ページ番号1007833 更新日 令和6年10月22日
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概要
- ボリビアは、産ガス国としてブラジルやアルゼンチンに天然ガスを供給し、南米南部のガス供給の要としての役割を果たしてきた。しかし、ブラジル及びアルゼンチンの天然ガス生産量が増加したことで両国のボリビア産ガスに対する需要が低下し、輸出量が減少している。そこで、供給先の確保、多角化に努めており、その一環として、ペルー経由でアジア市場にLNGを輸出する可能性が浮上している。一方で、主要ガス田がすでに生産減退期に入っているという問題も抱えており、探鉱・開発促進にも力を入れようとしている。
- アルゼンチンでは、VacaMuertaシェールの生産増により天然ガス生産量が増加を続けており、Bahia Blanca港でのLNG輸入を2018年末に取りやめ、Tango FLNGを導入、2019年6月に初のLNG輸出を行った。この他にも、Vaca Muerta LNGの建設やチリ経由での太平洋岸からのLNG輸出が計画されている。パイプラインを使っての天然ガス輸出の申請も盛んに行われ、輸出手続きの簡素化が行われる一方、まだガス生産量が十分ではなく、気象条件によってはガス輸出を行えない事態も発生している。
- ブラジルでは、プレソルトの開発により天然ガス生産量が増加している。ガス需要の低迷もあって、ボリビアからのパイプラインガス輸入もLNG輸入も減少しており、FSRU(Floating Storage and Regasfication Unit)3基のうち1基の用船契約を2017年6月に終了していた。
- 2019年10月には、アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビアで大統領選挙が行われる。アルゼンチンとボリビアの大統領選挙は、その結果次第で同エリアの天然ガス事情に影響を及ぼす可能性があり、注視していく必要がある。
(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas他)
はじめに
Southern Coneと呼ばれる南米南部の6か国、アルゼンチン、チリ、ウルグアイ、ボリビア、パラグアイ、ブラジルは、2000年代初めには、地域内で生産される天然ガスを融通しあい、地域内の需要を賄っていた。たとえば、ブラジルは、1990年代末に重質油については生産量が増加していたものの、天然ガスの生産が思うように増加しなかったため、1999年にボリビアから、2000年にアルゼンチンからパイプラインでのガス輸入を行うようになった。一方、アルゼンチンでは、1990年代に国営石油会社YPFを民営化し、民間企業にも鉱区を付与するようになったことから、探鉱・開発が活発になり、ガス生産量が増加していた。そこで、2000年より、それまでもガス輸出を行っていたチリに加え、ブラジルとウルグアイへもパイプラインでのガス輸出を開始した。
しかし、その後、アルゼンチンでは経済状況が悪化し、2001年以降、政府が景気回復を図るため天然ガス価格を低く抑える政策をとった。政策が功を奏し景気は回復したが、価格が安い天然ガスの需要は増加を続けた。その一方で、探鉱・開発促進策はとられず、上流部門の活動が停滞し、ガス生産量は頭打ちとなり、2000年代半ばになるとアルゼンチンはブラジル、チリ、ウルグアイへの輸出は継続するものの、自らもボリビアからガスを輸入するようになった。ボリビアは生産量ではアルゼンチンやブラジルに及ばないものの、国内消費量が少ないことから、Southern Coneのガス供給源となっていった。
その後、同地域全体としてガス需要が増加する一方で、アルゼンチンのガス生産量は2007年には減少に転じ、同国からの輸出量はさらに減少していった。また、ブラジルのガス生産量も2000年代は大きな伸びがなかった。そこで、ブラジルとアルゼンチンはボリビアからのパイプラインによるガス輸出を増やした。さらに不足分を補うため、2008年以降はアルゼンチン、ブラジル、チリでLNG輸入が開始されることとなった。
2010年代になると、アルゼンチンからのガス輸出が行われなくなり、地域全体のLNG輸入量が増加していった。2015年には、アルゼンチン、ブラジル、チリのLNG輸入量が世界全体のLNG輸入量の5.1%を占めるようになった。このような状況から、Southern Cone はLNG輸入エリアとして世界のLNG輸出入マップの一隅に取り込まれていくと見られるようになった。
