ページ番号1008587 更新日 令和1年12月17日

ブラジル:資産売却を進めプレソルト開発に集中するPetrobras

レポート属性
レポートID 1008587
作成日 2019-12-17 00:00:00 +0900
更新日 2019-12-17 11:17:51 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業探鉱開発
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 7
抽出データ
地域1 中南米
国1 ブラジル
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,ブラジル
2019/12/17 舩木 弥和子
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概要

  1. Petrobrasは2020~2024年の5年間の戦略計画を発表した。
  2. Petrobrasはこの5年間の資本支出を757億ドルとし、うち、643億ドルを探鉱・生産部門に充てるとしている。これは、前5か年計画からそれぞれ10%、6.5%の削減となるが、プレソルトに重点を置き探鉱・開発を進める方針に変更はなく、探鉱・生産部門の投資額の59%をプレソルトの探鉱・開発に充てるとしている。
  3. 2020年はメンテナンスによる生産停止、成熟油田の生産減退、資産売却が予定されており、生産量は2019年と同量の270万boe/dとなる見通しである。しかし、その後は、新規生産設備の生産開始やCampos Basinの生産安定により、2021年に290万boe/d、2022年に310万boe/d、2023年に330万boe/d、2024年に350万boe/dと生産量は着実に増加するとしている。また、過去3年間の入札でプレソルトの鉱区権益を多く取得したことから、この5年間に年間平均で23億ドルを探鉱に投じるとしている。さらに、廃坑費に60億ドルを投じる計画であることも明らかにした。
  4. Petrobrasはこの5年間に中下流資産と老朽化、小規模、浅海、陸上油田を中心に200~300億ドルの資産を売却するとしている。これにより、プレソルトの開発に集中するとともに、純負債899億ドルを2021年に600億ドルに引き下げることを計画している。

 

Petrobras取締役会は2019年11月27日、2020~2024年の5年間の戦略計画「2020-2024 Strategic Plan」を承認した。Petrobrasは、12月4日にニュ-ヨークで、また、6日にロンドンで実施したPetrobras Day 2019で、この戦略計画の内容を発表した。


1. 投資の計画

Petrobrasは2020~2024年の5年間の資本支出を757億ドルとし、うち、643億ドルを探鉱・生産部門に充てるとしている。Petrobrasは原油価格下落や同社をめぐる汚職問題の影響を受け、2014~2018年の5カ年計画「Business and Management Plan(BMP)2014-2018」以降は資本支出を、また、BMP2015-2019以降は探鉱・生産部門への投資額を削減していた。しかし、BMP2018-2022では、資本支出や探鉱・生産部門への投資額は前5か年計画から大きな変更は行われず、BMP2019-2023では、資本支出も探鉱・生産部門への投資額も前5か年計画から増額し、同社が回復に向かっている証左と見られていた。さらに、同社のRoberto Castello Branco CEOは、2019年6月に、2019~2023年の資本支出を当初予定よりも25%多い1,050億ドルとし、うち900億ドルを探鉱・生産部門に投じるとしていた。しかし、今回発表された2020-2024 Strategic Planでは、ハイリターンが期待できるプロジェクトに投資を集中するとし、資本支出を10%、うち探鉱・生産部門への投資額を6.5%、それぞれ前5か年計画より削減した。

ただし、Petrobrasはプレソルトに重点を置き探鉱・開発を進める方針に変更はなく、探鉱・生産部門の投資額の59%をプレソルトの探鉱・開発に充てるとしている。中でも、Buzios油田の開発には探鉱・生産部門の投資額の28%を充てるとしており、同油田開発に高いプライオリティが置かれていることが分かる。Petrobrasは、Buzios油田のほかに、Lula、Jubarte等プレソルトの油田はもちろんのこと、ポストソルト大水深のMarlimやAlbacora等の油田開発にも探鉱・生産部門の投資額の29%と多くの投資を振り向けるとしている。

図1.Petrobrasの資本支出内訳
図1.Petrobrasの資本支出内訳
出所:Petrobras Day 2019
図2.Petrobrasの資本支出予定額推移(単位:億ドル)
図2.Petrobrasの資本支出予定額推移(単位:億ドル)
Petrobras websiteを基に作成
図3. Petrobrasの探鉱・生産部門の投資額内訳
図3. Petrobrasの探鉱・生産部門の投資額内訳
出所:Petrobras Day 2019

2. 探鉱・開発・生産の計画

Petrobrasは、新規浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備(Floating Production Storage and Offloading System:FPSO)のランプアップや長期にわたり実施されていたメンテナンスの終了により2019年後半に生産量を大きく伸ばした。(「ブラジル:石油生産量は急増しているが、プレソルト入札は低調な結果」参照)

しかし、2020年はメンテナンスによる生産停止、成熟油田の生産減退、資産売却が予定されており、生産量は2019年と同量の270万boe/dとなる見通しであるとしている。メンテナンスによる生産停止に関しては、後に、2020年上半期にCampos Basin、Santos Basinの20~30基のFPSOがそれぞれ20日間程度生産を停止する予定であることが明らかにされた。

