ページ番号1009815 更新日 令和5年6月19日
原油市場他:サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産幅の拡大を表明したにもかかわらず、範囲内にとどまる原油価格
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概要
- 米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したことにより、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加したものの、戦略石油備蓄からの原油供給や原油生産増加等もあり、原油在庫は増加した結果平年幅上限を超過する量となっている。一方、石油製品生産活動が活発化した結果、ガソリン在庫は限られた範囲内で変動するとともに平年幅上限付近に位置する量となった他、留出油在庫は増加した結果平年幅下方付近に位置する量となっている。
- 2023年5月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では製油所における原油精製処理量増加により若干ながら減少となったものの、欧州及び日本において装置の不具合の発生等で一部製油所の操業が停止したこともあり在庫が増加したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州や日本における一部製油所の操業停止により石油製品生産活動に支障が発生したこともあり両地域の在庫は減少したものの、米国では、留出油在庫が増加したことに加え、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によるその他の石油製品在庫の増加により、石油製品全体として在庫が増加したことで相殺されて余りあった結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加したうえ平年並みの量となっている。
- 2023年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場においては、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相による、原油先物市場における空売り投機筋への警告や、米国財政責任(同国連邦政府債務上限引き上げ)法案が同国連邦議会上下院で可決され法律として成立したことにより、債務不履行に陥る結果同国経済が混乱するとともに石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で後退したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた反面、中国経済がもたつき気味であることを示唆する一連の経済指標類が発表されたことや、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で発生したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は概ね1バレル当たり67~74ドルを中心とする範囲で方向感のない展開となったが、6月12日には1バレル当たり67.12ドルの終値と、3月17日以来の低水準の終値に到達する場面も見られた。
- この先も米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要の盛り上がりによる季節的な石油需給の引き締まり感が当面市場で継続することに加え、サウジアラビアによる自主的な追加減産の拡大を含む2023年後半にかけての世界石油需給の引き締まり観測等が、原油相場を下支えしていくものと考えられる。反面、欧米諸国における政策金利引き上げ継続観測等による欧米諸国及び中国における経済のもたつきに伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が原油相場の上昇を抑制する方向で作用しやすいものと考えられる。このような中、ロシアを含むOPECプラス産油国の実際の原油生産状況やサウジアラビア等によるOPECプラス産油国減産措置等を巡る発言、中国の景気刺激策の動向、及び米国メキシコ湾沖合周辺における暴風雨発生の状況等が原油価格に影響を与えるものと見られる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPECプラス産油国が既存の減産措置に加え2024年の原油生産目標を設定した他、サウジアラビアは7月1日より自主的な追加減産を日量100万バレル拡大へ
(1) 協議内容等
OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2023年6月4日に閣僚級会合を対面形式で開催し、2022年10月5日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合において決定された、OPECプラス産油国原油生産目標を2022年11月から2023年12月において2022年8月(及び10月)比で日量200万バレル削減する旨の方針を維持したうえ、2024年1月から同年12月にかけ新たに減産措置(原油生産目標日量4,046万バレル、但しその後同4,058万バレルへと改定)を実施することで合意した(表1参照)。
なお、2024年6月末までに、減産措置に参加する全てのOPEC及び非OPEC参加国は、2025年の基準原油生産水準に使用されるべき自国の生産能力を算出するため、石油上流(探鉱・開発)部門情報に特化した独立した3機関(IHS(S&P グローバル)、ウッドマッケンジー、及びライスタッドエナジー)による評価を受け、OPEC事務局はこれら3機関の独立性を維持しながら当該評価を調整することとした。
また、アンゴラの2024年の原油生産目標は、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合までに前述の3機関による検証の対象となり、これが確認された場合当該原油生産目標を維持することとした。さらに、コンゴとナイジェリアの2024年の原油生産目標は次回のOPECプラス産油国閣僚級会合までに前述の3機関によって評価された2024年に到達しうる平均生産量と同等の水準に更新される可能性があり、ナイジェリアは日量157.8万バレルを2024年の原油生産目標として検証の対象とし、これが確認された場合、当該水準が2024年の原油生産目標に反映されることに留意するとした。加えて、今回定められたロシアの2024年の原油生産目標は、二次情報源による平均として評価された2023年2月時点の原油生産水準であり、同国は今回の閣僚級会合開催時点では二次情報源と協力して生産量算出の検討に取り組んでいるため、当該目標は2023年6月までに改定される可能性があるとしたが、評価の結果ロシアの基準原油生産量が引き上げられることになり、それに伴い同国の2024年の原油生産目標も日量12万バレル程度拡大し同994.9万バレルとする方向である旨6月13日及び6月16日に報じられた。
他方、共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局の支援を受け、世界石油市場の状況及び石油生産水準、そしてOPECプラス産油国の原油生産目標遵守状況を綿密に検討するため共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)とその委員の権限を再確認し拡張することとした(なお、JMMCは2ヶ月毎に開催される)。また、OPECプラス産油国閣僚級会合をOPEC通常総会とともに6ヶ月毎に開催する旨決定した。さらに、(従来通り)必要に応じて石油市場の展開に対処するために、いつ何時でも追加会合を開催したり、OPECプラス産油国閣僚級会合の開催を要請したりする権限をJMMCに与えることも確認した。
加えて、原油生産目標遵守は二次情報源からの情報に基づく原油生産量を考慮しOPEC加盟国に適用される方法論に従って監視されることを再確認した。そして、原油生産目標を完全に遵守することが重要である旨繰り返し表明し、既存の原油生産目標に加え新たに設定された原油生産目標を超過する産油国は(原油生産目標達成に向けた)調整を行なうことに合意した。
なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2023年11月26日に開催される予定である。また、サウジアラビアは5月1日より実施している日量50万バレルの自主的な追加減産を7月については日量100万バレル拡大し同150万バレルとする他(必要であれば)当該減産期間を延長する可能性もある旨同国エネルギー省が明らかにしたと6月4日に国営サウジ通信から報じられた。
さらに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、イラク、アルジェリア、オマーン、カザフスタン及びガボンに加え、ロシアは2023年5月1日より実施中の自主的な追加減産(後述)をそれまでの期限であった2023年末から延長し2024年末まで実施する旨明らかになった(世界経済成長懸念が石油需要に影響すると見られることが理由とされる)。
今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際に明らかになったサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産幅の拡大に対し、6月4日に米国バイデン政権関係者は、原油供給量ではなく原油価格(の水準)に注目しており、経済成長を支援し米国の消費者にとって(石油)価格の下落を確保出来るよう、全ての生産者及び消費者との協力を継続する旨明らかにした。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
