南アフリカ共和国における GTL 事情
レポートID | 1005993 |
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作成日 | 2002-03-30 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | 非在来型探鉱開発 |
著者 | |
著者直接入力 | 佐藤 幹基 森田 裕二 |
年度 | 2002 |
Vol | 35 |
No | 2 |
ページ数 | |
抽出データ | 南アフリカ共和国におけるGTL事情佐 藤 幹 基,森 田 裕 二*南アフリカ共和国(南アフリカ)は金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵まれたアフリカ諸国の中では経済的に非常に豊かな国である。1948年から人種隔離政策(アパルトヘイト)を施行したため,国際社会から強い非難を浴び,石油の禁輸が実施された(公式に禁輸が実施されたのは1979年?1994年の15年間)。同国は石油資源に乏しく,禁輸に対抗する目的から,1950年代からSasolが国内に豊富に存在する石炭を原料としたフィッシャー・トロプシュ合成反応によるFT合成油の生産を行い,また1990年代前半からはMossgasが同国南部の沖合ガス田のガスを原料としたFT合成油の生産を行っている。両社を合計した生産量は195千b/d(白油相当で137千b/d程度)である。南アフリカ政府の石油に関する規制は厳しく,石油の輸入管理,精製から販売までの各段階におけるマージン,小売価格の設定からガソリンスタンド数の制限に至るまで石油産業の細部に及んでいる。Sasol,Mossgasが製造する合成油は価格,製品流通の面で石油製品と共通であり,市場では石油製品と混合して利用されている。政府はGTL事業への支援策として,原油価格が一定水準を下回った場合に補助金を給付すること,及び卸売業者は南アフリカ市場におけるシェアに応じてFT合成油を石油製品と同一価格で引取る義務を課している。前者は現在16ドル/bblと規定されているが,昨今は高油価の環境下であるため,政府の支援は行われていない。1.はじめに近年,天然ガスの新たな利用方法として,天然ガスをいったん反応性の高い合成ガス(水素と一酸化炭素の混合気体)に転換した後,灯軽油などの中間留分,ワックスあるいはジメチルエーテル(DME),メタノール等を製造するGas to Liquids(GTL)技術が注目を集めている。石油公団では本邦企業が保有する天然ガス田の開発を促進する手段として,フィッシャー・トロプシュ合成反応(FT合成)によるGTL技術に関わる触媒,プロセス等の研究・*本稿は石油公団天然ガス・プロジェクト企画部佐藤幹基(E-mail:sato-mo@jnoc.go.jp),財団法人日本エネルギー経済研究所第2研究部石油グループ森田裕二(E-mail:ymorita@tky.ieej.or.jp)が担当した。開発を平成10年度から行っている。また海外で行われるGTLの商業プロジェクトに参画する本邦企業を支援するため,GTLの製造技術並びにプロジェクトの最新動向の調査も行っている。この一環として,平成12年度には財団法人日本エネルギー経済研究所に「各種GTL製品の製造技術の最新動向並びに市場性に関する調査」を委託した。現在商業規模で稼動中のGTLプラントを有する会社はSasol(南アフリカ),Mossgas(南アフリカ),Shell(マレーシア)の3社であり,特に南アフリカ共和国(以下「南アフリカ」)の2社は歴史的,技術的に他より先行している。このため同調査では同国への現地調査を実施した。本稿はこの調査結果及び最新の文献情報等を基に,南アフリカの石油並びにGTL事情についてまとめたものである。―59―石油/天然ガス レビュー ’02・3Q.南アフリカとGTL事業南アフリカはアフリカ大陸の最南端に位置し,金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵まれたアフリカ諸国の中では経済的に非常に豊かな国である。特に金の産出量は世界一で全輸出鉱石量の約60%を占めており,また石炭は世界第3位の輸出国として金に次ぐ2番目の外貨収入源となっている。南アフリカは1948年に人種隔離政策(アパルトヘイト)を施行し,国際社会から強い非難を浴びたことから,1961年にイギリス連邦を脱退し共和国となった。以降,世界から孤立し国連による制裁を受けながらもアパルトヘイトを維持していたが,1989年に大統領に就任したデ・クラークによってアパルトヘイトが撤廃され,1990年代前半に国際社会への復帰を果たした。南アフリカはわが国と同様に石油資源に乏しく,大半を輸入に依存しているが,アパルトヘイトの実施に伴い石油の禁輸が行われたことに対抗する目的から,国内に豊富に存在する石炭を原料としたFT合成油の生産を1950年代から行い,長年にわたり石油と混合して利用してきた。また,1990年代前半からは同国南部の沖合天然ガス田のガスを原料としてFT合成油の生産も行っている。表1は南アフリカ及びわが国におけるエネルギー需給等に関するデータの比較である。南アフリカは日本と比較して,国土面積が約3倍,人口は約1/3である。広大な国土のため輸送が重要なファクターとなっており,鉄道,道路及び空港といった各種輸送インフラが整備されていることから輸送用燃料の確保は同国にとって大きな課題である。南アフリカの一次エネルギーの供給量はわが国の約20%である。一次エネルギー供給に占める石油の比率は1970年代初期には20%前後まで上昇したが,現在では約10%程度と低い値になっている。