ページ番号1007524 更新日 平成30年5月22日
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概要
・ノルウェーStatoil ASAは社名を「Equinor ASA」へ変更。新社名は「Equi:公平」と「Nor:Norway起源」の意味を込めた造語。
・社名変更決議は2018年5月15日の株主総会で可決。定款における社名が正式に変更された。
・背景には「エネルギー移行」を見据えた低炭素戦略があり、「石油・ガス企業」からより広範な「エネルギー企業」への変革を宣言する動きとみられる。ただしStatoilは社名変更後も、国内、および国外での石油・ガス事業継続を明確に表明している。
・社名変更を契機に事業戦略に対する内外からの批判が増加。今後の課題は、石油・ガス事業と再エネ事業のバランスに。
1.社名変更 -「Statoil」から「Equinor」―
2018年3月15日、Statoil ASA(以下 Statoil)の取締役会は社名変更を提案し、5月15日の株主総会における決議をもって正式に変更が決定した。新社名は「Equinor ASA」であり、16日より正式社名として適用されている。「Equinor」は造語であり、「equ/i」は「平等」を意味する英語の接頭語でequal(平等)、equality(衡平)、equilibrium(平衡)などの単語で使用されるもの。「nor」は、Norwayの「Nor」であり、ノルウェー企業としての矜持を表すという。
Statoil社のCEO Eldar Sætre氏は、社名変更につき以下のように述べている。「今後50年間で世界的規模の「エネルギー移行」が進展していく。Statoilは石油・ガス企業ではなく、より広範なエネルギー企業になろうとしており、社名変更は自然な選択である」。また同氏は「「Equinor」は我々のアイデンティティを表す」とし、「「Equi:公平」とは、事業活動にあたり、我々がどのように人々や社会との関係を築いていきたいかを示している。「Nor」については、ノルウェー大陸棚(における石油・ガス開発)こそ我々の出自であるし、今後も屋台骨であり続けるという意思である。」と説明している。
2.背景 –石油ガス企業から、「総合エネルギー企業」への変革
今回の社名変更の背後には「エネルギー移行」を見据えたStatoilの低炭素戦略がある。
Statoilは「Statoil Energy Perspective」という需要予想シナリオを公開し、2040年時点でのエネルギー需要予測を行っている。ここでは、石油・ガスの需要割合が依然として50%近くを占めることを前提としつつも、再生可能エネルギー(以下、再エネ)割合の増加(現在の2%から5-15%程度へ)、石炭代替燃料としての天然ガスの重要性向上など、「エネルギー移行」の進展を予測。この予測の下でStatoilは2017年、「Statoil’s Climate Roadmap」を発表し、2030年に向けた低炭素戦略を示した(下表)
この戦略に従ってStatoilは、New Energy Business部門を設置、積極的に再エネ事業に進出している。同社の再エネ事業における現在の重点事業は洋上風力であり、英国、ドイツ、ポーランド、北米等で事業を実施。総発電容量は4GW程度に達する。代表的な事例としては、2017年に操業を開始した英領北海のHywind Scotlandプロジェクトがあげられる。同プロジェクトは発電容量30MWで、世界初の商用浮体式洋上風力発電事業である。また現在計画中のプロジェクトとしては英国のDogger Bankプロジェクトがあり、これは総容量4.8GW、英国電力需要の約5%を供給可能な大規模事業である。
3.課題 ―「エネルギー移行」を見据えたポートフォリオバランスー
再エネ事業への投資は、今後10年間で減退が予測される既存資産からのキャッシュフロー減少分の補填、また油価変動に対するヘッジ目的や、「エネルギー移行」の不確実性に関わるリスク分散の観点等からも評価することができる。よって、経営判断としては合理性があるといえる。
