月31日の週の同1,381万バレル)以来の低水準であった)他、その後も春場の製油所メンテナンス作業実施により石油製品製造活動が低迷したままとなった。このため、2023年の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入に向け操業が停止していない製油所におけるガソリン製造活動の活発化とガソリンに混入するナフサの需要増大観測が市場で増大したことにより、ナフサ価格に上方圧力が加わるとともに、米国ではナフサ価格が原油価格を上回る場面も見られた。また、欧州においては、2022年9月22日以降フランスで給与水準引き上げ等の労働条件改善を要求した労働者によるストライキが拡大、10月4日時点で同国の原油精製能力(2021年時点で日量114万バレルとされる)の65%程度に相当する日量74万バレル程度の原油精製能力を保有する製油所の稼働が停止した(なお、10月19日以降同国での製油所ストライキは収束に向かい始め、11月8日の同国フェイザン(Feyzin)製油所(操業者:トタルエナジーズ、原油精製処理能力日量11万バレル)の操業再開を以て、全ての製油所でのストライキは終了したとされる)ことから、ガソリン需給の引き締まり感が市場で発生したこともあり、フランス以外の製油所におけるガソリン製造活動活発化に伴いガソリンに混入するナフサの需要が拡大するとの見方が市場で強まるとともに、ナフサの価格に上方圧力を加えた結果、欧州では2022年10~11月においてナフサと原油との価格差が縮小する場面が見られた。その後は2023年の春場が接近することにより気温が上昇するとともに、暖房向けの燃料として利用されるLPGの需要が減退するとの観測が市場で強まることにより、石油化学部門においてLPGとナフサとの間での価格面での競合が激化、ナフサの需要が下振れするとともに、ナフサ需給の緩和感が市場で広がることにより、ナフサ価格に下方圧力が加わったことから、ナフサ価格は原油価格に比べ相対的に下落傾向が強まった(もっとも、2022年同様米国においては2023年の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入によりガソリンに混入するナフサの需要が堅調になるとの観測のもと、ナフサ価格は比較的下支えされた)。そして、2023~24年の冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油需要期が接近し始めると、LPG価格の上昇とともに、ナフサ価格も上昇し始めた。また、2024年1月中旬頃には米国テキサス州等のメキシコ湾岸地域にまで厳しい寒波が南下したことにより、同地域の一部製油所では気温低下に伴い装置に不具合が発生した結果操業が停止した。寒波が過ぎ去った後これら製油所は稼働を再開し始めたが、他の製油所において春場のメンテナンス作業実施や停電等に伴う装置の不具合発生等より操業が停止したこともあり同国製油所の原油精製処理量は落ち込んだままとなった(2024年2月9日の週の米国原油精製処理量は日量1,454万バレルと2022年12月30日の週(この週の原油精製処理量は同1,382万バレルであった)以来の低水準であった他、2月23日の週に至るまで日量1,454~1,467万バレルと概ね低迷したままであった)。このため、ガソリンを含む石油製品製造活動が不活発化したこともあり、米国のガソリン在庫は2024年2月2日から3月15日にかけ7週連続で減少した。このようなことから、2024年の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に向けての製油所でのガソリン製造活発化に伴うガソリン混入用のナフサ需要増加観測が市場で強まったこともあり、2024年1月から2月にかけての米国のナフサ価格は上昇し続けるなど、同時期下落傾向となった(春場のLPG不需要期に向けた石油化学部門でのLPGとナフサとの価格面での競合激化観測の強まりが背景にあるものと考えられる)欧州及びアジアとは対照的な動きを示している。
以上
(この報告は2024年4月15日時点のものです)