これは石油資源に乏しいこともある表1 南アフリカと日本の一次エネルギー供給等の比較 日 本 376.5 126,570 5,356.1 構成比% 17.0 51.7 12.0 16.0 1.4 1.8 100.0 87.6 266.4 62.1 82.5 7.4 9.4 515.5 12,600 4,728 81.2 3.9 133.2 137.0 1,056,969 8,131 4.07 2.10 9.3 1,221.0 42,101 164.4 構成比% 81.5 10.4 1.5 3.3 0.1 12.4 109.374.6 9.5 1.4 3.1 0.1 11.4 100.0 南アフリカ 千km2 ×千人 10億US$ 百万トン × B/D 千B/D BCF 百万トン 百万トン 百万トン GWh トン/人 トン/人 トン/人 25,000 244 49.4 223.5 ― 153.5 200,422 4,479 2.60 0.25 7.9 積 人口 実質GDP(1999年)(1995年価格) 一次エネルギー供給(1999年) 石炭 石油 ガス 原子力 水力 再生可能エネルギー、廃棄物 供給計 石油 生産量(1999年) 輸入量(ネット)(2000年・推定) 天然ガス 生産量(1999年) 石炭 生産量(1999年) 輸入量 消費量 総発電量(1999年) 一人あたり電力消費量(1999年) 一人あたり一次エネルギー消費量(1999年) 一人あたり石油消費量(1999年) 一人あたりCO2排出量(1997年) 面(出所)IEA,“Energy Balances of Non-OECD Countries 1999-2000”等に基づいて作成 石油/天然ガス レビュー ’02・3―60―ェ,禁輸措置によって原油の確保が困難になり,政策的に石油から石炭へのエネルギー転換が図られたことも一因として挙げられる。石油の利用は基本的に輸送用に限定され,従来は重油等で賄われていた部分は石炭で代替された。このため,南アフリカの電力の92%は石炭火力によっており,現在では石油火力発電所,ガス火力発電所は存在しない。この結果,一次エネルギーに占める石炭の比率は約75%と,わが国の約17%と比較して高く,供給量は石油換算で約82百万tとわが国とほぼ等しい値となっている。また政府はアパルトヘイトの時代に軍用の軽油を確保する目的から,原子力発電への転換,小型軽油車の禁止,採鉱用大型車の電気駆動への転換等の方策により軽油需要の意図的な削減を実施した。一方,天然ガスは一次エネルギー供給の1.4%に相当するが,ほぼ全量がFT合成油を製造するMossgasに原料として供給されている。また石炭を原料として合成油等を生産する際に副生するメタンが,都市ガスの原料として利用されている。3.南アフリカの石油産業南アフリカの石油産業は1884年にケープタウンに最初の石油会社が設立され,製品輸入が開始されたことに始まる。当時,国内の石油製品は全てShell,BP,Mobil,Caltexの4社が卸売会社として輸入し,販売を行っていた。政府の石油産業に対する規制は1931年から行われたが,第二次世界大戦終了後の1947年,政府は液体燃料・石油法(「Liquid Fuels and Oil Act of1947」)を定めた。この法に基づく石油精製事業の振興策により,1954年にMobilによりダーバンに最初の製油所が建設され,その後1970年代初期にかけて合計3つの製油所が海岸に,さらに1つが内陸部に建設された(図1)。これらの2000年の石油精製能力は471千b/dである。1948年のアパルトヘイト実施に伴い,国際社会の石油禁輸の動きが1973年以降見られるようになった。公式な石油禁輸が実施されたのは1979年?1994年のほぼ15年にわたる期間である。政府は国連による経済制裁を耐え抜くため,(出所)Shell SA資料より抜粋図1 南アフリカの石油関連施設―61―石油/天然ガス レビュー ’02・3@経済水準の維持②情報の非公開を政策の中心に据えた。政府は1977年にPetroleum Product Actを制定,石油の禁輸に対抗するために石油に関する一切の情報(原油の供給ソース,原油の輸入量,製品需要等)を秘匿する政策を行った。その後,1989年のアパルトヘイト撤廃により石油の禁輸が解除されたことから,政府は1994年5月に石油情報の一部開示に踏み切った。これにより原油の輸入,精製能力,合成油の生産状況,会社の市場シェア等,南アフリカの石油産業の一端が外部にも知られることとなった。但し,このように情報に関する規制が緩和された後においても,政府はPetroleum ProductsActに基づいて引続き石油産業の管理,規制を行っており,その範囲は石油の輸入・精製から流通・販売に至る全ての段階が含まれている。行政指導を含めた政府の規制は鉱物エネルギー省(DME;Department of Minerals andEnergy)の管轄下にあり,その内容は石油の輸入管理,石油産業の収益管理,精製から販売までの各段階におけるマージンの設定,小売価格の設定から,ガソリンスタンド数の制限に至るまで石油産業の細部に及んでいる。反面,このような規制下で石油産業は企業間の過度な競争が排除され,また国内外からのさまざまな干渉から保護・隔離された状態にある。1998年12月,政府は「エネルギー白書」を発表し,今後のエネルギー政策の基本的な方向性を示した。中でも石油産業に関しては国際競争力のある産業の育成を目的として,最終的には完全な自由化を目指すとしたが,その前段階として黒人資本が25%以上のシェアを確保することなど,乗り越えるべきいくつかの里程標(milestone)を提示した。アパルトヘイトの時代に形成された社会的,経済的なひずみを克服するために,黒人資本の発展,雇用拡大を図ろうとする政府にとって,石油産業の規制緩和・自由化はむしろ企業間の競争を激化させ,企業の合理化,弱小企業の淘汰に結びつきかねない。このことから,一見相矛盾するとも見られる二つの政策をどのように調和させるかが大きな課題となっている。3?1 石油産業の構造図2に南アフリカの石油産業の構造に関する概念図を示す。精製会社には民族系のEngen,外資系のCaltex,BP,Shell,Totalの5社とSasol,MossgasのGTL製造会社の2社の計7社がある。