ページ番号1007542 更新日 平成30年6月5日
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概要
〇2018年5月8日、米国が核合意離脱を表明した。情勢の先行きが見えず、今後の石油開発への不安、ひいては中東情勢混乱の予想も広がっている。こうした中でこれまでの報道や各社による発言から現在の状況を整理する。
〇トランプ米大統領は2018年5月8日、イラン核合意(「包括的共同行動計画(JCPOA)」)からの離脱を表明し、JCPOAに関連する制裁措置を再開するためのプロセスを即座に開始するように指示した。この制裁措置はイランの重要な経済セクター(エネルギー、石油化学及び金融セクター)を対象とする。同日、財務省は再発動される制裁及び事業縮小期間に関するガイダンス(FAQ)を発表した。それによれば、制裁はそれぞれ90日(2018年8月6日まで)と180日(2018年11月4日まで)の事業縮小期間を設け、期間終了時に制裁は完全に発効する。
〇米国のイラン核合意からの離脱を受けて、特に欧州連合(EU)加盟国に対する制裁の適用について、多くの混乱が生じている。EUメンバーは容認できないとの姿勢を示し、米国抜きでの核合意維持および米国制裁からの企業保護の道を模索。ロシアや中国も核合意継続への支持を表明した。イランも核合意への残留を表明したものの、その一方で将来的な離脱に含みをみせる。
〇イランの2018年4月の原油輸出量は2016年1月の核合意後最高水準となる262万b/dに達した。現在、イラン産原油を主に輸入しているのは中国、インドといったアジア諸国やイタリア、フランスといったEU諸国およびトルコで、全輸出量のうち、中国、インド、韓国、日本のアジアの主要バイヤーが60%以上を占める。トランプ政権はイラン原油の「相当量の削減」の定義について明らかにしていないが、「過去最高水準の制裁」を掲げるトランプ氏が前回の制裁時にオバマ政権(当時)が求めた「約20%」を上回る削減を各国に要求する可能性もある。前回の制裁時、2012年のイラン原油の生産量は2011年比で約100万b/d減少した。このことから、今回の制裁でも前回同様50~100万b/dの供給減少の可能性もあり得るといえる。
〇イランは石油・ガス生産能力の維持・拡大を目指し、数多くの外資参入対象の開発案件・探鉱案件について、IOC各社との協議を実施していた。しかし、今般の米国の核合意離脱(制裁再開)により、外資各社はイランからの撤退や事業中止を検討している。技術力のある外資の撤退により長期的な生産能力の減退が続くことになれば、イラン上流開発は今後長期に亘り停滞する恐れがある。また、制裁再発動による原油輸出の大幅削減と合わせ、石油収入に依存するイラン経済にとって大きな打撃となる可能性が高い。
(本稿は2018年5月22日現在の情報に基づき執筆いたしました。)
(ワシントン事務所、米国EIA、Platts Oilgram News、International Daily 他)
1.米国による核合意離脱、再制裁発動の表明
(1)トランプ大統領の発表
トランプ米大統領は2018年5月8日、イラン核合意(「包括的共同行動計画(JCPOA)」)からの離脱を表明し、JCPOAに関連する制裁を直ちに再開するためのプロセスを即座に開始するように指示した。この制裁はイランの重要な経済セクター、つまりエネルギー、石油化学及び金融セクターを対象とする。また、JCPOAによる経済制裁緩和を受けて、イランビジネスを行う企業には事業を清算するための期間として「事業縮小期間」(wind down period)を与え、期間内に事業を終了できなかった場合には重大な結果を招く可能性がある、と示している。
同日に財務省は、スティーブン・ムニューシン長官の声明と再発動される制裁及び事業縮小期間に関するガイダンス(FAQ)を発表した。それによれば、財務省外国資産管理局(OFAC)は、大統領の決定を実施するために直ちに行動を起こし、制裁は、それぞれ90日(2018年8月6日まで)と180日(2018年11月4日まで)の事業縮小期間を設け、期間終了時に制裁は完全に発効する。(図1、図2参照)
ポンぺオ国務長官は21日、包括的な対イラン戦略を公表し、「歴史上最強の制裁を課す」として各国に同調を呼びかけた。核計画の永続的な放棄、ウラン濃縮の停止、ヒズボラ、ハマス、フーシ派等への支援の終結、シリアからの兵力撤退など12項目を要求し、実行するまで制裁を継続する、と表明した。
