ページ番号1007537 更新日 平成30年5月31日
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~ 東地中海ガス田開発の歴史とIOC、欧州の見方 ~
概要
・現在、世界の上流開発業者が注目している石油・ガス開発地域は、1) 南米ガイアナ・スリナム沖(原油)、2) ブラジル・プレソルト(原油)および3)西アフリカのモーリタニア・セネガル沖(ガス)である。東地中海(ガス)はモーリタニア・セネガル沖ガス田に匹敵もしくはそれを凌駕する規模を持つ可能性を秘めているといわれており、2010年頃より以降注目を集めている地域である。
・これまでエジプト、イスラエル、レバノン、キプロスを含む東地中海地域(シリア、ヨルダン、レバノン、イスラエル、パレスチナを含めレバント地域とも呼ばれる)の大水深におけるオフショア・ガス田の探鉱開発は、2000 年頃までは積極的に行われてこなかった。
・その後、2010年前後にイスラエル沖で中・大型ガス田が発見されたのを皮切りに次々とガス田が発見され、東地中海は世界の上流開発(E&P)企業の注目を集めだした。米地質調査所(USGS)は、こうしたガス田は340Tcfに達する可能性があると試算する。
・近くには欧州という理想的な市場がある。欧州は豊富な資金力を持ち、資源の自給率が低く、ロシアに対する30%を超える過度なエネルギー依存から脱却を望んでいる。しかし地中海東部から欧州まで天然ガスを運ぶためには、長年紛争下にある国々と協力関係が必要となる。オバマ米政権下で国務省の特使を務めたアモス・ホクスタイン氏は「これは皆が利益を手にするか共倒れになるかの冒険的な機会」とみる。
・本動向は全体を三部構成とし、全体を理解できるようにした。
「その1」では、東地中海ガス田開発の歴史およびIOCsや欧州がどのように東地中海ガス田をみているかについて述べる。
「その2」では各国の開発状況、特にエジプトとイスラエルを中心に触れ、更に発見されたガス田はあるものの未だ生産の始まっていないキプロス、また初めてのオフショア鉱区入札が終わったばかりのレバノンについて述べることにする。
「その3」では、2011年の春以降のエジプトの混乱とその後遺症が残る中、エネルギー・ハブ化を宣言したエジプトとその可能性、また中東で特殊なポジションにいるイスラエルが、生産されたガスをどのように輸出するのかという出口戦略について触れ、東地中海ガス田の今後の可能性について幾つかの視点から論述を試みてみる。
1.東地中海ガス田エリア
本報告で取り上げる、東地中海ガス田のエリアは以下の図がカバーする地域である。日本から遠く離れた地域であるため関心を引くことが少ないが、歴史的背景もあり地政学的にも複雑かつ微妙な地域であり、また世界でも数少ない探鉱調査が行き届いていない地域でもある。しかし、2009年頃から大型ガス田を含むいくつかのガス田が発見され、今後安定し探鉱活動がさらに進むと、この地域のエネルギー地図および地政学的な緊張感を大きく変える可能性を秘めている。
2.注目を集めている石油・ガス田開発地域
現在、世界で注目を浴びている石油・ガス開発地域は1)ガイアナ・スリナム沖の南米大陸北岸、2)ブラジル・プレソルトの入札ラウンドおよび3)モーリタニア・セネガル沖のTortueガス田の開発である。東地中海のガス田は、モーリタニア・セネガル沖ガス田の資源量を凌駕する可能性を有しており、注目を集めている地域である。
3.東地中海の主なプレーヤー
この地域の主なプレーヤーは、エジプト、イスラエルとキプロスである。現在の状況を簡単に述べると、
1. エジプト
歴史的に産油・産ガス国であった。
かつては天然ガスの輸出国であり、そのためのLNG液化設備を2ヶ所有している。その後石油・ガス田の供給量が減り、かつ国内需要が増加したため、LNGの輸入国に転じた。
2015年に大型ガス田が発見されLNGの輸出国に2019年には転じると思われるが、人口増、ガスの産出量の自然減退により輸出できる期間はそれほど長くは続かない可能性が高い。従い、次のガス田の探査活動を行っている。
2. イスラエル
2000年代までは、それほど大きくない量のガスの生産と、それに応じた消費で対応してきた。2010年前後には国内需要が増えエジプトからパイプラインガスの輸入で対応してきた。
2009年、2010年と大型ガス田が発見され、ヨルダンへの輸出が少量だが始まったところである。国内需要を満たした後の残りの天然ガスの輸出にあたって、どのようにするのが良いか、幾つかの選択肢の中なら探している状況である。
3. キプロス
イスラエルでの大型ガス田の発見に刺激を受け、探鉱活動を行なった結果、中型ガス田が発見された。国内需要があまりないためほぼ全量のガスを輸出に回すことを考えているが、トルコとの領土問題を抱えているなど、なかなか開発が進展していない状況に陥っている。
レバノンについては、今後プレーヤーとなるかどうかは、まだ探鉱が進んでいないため不明であるが、可能性はあることから4番目の国として取り上げる。
4.東地中海ガス田開発の歴史
地中海東岸地域での炭化水素分野の開発はおよそ 80 年前に始まった。サウジアラビア など近隣諸国での石油探査が成功したのに続きシリアで始まった。シリアでの本格的な石油の商業生産は1960 年代になってからである。 一方、イスラエルとヨルダンの石油探査活動は1960 年代~1970 年代に高まったが、シリアに比べ成功率は遥かに低く石油生産量も非常に少なかった。シリアとイスラエルは天然ガスの生産国でもあるが、シリアでは1980 年代までイスラエルでは2000 年代半ばまで商業的な開発がなされなかった。ヨルダンでは 1980 年以降、石油と天然ガスの生産量が非常に少なくなり国内需要のほとんどを輸入に依存している。