中国の新型コロナウイルス感染者数が史上最多に到達したこと等により、前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催日(2022年10月5日)直前の2022年10月3日には1バレル当たり83.63ドルであった原油価格(WTI)は下落傾向となり、同年11月25日には76.28ドルと2022年1月3日以来の低水準に到達した。
また、この時点においては、2022年第2四半期から2023年第2四半期にかけては、世界石油市場は供給過剰となるか、供給不足となるにしても限定的な規模にとどまるものと予想された他、中国での新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で拡大すれば、原油価格がさらに下振れするリスクを抱えていた。
しかしながら、2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国で新型コロナウイルス感染抑制措置緩和の兆しが見られ始めたことに加え、2022年12月5日には欧州連合(EU)によるロシア産原油購入が原則禁止されたり、同日には主要7ヶ国政府(G7)とEU等により同国産原油に対する事実上の販売価格上限が設定されたりしたうえ、2023年2月5日にはEUによるロシア産石油製品購入の原則禁止やG7及びEU等によるロシア産石油製品に対する事実上の販売価格上限の設定が予定されるなど、石油需給を引き締めうる不透明要因が複数存在したため、これら要因の原油価格への影響を見極めるべく、2022年12月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、従来の減産措置方針(2022年11月から2023年12月にかけ2022年8月比で日量200万バレルの減産措置の実施)を維持することにしたものと考えられる。
前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、米国中堅金融機関の破綻や、米国等の金融当局による政策金利引き上げに伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がったこともあり、2023年3月17日には原油価格は1バレル当たり66.74ドルと2021年12月3日以来の低水準に下落する場面も見られた(図1参照)。
このようなこともあり、サウジアラビアが2023年5月1日から2023年末にかけ日量50万バレルの自主的な原油の追加減産を実施する他、他の一部OPECプラス産油国も5月1日から12月末にかけ、自主的な追加減産(イラク日量21.1万バレル、UAE同14.4万バレル、クウェート同12.8万バレル、アルジェリア同4.8万バレル、オマーン同4万バレル、カザフスタン同7.8万バレル、ガボン同0.8万バレル、合計日量約66万バレル)を実施する旨4月2~3日に報じられた一方、当初は3月のみの実施(2月10日にロシアのノバク副首相が発表)であったものの、その後6月末へと実施期間を延長した(3月21日にノバク副首相が発表)日量50万バレルの自主的な追加減産(2023年2月を基準とするものとされる)を表明していたロシアも当該減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日にノバク副首相が明らかにした。
一部OPECプラス産油国が自主的な追加減産を実施することにより、従来世界の石油供給が需要を上回ると見られていた2023年第2四半期は需要が供給を上回る状態へと転換した他、2023年後半においては日量200万バレル程度かそれ以上需要が供給を上回る状態となるなど、世界石油需給の引き締まりが強まることが予想された(表2参照)。
一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産実施の情報を受け、3月31日には1バレル当たり75.67ドルであった原油価格は翌取引日である4月3日には同80.42ドルへと急反発した他、4月12日には同83.26ドルと2022年11月16日(この時は同85.59ドル)以来の高水準の終値に到達した。
しかしながら、米国連邦政府の債務上限引き上げを巡る米国バイデン政権と同国連邦議会共和党との対立により、同国が債務不履行の事態に陥ることにより同国等の経済が混乱する結果、石油需要に負の影響を与えるとの懸念が市場で増大したことから、原油価格は下落し始めた。5月27日には米国連邦政府の債務上限引き上げにつき同国のバイデン大統領と連邦議会下院のマッカーシー議長(共和党)の間で基本合意に到達したことにより、同国が債務不履行に陥ることにより経済が混乱するとともに石油需要が減退する可能性に対する懸念が市場で後退したことが、原油相場に上方圧力を加えたものの、併せて今回の合意により米国連邦政府の支出が削減される結果同国経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化するのではないかとの見方が市場で発生したことから、原油相場の反発は限られたものとなった。
そのような中で、5月31日に中国国家統計局から発表された5月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が48.8と4月の49.2から低下、2022年12月(この時は47.0)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(49.4~49.5)を下回ったうえ、5月の同国非製造業PMI(50が当該部門の拡大と縮小の分岐点)が54.5と4月の56.4から低下した他市場の事前予想(55.2)を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大した結果、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.09ドルと3月20日以来の低水準の終値に到達した。
他方、サウジアラビアは大規模な開発プロジェクトを含め自国の改造計画を実施しつつあることもあり、その費用を捻出しなければならない状況下で、国家の歳入及び歳出を均衡させるには、2023年時点で1バレル当たり80.90ドルの原油価格が必要であるとされた(IMFの推定による)。これに対し前述の通り5月31日には原油価格が1バレル当たり68.09ドルにまで下落してしまう(IMFが使用している原油価格はWTI、ブレント及びドバイの単純平均価格と見られるため、5月31日の終値時点の推定当該原油価格は1バレル当たり70.95ドル程度となる)など、サウジアラビアの国家財政収支均衡原油価格から乖離して下落しつつある状態となった。このため、OPECプラス産油国の減産規模を拡大することにより自国の財政収支均衡価格へと実際の原油価格を接近させることをサウジアラビアは所望したものと考えられる。
しかしながら、ロシアにとって見れば減産を強化することにより自国産原油価格が上昇することを通じて自国の石油収入が拡大するという保証はなかった。ロシアの場合EU加盟国等が原油及び石油製品の購入を原則禁止している他、原油及び石油製品販売価格に事実上の上限価格が設定されている。このため、EU加盟国を含む西側諸国等によるロシア産石油購入が事実上停止し、販売先が限定される中、原油価格が上昇し上限価格に接近するようであれば、西側諸国等以外の消費国はロシア産石油価格に対し能動的もしくはロシア産石油の購入を敬遠することを通じ受動的に値下げ圧力を強めることが予想された。この結果、減産された石油を抑制された原油(もしくは石油製品)価格で販売するにようになることから、かえってロシアの石油収入が減少するリスクに直面することになる。このような要因もあり、ロシアは少なくとも自国の原油生産をさらに削減することについては消極的であった。
そして、5月24日にはロシアのプーチン大統領が、(足元の)エネルギー価格は経済的に正当化される水準に接近しつつある旨明らかにした。また、5月25日にはロシアのノバク副首相が、6月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合においては、新規の原油生産目標は発表されないものと予想している旨明らかにしたと報じられた。加えて、足元で減産を一層強化することはロシアの利益に反するとして、6月4日開催予定のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、原油生産目標を据え置きとすることを希望する旨の意向を固めつつある旨関係筋が明らかにしたと5月26日に伝えられる。以上のようなロシア政府幹部の発言からも、ロシアが原油生産のさらなる削減に対し積極的ではないことが覗われた。
このように、減産強化による石油需給の引き締まりを追求することにより、足元よりもさらに高水準の原油価格を希望するサウジアラビアと減産強化を望まないロシアとの間で、足並みの乱れが露呈した(そして、サウジアラビアは定められた減産措置を遵守するようロシアに対し不満を表明した旨5月27日に伝えられる)。そして、さらなる減産の実施により自国産原油価格が上昇すれば、石油収入拡大の道が開ける可能性のあるサウジアラビアと、減産を実施しても自国産原油価格が上昇せず石油収入が縮小する恐れのあるロシアとの間では、石油収入拡大を巡る条件が異なる部分があった。このため、OPECプラス産油国全体による減産強化では、そのような状況に対応し切れないと判断したサウジアラビアは、2023年末までの公式な減産規模は据え置きとする反面、自国が自主的に追加減産を拡大することにより、原油価格に引き上げを試みようとしたものと考えられる。なお、今回の閣僚級開催後、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は、石油市場の安定性を確保するための、「予防的な」措置である旨明らかにしている。