トランプ大統領は数か月以内に「過去最大級の制裁」を発動する、としている。ただし、その具体的な中身はまだ明らかになっていない。
(2)各国の反応
米国のイラン核合意からの離脱を受けて、特に欧州連合(EU)加盟国に対して制裁がどのように再適用されるかについて、多くの混乱が生じている。EUメンバーはトランプ大統領の制裁の強硬姿勢に驚き、動揺し、容認できないとの姿勢を示した。英国とドイツ、フランスは8日、米国に対し他国のイラン核合意履行を妨害しないように訴え、「イランが核合意を守る限り、欧州も合意を堅持する方針。核合意にとどまり、合意の履行を続ける」とする共同声明を発表した。15日、イランのザリフ外相と英仏独の外相、EUのモゲリーニ外交保障上級代表はブリュッセルで会合を開き、米国抜きでの核合意維持に向けた方策を話し合い、打開策を数週間以内に目指すことで一致した。会合についてイランのザリフ外相は「良いスタートを切った」と評するものの、欧州側はイランに対し、核合意に基づく経済的恩恵を保障する必要がある、と警告。欧州からの投資継続の確証が得られなければ合意離脱も辞さない、との姿勢を示す。
今年に入りEU内では、米国による二次制裁再発動の見通しから欧州投資銀行(EIB)などEU機関によるイランビジネスを行う欧州企業(Total、エアバス等)の保護策に取り組んできた。フランスの国営投資銀行Bpifranceは2月、「今年後半にイランの輸入業者を対象としたユーロ建て信用保証を提供する」と発表。通貨やその他、米国に一切関連しない資金調達を構築することにより米法適用域外へ逃れる考えを示した。EUが欧州企業に第三国の経済制裁に従わないよう命じる「ブロッキング規制」も検討されている。同規制は1996年の米国の対キューバ制裁時に制定されたものだが、これまでに発動されたことはなく、実効力は不明といわれる。欧州各国は米国に欧州企業を制裁対象から外すよう求めているが、5月13日、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、イランと取引を続ける欧州企業が「米制裁の対象になる可能性がある」との認識を明示している。
欧米の足並みが乱れる中、中東での影響力拡大をうかがうロシアと中国の動きも気になる。5月14日にイランのザリフ外相と会談したロシアのラブロフ外相は「中国・欧州と共に再制裁への反対結集を話し合う予定である」と発言した。ロシアは混乱の中でイランとの関係を深め、中東における影響力を広げようとしている。また、ロシアは今回の米国による核合意離脱に伴い軍事衝突の懸念も浮上しているイスラエルとイランの両国と友好な関係を持つ。5月13日、中国の王毅外相はザリフ外相との会談で、中国は「客観的、公正かつ責任ある態度でイランの核取引を維持する努力を継続する」と述べた。中国はイランにとって最大の原油輸出先だ。イランからの原油輸入に人民元建て決済を用いることで米制裁によるドル決済の制約を回避する、といった方策を話し合う可能性もある。
他方で、イランと対立するイスラエルとサウジアラビア、UAEは、今回のアメリカによる核合意離脱を歓迎し、支持する立場を表明。イランにとって第四の原油輸入国であるトルコは、「核合意は重要な外交上の成果である」と述べ、核合意の維持を支持する。
(3)イランの反応
イランのロウハニ大統領は8日、トランプ米大統領による核合意離脱発表を受けてテレビ演説し、「(米国を除く)5ヵ国と協議して核合意の目的が達成されるならイランはとどまる」と表明した。しかしその一方で、「われわれの利益が保証されなければ、その時に政府の決断を国民に説明する」と述べた。また、必要ならば無制限にウラン濃縮活動を再開できるよう原子力庁に指示したことも明らかにし、将来的な離脱に含みを持たせた。ザリフ外相は13日以降、中ロ欧を訪問し、米抜きの核合意を維持する方向で合意を図る。イラン国内では、かねてより核合意に不満を持つ反米の保守強硬派が勢いを増している。核開発を再開すれば、トランプ米大統領にイランへの軍事攻撃を含む圧力強化の口実を与えるとの懸念から、イラン政府は核合意の破棄には踏み込まず抑制的な対応を示す。イラン国内では通貨リアルの急落など既に深刻な経済混乱が続いている。トランプ米大統領は最高レベルの経済制裁を科すと明言したが、ロウハニ大統領は「心理戦や経済的な圧迫には影響されない」と一蹴。「イラン国民は懸念を抱く必要はない」と平静を呼び掛けた。
2.制裁による影響
(1)石油需要への影響