ところが、ブラジルではプレソルトの開発に伴い2010年以降、アルゼンチンでもVaca Muertaシェールの開発により2015年頃から、ガス生産量が増加を始めた。その結果、同地域のLNG輸入量が減少を始め、2019年にはアルゼンチンからLNG輸出が開始された。さらに、太平洋岸のペルーやチリからもLNGが輸出される可能性が浮上してきており、同エリアの位置づけが変化しつつある。
本稿では、この地域の天然ガス供給の要としての役割を果たしてきたボリビアの状況を中心に、ガス生産量を増やしているアルゼンチンとブラジルの状況を紹介する。

BP Statistical Review of World Energy June 2019を基に作成

各種資料より作成
1. ボリビア
1.1 Southern Coneの天然ガス供給源の地位から転落か
ボリビアでは、1990年代後半より外資参入が進み、積極的な投資と活発な探鉱により南部Tarija県を中心に相次いでガス田が発見された。これらのガス田の開発が進み、天然ガスの生産量が増加し、1999年にはブラジル向けにパイプラインでのガス輸出が開始され、2004年にはアルゼンチン向けのパイプラインでのガス輸出が再開され、ボリビアは南米南部Southern Coneのガス供給源となった。
しかし、2006年5月に、Evo Morales大統領が炭化水素資源国有化を宣言した。探鉱・開発が停滞することが懸念されたが、ボリビアは、法律を遵守している企業の資産の差し押さえや接収、権益の剥奪を行ったり、これらの企業を追放したりするようなことはしないとし、その法的安全性を保証し、生産・輸送・精製・販売・価格決定に関する国家管理を強化することとした。その結果、探鉱・開発部門への投資は予定通り実施され、ボリビアの天然ガス生産量は、2009年に一時的に減少したものの、2004年の25.7MMm3/dから2014年には55.6MMm3/dに倍増した。
ところが、2015年からボリビアの天然ガス生産量は減少に転じ、2018年は43.8MMm3/d、2019年第1四半期には36MMm3/d[1]となった。
[1] LatAmOil2019/4/30
1.2 ガス供給先の確保、多様化を計画
ボリビア政府は、2015年以降の生産量減少の理由として、ブラジルやアルゼンチンのボリビア産ガスに対する需要減少を挙げている。後述する通り、アルゼンチンではVaca Muertaシェール、ブラジルではプレソルトの開発が進み、両国の天然ガス生産量が増加してきた。特に、ブラジルについてはガス需要が減少したこともあって、2015年以降、ボリビアからのパイプラインガス輸出量が減少している。アルゼンチンへの輸出量も次第に増加の伸びが縮まり、2018年には減少に転じた。両国の天然ガス生産量は今後、より増加すると見込まれており、ボリビア産ガスへの需要はさらに減少する見通しだ。アルゼンチンの元エネルギー相Javier Iguacel 氏は、2018年10月に、アルゼンチンは2020年末までにボリビアのガスを必要としなくなる見通しだと語った。現在、ボリビアからブラジルへガスを輸入している唯一のブラジル企業Petrobrasも、2019年末に現在の契約が終了すれば、輸入量を半減させたいとしている。そこで、ボリビア政府は、国内のガス需要増やガス化学産業の振興を計画、ブラジル、アルゼンチンとの契約を見直すとともに、供給先の多角化を検討している。

BP Statistical Review of World Energyを基に作成
1.2.1 先行きが不透明なブラジル向けガス輸出
ボリビアの国営石油企業YPFB(Yacimientos Petrolíferos Fiscales Bolivianos)とPetrobrasは1999年にガス供給契約を締結し、ボリビアは24MMm3/d~30.5MMm3/dのガスをブラジルに供給することとなっている。契約期間は20年で、この契約は2019年末に終了となる。しかし、両社はまだ、新契約の内容について合意に至っていない。