このうちSasolはTotalとの合弁事業によるNatref製油所の運営も行なっている。精製会社の7社のうちMossgasを除く6社は石油製品の卸売会社でもある。卸売会社としては,これらの他にExel,Tepco,Afric Oilの卸売専業会社3社がある。卸売会社は精製会社から製品を引き取り,それぞれ自社のブランドで販売を行なっており,事業の性格としては日本の「元売」に近い。6つの製油所(7精製会社)の製品は,後述する海外の石油製品の輸入を仮定し算出した統一価格(IBLC:In BondLanded Cost)で卸売会社に販売されている。卸売会社はそれぞれのマークを掲げるガソリンスタンドを経営する小売業者(日本でいう「特約店」)に製品の販売を行なっている。ガソリン,灯油,軽油については,卸売価格を政府(出所)各種資料及び現地ヒアリング調査の内容に基づいて作成。図2 南アフリカの石油産業構造に関する概念図石油/天然ガス レビュー ’02・3―62―ェ定めている。また小売業者保護のため,スタンドで販売されるガソリンの小売価格も政府が地域ごとに定めており,値引きや掛売り,クレジットカードによる販売等は認められていない。卸売会社は基本的に政府の登録制(registered)のもとにあるが,これは卸売会社の油槽所までが保税の対象となっており,油槽所から出荷した時点で課税が行なわれることから,卸売会社が石油製品に係るさまざまな税の徴税・納税義務を負っていることによる。卸売会社はSasol,Mossgasの全生産品を市場シェアに応じて引取る義務があり,代償としてSasolは卸売部門への進出を規制され,Mossgasには卸売部門への進出が許されていない。また卸売会社は,政府,卸売会社,小売会社の3者の合意に基づき,小売部門に進出しスタンドを運営すること(垂直統合)を禁じられている。このため,卸売会社は自社の資金でスタンドを建設し,小売業者に運営を委託(貸与)するか,小売業者が建設したスタンドに自社のブランドをフランチャイズすることになる。3?2 原油,製品の輸出入表2に1995?2000年における南アフリカの相手国別原油輸入量の推移を示す。数値はSAPIA(South African Petroleum IndustryAssociation)によるもので,加盟会社の原油輸入量の合計であることから,1999年までの値には2000年に加盟したSasolの分は含まれていない。また,同国の国家石油備蓄を管理・運営している国営会社SFF(Strategic Fuel Fund)も原油を輸入しているが,具体的な統計データがないため,どの程度の輸入規模であるか明らかではない。原油の輸入相手先を国別にみると,イランからの輸入量が非常に大きい点が特徴的である。これは石油禁輸時代においてもイランからの原油輸入を継続していた歴史的背景があるため,結果として現在でもイランからの輸入に大きく依存する構造となっている。ただ,特にここ数年はサウジアラビアからの原油輸入量が増加しており,1999年には同国がイランに代わり南アフリカ最大の輸入相手国となった。Petroleum Products Act of 1977により原油,2000年 7,414 8,545 858 758 140 76 842 48 292 1999年 5,824 8,042 833 300 137 71 244 1,286 389 18 493 17,637689 19,662表2 石油輸入量の推移(単位:千トン) 1998年 6,757 3,346 2,094 897 413 354 345 313 787 633 287 305 649 17,1801997年 9,238 1,810 2,589 387 943 216 137 91 127 589 971 127 343 327 255 403 18,5531996年 9,301 384 2,863 765 299 131 910 1,046 541 186 16,4261995年 11,014 1,114 577 520 353 120 122 1,024 1,394 197 16,435―63―石油/天然ガス レビュー ’02・3サウジアラビア クウェート UAE イラク イエメン カタール オマーン ベネズエラ メキシコ ナイジェリア アンゴラ エジプト 北海/イギリス ロシア その他 国産(Oribi) 合計 千トン 出所:SAPIAラン イ\4 ガソリン,軽油の輸出量(単位:千KL)1997 794 4,4101996 886 2,131ソリン 軽 油 ガ(出所)South African Yearbook各年版 3?3 石油製品の製油所渡し価格現在,政府の価格規制の対象となっているのはガソリン,軽油,灯油の3油種であり,他の石油製品は対象外である。精製会社は卸売会社に対して政府が定めた統一価格でこれらの石油製品を販売する。この価格はIBLC(In-Bond-Landed-Cost)と呼ばれる。IBLCはシンガポールの3つの輸出製油所(旧Esso Singapore,旧Mobil Jurong,Singapore Petroleum Company Singapore)並びにバーレーンの製油所(Caltex Bahrein)のターム契約価格(Posted Price)の平均値の80%,シンガポールの平均スポット価格(Platt’s)の20%から構成されるFOB価格が基準となる。これらの製油所からの距離は,南アフリカの製油所が中東から原油を入手する際の距離(約7,000km)にほぼ等しい。また,これらの製品価格は,スエズ以東即ちアラビア湾,環太平洋の市場における需給に影響を受けることになる。従って仮に南アフリカが製品を輸入する場合,最も経済的に輸入し得る価格を反映しており,恣意的に操作できない価格でもある。IBLCは上記FOB価格にフレート,保険料,損耗料を加算したCIFコストに荷揚費用を加えた金額である(図3)。即ちIBLCは各製油所が海外の石油会社と同等の効率,経済性で運営さ石油製品の輸出入には制約が課されており,原油の輸入者は製油所を保有する者に限られている。