さらに、2024年において新たに原油生産目標(減産措置)を設定することにより、OPECプラス産油国がより長期的に世界石油需給バランスの調整に関与していく姿勢を明確にするとともに、同年の石油市場関係者間で石油需給引き締まり感と原油の先高感を醸成させることにより、併せて足元の原油価格の浮揚を図ったものと考えられる。
なお、2024年の原油生産目標に関しては、UAEの原油生産目標が2023年12月末までの既存の目標から引き上げられた反面、アンゴラ、コンゴ、赤道ギニア及びナイジェリアといった西アフリカのOPEC産油国に加え、アゼルバイジャン、ロシア、マレーシア、ブルネイ及びスーダンといった非OPEC産油国の原油生産目標が引き下げられている。
従来からUAEはOPEC加盟が同国の長期的利害(将来の世界石油需要見通しに関する不透明感が強まる中、早期に原油を生産し収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していることが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討していた(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)と2020年11月17日に伝えられていた。そのような背景もあり、2021年7月1日に開催されたOPECプラス産油国JMMCの際、2018年10月時点での自国の原油生産能力日量316.8万バレルがこの時点で同384万バレルへと拡大されたことにより、減産措置の基準となる原油生産量(この時点では2018年10月の原油生産量が採用されていた)を引き上げることをUAEは要求した。この結果、同年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2022年5月1日よりUAEの基準原油生産量をそれまでの日量316.8万バレルから同350万バレルへと引き上げる旨決定した(その他、サウジアラビア、イラク、クウェート及びロシアも併せて基準原油生産量を引き上げた)。
また、最近外交面等においてサウジアラビアとUAEとの関係が必ずしも良好あるとは言い切れなくなっていることもありUAEはOPEC脱退につき内部で検討している旨3月3日朝(米国東部時間)にウォールストリート・ジャーナルが報じる(しかし、ウォールストリート・ジャーナルの報道は真実から大きく乖離している旨UAE関係筋が明らかにしたと、ウォールストリート・ジャーナルによる報道の1時間程度後にロイター通信が報じるなど、情報が錯綜した)など、2023年に入ってUAEは再び自国の原油生産目標の引き上げをサウジアラビア等に要望していた可能性がある。
サウジアラビアはUAEの原油生産目標を引き上げる反面、長期間原油生産目標を下回る(法制等が外国石油会社にとって厳しいものであったこともあり石油開発投資が促進されない結果原油生産が減退したことが一因であるとされる)西アフリカのOPEC産油国やロシア等の原油生産目標を引き下げるべく対象国に対し説得を図った(サウジアラビアは目標を大幅に下回る水準で原油を生産する産油国を好ましく思っていなかったと6月8日に伝えられる)。しかしながら、2022年5月1日にUAEの基準原油生産量が引き上げられた際も自国の基準原油生産量の引き上げが見送られたうえ今般原油生産目標の引き下げをサウジアラビア等から持ちかけられた西アフリカの一部OPECプラス産油国等は今後の原油生産能力拡大のための石油開発投資推進上の障害となる(原油生産目標を理由に生産を制限される可能性があることから外国石油会社が石油開発投資を敬遠する)等を理由として受け入れに難色を示したとされる(アンゴラ、ナイジェリア及びコンゴが強く抵抗した旨6月4日及びに6月6日に伝えられる)。これに対し原油生産目標の引き下げにつき妥協しないのであれば、サウジアラビアは予め提案していた7月(延長の可能性あり)における日量100万バレルの自主的な追加減産幅拡大を撤回すると主張した。併せてアンゴラ、ナイジェリア、コンゴ及びロシアについては、自国の原油生産目標の妥当性を精査すべく、第三者機関に検討を依頼し、妥当と認められるのであれば原油生産目標を再度引き上げることにした。このような一連の過程を経て一部産油国の原油生産目標の引き下げにつき関係産油国間で合意に至ったとされる。
(3) 原油価格の動き等
今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際に明らかになった、サウジアラビアの自主的な追加減産規模拡大は、現状通りの減産措置が決定されるとする大半の市場関係者の予想(23人の石油市場関係者中17人が今回の閣僚級会合において減産規模の据え置きが決定されると予想している旨5月24日に伝えられていた)を覆すと格好となり、足元の世界石油需給引き締まり感が市場で一層強まった結果、原油相場に上方圧力が加わったこともあり、6月4日夜(米国東部時間)の米国原油先物契約取引開始時には原油価格は1バレル当たり75.06ドル(前週末終値比3.32ドルの上昇)にまで上昇する場面が見られた。
また、サウジアラビア国営石油会社サウジ・アラムコが7月の原油販売価格を全ての油種に対し引き上げた旨6月5日に報じられたことにより、原油価格の先高感を市場が意識したことも、原油相場にとって支援材料となった。
しかしながら、政策金利引き上げ等を理由として欧米諸国及び中国の経済が減速する結果、これら地域の石油需要の伸びが鈍化するとの認識が市場で根強い中、6月7日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表される予定である同国石油統計(6月2日の週分)において原油、ガソリン及び留出油の各在庫が前週比で増加しているとの観測が市場で発生したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、6月5日の原油価格の終値は1バレル当たり72.15ドルと前週末終値比0.41ドルの上昇にとどまった。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2023年3月の米国ガソリン需要(確定値)は日量901万バレル、前年同月比で1.7%程度の増加となり(図2参照)、2月の当該需要である同871万バレルから需要量が上振れしたうえ、同月の前年同月比の増加率である1.4%程度から増加率が拡大した。また、当該需要は速報値(前年同月比1.3%程度増加の日量897万バレル)から上方修正されている。3月は2月に比べ気温が上昇したこともあり、個人の外出が促されたことにより、3月の同国自動車運転距離数が1日当たり88億マイルと2月の同83億マイルから増加したことが、3月の同国ガソリン需要の前月比での増加に反映されているものと考えられる。ただ、3月の米国は前年同月に比べ相対的に寒冷であった(2月は前年同月に比べ相対的に温暖であった)ことが、同月の個人の外出に影響したものと見られることから、3月の同国自動車運転距離数は前年同月比で0.6%の増加にとどまるとともに、2月の同1.8%の増加から増加率が相当程度縮小しており、これが3月の同国ガソリン需要の前年同月比の伸びが2月のそれに比べ低くなっていることの背景にあるものと考えられる。なお、2023年3月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染流行前の2019年3月の当該需要(日量918万バレル)(確定値)を1.9%程度下回っている。他方、2023年5月の同国ガソリン需要(速報値)は日量918万バレル、前年同月比で0.8%程度の増加となっており、4月の当該需要である同894万バレル(速報値)から需要量は増加したものの同月の前年同月比の増加率である2.1%程度からは増加率は縮小した。5月29日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴う連休(5月27~29日)を以て米国は夏場のドライブシーズンに突入したこともあり、5月は4月に比べ個人の外出が活発化、5月の同国自動車運転距離数が1日当たり92億マイルと4月の同88億マイルから拡大したことが、5月の同国ガソリン需要の前月比での増加をもたらしたものと見られる。しかしながら、2023年に入り米国では経済減速感が強まってきたことにより同国の個人消費支出の前年同月比の増加率が低下傾向となりつつあったものと見られることが、5月の同国自動車運転距離数の前年同月比での伸びに影響した(5月は前年同月比1.9%の増加と4月の同2.7%から伸びが鈍化している)うえ、同月のガソリン需要の前年同月比での伸びを抑制する形で作用したものと考えられる。なお、2023年5月の米国ガソリン需要は2019年5月の当該需要(日量950万バレル)(確定値)を3.6%程度下回っている。また、米国の一部製油所では春場のメンテナンス作業が終了したり装置不具合の改修が完了したりするとともに操業を回復したことにより、製油所の原油精製処理量が上向いた(図3参照、なお、2023年6月2日の週の米国の製油所における原油精製処理量は日量1,665万バレルと2022年6月24日の週(この時は同1,667万バレル)以来の高水準に到達した)他、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2023年は5月29日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴う連休から9月4日の労働者の日(レイバー・デー)の休日に伴う連休(9月2~4日)まで)に突入しつつあったことから、ガソリンの生産を優先したことにより当該製品の製造活動が活発化した(ガソリン最終製品生産量は図4参照)結果、季節的に堅調となりつつあった同国のガソリン需要を賄う格好となったこともあり、5月上旬から6月上旬にかけての同国におけるガソリン在庫は比較的限られた範囲内で変動したうえ、平年幅上限付近に位置する量となっている(図5参照)。
