ページ番号1009923 更新日 令和5年11月6日

岩石を知る ―鉱物組成を読み解く地質的分析について―

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レポートID 1009923
作成日 2023-11-06 00:00:00 +0900
更新日 2023-11-06 09:52:03 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 技術
著者
著者直接入力 服部 達也
年度 2023
Vol
No
ページ数 7
抽出データ
地域1 グローバル
国1
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地域3
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2023/11/06 服部 達也
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概要

JOGMECは、石油・天然ガスといった「地球」からの恵みを人間社会に活用していくための研究・技術開発を行っています。これら事業において重要なことは、如何にして「岩石」を知るか、すなわち、「岩石を構成する鉱物」や「岩石の内部構造」を知るか、ということです。JOGMECは、地質学的・岩石学的な知見に基づいた分析を実施しています。本記事では、JOGMECが保有する「岩石」を分析するための代表的な分析機器について解説します。

 

1. 「岩石」は貴重な情報源

石油・天然ガス開発において、石油・天然ガスが「どのような岩石の中に存在しているのか」を知ることは重要です。岩石は、風化、変質、変成作用など様々なプロセスが複雑に組み合わさって、現在の姿になっています。こうした“岩石”の情報を読み解く役割を担っているのが、地質技術者です。

地質技術者が岩石の情報を読み解くための岩石試料を手に入れるには様々な方法があります。金属資源の場合、自分たちの足で山を歩き岩石を採取するケースも多いですが、地下深くに存在する石油・天然ガスでは、多額の費用をかけて試掘を行い、岩石試料を採取することもあります。このように、資源分野での岩石試料は多大な労力とお金をかけて入手した貴重なものであり、この限られた岩石試料を無駄にすることなく、出来る限り多くの情報を得ることが求められます。

これから、このような地質分析に利用される機器について紹介します。

 

2. JOGMECが所有する地質的分析機器

本記事では、JOGMECが所有する代表的な4つの分析機器について紹介します(図1)。

図1 JOGMECが所有する分析機器における地質的分析の概要
(図1)JOGMECが所有する分析機器における地質的分析の概要

1) XRD(X線回折分析)

X線を粉末状にした岩石試料に照射することで得られる「回折X線」を利用して、岩石に含まれる鉱物を同定するための分析です。一般的に鉱物は、それぞれ固有の結晶構造(格子)を持っています。そして、鉱物にX線を照射すると結晶構造に固有の回折X線パターンを得ることができます(図2)。その情報を解析することにより、岩石の鉱物組成の情報を得ることができ、対象とする岩石がどのような鉱物で構成されているのか知ることができます。

図2 XRD分析の概要 結晶に斜めにX線を照射するとX線がある位置(角度θ)で強め合う「回折」を利用する(ブラッグの法則)
(図2)XRD分析の概要
結晶に斜めにX線を照射するとX線がある位置(角度θ)で強め合う「回折」を利用する(ブラッグの法則)

2) SEM-EDS with QEMSCAN(電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析+鉱物マッピングシステム)

SEM-EDSでは、電子線を岩石試料(岩石薄片や岩片など)に照射すると図3に示すように4つの情報を得ることができます。

  • 二次電子(Secondary electron): 試料表面から反射してくる電子。試料表面の凹凸の情報を得られる。
  • 後方散乱電子(Backscattered electron): 試料内で散乱されて、再び試料表面から放出される電子。試料の密度に関する情報を得られる。
  • 特性X線(X-ray): 入射した電子により原子が高いエネルギー状態になり、それがもとの低いエネルギー状態に戻るときに、放射される電磁波(特性)。特性X線は元素固有の波長であり試料の化学組成に関する情報が得られる。
  • カソードルミネッセンス(Cathodoluminescence): 電子が鉱物の結晶構造に衝突した際に放出される可視光波長の光子。鉱物の結晶構造に相関のある情報が得られる。

これらの情報をそれぞれ分析・解析することで、岩石の情報を読み取ることが可能です。JOGMECが保有する装置の強みは、特性X線の情報を使用し、1ピクセルあたり2マイクロメートル(マイクロメートルとは1/1,000mm)という高解像度の鉱物マッピング分析(QEMSCAN)が可能であることです。