その後は、新規生産設備13基の生産開始やCampos Basinの生産安定により、2021年に290万boe/d、2022年に310万boe/d、2023年に330万boe/d、2024年に350万boe/dと生産量は着実に増加するとしている。石油生産量も2020年の220万b/dから、2024年には290万b/dに増加するとしている。新規生産設備の多くがプレソルト向けであることから、総生産量に占めるプレソルトの割合は2020年の63%から、2024年には66%に増加するという。その一方で、成熟油田が集中し、生産量が減退しているCampos Basinにも、2024年までの5年間に200億ドルを投じ、操業効率の改善、回収率の向上、戦略的パートナーシップ強化等により、生産回復を目指す計画である。

図4.Petrobrasの生産計画
図4.Petrobrasの生産計画
出所:Petrobras Day 2019

前回のBMP2019-2023の生産見通しでは、総生産量は2018年の270万boe/dから2019年に280万boe/dに増加するとされいたが、今回の2020-2024 Strategic Planと併せて見ると、2018~2020年までの3年間、Petrobrasの生産量は増加しない想定になったということが見て取れる。BMP2019-2023では、2020~2023年に生産開始を予定していた新規生産設備のうちBuzios5、Parque das Baleias、Mero2、SEAP、Itapuについて、2020-2024 Strategic Planではそれぞれ1年ずつ生産開始時期が遅れてしまい、2020~2023年に生産を開始する新規生産設備の数も10基から9基に減少している。

また、Petrobrasは、過去3年間の入札でプレソルトの鉱区権益を多く取得したことから、2020~2024年までの5年間に年間平均で23億ドルを探鉱に投じる方針である。BMP2019-2023では、5年間の探鉱への投資額をBMP2018-2022の68億ドルから108億ドルに59%増加させる方針だったが、2020-2024 Strategic Planではこれをさらに増額したことになる。

さらに、Petrobrasは2000年5億ドル、2021年23億ドル、2022年11億ドル、2023年11億ドル、2024年10億ドルの合計60億ドルをかけ、18基のプラットフォーム、パイプライン、沖合抗井の廃坑措置を取るとしている。Petrobrasが5か年計画の中で廃坑費について触れるのは今回が初めてではないが、これまでその扱いは非常に小さく、今回の戦略計画のように各年毎に、投資額や廃坑予定の生産設備を示したことはなかった。廃坑が同社にとって重要な問題となってきていることが窺える。ブラジル国家石油庁(Agencia Nacional do Petroleo, Gas Natural e Biocombustiveis:ANP)が8月に発表したところによると、短期的、中期的に廃坑を行わなくてはならないブラジル沖合のプラットフォームは約100基で、その多くはCampos、Potiguar、Sergipe-Alagoas Basinの浅海に存在しており、2020~2040年の廃坑費は126億ドルとなる見通しであるという。Petrobrasは現在、ブラジルで初の大規模廃坑プロジェクトとなるEspírito Santo Basin のCação油田の生産インフラ除去作業を手掛けている。技術的には問題がないものの、作業面には問題があるという。また、ブラジル沖は浮体式の設備が多いことからメキシコ湾などよりも作業が困難となるとの見方もある。


3. 資産売却の計画

Petrobrasは2020-2024 Strategic Planで2020~2024年に200~300億ドルの資産を売却するとしている。売却を計画している資産には、これまで明らかにされてきた8製油所(全精製能力の半分程度)、ガス輸送・供給部門、陸上及び浅海油田、LPG供給部門、火力発電所、沖合ガスパイプライン等に加え、Marlim油田やPapa-Terra油田、ボリビアの資産、石油化学企業Braskem、BR Distribuidoraの株式が含まれるという。

Petrobrasはこれまでも負債を削減し、中核資産に集中して活動を行うとし、積極的に資産売却を進めてきた。2017~2018年は210億ドルの資産売却を計画、前5か年計画BMP2019-2023でも5年間に総額269億ドルに及ぶ非中核資産の売却を計画していた。

しかし、労働組合がPetrobrasの資産売却に反対し、裁判所に資産売却を中止するよう提訴、裁判所から、資産売却の差し止めを命じられたり、資産売却にあたっては議会の承認を得るようにとの判決が下されたりし、資産売却は度々頓挫していた。これに対し2019年6月には最高裁判所が、「Petrobrasは子会社または資産の売却にあたって議会の承認を必要としない」との判決を下した。そして、最良のオファーが受け入れられ、すべての潜在的バイヤーが平等に扱われる競争入札により売却を行わなくてはならないが、公開入札を実施する必要性は排除された。ただし、親会社の管理や支配を変更するような取引(Petrobrasを民営化するような際)には議会の承認と公開入札が必要であるとした。個別の資産売却の差し止め命令に関しても、最高裁判所が順次これを覆す判断を下してきた。

さらに、2019年1月に就任したBolsonaro大統領は国営企業の民営化を進める方針を取っている。Petrobrasはこれまでのところ民営化される国営企業のリストに含まれてはいないが、Bolsonaro政権は、Petrobrasの精製、販売、輸送部門の独占状況を終了させることを計画しており、Petrobrasがこれらの資産を売却することを支持している。