2023年3月の米国留出油需要(確定値)は日量410万バレルと前年同月比で1.4%程度の減少となり(図6参照)、2月の同402万バレル(前年同月比3.8%程度の減少)から需要量が増加した他前年同月比での減少幅も縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比6.6%程度減少の日量389万バレル)から上方修正されている。2023年3月は米国の暖房用留出油需要の中心地である北東部は前年同月比では多少なりとも寒冷であったものの、2023年3月の同国鉱工業生産は前年同月比で0.1%の増加と2月(同0.8%の増加)から増加率が縮小した他、同月の物流活動も前年同月比2.0%の減少と2月の同0.2%の増加から減少に転じるなど不活発化したことから、2023年3月の方が2023年2月よりも留出油需要の前年同月比での減少率が大きくなっても違和感のないところ、むしろ2023年2月の留出油需要(実際には出荷量を需要と見做して計上しており、厳密な意味での「需要」もしくは「消費」とは異なる側面がある)が大幅に落ち込んでしまったことから、その反動が2023年3月に現れた結果、3月の当該需要の前年同月比での減少率が抑制された可能性もある。なお、2023年3月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量418万バレル)(確定値)を1.9%程度下回っている。他方、2023年5月の留出油需要(速報値)は日量387万バレルと前年同月比で横這いとなり、4月の当該需要量(速報値)の日量381万バレル(前年同月比ほぼ横這い)から需要量は若干上振れしたものの、前年同月比では横這いのまま推移した。ただ、5月の同国鉱工業生産が前月比で0.2%低下した他前年同月比で0.2%程度の増加と4月の同0.4%の増加から増加率が縮小するともに、物流活動も前月から不活発化している(5月の米国輸送担当者指数(LMI: Logistics Manager Index、50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は47.3と4月の50.9を下回るとともに、当該部門の活動が縮小していることが示唆される)。このため、5月の米国留出油需要は速報値が確定値に移行する段階で下方修正が加えられる(もしくは反動で6月以降の当該需要に影響が生じる)可能性がある。なお、2023年5月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量411万バレル)(確定値)を5.7%程度下回っている。また、夏場のドライブシーズンに伴う需要期を控え、製油所ではガソリン製造が優先した反面留出油製造が劣後したものの、春場のメンテナンス作業の実施が終了したり不具合が発生した装置の改修が完了したりしたことにより製油所の稼働が上昇傾向となったことから、製油所での石油製品製造活動が活発化したことに伴い留出油生産も増加した(図7参照)ことにより、5月上旬から6月上旬にかけての米国留出油在庫は増加傾向を示した結果、平年幅下方付近に位置する量となっている(図8参照)。
2023年3月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比0.3%程度減少の日量2,045万バレルとなり(図9参照)、2月の同2,000万バレルから需要量が増加した他、同月の前年同月比2.2%程度の減少から減少率が縮小した。ガソリン及び留出油の両需要が前月比で増加した他、3月のガソリン需要の前年同月比の増加率が前月から拡大したうえ、留出油需要の前年同月比の減少率が前月から縮小したことが影響する格好となっている。また、ガソリン及び留出油の各需要が速報値から確定値に移行する際に上方修正されたことから、同国石油需要は速報値(前年同月比2.7%程度減少の日量1,996万バレル)から確定値に移行する段階で上方修正されている。なお、2023年3月の米国石油需要は、2019年3月の当該需要(日量2,018万バレル)(確定値)を1.4%程度上回っている。他方、2023年5月の米国石油需要(速報値)は日量1,980万バレルと前年同月比で1.4%程度の減少となり、4月の同国石油需要(速報値)である日量1,967万バレル、前年同月比1.4%程度の減少から、需要量は増加したうえ、前年同月比での減少率はほぼ横這いとなった。ガソリン及び留出油需要が前月比で増加したことが、米国石油需要の前月比での増加に反映されているものと考えられる。また、5月の米国は4月に比べ前年同月比では相対的に寒冷であったことから、4月及び5月のプロパン需要はともに前年同月比で減少した(石油化学部門等向けの需要が経済減速の影響で不振であったことが影響している可能性がある)ものの、5月の方が4月に比べ落ち込みが軽微であった一方、5月の米国ガソリン需要の前年同月比での増加率が4月に比べ縮小したことが、5月の同国石油需要の前年同月比での減少率が4月から横這いとなったことに寄与しているものと考えられる。なお、2023年5月の米国石油需要は、2019年5月の当該需要(日量2,039万バレル)(確定値)を2.7%程度下回っている。また、5月上旬から6月上旬にかけ、米国では原油生産量が増加した他、同国戦略石油備蓄(SPR)から1週当たり163~252万バレル程度の原油が市場に供給されたことが、同国の原油在庫を下支えする形で作用した一方、春場のメンテナンス作業が終了したり装置の不具合の改修が完了したりしたことにより、製油所の原油精製処理量が増加した一方、5月1日にサウジアラビアを初めとする一部OPECプラス産油国が日量約116万バレルの自主的な追加減産を開始したことにより、これらOPECプラス産油国からの原油供給変動の影響をより受けやすい欧州における石油需給引き締まり感が米国に比べ強まったことから、欧州の指標原油であるブレントが米国の指標原油であるWTIよりも相対的に割高となったこともあり、米国からの原油輸出が概して高水準となったことが、同国の当該在庫を抑制する格好となったにより、同時期同国の原油在庫は概ね限られた範囲内での変動となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図10参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量、ガソリン在庫が平年幅上限付近に位置する量、留出油在庫が平年幅下方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2023年5月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では製油所における原油精製処理量増加により若干ながら減少となったものの、欧州及び日本においては装置の不具合の発生等で一部製油所の操業が予定外に停止したこともあり両地域の在庫が増加したことにより相殺されて余りあったことから、結果としてOECD諸国全体では原油在庫は増加となり平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。石油製品については、欧州や日本における一部製油所の予定外の操業停止により石油製品生産活動に支障が発生したこともあり両地域の在庫は減少したものの、米国では、留出油在庫が増加したことに加え、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によるその他の石油製品在庫の増加により、石油製品全体として在庫が増加したことで相殺されて余りあった結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加したうえ平年並みの量となっている(図14参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する状態となっている(図15参照)。なお、2023年5月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.8日と4月末の推定在庫日数(60.2日)から減少している。
5月10日に1,600万バレル台後半程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は5月17日には1,500万バレル台後半程度の量へと減少した。5月24日に当該在庫は1,600万バレル強程度の水準へと回復したものの、5月31日には1,500万バレル台前半程度の量へと減少した。しかしながら、6月7日には1,600万バレル台前半程度の水準へと再び増加した。それでも、6月14日には1,500万バレル台前半程度の量へと再び減少、5月10日の水準を下回る状態となっている。日本や韓国を含むアジア諸国の製油所が春場のメンテナンス作業を実施しつつあることにより、これら諸国からのガソリンの供給が削減されていることに加え、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に向けガソリン在庫が減少したことにより、米国市場のガソリン価格がアジア市場のガソリン価格よりも割高になったこともあり、シンガポールから米国西海岸方面に向けガソリンが輸出されたと見られることが、シンガポールにおける軽質留分在庫を減少させる方向で作用した。しかしながら、インドネシア等の東南アジア諸国においては、物価上昇や中央銀行による金利の引き上げ等もあり経済が減速傾向にある他、米ドルの上昇により現地通貨建てのガソリン価格が上昇する格好となった結果、ガソリンの購入が敬遠されるとともに、シンガポールからそれら諸国向けの輸出もその影響を受けたことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を増加させる方向で作用したものと考えられる。そして東南アジア諸国における軟調なガソリン需要がアジア市場におけるガソリン価格に下方圧力を加えた反面、中国では、国内のガソリン需要が比較的堅調である(厳格な新型コロナウイルス感染抑制策を事実上撤廃したことに伴い個人の外出が促進されたことが背景にあるものと見られる)ことを反映し、ガソリンの輸出が抑制されるとの見方が市場で発生したうえ、米国では5月27~29日の連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したこともあり、米国のみならず米国にガソリンを輸出する国及び地域を含め世界的にガソリン需給の引き締まり感が意識されたことが、アジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えたことから、5月中旬から6月中旬にかけアジア市場のガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。