石油製品の輸入も原則的には不可能に近い。石油製品の輸入制限は国内の石油精製業者における原油処理量の増加を目的としたもので,石油会社にはFT合成油の引取義務が課されていることもあり,製品輸入により更に原油処理量が削減されることのないように配慮した措置である。この点は「消費地精製主義」を戦後の石油政策の根幹に置いたわが国と相通じるものがある。製油所やFT合成油の製造設備には巨額の投資が行われていることから,短期的な不足を補う目的以外の製品輸入はこれらの資金の回収を損なうことになると政府は判断している。また,南アフリカはBotswana,Namibia,Lesotho,SwazilandのSouthern AfricanCustoms Union (SACU)加盟4ヶ国の需要を国内需要と同等に扱っており(表3),石油精製設備をもたないこれら4ヶ国の需要も含めた製油所のオペレーションが行なわれている。製品の輸出についても輸出許可が必要である表3 近隣4ヶ国を含めた主要製品の需要量 単位:千KL ガソリン 軽油 灯油・ジェット燃料 計 (2000年) 国内 10,396 6,254 2,877 19,527SACU 835 830 137 1,802計 11,231 7,084 3,014 21,329(出所)SAPIA資料より推定 が,国内需要が満たされ,上記4ヶ国の需要を満たしていれば通常は許可される。相当量の余剰製品が近隣諸国及び海外に輸出され(表4),外貨の獲得に貢献している。SAPIAは将来的にガソリンの国内需要はタイト化するものの,軽油については生産能力が需要を上回っており,余剰傾向が続くと予想している。従って,今後も軽油を中心とした輸出が続くものと思われる。なお,原油生産量が極めて少ないため,原油の輸出は行なわれていない。石油/天然ガス レビュー ’02・3―64―(出所)SAPIA図3 IBLCの算出方法に関する概念図黷スと仮定したコストを表している。南アフリカの精製業者は海外から原油を輸入し,シンガポール,バーレーンの同業者と同等の精製マージンで販売しなければならない。ただしIBLCに含まれる輸送コストは製品の輸送コストであり,原油の輸送コストよりは割高である点については有利に働いている。石油会社の事業収益は精製マージンと卸売マージンに大別されるが,政府は,前者を精製設備に対する投資,後者を販売・配送設備に対する投資の結果として,この両者をコントロールしていた。現在,精製マージンのコントロールは行なわれていないが,実態としてはIBLCに包含されているものと見なされている。IBLCは政府が定めており,石油卸売会社からみればどの製油所からも基本的に輸入価格と同等の価格で製品を調達できることになる。Sasol,MossgasのFT合成油もIBLC価格で取引されており,石油製品と価格的な区別は行なわれていない。4.FT合成油の生産4?1 FT合成油生産の経緯南アフリカでFT合成油の生産を行っているのは民間会社のSasolと国営会社のMossgasの2社であり,前者は石炭を,後者は天然ガスを原料として使用している。政府は1947年に定めた「液体燃料・石油法」に基づき,国内に豊富な石炭を利用して石炭液化油の製造を行なうことを決意した。製造方法としては,石炭を一旦ガス化し,得られる合成ガスからFT合成により液体燃料を製造する間接液化法が採用された。Sasolは1950年に南アフリカ政府の産業開発公社(IDC:Industrial DevelopmentCorporation)から資金供給を受けた国営会社として設立された。SasolとはSiud-AfrikaanseSteenkool-Olie-en-Gas Korporasie(SouthAfrican Coal, Oil and Gas CorporationLimited)の略称で,1979年に民営化され,同年9月にヨハネスブルグ証券取引所に上場された。Sasolは傘下に数十社の子会社/関連会社グループを保有しており,ヨハネスブルグにあるSasol Limitedが総本社としてグループ各社の管理,監督及び事業活動の調整等を行っている。表5は主要なグループ会社の事業内容である。Sasol設立の目的は,ドイツのFT合成法の南アフリカにおける実施権を1935年に手に入れていたAnglovaalの事業ライセンスを継承し,国産の石炭からFT合成油を生産することにあった。1951年にSasolburgでSASOLⅠの建設が開始され,1955年には商業ベースで合成油を製造する世界初のプラントの運転が開始された。南アフリカが1948年に実施したアパルトヘイト政策は国際社会から大きな非難を浴びた。1973年10月からは石油の供給ボイコットを受け,さらに1973年11月には第一次石油危機により原油輸入が困難になった。国連は1974年に投票権を停止し,国連安全保障理事会は1977年に同国に対する軍事物資の供給を世界的に禁止した。石油に関しても禁輸措置が講じられたことから,政府はFT合成油製造能力の拡充を検討せざるを得なくなった。1974年11月にSASOLⅡの建設が決定され,Secundaにおいて1976年に着工,1980年に運転が開始された。1978年12月末にイラン危機が発生し,南アフリカへの主たる原油供給国であるイランの政治体制が崩壊するに及び,政府はFT合成油製造能力の更なる拡充を決意し,1979年にはSASOLⅡに隣接しSASOLⅢの建設が開始された。SASOLⅢはSASOLⅡの全く同じ仕様であることから工期も短く,プラントは1985年からフル稼働に入った。また,1980年同国南部Bredashop BasinでF-Aガス田,1984年にE-Mガス田が発見された。政府は天然ガスを原料とするFT合成油製造プラントの建設を決定し,1987年にMossgasプロジェクトが発表された。MossgasはSasolの技術供与を受け,1988年3月にMossel BayにおいてGTLプラントの建設が開始された。1992年3月にガスの生産が開始され,1992年6月に陸上プラントが竣工,1993年1月にはフル生産となった。