ページ番号1007653 更新日 平成30年12月5日
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はじめに(概要)
坑井の底から取り出す円柱状の地質サンプルを「コア」と言い、このコアを掘り出す作業を「コアリング」と言います。コアは、建設工事の地盤調査で取られる地表近くのものから、地球の成り立ちの研究や地震メカニズムの解明のために取られる地下数千メートルからのものまで、様々な場面で取得され、それぞれの目的のために分析されています。
メタンハイドレートの研究でも、ハイドレートを含む堆積物の性質を知るためにコアを取得していますが、地表の温度圧力条件では分解してしまうハイドレートのサンプルを取り出して分析するには特別な装置と作業が必要です。その作業を「圧力コアリング」と呼んでいます。
メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21:JOGMECと産業技術総合研究所(AIST)にて構成)では、この圧力コアリングの装置の開発と、その装置を用いた分析作業を研究の重要な要素と考えて、世界に先駆けた研究を進めて来ました。
本稿では圧力コアリングの重要性について紹介していきます。
1.圧力コアリングが必要な理由
コアを取る目的は様々ありますが、大きく分けると地下にある物質を取り出したい場合と、地層の物性(浸透率などの水理物性、強度などの力学物性、熱伝導率などの熱物性)を測定したい場合があります。メタンハイドレートの場合はその両方が重要になります。まず、我々は地層の中にメタンハイドレートが存在しているのか、あるのならばどれくらいあるのかを知る必要があります。その結果は、その地層にどれくらいのメタンガスが含まれているのか、ひいてはどれくらいの経済的価値があるのかを知るための基本的な情報になります。我々は、物理検層(坑内におろしたセンサーで、地層の電気抵抗や音速などの物性を測定する技術)によってハイドレートの量を計算しようとしますが、そこで得られる値は間接的に得られたものなので、参照となる実測データが必要です。
また、メタンハイドレートからガスを生産する手法を開発して、実際にどれだけのガスを生産できそうなのかを知るためには、地層の様々な物性値を測定する必要があります。例えば、地層内の圧力を減圧した状態を井戸から離れたエリアまで伝え、分解して生じたガス・水を井戸に集めるためには、地層がある程度高い浸透率(流体の流れやすさ)を持つことが必要で、浸透率がどのような値であるかは坑井の生産性に大きな影響を与えます。このような物性は、物理検層のデータからも計算できますが、やはり参照データが必要です。このような水理的データの他に、熱伝導率などの熱的データ、地層強度のような力学的データも知りたい物性情報です。
メタンハイドレートを含む地層をコアリングする場合は、当然ながらハイドレートを分解させずに地表まで運んでくる必要があります。それは、ハイドレートを含む堆積物は地表でハイドレートが分解してしまうと構造が壊れてしまうので、物性値も地下の状態と変わってしまうからです。サンプルの置かれている温度・圧力条件を地下と同じ条件に保っておくための技術が圧力コアリングです。
2.圧力コアリング装置の開発とハイドレートサンプルの取得
我が国のメタンハイドレート開発で最初に圧力コアの開発を始めたのは、今から20年以上前、石油公団(当時)と民間10社が協同で実施した、「特別研究メタンハイドレート」の中ででした。日本の石油技術者が中心に、米国のコアリングツール会社と協力して、温度・圧力を保持したままサンプルを回収するPressure Temperature Coring System (PTCS)(図1)を開発し、1998年にカナダ陸上の坑井での試行ののち、1999-2000年に実施された掘削作業、「基礎試錐南海トラフ」において、砂層の中のハイドレートを取り出すことに成功しました。この時の成果が、その後の「メタンハイドレート濃集帯」の発見や、海洋産出試験の実施につながっています。

サンプルが入ると、ボールバブルが閉まり、窒素ガスの圧力で加圧される。(出所:JOGMEC)