図3 電子線を岩石試料に照射することで得られる情報
(図3)電子線を岩石試料に照射することで得られる情報

図4はカナダのシェール(頁岩)を分析した例です。一般的にシェールは、泥など微細な鉱物粒子が固結したものであるため、顕微鏡での観察も非常に困難であり、かつ粘土鉱物を多く含んでいます。しかし、この装置を使用することで、微細な鉱物粒子を1つ1つ同定することができ、また同時に鉱物がどのように分布しているのか、どれほどの量(対象領域におけるピクセル数に基づいた面積比)が含まれているのか、といった情報を得ることができます。このケースでは岩石の特徴として3つのタイプがあることを区別することができました。この結果から、岩石がどのような環境で堆積したのか、石油や天然ガスの根源岩として優位な岩石はどのタイプか、といった考察を行い、より精度の高い地質解釈を行うことができました。

図4 鉱物マッピングシステムによる分析例(引用:参考文献[1])
(図4)鉱物マッピングシステムによる分析例(引用:参考文献[1])

3) FIB-SEM(収束イオンビーム電子顕微鏡)

FIB-SEMは、前述のSEM-EDSと分析原理はほとんど同じですが、(1)電子ビーム径をより絞ることができ、ナノメートル(ナノメートルとは百万分の1mm)スケールでの観察が可能、(2)「収束イオンビーム(Focus Ion Beam;FIB)」が付属しており、試料表面を削る加工が可能、といった特徴があります。

具体的にどういった観察をすることができるのか図5に概略を示します。シェール(頁岩)や火山岩といった岩石は、非常に微細な鉱物や孔隙構造を有している場合が多く、それらの構造をナノメートルスケールで観察しつつ、FIBを使用することで、観察面を切削し観察することを繰り返すことで、深さ方向に観察を進めることで、“三次元”での観察が可能となります。これは通常の光学顕微鏡や前述のSEM-EDSでは困難な作業です。

では、ナノメートルスケールの微細な三次元観察が石油開発において、どういったことに利用できるのでしょうか?ここでJOGMECが実施したFIB-SEMによるシェール評価事例を紹介します。シェールは石油・天然ガスの根源岩として、また、シェールオイル・ガスの貯留岩として重要です。シェールでは孔隙が鉱物の隙間以外に、有機物相の内部に認められる場合があり、微細な有機物相中の孔隙構造の理解も、シェールオイル・ガス田の評価には重要なファクターです。図6は、シェール中の有機物(ビチューメン)を観察した結果です。通常のSEMでは、違いが区別できなかった成分ですが、FIB-SEMによりシェール中に様々な形態で有機物が存在していることが解りました。これら孔隙形態の違いは、有機物同士の連結性と相関があることが解り、シェール貯留岩の微細な孔隙形成について、より理解を深めることができました。

また、我々は火山岩に対するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術の研究を行っています。火山岩中の微細構造の中にどのようにCO2が入っていくのか、そして、鉱物とどのような反応をするのか、それは定量的に評価できるのか、といった課題にチャレンジしていく中で、FIB-SEMによる超微細構造の観察は必要となってきています。

図5 FIB-SEMによる観察概要
(図5)FIB-SEMによる観察概要
A)機器外観、B-左図)FIB-SEM撮影概略図:試料を傾け、観察するための電子線とは別に試料表面と平行に表面を削るためのイオンビーム(Gaイオン)を照射し、1面観察し終わると試料表面を削り、次の面を観察することを繰り返します。B-右図)機器の操作画面上で見えている観察面例、C)三次元電子画像:繰り返し観察した画像を再構築し、三次元画像を作成します。
図6 FIB-SEM観察例: シェール中に認められたビチューメン(有機物)の形態違い(引用:参考文献[4])
(図6)FIB-SEM観察例: シェール中に認められたビチューメン(有機物)の形態違い(引用:参考文献[4])

4) マイクロX線CTスキャナー

岩石の構造はナノメートルスケールのものだけではありません。本項では、マイクロ~ミリメートルスケールでの岩石構造観察ができるマイクロX線CTスキャナーについて紹介します。マイクロX線CTスキャナーは、X線を岩石試料に照射し、透過したX線を観測することで内部構造を三次元的に可視化する分析装置です(図7)、病院にあるCTスキャナーのように岩石の中を立体的に見ることができます。CTスキャナーの原理は、レントゲン写真をたくさん撮って、組み合わせることで三次元画像を作っているということです。石油・ガス分野では観察試料にプラグコアを使用することが多く、試料をそのままの状態で撮影することが可能です。そのため、様々な分析・実験の前に撮影を行い、デジタルデータとして岩石の内部構造を記録しておく役割があります。