過去の炭化水素資源の生産エリアの大半は Western Arabian Province とZagros Province で占められていたが、現在地中海東岸地域は8 つの主要な堆積盆地を保有している。即ち、Cyprus basin、Eratosthenes High basin、Latakia basin、Levant basin、Judea basin、Nile Delta basin、Western Arabian provinceおよびZagros province の8 ヵ所である。積極的に探鉱活動が進んでいるのは、シリア沖からヨルダン、エジプトまで拡がるLevant basinとエジプト沖のNile Delta BasinおよびErathosthenes High Basinである。
イスラエルは、自国EEZ内でLevant Basinの積極的な探査活動を続けた。その結果、1999年以降発見された主なガス田は、次とおりである。
・1999 年、Noa Northガス田の発見
・2000 年、Mari-B ガス田の発見。
・2009年 イスラエル沖でNoble Energy/Delek DrillingがTamarガス田(可採埋蔵10.8Tcf)を発見
・2010年 イスラエル沖でNoble Energy/Delek Drillingが大型Leviathanガス田(可採埋蔵量22Tcf)を発見。
イスラエル沖Levant Basinでの立て続いたガス田の発見に刺激を受け、エジプトでも従来沿岸付近での浅海Suezu DeltaやNile Deltaでの探鉱に注力していたのをキプロスとのEEZ境界(約200km)に隣接するEratosthenes High Basinまで探鉱範囲を広げた。また、キプロスも同様に探査活動を活発化した。
その結果、
・2011年 キプロス沖でNoble Energyが中型Aphroditeガス田(可採埋蔵量4.5Tcf)を発見。
・2015年 エジプト沖でEniが大型Zohr ガス田(可採埋蔵量22Tcf)を発見。
2015年以降で世界最大のガス田の発見となる。
・2015年 エジプト沖でBPが小型ガス田Atoll(可採埋蔵量1.5 Tcf)を発見。
・2015年 エジプト沖でEniが小型ガス田Nooros(可採埋蔵量1.5-2.5Tcf)を発見。
・2018年 キプロス沖でEniがCalypso1のガス田を発見。現在埋蔵量評価中。ただし、3.5Tcf~8Tcfの埋蔵量が見込まれている。
以上の多くは、沖合3kmに位置するNoorosガス田を除き、水深900mから1600mと大水深に位置するガス田である。
5.IOCから見た東地中海
IOCsは、油価低迷時代に探鉱リスクを出来る限り低減するために「Near-Field資産」と呼ぶ、リードタイムが短く柔軟性が高い資産(契約手続きが簡易、探鉱リスクが低い、既存インフラ利用可能などの特徴を持つ)を重視した。即ち、他社既発見資産の近隣に探鉱鉱区を取得するなどの戦略を取った。ただし、イスラエル沖での鉱区入札には中東との関係が深いIOCsは慎重でありこれまで参加していない。
次に掲げる図は、Totalの例である。Totalはガイアナ/スリナム、モーリタニア/セネガルの既発見エリアの近隣および東地中海に鉱区を取得し、また、図1によりエジプトZohrガス田から近いキプロス側にBlock 11の権益を取得したことが分かる。
6.欧州から見た東地中海
欧州のシンクタンクである、「欧州外交評議会」の2017年12月の報告「Policy Brief」[1]によれば東地中海のガスが欧州に輸出されれば、
1. ロシア産の安価なガスに頼っている状況を変え、ガス輸入先の多様化を図れる。
2. 欧州がガスをこれらの国から輸入することによって、欧州と東地中海関係諸国との深い関係、即ち“経済的な平和”を築くことが出来るとしている。そこからは東地中海地域の安定への貢献と欧州自身のエネルギー保障(Energy Security)を強化するという視点が含まれている。更に報告では触れられていないが、東地中海の経済安定は、欧州が現在苦しんでいる北アフリカと中東からの「移民問題」への解決の一助となる期待が含まれていると思われる。
同報告書によると欧州も、当初はガス供給源の多様化(Diversification)を追求する必要性があるのか、本当に東地中海ガスの輸入を望んでいるのか、また多様化を推進する能力を有しているのかなどの観点から疑問が投げかけられた。しかし、発見されたガスを欧州に輸出するには、LNG(エジプトのLNG液化設備使用を想定)もしくはPipelineあるいは両者並立が考えられるが、一国単独では実施できず、そこには国同士の対話が必要となり、ひいては安定化が図られることに繋がるだろう。
東地中海パイプラインについては、上記の観点からガス産出国である、イスラエル、キプロス、ギリシャと終点のイタリアを巻き込んでEUが主体となって進めていると考えてよいだろう。EUメンバーではないイスラエルが対話に参加している点が注目される。実際に、Feasibility StudyはEUの一機関が行っており、このプロジェクトの推進母体はEUである。Study結果が出ていない段階の2017年5月に既に、EU高官がパイプラインは経済的およ技術的に可能であると言っている。当初想定していた以上に実現性が高まっていると思われる。この点については「その3」で詳細に述べることにしたい。
[1] European Council on Foreign Relations, Policy Brief, “A Flammable Peace: Why Gas Deals won’t end conflict in the Middle East”.
以上
(この報告は2018年5月30日時点のものです)