圧力・温度はハイドレート安定領域内に保持され、非破壊で分析される。(出所:JOGMEC)
2001年に、「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」が策定され、南海トラフ海域における地震探査に引き続いて、2004年に掘削キャンペーン「基礎試錐東海沖~熊野灘」が行われました。この作業では、16地点で30坑の坑井が掘削され、濃集帯が見出された2海域において、改良されたPTCSが用いられて圧力コアが取得されました。取り出したサンプルは、分解後のガス量を測ることで地層中のハイドレート量を測定したほか、ハイドレートを分解させないように液体窒素に浸けて保存し、後に詳細な物性評価に供され、ここで得られた様々な物性データが、その後の世界中のメタンハイドレート研究者に用いられ、世界のメタンハイドート研究を大きく前進させることになりました。
日本がコア取得技術を開発しているころ、ヨーロッパでもHYACE及びHYACINTHというメタンハイドレート研究プロジェクトが進められており、その中では、圧力コア取得装置の開発と並んで、圧力を保持したままコアを分析する装置の開発が進められていました。この装置は、PCATSと名づけられましたが、残念ながら、ヨーロッパのコア取得装置用に開発されたものだったので、日本の装置で取得されたコアは直径と長さが適合せずに扱えませんでした。その後、この装置はインド(2006年)、韓国(2007及び2010年)、中国(2007及び2012年)などの調査で使用されました。
一方、海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、科学掘削の目的でやはり圧力コアの研究を進めていて、地球深部探査船「ちきゅう」のコアリングシステムと共用でき、取得されたサンプルをPCATSで分析できるような圧力コア取得装置Hybrid PCS(PCTB)を開発していました。第1回海洋産出試験(2013年)のための圧力コアリングを計画していたJOGMECもこの開発に協力することとして、事前に新潟県長岡市で取得実験を行うなどして、2012年の6-7月に、JAMSTECは熊野灘で、JOGMECは第二渥美海丘で続けて圧力コアの取得を行いました。
日本とヨーロッパで別々に進められていた研究開発が統合されたこの航海は大成功を収めて、60メートル区間から約37メートルのサンプルが取られ、15本のコアのうち8本は完全に圧力が保たれており、それらの高品質のサンプルは圧力保持したままPCATSで分析し、ラボに運ぶということができるようになりました。地下から取り出された圧力保持されたコアは、温度が上がってしまわないように氷に浸けて冷やしながら、「ちきゅう」の船尾に置かれたPCATSに運ばれ、そこで弾性波速度、ガンマ線密度計による密度測定、X線透過写真(図3)の撮影などを行い、状況を確認した上で、圧力を払ってガス量を計量の上、船上で分析されたり、圧力を保持したまま別の圧力容器に収められて陸のラボに運ばれたり、液体窒素に浸けて冷凍して陸に運んだりしました。

日本では、MH21の研究開始(2001年)からAISTがコアの分析技術の開発を進めていて、この航海で取られたサンプルから、地質のデータに加えて、ハイドレートそのものの性質や、ハイドレートを含む地層の物性の評価を行うことができ、成果は研究論文集にまとめられて、その後のメタンハイドレート研究の指針となるものになりました。
2018年には、第2回海洋産出試験(2017年)に引き続いて再び圧力コアが取得されました。今回は、PTCSをPCATSに適用できるように改造したHPTC3という装置を使用して、前回以上の良質のサンプルを、海洋産出試験の影響を受けたと思われる場所と、あまりうけていないと思われる場所の2か所から採取しました。2つの井戸の125メートル区間から、96メートルのコアが取られ、そのすべてが、ハイドレートが安定な圧力に保持されていました。
一方、2012年以降、AISTは圧力を保持したままのコアの物性・力学特性を分析する技術の開発を進めていて、様々な装置が開発されてきました。今回取得したコアは、大部分がAIST北海道センター(札幌市)に運ばれて、詳細な分析を待っています(図4)。また、地下にいる微生物などの情報もメタンガスの生成や、微生物地層固化の研究などに重要な要素で、掘削作業の影響を受けにくい圧力コアは大変有益な情報を与えてくれています。

3.まとめ
このように、圧力コアにかかわる研究開発は、日本がリードして進んできたメタンハイドレート研究の中でも特に重要な成果を日本が中心に獲得してきました。ここで得られた情報は、メタンハイドレートがどこでどうやって分解してガスを生産できたのかのプロセスを知るためと、将来より安全で効率的な生産を行うためにはどうすればよいかの両方を研究するための重要なデータを与えてくれいます。圧力コアリングは、今後も陸上・海洋のハイドレート研究で欠かさぬツールとしてさらに開発と適用が進んでいくと思われます。
<もっと詳しく知りたい方は下記を参照してください>
Schultheiss, P., Holland, M., Roberts, J., Huggett, Q., Druce, M., Fox, P., 2011. PCATS: pressure core analysis and transfer system. In: Proceedings of the 7th International Conference on Gas Hydrates (ICGH 2011), Edinburgh, Scotland, United Kingdom, July 17e21, 2011.
Kubo, Y., Mizuguchi, Y., Inagaki, F., Yamamoto, K., 2014. A new hybrid pressure coring system for the drilling vessel Chikyu. Sci. Drill. 17, 37e43. http://dx.doi.org/10.5194/sd-17-37-2014. www.sci-dril.net/17/37/2014/.
Kiyofumi Suzuki, Peter Schultheiss, Yoshihiro Nakatsuka, Takuma Ito, Kosuke Egawa, Melanie Holland, Koji Yamamoto, 2015, Physical properties and sedimentological features of hydrate-bearing samples recovered from the first gas hydrate production test site on Daini-Atsumi Knoll around eastern Nankai Trough”, Marine and Petroleum Geology, 66, Part2, 346-357, ISSN 0264-8172, https://doi.org/10.1016/j.marpetgeo.
Yamamoto and Ruppel eds., 2015. Gas hydrate drilling in Eastern Nankai, Marine and Petroleum Geology 66 part 2, 2015.
Yoneda, J., Masui, A., Konno, Y., Jin, Y., Kida, M., Katagiri, J., Nagao, J., Tenma, N., 2017, Pressure-core-based reservoir characterization for geomechanics: Insights from gas hydrate drilling during 2012-2013 at the eastern Nankai Trough, Marine and Petroeum Geology, 86, 1-16.
以上
(この報告は2018年12月5日時点のものです)