ボリビアは、年末までに合意できなくても、ブラジルに既存契約の最大契約量のガスを供給し続ける準備があるとしている。しかし、YPFBが、2018年は12ヶ月のうち9ヶ月間、ボリビア側の原因でブラジルに契約量のガスを供給できなかった経緯から、ブラジルはYPFBが既存契約最低量でさえも供給できない可能性があると見ているという。一方、ブラジルも2019年3月以降はボリビアから12MMm3/dしかガスを輸入できず、Petrobrasは“take or pay” 条項に基づいてペナルティを支払っている。
ボリビア側は積極的にブラジルとの契約交渉に取り組んでいるとされている。そして、ブラジルが、Bolsonaro政権の経済自由化政策の一環として、Petrobrasのガス市場独占状況を終了させ、ガス市場を自由化する計画で、Petrobrasがボリビア・ブラジル間ガスパイプラインを操業する企業Transportadora Brasileña Gasoduto Bolivia-Brasil(TBG)の株式売却を決定したことを受けて、YPFB子会社Gas Trans Boliviano(GTB)がこの株式取得を目指して入札に参加するとしている。SantaCruz~Porto Alegre間全長約3,200kmにわたって敷設されているこのパイプラインは、BBPLまたはGasbol と呼ばれ、送ガス能力は30.08MMm3/dとなっている。PetrobrasはTBGの株式の51%を保有している。ボリビア側は、TBGの株式取得によりブラジル市場でのプレゼンスを高めたいと考えているという。
1.2.2 供給量が削減されるアルゼンチン向けガス輸出
ガス需要が季節によって大きく変動することから、アルゼンチンはボリビアに対し、2006年10月に締結し、2026年に契約終了となる現在のガス販売契約について、数量を季節によって変更することを要望していた。2019年2月14日、アルゼンチンの国営エネルギー企業IEASA(Integración Energética Argentina S.A.、元ENARSA)とYPFBは、ボリビアのアルゼンチン向けガス輸出量を今後2年間について10~4月は11MMⅿ3/d、5月と9月は16MMⅿ3/d、6~8月は18MMⅿ3/dとすることで契約の追記に署名した。価格については、これまで燃料油とディーゼルのバスケット価格とされていたが、今後はこれを基準価格とし季節によって変化させることとした。2019年夏の価格は10MMm3/dまでは基準価格の6.2ドル/MMBtuとし、10MMm3/dを上回った分については15%の追加料金が課される。冬の期間は、10MMm3/dを上回った分についてはBuenos Aires州EscobarでのLNG輸入価格に再ガス化コスト0.8ドル/MMBtuを加えた価格を基に計算する(2019年2月時点では10.3ドル/MMBtu)[2]。契約で定められた数量を下回っても、アルゼンチンはペナルティを負うことはなく、2019~2020年の2年間に4.6億ドルを節約できるとしている。両国は、さらに、YPFBがアルゼンチンの開発段階の油・ガス田へ投資を行うことやアルゼンチンからLNGを輸出するプロジェクトに参加する可能性についても合意した。
アルゼンチンからのボリビア産ガスをフィードガスとするLNG輸出に関しては、4月にMorales大統領とMauricio Macri大統領が Buenos Airesで会談を行った。その結果、ボリビアからアルゼンチンへ輸出したガスに余剰が発生した場合には、YPFと共同でこれを液化しアルゼンチンの港湾からLNGを輸出するため、YPFBはBahía BlancaやEscobar等の液化プラントに投資を行うことで協定が締結された。
[2] Argus, 2019/2/15 なお、ボリビアの炭化水素省のデータによれば、2018年の天然ガスの輸出価格は、ブラジル向けが2016年比64.6%増の5.15ドル/MMBtu、アルゼンチン向けは同77.2%増の6.24ドル/MMBtuであった。
1.2.3 ペルー向け新規販路開拓