その後,SASOLⅠはSasol Limitedの全額所有会社としてSasol Chemical Industries―65―石油/天然ガス レビュー ’02・3ホ炭の採掘を行い,SasolburgおよびSecundaにあるSasolのプラント向けに石炭を供給している。1999年度は,4,390万トンの石炭をSecundaのSasol Synthetic FuelsのプラントとSasolburgのSasol Chemical Industriesのプラントに供給した。また,1997年には石炭の輸出事業を開始し,1999年度ヨーロッパおよび極東向けに310万トン輸出を行った。 ecundaプラントは,石炭を原料として合成液体燃料,パイプラインガスおよび化学原料を商業生産している世界で唯一のプラントであり,Sasol Miningより供給される石炭を原料として1999年度は,約680万トンの合成液体燃料等を生産した。合成液体燃料はSasol Oilおよび国内の石油会社,化学原料はそのほとんどをSasol Chemicalに販売している。 Sasol Synthetic Fuelsより購入した化学原料をSasolburgプラントで加工し200種類を超える化成品を製造し,世界80カ国以上の国に販売を行っている。 SPG,ガソリン,燃料用アルコール,照明用パラフィン,ジェット燃料,軽油,重油等の液体燃料,燃料用ガスおよび潤滑油の販売を行っている。Sasol Oilが販売している液体燃料の約31%は原油を精製した石油製品であり,国内にあるただ一カ所の製油所(Natref oil refinery)で精製されたものである。そして残りがSasol Synthetic FuelsのGTL液体燃料である。 Lンジニアリング部門,研究・開発部門,ベンチャー部門の三部門体制でSasolグループのプロジェクト案件に対してF/S,投資評価,事業評価等を行い,グループ全体に亘る調整も含めプロジェクト実現まで技術的側面よりグループ各社のサポートを行っている。 エ995年に新しく設立され,世界各地(モザンビーク,コンゴ等)において石油,天然ガスの探鉱・開発および生産を行っている。有望鉱区を厳選した上で経験豊富なメジャーズ等と組んで投資する戦略をとっており,特にSasolのGTL技術を即利用できる天然ガスの開発に重点を置いている 1asolのFT法(Sasol Slurry Phase Distillate法)によるGTLプロジェクトをカタール,ナイジェリア等で検討している。プラント規模は34,000B/Dで,生産開始は2005年の予定である。 シェブロンとは2000年10月に「サソール・シェブロン」を設立し,今後10年間で50億ドル超を投資する予定と発表している。 S表5 Sasol傘下の主要なグループ会社 主 な 事 業 内 容 会 社 名 Sasol Mining (Pty) Limited asol Synthetic Fuels (Pty) Limited S Sasol Chemical Industries Limited asol Oil (Pty) Limited Sasol Technology (Pty) Limited Sasol Petroleum International (Pty) Limited Sasol Synfuels International (Pty) Limited S(出所)Sasol Annual Report 1999を基に作成 石油/天然ガス レビュー ’02・3―66―\7 SASOLに供給される石炭の性状 Bosjesspruit 10,300 5,720 21.5 57.3 1.3 4.3 2.0 13.6eating Value BTU/lb Kcal/Kg Ash (dry basis) % Carbon Sulphur Hydrogen Nitrogen Oxygen(出所)D. Oliver, Oil and Gas Sigm 8,380 4,660 35.9 50.8 0.5 2.8 1.2 8.8 HFinancial Times Business Informationfrom Coal, の操業にあわせて1953年に操業が開始された鉱山であるが,閉山に近づいており代替としてモザンビークからパイプラインで天然ガスを輸入し原料として使用する方針が決定されている。4?3 FT合成油の生産技術間接液化法ではまず石炭をガス化し合成ガスを製造する。SasolはLurgi(独)が開発したガス化炉を採用している。表8はLurgiガス化炉により生成される合成ガスの組成である。このガス化炉は酸素と水蒸気を吹き込み,高温かつ20気圧という高圧で操業する。このため石炭の投入量を増やすことが可能で,合成工程で昇圧の必要が無いという利点があるとされる。また,Lurgiのガス化炉は水素/一酸化炭素比がFT合成の際の所要比率(≒2)とほぼ同じであるため,水素を増やす目的で二次的に水蒸気を吹き込み一酸化炭素と反応させる“水-ガスシフト反応”の工程を省くことが出来る。ガLimited(SCI)となり,石炭化学(ワックス製造を含む)に特化するために1993年にはFT合成油の製造を中止した。現在ではFT合成油の生産はSecunda(運営会社;SSF- SasolSynthetic Fuels)のみで行いSasolburgは石炭からさまざまな化学品を生産する石炭化学コンプレックスになっている。4?2 FT合成油原料用石炭の生産表6に示すように1999年の南アフリカの石炭生産量は1.5億t,うち火力発電用が約60%を占めており,約30%,年間約4,600万tがSasolの石炭化学用あるいはFT合成油の生産用に使用されている。Sasolのプラントに石炭を供給しているのはSasolの子会社のSasol Mining(Pty)Ltd.でSecunda炭鉱(Brandspruit,Bosjesspruit,Middlebult,Twistdraai)とSigma Colliery炭鉱の坑内掘り計5鉱山,ならびに露天掘のSyferfontein炭鉱の計6鉱山を有している。