これまでの経緯(~核合意まで)
1979年のイラン・イスラム革命以来、米国は様々な経済制裁をイランに課してきた。とりわけ、エネルギーに関係する制裁の支柱を成すのは、1996年8月5日に制定された「イランおよびリビア制裁法」(ILSA:Iran and Libya Sanction Act)である。元々、イランのエネルギーセクターに対する2,000万ドル以上の投資行為などを制裁対象として制定された。
ハタミ大統領政権下の2002年8月には、国内の反体制派が国際原子力機関(IAEA)に未申告の核施設の存在を暴露したことで、核問題が大きな焦点として浮上することになった。これが当時、イランを「悪の枢軸」と名指ししたブッシュ大統領にとって制裁強化の正当性を裏付ける格好の材料となった。その後、英仏独との合意成立など、核問題の解決に向けて一定の前進が見られたものの、2005年8月にアフマディネジャード氏が大統領に就任したことで事態は一変した。イラン政府の対欧米姿勢が硬化したために英仏独との交渉は頓挫し、イランは再び濃縮活動を強行した。
これを受け、2006年以降、国連やEU、米国以外の国々も次々と対イラン制裁関連法案を可決し、制裁発動要件は徐々に拡大されていった。国際社会によるこれら一連の制裁措置がイラン経済の疲弊化につながったが、2011年12月のFY2012NDAA(国防授権法)の成立、2012年1月のEUのイラン原油禁輸決定により、生産量・輸出量の減少に拍車がかかった。前回の制裁時は、米国が各国に約20%の原油輸入削減を求め、これを受け入れた日本などは制裁対象から除外された。イラン原油の生産量は2011年(年間平均)の362万b/dから2012年9月には268万b/dと約100万b/d減少した。
核合意後の状況(2016年1月~)
2016年1月に核合意が発効、欧州向け輸出が再開したことにより、イランの輸出量は急増し、2012年の制裁前を上回るレベルにまで回復している。2017年の石油生産量は470万b/d、うち原油は380万b/dであった。中長期的には、イランは第6次5か年計画(2016年3月~2021年3月)の期間内に原油生産量を470万b/dに増やす計画だ。ただし、イランでは生産の多くを数十年経過した少数の成熟油田に依存しており、自然減退が進み、生産能力を維持するためには増進回収技術が不可欠となっている。中期的な目標の達成には知見、技術を有する外国企業のイラン上流事業への参加が必須とされる。
イランの原油・コンデンセートの輸出量は2016年以降大幅に伸びており、2018年4月の原油輸出量は2016年1月の核合意後最高水準となる262万b/dに達した。現在、イラン産原油を主に輸入しているのは中国、インドといったアジア諸国やイタリア、フランスといったEU諸国およびトルコで、全輸出量のうち、中国、インド、韓国、日本のアジアの主要バイヤーが60%以上を占める。
3.米国による核合意離脱・再制裁発動の表明の後の動き
専門紙によると、「制裁の再発動により、イランの原油輸出-特に欧州向け-が2019年にかけて徐々に減少する。ただし、2012年の制裁の時と比べ、影響は最小限に留まる。即時影響が20万b/d以下で、6か月後の影響は50万b/d以下になるだろう」という。一方、最終的に100万b/dの石油供給の混乱を引き起こすとみる一部アナリストもいる。[1]
イランの原油輸出への影響のうちのいくつかは、「様々な制裁法の実施および解釈について、政権がいかに取り扱うか」にかかっている。トランプ政権はイラン原油の「相当量の削減」の定義について明らかにしていないが、「過去最高水準の制裁」を掲げるトランプ米大統領が前回の制裁時にオバマ政権(当時)が求めた「約20%」を上回る削減を各国に要求する可能性もある。前回の制裁時、イラン原油の生産量は2011年(年間平均)の362万b/dから2012年9月には268万b/dと約100万b/d減少した。このことから、今回の制裁でも前回同様50~100万b/dの供給減少の可能性もあり得るといえる。
[1] Platts Oilgram News 2018/05/09
欧州各国が反対を表明し、核合意維持に向けて対抗する姿勢を見せる中で、需要サイドの反応が見えてきた。