ペルーでは、2004年にCamiseaガス田の生産が始まった。その結果、天然ガス生産量は2004年の2.3MMm3/dから2014年には36MMm3/dに増加、2010年からはMelchoritaよりLNG輸出を開始した。このPeru LNGはHunt Oil 50%、SK Energy 20%、Shell 20%、丸紅10%が参加、液化能力は450万t/年となっている。GIIGNLによると、Peru LNGの2018年のLNG輸出先及び輸出量は、スペイン127万t、韓国97万t、日本56万t、オランダ23万t、フランス21万t、中国、台湾、英国、メキシコがそれぞれ6万t、マルタ4万tの合計352万tとなっている。国内需要は経済発展やガス火力発電所の建設に伴い増加し、2016年には20.8MMm3/dとなったが、2017年は18.5MMm3/dに減少、2018年は19.3MMm3/dとなった。政府は2008年よりCamiseaガス田~ペルー南部Ilo間にガスパイプラインを建設、Iloで石化・ガス化プロジェクトを立ち上げることを計画しているが、コスト増等により進展が見られない。
一方、ボリビアからペルーに天然ガスパイプラインを敷設し、ガスを輸出、さらに液化してペルー経由でLNGをアジア向けに輸出するという計画も決して新しいのもではない。2003年にも、ボリビアからペルーあるいはチリまでパイプラインを敷設し、そこで液化したLNGを米国やメキシコに輸出する計画があった。ところが、どちらのルートを選ぶかが原因となりボリビア国内で意見が対立、紛争に発展し、Gonzalo Sánchez de Lozada大統領(当時)が辞任する騒動となった。その後は、太平洋岸までガスを運び液化する計画は下火となっていたが、2019年に入ってから再び、ペルー経由でのLNG輸出計画が頻繁に取り上げられるようになっている。
2019年1月4日、YPFBは、ペルー南東部までパイプラインを敷設し、貯蔵プラントを建設する計画に4億ドル強の投資を行うと発表した。
その後、ボリビアのLuis Alberto Sánchez炭化水素大臣は、ペルーのFrancisco Ísmodesエネルギー・鉱業大臣とSanta Cruz de la Sierraでボリビアからのガス輸出について協議を行った。ボリビア側は、Ilo-La Paz間のパイプライン建設、LNG輸出を行うためIlo港に液化プラントを建設する計画等に投資を行うことに関心を有していることを表明した。
そして、3月4日には、Morales大統領が、Ilo港までガスパイプラインを敷設する準備中で、そのパイプラインを利用して、中国に向けてLNGの輸出を計画していると発表した。
また、Morales大統領は、3月29日にインドのRam Nath Kovind大統領と会談した。Luis Alberto Sánchez炭化水素大臣によると、インド企業が天然ガス生産量を増加させるための探鉱に約30億ドル、Iloまでのパイプライン敷設とIlo港に液化プラントを建設するため100億ドルを投じることを誓約した。
さらに、6月25日にはLuis Alberto Sánchez炭化水素大臣とFrancisco Ísmodesエネルギー・鉱業大臣がIlo宣言を締結、以下の3点で合意した。両国は、今後パイプライン連結に関する技術的・経済的な実現可能性を検討するとしている。
- Camiseaガス田からのガスパイプラインとボリビアからのガスパイプラインを連結させて建設
- 両国国境付近にガス供給網を建設、運用
- ペルー南部でのボリビア産LPGの販売
パイプラインが建設されれば、ボリビアは10MMm3/dのガスをペルー南部に供給するとともに、Ilo港に新たなLNG出荷基地を建設して、アジア等の市場へLNGを輸出することが可能となる。ペルーにとっても、Camiseaガス田で生産されるガスをペルー南部に供給するという長年の懸案事項を、ボリビアに一部資金負担をさせ、自国分のコストを抑えて実現できることになる。

天然ガスリファレンスブックを修正
1.2.4実現性が低いと見られるパラグアイへのガス輸出
ボリビアからパラグアイへのパイプライン敷設については、2005年9月に計画が発表された。2010年にはラテンアメリカ開発銀行(CAF:Corporacion Andina de Fomento)の資金でボリビア‐パラグアイ‐ウルグアイを結ぶUrupabolガスパイプライン敷設についての調査が行われ、2018年には覚書に署名がなされた。このパイプラインは全長2,000kmで、当初のウルグアイへの供給量は300,000m3/dとされた[3]。しかし、具体的な進展は見られなかった。ところが、2019年に入って再び、パラグアイへのガス輸出計画が検討され始めるようになった。