このような背景から、2019年に入りPetrobrasの資産売却は進展している(表1)。これを受け、PetrobrasのCastello Branco CEOは3月に、2019年中に300億~400億ドル相当の資産を売却する計画を明らかにした。また、Petrobrasは2020~2024年の5年間に300~350億ドルの資産売却を計画しているとの報道もあった。しかし、そこまでの大規模な資産売却は実際にはさすがに実現、計画されていない。

Petrobrasはこのように中・下流資産と老朽化、小規模、浅海、陸上油田の大部分を売却することにより、より高いマージンを得られるプレソルトの油田開発に集中するとともに、2021年に純負債899億ドルを600億ドルに引き下げることを計画している。


表1. 2019年に資産売却が決定または完了した案件
資産 売却先 金額(ドル) 備考
Pasadena製油所(精製能力11万b/d) Chevron 4.67億 2006年9月に50%を3.6億ドルで、2012年6月に残り50%を8.2億ドルで取得。設備近代化やメンテナンス、環境改善等に6.85億ドル投資
Maromba油田の権益70% BW Offshore 9,000万 Campos Basin南部浅海で2003年6月に発見。ChevronもBW Offshoreに権益30%売却
パラグアイの燃料供給、販売事業 Copetrol Group 3.808億 SS201か所、空港3か所の貯蔵ターミナル
Transportadora Associada de Gas株式の90% Engie、CDPQ 86億 Transportadora Associada de Gasは、ブラジル北部、北東部、南東部の全長4,500キロメートル、輸送能力74 MMm3/dの天然ガス輸送網を運営
Tartaruga Verde油田、Espadarte油田、Module IIIの権益50% Petronas 12.935億 Petrobrasは権益50%を保持。Tartaruga Verde油田は2018年6月生産開始。石油10.3万b/d、ガス1.2MMm3/dを生産。Espadarte油田Module IIIは2021年生産開始予定
Potiguar Basin陸上34油田の権益 PetroReconcavo 3.563億 Cardeal、Colibri油田の権益50%。Sabiá da Mata、Sabiá Bico-de-Osso油田の権益70%。その他油田は権益100%。生産量6,000b/d
Campos Basin浅海資産 Trident Energy 8.51億 Enchova、Enchova Oeste、Marimbá、Piraúna、Bicudo、Bonito、Pampo、Trilha、Linguado、Badejo 油田の権益100%。生産量2万5,500b/d
Santos Basin浅海Baúna油田 Karoon Energy 6.65億 2013年2月生産開始。生産量2万b/dを2022年までに3.3万b/dに増やす計画
Belem Bioenergia Brasilの株式50% Galp 600万 2011年にGalpとバイオ燃料等生産のため設立
Potiguar Basin油田 3R Petroleum e Participaçõe 1.911億 Aratum、Macau、Serra、Salina Cristal、Lagoa Aroeira、Porto Carão、 Sanhaçu油田。Sanhaçu油田については権益50%、その他の油田については100%をPetrobrasが保有。生産量5800b/d
Potiguar Basin油田 Central Resources 720万 Ponta do Mel、Redonda油田。生産量540b/d
Pargo、Carapeba、Vermelho油田 Perenco 3.24億 Pargo油田は1975年に、Carapeba、Vermelho 油田は1982年に発見、1988年生産開始
Lagoa Parda Cluster陸上油田 Imetame Energia 9,372,466 Lagoa Parda、Lagoa Parda Norte、Lagoa Piabanha油田。生産量は石油300b/d、ガス5,500m3/d
Liquigás Distribuidora

Copagaz、
Nacional Gás Butano

8.813億  
Frade油田の権益30% Petro Rio 1億 Petro RioはFrade油田の権益70%を取得済み。2009年6月生産開始。生産量18,400boe/d

Petrobras website他を基に作成      


終わりに

資産売却を進めていることもあって、Petrobrasの石油・ガス生産量の伸びは以前よりも抑えられてはいるが、Equinorがブラジルの石油生産量を現在の10万b/dから2030年には50万b/dに増加させることを計画する等、国際石油企業(International Oil Company: IOC)各社はブラジルでの増産を計画している。従って、ブラジルの石油生産量はIEA等が見通しているように増加を続けていくと考えられる。ただし、今後、Petrobrasだけでなく、IOC主導のプロジェクトでもFPSOが必要となり、FPSOに対する需要が増加する可能性がある。Shellは、11月8日にGato do Mato油田のFPSO(生産能力:石油6~9万b/d、ガス:3.5~8.5MMm3/d)の入札を実施する計画だった。しかし、MODECやSBM Offshoreがすでにブラジル他で多くのFPSOを受注していることも一因となり、入札を延期せざるを得なくなった。そのため、2023年第3四半期に予定されている同油田の生産開始が遅れる可能性があると報じられている。今後のブラジルの石油生産量を見通す際には、FPSOがPetrobrasやIOCの生産計画に合致して提供されるかという点にも注意を払っていくことが必要になろう。

以上

(この報告は2019年12月16日時点のものです)

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