韓国は原油輸入削減の動きがうかがえる。韓国石油公団(KNOC)の公表データによれば、今年1-3月のイラン原油輸入量は31.6万b/dで、前年同期の51.9万b/dと比較し39.0%減少した。なお、削減以前の韓国のイラン原油輸入量は、2016年1月の制裁解除以降増加傾向にあり、2017年の輸入量は前年比で32.1%増加の40.5万b/dであった。一部報道では、韓国の精製業者は11月4日の期限を念頭に置き、今後第2、第3四半期に徐々に約10-20%の削減を行う予想であるという。また、ロシアや米国といった他の代替先確保の可能性についても触れている。[1]
その一方で、「中国やインドは、イラン原油の価格の優位性等を理由に、(日本や韓国と比較して)削減はなるべくゆっくり、少量に抑えていくだろう」という予想もある。
[1] Platts Oilgram News 2018/05/16
欧州石油関連業界では、大半において米国による制裁を順守する、あるいは備えるといった姿勢がみられる。デンマークのA・P・Moller Holdingのタンカー船子会社Maersk Tankersは、「5月8日までに締結された顧客契約を実行し、米国の再制裁措置の要求に応じて、11月4日までに事業縮小(wind down)することを約束する」との声明を出した。「イラン産原油の購入を控えるように要請された。制裁発効まで6か月の事業縮小期間があるので、相応の資金を用意できれば可能であるとみている」(EU精製業者)といった声もある。
(2)上流開発契約への影響
イランは2015年11月の新契約方式IPC(Iran Petroleum Contract)説明会(「テヘラン・サミット」)及び欧米とのJCPOA発動(2016年1月)以降、外資の技術・資金の導入による生産能力の維持、拡大を目指し、約70件の外資参入対象の開発・探鉱案件について、IOC各社と協議を行ってきた。2016~2017年の間にAzadegan、Yadavaran、Azar、Changuleh、AbTeymour、Yaran等の油田開発事業について、関心を有するロシア企業、アジアNOC、欧州IOC等との30数件の予備合意を締結した。しかし、今回の米国声明を受け、IOC各社はイラン事業からの撤退の方針を示す。
(※)IPC(Iran Petroleum Contract)
従来のバイバック契約に代わり2016年以降新たに導入されたイラン石油ガス開発契約の新方式。契約期間の長期化やコスト回収の上限撤廃、柔軟な報酬設定等IOCに対する様々なインセンティブを設定。
各社の契約状況や反応は以下の通りである。
Total:
2017年7月フランスTotalは、サウスパースガス(フェーズ11)開発に関し、中国石油天然ガス集団(CNPC)およびイラン現地企業Petroparsと共に、イラン国営石油会社(NIOC)との契約を締結した。これは2016年1月制裁解除後、国際石油会社による初めての契約であった。契約期間は20年間で、権益比率はTotal(50.1%)、CNPC(30%)、Petropars(19.9%)。投資規模は48億ドル。フェーズ11の生産量見込みは天然ガス20億cf/dおよびコンデンセート8万b/dで、2021年頃までにイラン国内向けに生産開始を予定する。
イラン国内では近年石油製品から天然ガスへのシフトが著しく、天然ガス需要が高まっている。このことから同社 のサウスパースガス開発が「まずは国内のガス需要を対象とすること」で比較的議論の余地はない。Patrick Pouyanné CEOは、イランの人々を手助けるための国内向けガス供給であって輸出用ではない、と人道的観点を強調。また、核合意がリスクに晒される以前に締結された契約であることを根拠に制裁対象からの免除を訴える。一方、制裁への懸念が高まる中でエンジニアリングスタディとEPC契約の手続きを進めるも、契約の締結は(米国制裁Waiver期限の)5月12日以降まで待つ、といった姿勢をみせていた。
5月13日、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、イランと取引を続ける欧州企業が米制裁の対象になる「可能性がある」との認識を明示。これを受けてTotalは16日、「フランスおよび欧州当局の協力により、制裁免除の対象とならなければ、プロジェクト継続は難しく、11月4日までに関連する全操業を撤退せざるを得ない」との声明を発表した。Totalによる声明の後、イランのザンギャネ石油相は、「Total撤退の際には、契約に基づきTotalの権益はCNPCへ譲渡される。もし同社も撤退の場合はPetroparsのみが残る」と述べた。CNPCは権益を引き継ぐ準備ができている、とも報じられている。CNPCは前回の制裁時にイランから撤退せずに操業を継続していた。