1月7日、Luis Alberto Sánchez炭化水素大臣は、ブラジル、アルゼンチンに加え、ペルーやパラグアイにもガス輸出を行いたいと語った。
3月6日には、同大臣が、ボリビアとパラグアイが政府レベル及び技術者レベルでボリビアVilla MontesとパラグアイAsunción間にパイプラインを敷設する計画の実現性を確認し、さらに、パラグアイは6~10MMm3/dのボリビア産天然ガスを購入することに関心を表明していると述べた。
ボリビアとパラグアイは6月12日に再度、会合を開き、ボリビアのガスをパラグアイに供給するVilla Montes~Asunción間のパイプライン建設についてスタディを実施することでMOUを締結した。スタディは8か月間にわたり実施され、2024年にパイプラインの完成を目指す。両国間では、パラグアイ向けのLPG、プロパン、ブタン、尿素等の販売についても協議が行われた。
しかし、パラグアイでは電力用のガス需要はなく、主となる家庭用と商業用のガスでは市場が小さ過ぎるとの見方もある。また、パイプライン敷設の投資を誰が行い、誰がガスを購入するのか、価格がどうなるのか等も明確にされていないとの指摘もなされている。
[3] https://en.mercopress.com/2010/07/22/bolivia-paraguay-and-uruguay-consider-building-2.000-kilometres-gas-pipeline
1.3 探鉱・開発促進を企図
しかし、ボリビアの天然ガス生産量減少の原因は、周辺国のボリビア産ガスに対する需要の減少だけが原因ではないようだ。1990年代に発見された主要ガス田がすでに生産減退期に入っていることも、生産量減少の原因と考えられる。ボリビアのガス生産の中心地であるTarija県の主要ガス田の生産量を2014年と2018年で比較してみると、Sábaloガス田が18.19MMm3/dから12.53MMm3/dに31%、San Albertoガス田が9.08MMm3/dから3.61MMm3/dに60%、Itaúガス田が2.59MMm3/dから0.72MMm3/dに72%、それぞれ生産量を減らしている[4]。
このような状況にもかかわらず、Morales大統領は、ボリビアを南米のエネルギー拠点とする構想を打ち上げ、2019年をYPFBの国際化実現の年とすると明言し[5]、探鉱・開発促進を図る意向を示している。
YPFBのÓscar Barriga総裁は2019年1月28日に、2019年はYPFBと民間企業を併せてボリビアの炭化水素部門に14億5,000万ドルが投資される計画であることを明らかにした。2018年は炭化水素部門に7億1,100万ドルが投じられており、計画通りに投資が行われれば2019年は2018年のほぼ倍額が投資されることとなる。
[4] El Deber, 2019/7/6
[5] 中南米経済速報, 2019/2/4
ガス田 | 発見 | 生産開始 | 生産量* | 参入企業(権益保有比率) 太字:オペレーター |
---|---|---|---|---|
Sábalo (San Antonio) | 1999/12 | 2000/12 | 12.53MMm3/d | YPFB Andina(50%)、Petrobras(35%)、 Total(15%) |
San Alberto | 1999/1 | 2001/1 | 3.61MMm3/d | YPFB Andina(50%)、Petrobras(35%)、 Total(15%) |
Margarita-Huacaya | 1998/12 | 2004/12 | 16.5MMm3/d | Repsol(37.50%)、Shell(37.50%)、 Pan American Energy(25%) |
Itaú | 1999/6 | 2011/2 | 0.72MMm3/d | Total(41%)、Petrobras(30%)、 Shell(25%)、YPFB(4%) |
Incahuasi | 2004/10 | 2016/8 | 7.0MMm3/d | Total(50%)、Gazprom(20%)、 Tecpetrol(20%)、YPFB(10%) |
*Margarita-Huacaya、Incahuasiガス田の生産量は2017年、その他のガス田の生産量は2018年
各種資料を基に作成

各種資料を基に作成