ただ、中国において製造業を中心とする経済がもたつき気味となっていることもあり、石油化学部門向けのナフサの需要が軟調に推移している他、韓国等の北東アジア諸国においてナフサ分解装置が春場のメンテナンス作業を実施したり装置に不具合が発生したりしたことにより稼働を低下させたことが、アジア市場でのナフサ需要をさらに限定する形で作用した。また、2023年2月5日以降欧州連合(EU)加盟国によるロシア産石油製品輸入が事実上禁止されたことに伴い、EU加盟国で受け入れられなくなったロシア産のナフサがアジア方面に流入した。このため、韓国等ではナフサの在庫が積み上がりつつある旨指摘されるなど、アジア市場でのナフサ需給の緩和感が意識されるようになった。加えて、冬場の暖房シーズンが終了したこともあり、これまで暖房向けに消費されてきた液化石油ガス(LPG)の需要が低下するとともに当該製品価格が下落、石油化学製品製造のための原料面でナフサと競合するようになってきた。以上のような要因が、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えた結果、5月上旬から6月中旬にかけてのアジア市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大傾向となった。
5月10日には700万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、5月17日も700万バレル台半ば程度の水準を維持した。しかしながら5月24日には700万バレル台後半程度、5月31日には800万バレル弱程度、6月7日及び14日にはともに800万バレル台半ば程度の、それぞれ量へと増加するなど、当該在庫は総じて増加傾向を示した。アジア諸国で春場の製油所のメンテナンス作業が実施されつつあることによりシンガポールへの中間留分の流入は低迷しているものの、経済が減速しつつあることもあり、軽油需要がもたつき気味となっている結果当該製品在庫が高水準を維持している欧州に軽油が向かう代わりに、中東やインドからシンガポールに向け軽油が流入している(また、2023年2月5日以降EU加盟国が原則輸入を禁止したロシア産軽油が中東諸国を経由して流入していると指摘する向きもある)ことが一因となり、シンガポールにおける中間留分在庫が増加しているものと考えられる。そして、シンガポールにおける中間留分在庫が増加していることに伴いアジア市場で足元中間留分の需給緩和感が意識されている他、5月1日から8月16日にかけ中国南シナ海で禁漁期間に突入していることにより中国での漁船向け軽油需要が抑制される可能性があることが、アジア市場における軽油価格に下方圧力を加える反面、アジア諸国等における製油所のメンテナンス作業実施に伴う中間留分生産のもたつきが軽油需給引き締まり感を醸成させるとともに当該製品価格に上方圧力を加えていることから、5月上旬から6月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は概ね比較的限られた範囲で変動した。しかしながら、6月15日にドイツのゴドルフ(Godorf)製油所(操業者:シェル、原油精製処理能力日量19万バレル)の操業が停止した(装置の不具合発生によるものである可能性がある旨示唆される)旨6月16日に伝えられた(これは同社が欧州で操業する主要製油所としてはオランダのパーニス(Pernis)製油所(原油精製処理量日量40.4万バレル)の漏洩による停止(6月6日同社発表)に続くものであった)ことにより、欧州において同地域で主に消費される石油製品である軽油の需給引き締まり感が市場で増大するとともに当該製品価格が上昇した影響をアジア市場も受けたことから、6月16日には同市場の軽油とドバイ原油価格の価格差も拡大する格好となった。
5月10日に1,900万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、5月17日も1,900万バレル台前半程度の水準を維持したが5月24日には同在庫は1,700万バレル台半ば程度の量へと減少した。しかしながら、5月31日には1,900万バレル弱程度、6月7日には1,900万バレル台半ば程度の、それぞれ水準へと回復した。さらに、6月14日には2,100万バレル台前半程度の量へと増加した結果、5月10日の水準を相当程度上回る状態となっている。日本及び韓国等を含むアジア諸国の製油所が春場のメンテナンス作業を活発化させつつあることにより、それら諸国からシンガポールへの重油の流入が低調となっていることが、シンガポールの重油在庫の増加を抑制する形で作用する反面、EU加盟国により輸入が原則禁止となったロシア産重油がシンガポールに流入していることが、シンガポールの重油在庫を押し上げる形で作用した結果、当該在庫は増加傾向となった。しかしながら、LNG及び石炭価格が下落した後概ね低位で安定していることにより、インドやバングラディシュといった南アジア諸国は発電部門において高硫黄重油よりもLNG及び石炭の利用を指向するようになっていることもあり、アジア市場における高硫黄重油需給に緩和感が発生していることや、中国の一部製油所が春場のメンテナンス作業を実施していることにより、石油製品製造のため高硫黄重油調達(十分な原油輸入枠を政府により付与されない同国一部製油所は代替として高硫黄重油を原料にして石油製品を製造していると見る向きもある)が減少していると見られることから、5月上旬から6月中旬にかけてのアジア市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は若干ながら拡大する傾向を示した。しかしながら、シンガポールにおける船舶向け低硫黄重油需要は比較的安定していた反面、製油所のメンテナンス作業実施が低硫黄重油生産に影響を与えていると言われており、結果として、アジア市場での低硫黄重油の需給には引き締まり感が発生していることから、5月上旬から6月中旬にかけての当該市場での低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向となった。
3. 2023年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場等の状況
2023年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場においては、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相による、原油先物市場における空売り投機筋への警告や、米国財政責任(同国連邦政府債務上限引き上げ)法案が同国連邦議会上下院で可決され法律として成立したことにより、債務不履行に陥る結果同国経済が混乱するとともに石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で後退したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた反面、中国経済がもたつき気味であることを示唆する一連の経済指標類が発表されたことや、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で発生したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は概ね1バレル当たり67~74ドルを中心とする範囲で方向感のない展開となったが、6月12日には1バレル当たり67.12ドルの終値と、3月17日以来の低水準の終値に到達する場面も見られた(図16参照)。
5月15日には、これまでの原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、カナダの山火事により依然として石油換算日量30万バレル超の石油及び天然ガスの生産が停止している旨5月15日に示唆されたことにより、この先の米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来を控え、カナダから米国への原油供給の低迷による米国石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、これまでの上昇に対する利益確定の動きが発生したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.07ドル上昇し、終値は71.11ドルとなった。ただ、5月16日には、この日中国国家統計局から発表された4月の同国鉱工業生産が前年同月比5.6%増加と市場の事前予想(同10.9%増加)を下回ったうえ、同月の同国小売売上高が同18.4%の増加と市場の事前予想(同21.0~21.9%増加)を下回ったことにより、同国経済回復の弱さを市場が意識したことに加え、米国連邦政府の債務上限引き上げを巡る協議の失敗に伴う同国経済混乱を回避するための時間がなくなりつつある旨5月16日に米国財務省のイエレン長官が警告するなど、同問題を巡る不透明感が続く中、5月16日に米国商務省から発表された4月の同国小売売上高が前月比0.4%の増加と市場の事前予想(同0.8%の増加)を下回った他、同日米国ホームセンター大手ホーム・デポが2023年通期の業績見通しを下方修正した旨明らかにしたこともあり、米国株式相場が下落したうえ、5月16日にドイツの民間調査機関欧州経済研究センター(ZEW)から発表された5月のドイツ景気期待指数(ゼロが景気拡大と縮小の分岐点)がマイナス10.7と4月のプラス4.1から低下した他市場の事前予想(マイナス5.0)を下回ったこともありユーロが下落するとともに、米国株式相場の下落により投資家のリスク許容度が縮小したことにより、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.86ドルと前日終値比で0.25ドル下落した。