図8は火山岩(玄武岩)を撮影した例です。プラグコアの外側からでは、見ることができない内部の発泡孔隙や脈状の構造を三次元的に可視化できています。また、QEMSCAN(前述の②項)による試料表面の鉱物量比の情報と組み合わせることにより、孔隙構造と鉱物量比の相関について考察・検証することができ、岩石試料を破壊せずとも、より詳細な岩石性状を評価することができました。

(図7)マイクロX線CTスキャナーの撮影原理の概要
(図7)マイクロX線CTスキャナーの撮影原理の概要
(引用:カールツァイス(株) マイクロCT操作マニュアル)
(図8)火山岩のマイクロCTによる撮影例(引用:参考文献[5])
(図8)火山岩のマイクロCTによる撮影例(引用:参考文献[5])
CT画像内で連結している構造は“同色”で表現されており、左図ではPipe vesicleの連結構造が、右図では細かい孔隙およびVein状の鉱物の分布(中央付近の水色の構造)を見ることができています。
Pipe vesicle:パイプ状に伸びた気泡の孔隙構造
Vein:脈状の構造

3. 「岩石」の分析は奥が深い

私たちが手にする岩石試料は、砂岩・泥岩といった堆積岩、玄武岩・流紋岩といった火山岩、生物を起源とするような炭酸塩岩など、多種多様です。また、これらの岩石を構成する鉱物も、温度や圧力、pHといった周囲の環境によって変化します。そのため、私たちは本記事で紹介してきましたように様々な地質的分析機器を用いて、岩石の情報を最大限読み取ろうと尽力しています。

しかし、現状では岩石のすべての情報を正確に得られているわけではないと考えています。そこで、私たちは自分たちがこれから分析しようとしている岩石試料が、どのようなところから、どのように採取されてきたものなのかという情報まで遡り、分析結果を吟味し、その結果によっては再度分析するという自問自答に近い作業を繰り返し行いながら、岩石と向き合っています。

私は地質技術者として約10年になりますが、岩石を読み解くことは難しく、非常に奥深いと痛感しており、これからも精進していきます。

 

参考文献

[1] T. Hattori, T. Nanjo, L. Knapp, X. Wang, O. Haeri Ardakani, S. Dai and H. Sanei, 2018: Refining mineral quantification methods for fine-grained hydrocarbon reservoirs: the Devonian Duvernay Formation, Alberta, Canada, 20th International Sedimentological Congress, Quebec City, Canada

[2] 服部達也、南條貴志、Knapp Levi、内田真之介、2019: シェール貯留岩における貯留層性状評価 第1部: カナダ西部Duvernay層のシェール貯留岩における構成鉱物の定量化手法の検討、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成29年度石油開発技術本部年報、p50~54

[3] Knapp Levi, 南條貴志、内田真之介、2019: シェール貯留岩における貯留層性状評価 第2部: カナダ西部Duvernay層のシェール貯留岩における孔隙率及び孔隙径分布の定量評価、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成29年度石油開発技術本部年報、p55~57

[4] Knapp Levi, 南條貴志、内田真之介、2019: シェール貯留岩における貯留層性状評価 第3部: カナダ西部Duvernay層のシェール貯留岩における有機物の組成変化と貯留岩性状との関係性評価、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成29年度石油開発技術本部年報、p58~60

[5] 服部達也、大谷猛亮、八木正彦、大友千秋、下河原麻衣、山本哲也、2020: 3次元画像解析による火山岩の内部構造評価技術に関する研究、石油技術協会令和2年度春季講演会、秋田県、日本

[6] 服部達也、下河原麻衣、2021: 由利原玄武岩質貯留岩層の岩石内部構造評価技術に関する検討事例、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構令和2年度石油天然ガス開発技術本部年報、p204~206

[7] Takeaki Otani, Tetsuya Yamamoto, Tatsuya Hattori and Shogo Kawasumi, 2021: INTEGRATED MINERAL QUANTIFICATION TECHNIQUE FOR VOLCANIC RESERVOIRS, The 26th Formation Evaluation Symposium of Japan Virtual Meeting

 

以上

(この報告は2023年11月6日時点のものです)

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