14億5,000万ドルのうち9億500万ドルが探鉱・開発部門に投じられる計画である。Luis Alberto Sánchez炭化水素大臣によると、14社が23エリアで25坑を掘削する計画で、これは過去 20年間で最大の坑井数である。これらの坑井には、RepsolのBoyuy-X2号井(投資額1億2590万ドル)、ShellのJaguar-X6号井(同1億940万ドル)、TotalのIncahuasi-5号井(同7300万ドル)、Petrobras のCaranda-X1005号井(同4450万ドル)等が含まれる。
なお、この計画では、14億5,000万ドルのうち、YPFBが4億2,300万ドルを、YPFB子会社と民間企業が10億2,800万ドルを拠出することとなっている。
6月30日には、Luis Alberto Sánchez炭化水素大臣が、2025年までの6年間にボリビアの探鉱に98億ドルが投じられる見通しで、29エリアで31坑の坑井が掘削され、23Tcfの埋蔵量が確認され、確認埋蔵量を2017年末の10.7Tcfから2025年には少なくとも15Tcfに増やす計画であると語った。2006年から2018年の13年間の探鉱投資額は23億6420万ドルとなっており、2019年は4億2,220万ドルが投じられる計画である。
いずれにせよ、当初、2018年は炭化水素部門に12億ドルを投じる計画であったが、実際の投資額は7億1,100万ドルとなったという事例もあり、YPFBをはじめとする各企業が計画に沿って投資を行うことができるか否かが、今後の確認埋蔵量や生産量に大きく影響を与えることになろう。
2. アルゼンチン
「シェール開発で石油・ガス輸出国に返り咲くルゼンチン 沖合鉱区入札も活況を呈す」にも記した通り、VacaMuertaシェールの生産増によりアルゼンチンの天然ガス生産量は増加を続けている。ガス輸出についてはその後、いくつかの動きがあった。
Exmarは、2019年6月6日、Tango FLNG(液化能力50万トン/年)の試運転を成功裏に終了し、これをYPFに引き渡したと発表した。そして、Vaca Muertaシェールで生産されたガス25,000 m³を液化し、積み込んだ1船目のLNG船が、Bahia Blancaを出港した。ExmarとYPFは、2018年11月にTango FLNGを10年間用船する契約を締結、2019年2月にはTango FLNGがBahia Blanca港に到着、第2四半期もしくは第3四半期にTango FLNGの稼働を計画していた。
これとは別に、YPFは、Vaca Muertaシェールで生産されるガスをフィードガスとするVaca Muerta LNGの建設を計画している。同社は、このVaca Muerta LNGの予備基本設計(pre-FEED:Front End Engineering and Design)をMcDermottに発注した。7月19日にMcDermottが明らかにした。液化能力は500万t/年で1,000万t/年まで拡張可能なものを計画している。
引き続き、チリに液化プラントを建設し、ガスをチリまで運びこれを液化、LNG輸出を行うことも検討されているようだ。
天然ガス輸出の申請も引き続き盛んに行われている。6月末には、Wintershall が2019年10月~2020年5月並びに2020年10月~2021年5月にチリのEnel Generación Chileにガス 750,000m3/d、合計319MMm3を輸出する計画をアルゼンチン政府に提出した。価格はUS$3.438/MMbtuとアルゼンチン国内の価格約US$3/MMbtuよりも高くなっている。YPFもEnel Generación Chileに1MMm3/d、最大で274MMm3、Colbúnに3MMm3/d、最大で1Bm3を輸出する計画を提出した。価格は、Enel との契約が、2019年10月~2020年4月がUS$3.553/MMBtu、2020年5月~9月がUS$4.415/Mbtu、Colbúnとの契約は2019年10月~2020年4月がUS$3.46/Mbtu、5月~9月がUS$4.40/Mbtu、6月~8月がUS$6.3/Mbtuとなっている。Vaca MuertaシェールのEl Portón、Loma La Lata鉱区からガスを供給する計画であるという。