Sasol Miningが生産する石炭のうちTwistdraai炭鉱の品位の良いものは一部輸出が行われているが,大半は表7に示すように灰分が多く,発熱量も低いので一般には向かない。因みに,表6に示したSasol向けの石炭価格を約10USドル/tで換算すると,Sasolが使用する原料の価格はBTU換算で0.44?0.54ドル/MMBTU程度となる。Sasolburgにある旧SASOLⅠにはSigma炭鉱から,Secundaにある旧SASOLⅡ,Ⅲには他の5鉱山から原料の石炭が供給されている。年間使用量はSASOLⅠで約600万t,旧SASOLⅡ,Ⅲで約4,000万tである。Sigma炭鉱はSASOLⅠ表6 石炭(瀝青炭)の需給と価格 1998年 1999年 生産量 価格 生産量 価格 発電用 SASOL 工業用 その他 合 計 出所:South African Coal Industry, Barlow Joker Pty. Ltd.ランド/トン US$/トン 7.57 10.07 20.79 13.54 9.53千トン 93,261 54,222 11,338 6,615 165,436比率% 56.4 32.8 6.9 3.9 10041.31 54.92 113.45 73.86 52.02千トン 93,355 46,558 8,740 4,809 153,462比率% 60.8 30.3 5.7 3.2 100ランド/トン US$/トン 7.02 9.49 33.82 11.95 8.5842.95 58.1 207 73.12 52.53―67―石油/天然ガス レビュー ’02・3\9 Sasolプロセスの製品収率 Arge 管状固定床式 (低温型) 単位:% Synthol 循環式流動床 (高温型) C2-C4オレフィン C2-C4パラフィン ガソリン(C5-C12) 軽油(C13-C18) 重質油とワックス(C19+) 水溶性含酸素化合物 (出所)Sasol4 4 4 18 19 48 37 24 6 36 12 9 6FT合成反応器には反応温度が330?350℃程度の高温型反応器と180?250℃程度の低温型反応器がある。表9に示すように低温型反応器では主に軽油,ワックスが生産される一方,高温型反応器では主にガソリンが生産され重質油・ワックスは殆ど生産されない。また,C2-C4オレフィン,C2-C4パラフィンも多量に生成するので,これらを原料として利用し得る化学産業が下流部門に存在することが望ましい。同一留分の性状を比較すると,表10に示すように低温型反応器の方がパラフィン分に富み,オレフィン分,芳香族分が少ない傾向にある。また,アルコール等の含酸素化合物の量も少ない。高温型反応器はガソリンの収率が高い反面,製品はオレフィン分が多く,ガソリンに適した性状とは言い難い。また,軽油留分は,オレフィン分,芳香族分が多いためセタン価が低いという難点がある。タン メ表8 Lurgiガス化炉からの合成ガス組成 Sigma Coal 26.4 9.7 O2+Steam Feed Coal Ash, Wt% Moisture, Wt% Gasifying Medium Raw Gas mol% 16.4 39.4 11.3 0.4 32.5 2.4 280Punrified Gas mol% 24.8 59.5 14.0 0.8 0.9 2.4 409CO H2 CH4 N2+Air CO2 H2/CO Ratio HHV, BTU/scf Gas Produced (出所)Perry Nowacki, Coal Gasification Procss, Noyes Data Corporation 1981ス化炉の熱効率は90%に近く,生成ガスから水蒸気として回収される熱量を含めると効率は97%程度に達する。石炭の間接液化における問題の一つはガス化工程,FT合成工程の両段階で発生するメタンの処理にあり,Lurgiガス化炉におけるメタン発生量は10?13%に及ぶ。メタンはFT合成工程では不活性で反応に寄与しないため,テ?ルガスとして回収,除去される。また,ガス化炉からのガスは,アンモニア,タ?ル,フェノ?ル,硫黄分(硫化水素)等を含むために次のFT合成工程における触媒の被毒を防止する目的から,除去する必要がある。これらの除去された不純物はいずれも化学品や原料としてさまざまな用途に利用されている。合成ガスは次いでFT合成反応器に送られる。Synthol 循環式流動床(高温型) C13-C18 C5-C12 Arge 管状固定床式(低温型) C13-C18 C5-C12 29 64 0 744 50 0 613 70 5 1215 60 15 10表10 Sasolプロセスの製品組成 パラフィン オレフィン 芳香族分 含酸素化合物 (出所)Sasol %石油/天然ガス レビュー ’02・3―68―i出所)Sasol図4 Sasolの反応器の概念図Gasification ProductSolventsChemical Feedstocks7%7%16%図5にSynthol反応器の概念図を示す。Synthol反応器はガソリンと軽油の生産比率を図4にSasolの低温型反応器(LTFT:反応温度?250℃)と高温型反応器(HTFT:反応温度?350℃)の概念図を示す。SASOLⅡとⅢ,Mossgasでは中間留分生産型(低温型)のArge 固定床型反応器は採用されず,ガソリン生産型である流動床のSynthol反応器(高温型)に統合された。これはArgeの固定床では発熱反応に伴い発生する熱を触媒から除去するのが難しく,除熱に関する制約からスケールアップが困難であったためと思われる。触媒としては鉄系の触媒が使用されている。高温型反応器が採用されたのは,南アフリカでは軽油を軍事用に確保する目的から民生用自動車燃料としてガソリンを主体とする政策が取られたためで,ガソリンの生産量を重視し,ある程度品質を犠牲にした結果と言える。