しかしながら、5月17日には、米国連邦政府の債務上限の引き上げにつき関係者間で合意することにより同国は債務不履行の事態にはならないことに自信を持っている旨5月17日に米国連邦議会下院のマッカーシー議長(共和党)が明らかにした他、同国の債務上限の引き上げにつき合意に到達することにより米国は債務不履行が回避されることを確信している旨同国のバイデン大統領も5月17日に発言したことにより、債務不履行に伴う米国経済混乱を回避できるとの期待が市場で増大したうえ、米国中堅金融機関ウェスタン・アライアンスの預金残高が5月12日までの3ヶ月間に20億ドル超増加した旨5月16日午後遅く(米国東部時間)に明らかになったこともあり、同国地方銀行株式価格が上昇したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、5月17日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.97ドル上昇し、終値は72.83ドルとなった。それでも、5月18日には、この日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(5月13日の週分)が24.2万件と前週比で2.2万件減少した他市場の事前予想(25.1~25.4万件)を下回ったこと、5月18日の米国フィラデルフィア連邦準備銀行から発表された5月の同国フィラデルフィア地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)がマイナス10.4と4月のマイナス31.3から上昇した他市場の事前予想(マイナス19.8~マイナス20.0)を上回ったこと、米国連邦政府の債務上限引き上げに関する協議が今週末にも原則決着するとともに来週には米国連邦議会下院において合意内容が審議されるものと見ている旨5月18日に連邦議会下院のマッカーシー議長が明らかにしたこと、米国の物価上昇沈静化は不十分であるとして、今後の政策金利引き上げを支持する旨米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁及び同国セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁が示唆した旨5月18日に伝えられたこともあり、米国における政策金利引き上げ継続観測が市場で拡大したことにより、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.86ドルと前日終値比で0.97ドル下落した。また、米国バイデン政権側が支出削減に難色を示していることを理由として、5月19日に米国共和党が連邦政府の債務上限引き上げに関する交渉を中断したことにより、同国の債務不履行回避を巡る不透明感が増大したうえ、より多くの米国の銀行合併が必要になるかもしれない旨5月18日に同国のイエレン財務長官が明らかにしたと5月19日に報じられたことにより同国地方銀行株式価格が下落したこともあり、米国株式相場が下落したことから、5月19日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.31ドル下落し、終値は71.55ドルとなった。この結果原油価格は5月18~19日の2日間で1バレル当たり合計1.28ドル下落した。
ただ、5月27~29日の米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月29日)に伴う連休による同国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入を控え、5月24日にEIAから発表される予定である同国石油統計(5月19日の週分)でガソリン在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことにより、5月22日の米国ガソリン先物価格が上昇したことに加え、5月19~21日に開催された主要7ヶ国政府(G7)首脳会議において、G7等により設定されているロシア産原油及び石油製品の上限価格を回避する動きに対抗するための取り組みを強化する旨5月19日に表明したことにより、今後当該取り組み強化に伴いロシアからの石油供給が減少する結果石油需給が引き締まる可能性があることに対する懸念が5月22日の市場で発生したことから、この日(5月22日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.44ドル上昇し、終値は71.99ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2023年6月渡し原油先物契約は取引を終了したが、7月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり72.05ドル(前日終値比同0.36ドルの上昇)であった)。また、5月23日には、(積極的な原油先物契約の空売りを行なうことにより原油価格を押し下げようとするのであれば)痛い目に遭うので注意する必要がある旨この日サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が石油市場の空売り投機筋に対し警告を行なったことにより、6月4日に開催されるOPECプラス産油国閣僚級会合において追加減産の実施が検討される可能性を市場が意識したことに加え、5月24日にEIAから発表される予定である米国石油統計においてガソリン在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生した流れをこの日も引き継いだことから、5月24日の原油価格の終値は1バレル当たり72.91ドルと前日終値比で0.92ドル上昇した。さらに5月24日も、前日サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が石油市場の空売り投機筋に対し警告したことにより6月4日に開催されるOPECプラス産油国閣僚級会合において追加減産の実施が検討される可能性を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、5月24日にEIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比1,246万バレル、ガソリン在庫が同205万バレル、留出油在庫が同56万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫80万バレル程度の増加、ガソリン在庫同110万バレル程度の減少、留出油在庫同40万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.43ドル上昇し、終値は74.34ドルとなった。この結果原油価格は5月22~24日の3日間で1バレル当たり合計2.79ドル上昇した。5月25日は、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、6月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合においては新規の原油生産調整実施は決定しないものと考えている旨5月25日にロシアのノバク副首相が明らかにしたと報じられたことにより、当該会合において追加減産の実施が決定されるとの観測が市場で後退したこと、5月25日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(5月20日の週分)が22.9万件と市場の事前予想(24.5万件)を下回ったうえ、同日米国商務省から発表された2023年1~3月の同国国内総生産(GDP)(改定値)が前期比年率1.3%の増加と4月27日に発表された速報値である同1.1%から上方修正されたこともあり、米ドルが上昇したことから、5月25日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.51ドル下落し、終値は71.83ドルとなった。それでも5月26日には、前日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、5月26日に米国ミシガン大学から発表された5月の同国消費者信頼感指数(確定値)(1966年=100)が59.2と市場の事前予想(57.7~58.0)を上回ったうえ、米国連邦政府の債務上限引き上げ問題に関する同国バイデン政権と共和党との協議は進捗しつつある旨同国連邦議会下院のマッカーシー議長(共和党)が明らかにした旨5月26日午前遅く(米国東部時間)に報じられたこともあり、同国が債務不履行に陥るとともに経済が混乱するとの見方が市場で後退したことにより、米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度が拡大したことにより米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.67ドルと、前日終値比で0.84ドル上昇した。