このようなガス輸出の増加を受けて、7月26日には大蔵省管轄下のエネルギー庁が、天然ガス輸出の承認手続きを簡素化すると発表した。従来45日かかっていた手続きを15日まで短縮するという。Gustavo Lopeteguiエネルギー庁長官は、手続きを簡素化する目的について、「国内市場に供給するために生産を増やすことで、数ヶ月中に天然ガスの輸出国に変身することだ」と説明した。今回の措置は特にチリ向け輸出を睨んだものであるとされている。
ただし、2019年7月初旬は急激な気温低下によりアルゼンチン国内の民生用のガス需要が増加したため、アルゼンチンはチリへのガス輸出量を削減した。一時は輸出がほぼ完全に停止したが、7月中旬には輸出量は回復してきたという。アルゼンチンの天然ガス生産量は急激に増加しているものの、このような季節による需要の変動にはまだ耐えられない場合もあり、今後も生産量の動向を注視していく必要があろう。
なお、アルゼンチン政府は2021年頃までにLNG輸入を停止したいとしている。そして、Bahia Blanca港でのLNG輸入を2018年末に取りやめ、Tango FLNGを導入した。Escobar受け入れ基地(受入能力670万t)でのLNG輸入は、Excelerate EnergyのEnergy Bridge Regasfication Vessel(EBRV)を用いて、IEASAとYPFが行っているものの、期間は3~4月から10月の冬期だけとなっている。GIIGNLによると、2018年のLNG輸入元及び輸入量は、カタール111万t、米国53万t、トリニダード・トバゴ39万t、ナイジェリア36万t、アルジェリアと赤道ギニアがそれぞれ6万t、ロシア4万t、再輸出受入分4万tの計259万tとなっている。
3. ブラジル
ブラジル国家石油庁(ANP:Agência Nacional do Petróleo, Gás Natural e Biocombustíveis )によると、2019年6月のブラジルの天然ガス生産量は111MMm3/dで、その56.6%にあたる62.8 MMm3/dがプレソルトで生産されている。
プレソルトで生産されるガスは随伴ガスで、パイプラインがなかったため、当初は油田に再圧入されていた。2011年にRota 1パイプラインが稼働し、Sapinhoá、Lula-Iracema油田で生産されたガスが、Mexilhão ガス田を経由してCaraguatatubaのガス処理プラントに送られるようになった。2016年2月にはRota2パイプラインが稼働、Lula-Iracema、Berbigão-Sururu、Itapú、Búzios、Tambuatá油田で生産されたガスがCabiúnasのガス処理プラントに送られている。Lura Norte、Búzios 油田とRio de Janeiro州Maricá 市のComperj製油所を結ぶRota3パイプラインは、2018年11月にMcDermottが非常に浅い沖合部分10kmについてEPCI契約を締結した。McDermottは、すでに敷設されている浅海部分のパイプラインと接続して陸上までパイプラインを敷設、さらに、Rota3パイプライン全体の管理、エンジニアリングも行う[6]。プレソルトの油田開発が進み、Rota3パイプラインが完成することで、ブラジルの天然ガス生産量はさらに増加すると考えられる。
ボリビアからのパイプラインガス輸入については先述した通りであるが、LNG輸入に関しては、PetrobrasがPecem、Guanabara Bay、Bshiaの3か所でFSRU(Floating Storage and Regasfication Unit)を用いて行ってきた。LNGは、長期契約を締結することなく、スポットまたは短期契約で調達している。しかし、国内生産量の増加や需要の減退を受けて、Petrobrasは2017年6月にGuanabara Bayで利用していたFSRU Golar Spiritの用船契約を終了した。なお、GIIGNLによると、2018年のLNG輸入元及び輸入量は、米国66万t、トリニダード・トバゴ35万t、ロシア34万t、ナイジェリアとノルウェーがそれぞれ19万t、カタール7万t、アンゴラ6万tの計186万tとなっている。
区間 | 全長 | 口径 | 送ガス能力 | 操業開始 | 油・ガス田 |
---|---|---|---|---|---|
Lula-Mexilhão (Rota1) |