SasolによるとSecundaにおける製品の収率は以下のとおりで,白油の収率は約64%となっている。White Products Heating FuelsHeating GasBlack Products(Tar and Pitch)64%1%3%2%(出所)R. F. Probstein, R. E. Hicks, Synthetic Fuels,pH Press図5 Synthol反応器の概念図―69―石油/天然ガス レビュー ’02・30:20から50:50へと変更し得るという生産の柔軟性に特徴がある。また反応器の径を拡大することによりスケールアップすることができ,投資コストの低減が可能となる。反面,触媒による磨耗の問題があるとされる。建設当初,Secunda(旧SasolⅡ,Ⅲ)には6,500b/dのSynthol反応器がそれぞれ7基ずつ,Mossgasには7,500b/dの反応器が3基設置されていた。現在ではSecunda の反応器は,新しく開発されたSAS(Sasol Advanced Synthol)反応器に全換されており,8基のSAS反応器が稼動している(11,000b/d×4基,20,000b/d×4基)。4?4 FT合成油の生産能力南アフリカの石油精製能力は,経済成長に伴う国内石油需要の増大を背景に徐々に拡張が行われ,1998年に4製油所合計で471千b/dとなり,現在に至っている。一方,FT合成油の生産能力は原油処理能力換算で195千b/dである。このうち旧SASOLⅡ,SASOLⅢを母体とするSasol Synthetic Fuels(Pty)Limited(SSF)の生産能力は原油処理能力換算で150千b/dであり,FT合成油(白油)の生産能力はこの約70%,105千b/d程度と見られる。Mossgasの原油処理能力換算値は45千b/dで,FT合成(白油)油生産能力は約32千b/dであるため,両社合計で137千b/dがFT合成油(白油)の実生産能力であると考えられる。南アフリカの石油製品需要の約80%は輸送用燃料であるガソリン,軽油であり,これに灯油,ジェット燃料油を加えた白油の比率は90%以上となる。このため石油精製における熱分解,FCC等の分解設備能力は合計約186千b/dと,トッパー能力に対する比率では約40%に近い値となっている。しかし石油精製における分解設備だけでは白油需要の全てはまかないきれなく,この部分をSasol,MossgasのFT合成油が補い,全体の需給バランスが保たれている。参考までにわが国の2001年7月末現在のトッパー能力は4,953千b/d,分解設備能力は1,011千b/dで,分解設備能力比は約20%である。製油所から出荷された石油製品は,全国に約200ヶ所ある石油会社所有の油槽所を通じて,全国約4,700ヵ所のガソリンスタンドあるいは直接需要家の元へと供給されている。また,SACU加盟4ヶ国に対してもガソリン,軽油を中心に製品の輸出が行なわれている。SasolやMossgasが生産する合成油も品質上石油製品と全く同等に扱われており,油槽所段階あるいは末端市場において石油製品と混合され利用されている。5.FT合成油に対する政策FT合成油は,設備の建設に係る初期投資が巨額であることから生産コストが高くなるが,南アフリカ国内ではFT合成油は石油製品と全く同等の扱いを受けており,販売価格も同一である。従って,既存の石油製品と競合するためには,FT合成油の生産事業に対してある程度の補助,支援が必要となる。政府によるFT合成油産業の保護政策としては,より安価な石油製品と競合するための補助金である「Tariff Protection」,生産されたFT合成油の需要確保のため石油会社が市場シェアに応じて製品の購入義務を負う「Sasol SupplyAgreement」(Mossgasも同様)等がある。こうした政策を実施することにより,政府は国内の石油流通構造の中でFT合成油のシェア確保を図ってきた。5?1 Tariff Protection「Tariff Protection」とは,FT合成油生産会社であるSasol,Mossgasに支払われる補助金である。Tariff Protectionは,まず原油価格にFloor Priceと呼ばれる下限値を定め,ガソリン及び軽油のIBLCから一定のフォーミュラにより逆算されたDubai原油の価格(すなわち,その時点で石油会社が実際に購入する原油価格の水準)がその下限値を下回った場合,その差額を基に補助金を算出し,FT合成油生産会社に支払うシステムである。月毎の補助金額はIBLCをベースに算出されているため,国際石油製品の市況の動向により変動する。Floor Price は1989年の開始当初21.85ドルとされたが,最初の見直しが同じ年に実施された。石油/天然ガス レビュー ’02・3―70―ュ府のコンサルタントは,IBLCに基づく過去の製品価格と原油価格との関係を調査し,原油価格が23ドル/bblを下回った場合,何らかの支援を行なう必要が生じるとの報告を行った。これによりFloor Priceは23ドル/bblと定められ,原油価格との差分がSasolに援助されることになった。1990年代に入り,Sasol並びにMossgasの経営が次第に軌道に乗るにつれ,政府はこのTariff Protectionという年間10億ランド(120億円;1ランド≒12円)を超える補助金制度の見直しを改めて検討し始めた。Floor Price引き下げによる補助金の調整は1993年から行なわれていたが,1995会計年度(6月まで)におけるSasolへの補助金額は28億ランド(336億円),1989年からの累計額は40億ランド(480億円)に達していた。1995年12月,政府は改めて補助金を1996年以降大幅に削減することを決定した。その結果,1993年10月まで23.0ドル/bblであったFloor Priceは1995年11月には21.4ドル/bbl,1996年6月までに19.0ドル/bbl,1997年7月には18.0ドル/bbl,そして1999年7月には16.0ドル/bblへと段階的に引き下げられた。