5月29日は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う休日に伴い米国原油先物契約の終値は計上されなかったが、5月27日に到達した米国連邦政府の債務上限引き上げに関する同国のバイデン大統領と連邦議会下院のマッカーシー議長(共和党)の間での基本合意に対し、同国共和党保守強硬派議員から反対意見が表明されたことにより、同国の債務不履行発生回避を巡る不透明感が市場で増大したことから、5月30日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.21ドル下落し、終値は69.46ドルとなった。また、5月31日も、この日中国国家統計局から発表された5月の同国製造業PMIが48.8と4月の49.2から低下、2022年12月(この時は47.0)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(49.4~49.5)を下回ったうえ、5月の同国非製造業PMIが54.5と4月の56.4から低下した他市場の事前予想(55.2)を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、6月13~14日に開催される予定である次回米国連邦公開市場委員会(FOMC)において政策金利引き上げが決定されなかったとしても政策金利引き上げ局面が終了したわけではない旨5月31日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のジェファーソン理事が明らかにしたこともあり、同国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日(5月31日)の原油価格の終値は1バレル当たり68.09ドルと前日終値比で1.37ドル下落した他、この日の原油価格の終値は3月20日(この時は67.64ドルの終値)以来の低水準に到達した。しかしながら、6月1日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、5月31日夜(米国東部時間)に財政責任法案(米国連邦政府の債務上限引き上げ法案)が米国連邦議会下院本会議で可決されたことにより、同国が債務不履行に陥ることに伴い同国経済が混乱するといった事態が回避されるとの期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したこと、ユーロ圏の物価上昇率は依然として極めて高水準であるため金融引き締め政策の一層の推進が必要である旨6月1日に欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が明らかにしたこともありユーロが上昇したうえ、6月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された5月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が46.9と4月の47.1から低下した他市場の事前予想(47.0)を下回ったこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.01ドル上昇し、終値は70.10ドルとなった。また、6月1日夜(米国東部時間)に財政責任法案が同国連邦議会上院本会議で可決され、同法案が米国のバイデン大統領により署名され法律として成立する見通しとなったことにより、同国が債務不履行に陥ることに伴い同国経済が混乱する事態が回避されるとの観測が市場で増大した他、6月2日に米国労働省から発表された5月の同国非農業部門雇用者数が前月比で33.9万人の増加と4月の同29.4万人の増加(改定値)から増加幅が拡大した他、市場の事前予想(同19.0~19.5万人の増加)を相当程度上回ったことにより、米国経済を巡る悲観的な見方が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.74ドルと前日終値比で1.64ドル上昇した。
また、6月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、従来2023年末を期限としていた減産措置を一部調整のうえ2024年末まで延長した他、当該会合開催の際にサウジアラビアを含む一部OPECプラス産油国が2023年末までの実施を予定していた自主的な追加減産(合計日量約166万バレル)を2024年末まで延長したうえ、サウジアラビアが7月(延長される可能性あり)につき自主的な追加減産を日量100万バレル拡大する旨表明したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、サウジアラビア国営石油会社サウジ・アラムコが7月の原油販売価格を全ての油種につき引き上げた旨6月5日に報じられたことにより、原油価格の先高感を市場が意識したことから、6月5日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.41ドル上昇し、終値は72.15ドルとなった。この結果原油価格は6月1~5日の3取引日で1バレル当たり合計4.06ドル上昇した。しかしながら、6月7日にEIAから発表される予定である米国石油統計(6月2日の週分)で、原油、ガソリン及び留出油の各在庫が前週比で増加している旨判明するとの観測が6月6日の市場で発生したことに加え、6月6日にドイツ連邦統計庁から発表された4月の同国鉱工業受注指数が前月比で0.4%の低下と市場の事前予想(同2.8~3.0%の上昇)に反し低下していたこともあり、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.41ドル下落し、終値は71.74ドルとなった。ただ、6月7日には、この日中国税関総署から発表された5月の同国原油輸入量が5,144万トン(推定日量1,215万バレル)と前年同月(4,582万トン、同1,081万バレル)比で12.3%増加、史上3番目の高水準に到達したことにより、同国の石油需要の堅調さを市場が意識したことに加え、6月7日にEIAから発表された米国石油統計(6月2日の週分)で原油在庫が前週比45万バレルの減少と市場の事前予想(同100万バレル程度の増加)に反し減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.53ドルと前日終値比で0.79ドル上昇した。それでも6月7日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比275万バレルの増加と市場の事前予想(同90万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことにより、同国のガソリン需要低迷の可能性を意識した流れを6月8日の市場が引き継いだことに加え、イランの核合意正常化に向け同国と米国が暫定合意(後述)に接近しつつある旨6月8日に報じられたことにより、当該合意によりイランからの原油供給が拡大する結果世界石油需給が緩和するとの観測が市場で発生したことから、6月8日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.24ドル下落し、終値は71.29ドルとなった。また、6月9日に中国国家統計局から発表された5月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比4.6%の低下と4月の同3.6%低下から低下幅が拡大、2016年2月(この時は同4.9%の低下)以来の大幅な低下となった他市場の事前予想(同4.3%低下)を上回った旨判明したことにより、同国産業部門活動の低迷と石油需要への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.17ドルと前日終値比で1.12ドル下落した。
さらに、高水準の金利、景気後退懸念、そしてロシア、イラン及びベネズエラの石油供給増加が、原油相場に下方圧力を加えることにより、2023年12月のブレント原油価格予想をこれまでの1バレル当たり95ドルから同86ドルに、2023年平均ブレント原油価格を同88ドルから同82ドルに、2024年の平均価格を同99ドルから91ドルへと、それぞれ下方修正する旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが明らかにしたと6月11日に伝えられたこともあり、原油価格の先高感が市場で後退.したことから、6月12日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.05ドル下落し終値は67.12ドルとなった他、この日の原油価格の終値は3月17日(この時の終値は同66.74ドル)以来の低水準の終値に到達した。また、この結果原油価格は6月8~12日の3取引日で1バレル当たり合計5.41ドル下落した。6月13日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、6月13日に中国人民銀行が2022年8月15日以来10ヶ月ぶりに短期金利を引き下げる旨発表した他、同国政府が景気刺激策を検討している旨同日報じられたことにより、中国の経済と石油需要の伸びの回復期待が市場で増大したこと、6月13日に米国労働省から発表された5月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で4.0%の上昇と4月の同4.9%の上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同4.1%の上昇)を下回ったことにより、6月13~14日の予定で開催中の同国連邦公開市場委員会(FOMC)において政策金利引き上げ休止が決定されるとの観測が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことから、6月13日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.30ドル上昇し、終値は69.42ドルとなった。