225km | 18インチ | 10MMm3/d | 2011年 | Sapinhoá、Lula-Iracema |
Iracema-Cabiúnas (Rota2) |
380km | 24インチ | 13MMm3/d | 2016年 |
Lula-Iracema、Itapú、 Berbigão-Sururu、Búzios、Tambuatá |
Lura Norte-Búzios -Rio de Janeiro (Rota3) |
沖合:123km +184km |
24インチ | 21MMm3/d | ― | Lula Norte、Búzios |
陸上48km | 22インチ |
各種資料より作成
なお、先述した通り、ブラジルでは7月23日に、Bolsonaro大統領がPetrobrasによる天然ガス、精製部門の独占を終了させる内容の大統領令に署名した。ブラジルは1997年制定の石油法と2009年制定のガス法によりガス市場の改革を試みたが、現在もPetrobrasが生産の約80%、消費、供給の90%以上を占め、沖合のガスパイプラインと全てのガス処理プラントを操業、ほぼ全てのガス供給企業の株式を保有し、事実上、ガスセクターを独占している。今回の大統領令により、このようにPetrobrasがガス市場を独占する状況を変え、ガス市場を自由化し、上流への投資を促進、ガス生産量を増やし、上流と輸送、流通分野の分離(unbundling)を実施、価格を引き下げ、競争市場の創出を目指すという。Petrobrasによるガスセクターの独占を終了させるには数年を要すると見られている。この政策が、ブラジルの天然ガス生産やパイプラインの建設にどのような影響を及ぼすのか注意深く見ていきたい。
[6] Offshore, 2018/11/2
終わりに
2019年10月には、Southern Cone6か国のうち、アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビアで大統領選挙が行われる。特に、アルゼンチンとボリビアの大統領選挙は、その結果次第で同エリアの天然ガス事情に影響を及ぼす可能性がある。
ボリビアの大統領選挙の第1次選挙は10月20日に実施される。この選挙は、Morales大統領が、2016年2月に憲法の大統領再選規定の撤廃を求めて国民投票を実施、憲法改正が否決されたにもかかわらず、大統領の再選回数を制限した憲法の規定が米州人権条約に反すると憲法裁判所に訴え、これが認められて、出馬に至ったという経緯がある。世論調査ではMorales大統領と野党最有力候補のCarlos Diego Mesa Gisbert元大統領が競っている。Mesa元大統領は、2002年8月よりGonzalo Sánchez de Lozada元大統領の副大統領を務めていたが、天然ガス輸出をめぐる紛争が激化したことにより同大統領が辞任したことを受け、2003年10月17日に大統領に就任した。しかし、天然ガス産業を国有化するか否かをめぐり抗議行動が激化したことから、2005年6月6日に辞任している。第1次選挙でいずれかの候補が50%以上の票を得るか、40%以上を得票し次点の候補と10%以上の得票率の差がなければ12月に決選投票が行われることになる。
10月27日に実施されるアルゼンチンの大統領選挙の本選挙では、自由主義的な経済政策をとるMacri大統領と保護主義的、介入主義的、大衆迎合的な政策運営をとっていたCristina Fernández de Kirchner前大統領が副大統領として担ぐFernández元首相が競うことになりそうだ。ただし、8月11日に行われた予備選挙ではFernández元首相が得票率約47%と、Macri大統領の約32%に大差をつけて首位となった。本選挙で第一位の候補者が45%以上の得票を得るか、40%以上の得票で第二位以下の候補者に10%以上の差をつけなれなければ、11月に決選投票が行なわれることとなるが、その可能性は低いと見られている。
いずれの国でも現職が勝利すれば、現在のガスに対する政策が継続されると考えられる。一方、対立する候補の探鉱・開発に関する政策についてはこれまでのところ詳細が伝えられてこない。天然ガスの生産や輸出入の動向とともに政治、政策の動向についても注意深く見守っていく必要があろう。
以上
(この報告は2019年8月14日時点のものです)