1990年代には湾岸戦争を契機として短期間ではあったが原油価格がFloor Priceを上回り,補助金の支払いは行なわれなかった。また1999年8月以降は原油価格が全般的に高い水準で推移しているため,Sasol,Mossgasに対する補助金の支給は行われていない。Tariff Protectionは将来的には完全に撤廃される見通しである。政府は制度撤廃後の方針について2000年6月までに検討を行なう予定であったが,2001年11月現在に至るまで結論は出ておらず,現行の16.0ドル/bblというFloor Priceも依然制度としては残存している。5?2 Sasol Supply AgreementSasol,Mossgasの生産は国益に適ったものと位置付けられており,FT合成油が市場で石油製品と同等のものとして扱われることを目的に,全ての卸売業者(製品の直接輸入業者あるいは新規参入者も含む)は南アフリカ市場におけるシェアに応じてFT合成油を引取ることになっている。Sasol Supply Agreementとは,Sasolが生産するFT合成油製品の需要確保のため,石油各社が市場シェアに応じてSasol製品をIBLC価格で購入することを義務づけている協定である。Sasol Supply Agreementは1989年,Sasolが本格的にFT合成油の生産を開始した時期に政府に半ば強制された形で石油各社との間で締結された。契約期間は5年毎に更新されており,直近の更新は1998年12月,終了は2003年12月末となっている。石油会社としては自社の競争力を高めるために製油所の稼働率が向上することを望んでおり,一般的にはこの契約の終了を歓迎する雰囲気にある。Sasolも契約終了により自由な販売への道が開けることから,この契約は恐らく更新されないと見られている。この協定は,石油各社がSasol製品の購入を保証する一方で,Sasolが卸売市場に参入することを原則禁止している。また,石油会社はIBLCに大きな変動があった場合にはSasolと引取価格について協議を行う権利を有している。Mossgasについても同様の協定がある。SasolがFT合成油生産プラントを建造したのはアパルトヘイトの時代であったが,当時の石油会社は禁輸によって十分な原油が輸入できないことに加え,Sasol製品を義務的に購入する必要があったため,政策的な措置として石油精製能力の1/3以上を一時的に削減(休止)していた。この精製能力の削減は1993年まで続いたが,1986年?1993年の期間,政府は石油会社に対し,同措置に対する補償として補助金を支払っていた。この補助金の額については明らかではないが,1994年以降,国際関係の正常化に伴う石油輸出入の自由化や国内石油需要の増大を背景に製油所の精製能力も元の水準に戻され,補助金の支給も廃止されている。5?3 Blue Pump AgreementSasolが生産する製品は,IBLC価格で引取られることがSasol Supply Agreementにより保証されているが,代償としてSasolは「BluePump Agreement」に基づき,他の石油事業―71―石油/天然ガス レビュー ’02・3メのスタンドに計量機を設置して販売する一定量のガソリン,軽油を除いては直接消費者に販売は行なわないことになっている。近年では競合対象となる原油の価格高騰から実質的な補助金の支給が行われないにも拘わらず,SasolやMossgasが経営難に陥るような状況にはない。特にSasolの場合,すでに民営化されている上に,最近はFT合成油事業だけでなくより収益性の高い石化事業にも力を入れており,南アフリカ国内におけるトップクラスの優良企業としてかなりの収益を挙げている。一方,国際関係の正常化に伴い,現在では政府が許せば石油輸入も自由に行なえる状況にある。こうした環境の変化から,政府としては将来的に政府の保護のもとでGTL産業を育成してゆく意図はないものと見られる。従って,「Tariff Protection」や「Sasol SupplyAgreement」といったFT合成油産業の保護政策に関しても,近い将来大幅な見直しが行なわれる可能性が高い。6.おわりにに及ぶ。昨今Sasolは積極的に海外進出を計画しており,カタールにおいてはカタール国営石油会社(QP)と共同で新規のプロジェクトを検討中で,2005年に生産開始の予定である。また,同社はシェブロンと共同でナイジェリア等においても事業化を予定している。今後は,世界各地で多数のGTL事業が立ち上げると思われるが,FT合成等の要素技術を保有する会社は少なく,当面Sasolは中心的なプレーヤーであり続けるであろう。■参考考文(1)South African Government Green Paper,Government’s Involvement in theLiquid Fuels Industry, 28 June, 1995,(2)Restructuring of the South African LiquidFuels Industry, The position of Business,Labour and Government as submitted tothe Liquid Fuels Industry Task Force,1995(3)DME, The Petrol Price Structure (4)IEA, Energy Policies of South Africa 1996Survey南アフリカは石炭,天然ガスからFT合成によって液体燃料を製造する技術において,最も進んだ国の1つである。その歴史はほぼ半世紀(5)South African Energy Policy DiscussionDocument, July 1995(6)The White Paper on Energy, Dec. 1998石油/天然ガス レビュー ’02・3―72― |
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