アザデガン油田開発においては、正式な入札手続きに先立ち、これまでに数十社が開発の意欲を示す覚書を締結してきた。その中にはShell、Total等のメジャー企業やアジアの企業なども含まれるとされる。しかし、各社CEOはこれまでに多くの慎重なコメントを発しており、開発期待を牽制する姿勢を示してきた。[1]
Shell:
NIOCによれば、昨年8月にShellはAzadegan、Yadavaran油田の技術スタディをイラン当局へ提出したという。しかしShellのBen van Beurden CEOは、繰り返しイランについて慎重な方針を表明している。トランプ米大統領の発言を受けて、Shellは米国制裁再発動の影響を評価する、と述べた。[2]
Eni:
イタリアEniもイランと予備契約を締結している。しかし昨秋、制裁リスクが加わった頃より、隣国イラクと国際石油会社との関係を引き合いに出して提示される契約条件について批判をしていた。2018年1月にClaudio Descalzi CEOは、イランでの探鉱作業は契約条件と制裁の組み合わせによって行き詰まりをみせている、と発言。昨年6月、同社はイラン南西部のKish沖合油田およびDarquian油田の開発スタディの覚書を締結しその後スタディを実施している。2018年3月、同氏は ロンドンで開催された投資イベントにおいて、「状況は明らかに以前より困難になっており、当社は米国といかなる争いもしたくはない」と述べる。[3] 5月13日のCNBCとのインタビューでは、同社のイラン投資への関心を否定し、米国による再制裁に関しては、原油価格への影響が大きく、不確実性の高まりによって投資意思決定の意欲を阻害するものである、と警告した。
BP:
欧州メジャーの中で、2016年の核合意への反応が最も慎重だったのはBPである。同社はテヘランに事務所を持つもののイラン当局との契約はなく、「我々の影響は少ない」と述べる。[4]
Pertamina:
インドネシアのPertaminaは、米国制裁の懸念によりイランのMansouri油田の権益取得計画を中止する可能性がある、と表明した。同社の上流部門ディレクターであるSyamsu Alam氏は5月11日、記者団に対し「当社は他国での投資に関して制裁関連リスクに直面したくない。当社には米国を含む海外諸機関との資金調達契約があり、その資金調達プログラムが将来問題に直面することは望ましくない」と語る。同社は以前、Mansouri油田の権益取得契約を今年5月頃に締結の見通しであるとしており、石油生産量を6万b/dから25万b/dに引き上げ、同社が権益の80%、現地パートナーが残りの20%を取得し、インドネシアの新規製油所向けに出荷することになっていた。[5]
契約締結の動き:
2018年3月、新契約モデルの下でZarubezneft(露)のコンソーシアムとNIOCがAban油田、WestPaydar油田の開発契約を締結した。投資規模は7億5000万ドル。同社によるイラン初参入となる。
またPasargad Energy(イラン)とNIOCがIPCに基づくJufair油田、Sepher油田24億ドル規模の開発契約を締結した。
また、このような状況下にもかかわらず、米国による核合意離脱・再制裁の声明が出された後、5月16日(Total声明と同日)に英国企業他全11社から成るPergasコンソーシアムとNational Iranian South Oil Company (NISOC)がKaranj陸上油田開発で基本合意書(Heads of Agreement)に調印した、といった報道もなされている。
2012年以降の制裁強化時にもイランに残った中国勢(CNPC、Sinopec)やイランとの関係が深いロシア勢は残留の可能性があるが、外資企業は概ね撤退の方向とみられる。
イランはEORなどの外資企業の技術や資金の導入により、石油・ガス生産能力の維持・拡大を目指し、約70件の外資企業参入対象の開発案件・探鉱案件について、IOC各社との協議を実施していた。しかし、今般の米国の核合意離脱(制裁再開)により、外資各社はイランからの撤退や事業中止を検討している。技術力のある外資企業の撤退により長期的な生産能力の減退が続くことになれば、イラン上流開発は今後長期に亘り停滞する恐れがある。また、制裁再発動による原油輸出の大幅削減と合わせ、石油収入に依存するイラン経済にとって大きな打撃となる可能性が高い。
以上
(この報告は2018年5月23日時点のものです)