ただし、この戦略には課題もある。一つはリターンの問題である。再エネ事業は一般に石油・ガス事業と比較してリターンが低い。また一方足下では、開発コスト削減と油価上昇を背景として、石油・ガス上流事業のリターンが大きく向上している状況がある。Statoilによれば、最終投資決定(FID)済みの再エネプロジェクトのIRR(内部収益率)は平均で9-11%程度であるが、石油・ガスプロジェクトではIRR20%を超える案件でもFIDを見合せるケースがあるという。もちろん、両事業のコスト構造の違いを考慮すれば、単純比較は適切ではない。しかし今回の社名変更を契機に、アナリストや投資家から、低リターンの再エネ事業への投資拡大に対する疑問の声が上がっている。
また、全体のポートフォリオバランスの課題もある。Statoilは、近年石油ガス事業において大きな成功を収めており、今後生産を開始する大規模案件を複数抱えている。成功事例の代表が、2019年に生産開始を予定するノルウェー領北海のJohan Sverdrup油田開発である。
Johan Sverdrupは埋蔵量30億boe/d、ピーク生産量(フェーズ2)66万b/dとなっており、総開発費56億ドルの大規模プロジェクトである。Statoilの発表によれば、同プロジェクトは北海では過去10年間で最大の発見とされており、生産量66万b/dはノルウェー国内の総生産量の4分の1を超える水準である。フェーズ2までを含めた生産期間は約50年となっており、生産期間を通じてノルウェーに約1700億ドルの収入をもたらす国家的プロジェクトである。同プロジェクトのIRRは20%で、単純比較で再エネ事業の2倍相当。またStatoilは、そのほかにもJohan Castberg(2022年生産開始予定:19万b/d)や、Snorre油田の再開発(2億boeの回収量増加見込み)などの有望案件を抱えている。つまり今後数十年に渡って本業の石油・ガス事業からの安定的なキャッシュフローが予測されており、社内でも「それならば本業に集中すべきではないか」という議論が交わされているという。
リターンを含めた個々の投資判断につきStatoilは、「資産、リスク状況、収益性はプロジェクトごとに異なる。我々はいつも、最も魅力的で収益性の高いプロジェクトを選択し、石油・ガス・再エネの別はない」("Statoil faces flak over transition strategy",Upstream,April18,2018)としている。また全体のポートフォリオバランスに関しては、発表済みの低炭素戦略を基本とし、「エネルギー移行」の進展に合わせた見直しを継続していくとしている。
「エネルギー移行」は、特にその進展速度につき不確実性が高い。不確実な将来で安定的にキャッシュフローを確保するためには、油価や化石燃料需要の動向を注視しつつ、ポートフォリオバランスを図る必要がある。そのためには、目先のリターンを追及するばかりでなく、より長期的な視点をもつことが肝要であり、Statoilの経営陣はその必要性を強く認識している様である。
4.おわりに
今回の社名変更で、Statoilは社名から「oil(石油)」という語を削除した。冒頭で紹介したように、「エネルギー移行」を見据えた事業多角化への強いメッセージであるというのがその理由である。低炭素戦略自体は2017年に発表済みで、すでに再エネ事業への進出も進んでいる。にもかかわらず、社名変更の発表を契機に同社の戦略批判があちらこちらで聞かれるようになった。社名変更が「石油・ガス事業からの撤退と再エネ事業への急激な傾斜」というイメージを与えたというのが大きな理由であろう。
しかし実際には、同社の中核事業は引き続き石油・ガス事業である。2018年第1四半期の決算発表では、油価上昇に支えられ前年同期比17%の増益。生産量は前年同期比2%の増加を報告しており、2020年までは新規プロジェクトの生産開始により年率3-4%の増産を見込む。
今後の課題はむしろ、油価が高水準に留まり、石油・ガス大規模プロジェクトへの投資が予定される中で、いかに「低炭素戦略」を実現していくかという点になろう。「エネルギー移行」の進展にペースを合わせつつ、注意深くポートフォリオを再編していかねばならない。「Equinor」という名の通り、平衡(”Equilibrium“)感覚が問われることになるだろう。
以上
(この報告は2018年5月17日時点のものです)