それでも6月14日には、この日EIAから発表された米国石油統計(6月9日の週分)で、原油在庫が前週比792万バレル、ガソリン在庫が同211万バレル、留出油在庫が同212万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同50万バレル程度の減少、ガソリン在庫同32万バレル程度の増加、留出油在庫同120万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加していた他、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で155万バレル増加し4.21億バレルと2022年6月11日(この時は4.36億バレル)以来の高水準に到達していた旨判明したことに加え、この日終了した米国FOMCにおいて政策金利を従来通り5.00~5.25%で据え置きとする旨決定されたものの、併せて明らかになったこの先の政策金利見通しが2023年末時点で5.6%と、3月21~22日に開催されたFOMCの際に明らかになった見通し(同5.1%)から引き上げられ、年内さらに2回の政策金利引き上げが予定される旨示唆されたことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で増大するとともに同国経済減速懸念が市場で拡大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.27ドルと前日終値比で1.15ドル下落した。しかしながら、6月15日には、この日中国国家統計局から発表された5月の同国製油所の原油精製処理量が前年同月比15.4%増加の6,200万トン(推定日量1,464万バレル)と月間ベースでは3月の6,329万トン(同1,494万バレル)に次いで史上2番目の高水準に到達したことにより、同国の石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で増大したことに加え、6月15日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会において、0.25%の政策金利引き上げが決定した他、7月27日に開催される予定の次回理事会においても政策金利引き上げを継続する可能性が極めて高い旨今回の理事会開催後の記者会見でECBのラガルド総裁が明らかにしたことにより、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したこと、6月15日に米国商務省から発表された5月の同国小売売上高が前月比で0.3%の増加と市場の事前予想(同0.1~0.2%の減少)に反し増加している旨判明したうえ、同日ニューヨーク連邦準備銀行から発表された5月のニューヨーク地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)がプラス6.6と4月のマイナス31.8から上昇した他市場の事前予想(マイナス15.1)を上回ったこともあり、米国経済に対する楽観的な見方が市場で増大したことにより、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.35ドル上昇し、終値は70.62ドルとなった。また、6月16日も、中国経済の持続的成長を促すため、さらなる刺激策を適切な時期に講じる必要がある旨この日同国国務院で議論されたと同日伝えられたことにより、この先の同国経済回復と石油需要の伸びの加速への期待が市場で増大したことに加え、6月16日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で552基と前週比4基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は539基と前週比2基減少)、2022年4月29日の552基以来の低水準(石油水平坑井掘削装置稼働数は2022年5月6日の538基以来の低水準)に到達していた旨判明したことにより、この先の同国原油生産の伸びの鈍化懸念が市場で拡大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.78ドルと前日終値比で1.16ドル上昇した。この結果原油価格は6月15~16日の2日間で1バレル当たり合計3.15ドルの上昇となった。
4. 原油市場における主な注目点等
2016年1月3日以降断交状態であったサウジアラビアとイラン(サウジアラビアが2016年1月2日にテロ行為に関与した等の理由によりイスラム教シーア派指導者ニムル師の処刑を執行したことに対し、イランでデモ隊が抗議行動として在テヘランサウジアラビア大使館を襲撃したことが理由とされる)は、2ヶ月以内に大使館を再開させることを含め外交関係を回復させる旨3月10日に合意した(中国等の仲介努力によるものとされる)。この合意に基づき6月6日にイランは在リヤド大使館を正式に再開した。
ただ、5月31日に公表された国際原子力機関(IAEA)によるイラン核合意遵守関係報告書では、5月13日時点においてイランが保有する濃縮ウラン保有量は、2015年7月14日にイランと西側諸国の間で最終合意し同年10月18日に発効した包括的共同作業(JCPOA: Joint Comprehensive Plan of Action)で定められた上限(202.8kg)の23.4倍程度に当たる4,744.5kgに到達した他、470.9kgの濃縮度5~20%の濃縮ウラン、114.1kgの濃縮度20~60%の濃縮ウランを保有しているものと推定され(JCPOAにより規定されている濃縮度上限は3.67%である)、2月13日時点(2月28日報告)からそれぞれ36.2kg及び26.7kg増加した旨示唆された。加えて、イランは射程距離2,000キロメートルの能力を持つ新型弾道ミサイルの試験発射に成功した旨5月25日に報じられる。これに対しフランス外務省はイラン核合意に関連した国連安全保障理事会決議(弾道ミサイル開発の制限)に違反していると主張した他、米国国務省のミラー報道官も懸念を表明した旨併せて5月25日に報じられる。また、6月1日には米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がイスラエルのハネグビ国家安全保障顧問及びデルメル戦略問題相と会談、イランの核兵器保有防止のために提携を強化していくことで意見が一致した。さらに、6月9日には米国国家安全保障会議(NSC: National Security Council)のカービー戦略広報調整官が、ウクライナへの侵攻に際し、ロシアがイランから無人機数百機の供給を受けるなど、両国間での協力関係を強めているものと見られる旨の見解を明らかにした。そして、5月22日には、EUが、人権弾圧を理由として、イランの個人5人と組織2者に対しEU加盟国への入国禁止とEU域内の資産凍結を内容とする制裁を発動することを決定している。
ただ、イランの核合意正常化に向け同国と米国が暫定合意(イランが濃縮度60%以上のウラン濃縮を停止するとともにIAEAとの協力を継続する代わりに、米国がイランに対し最大日量100万バレルの原油輸出に加え凍結中の資産等の利用を認めることを主な内容とするとされる)に接近しつつある旨6月8日に報じられた。同日米国国務省のパテル首席副報道官及びイランの国連代表部双方は当該協議を否定したものの、双方の間で何かしら協議が行なわれているとの観測が市場で継続したことが、6月8~9日の原油相場に下方圧力を加えた(実際、暫定合意は否定しているものの、オマーンを仲介役としてイランは米国との間で核合意正常化に向けた協議を継続している旨6月12日にイラン外務省が明らかにしている)。
このように、中東地域を巡る情勢については、イランとサウジアラビア等との間での対立は低下する方向に向かいつつあるものの、イランのウラン濃縮活動及び弾道ミサイル開発は進展する方向に向かいつつあるように見受けられることもあり、イランと欧米諸国及びイスラエルとの間での対立はむしろ高まる兆候も見られる。そのような流れの中、今後も米国(もしくはイスラエル)がシリア等にあるイラン革命防衛隊の関与する施設を攻撃する一方、ペルシャ湾沖合を航行する石油タンカーがイランによって拿捕されたり、攻撃されたりする(声明が発表されないこともあり犯行者が判然としないことがあるが、革命防衛隊等のイラン関係者が関与していると推測されることがある他、オマーン湾においてイランが自爆型無人機等の発射実験を実施しているとも6月15日に報じられる)等、米国等とイランとの間での緊張が高まることにより、中東地域からの石油供給が脅かされるのではないかとの懸念が市場で増大する結果、原油価格が上振れする場面が見られることがありうることに留意する必要がある。
中国では、厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が事実上撤廃されて以降、個人の外出が活発化するとともに、経済活動が目覚ましく回復することを通じ同国の石油需要が相当程度拡大する(従来2023年の世界石油需要の伸びの半分超は中国によるものと見られていた)ことに伴い、2023年後半に向け世界石油需給の引き締まり感が強まることにより、原油価格が上昇に向かうとの見方が市場心理に根強く存在してきており、これがこれまで原油相場を支持する形で作用していた。しかしながら、4月30日に中国国家統計局から発表された4月の同国製造業PMIが49.2と3月の51.9から低下、2022年12月(この時は47.0)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(51.4)を相当程度下回ったうえ、4月の同国非製造業PMIも56.4と3月の58.2から低下した他市場の事前予想(57.0)を下回った。また、5月31日に中国国家統計局から発表された5月の同国製造業PMIも48.8と4月からさらに低下した他市場の事前予想(49.4~49.5)を下回ったうえ、5月の同国非製造業PMIも54.5と4月からさらに低下した他市場の事前予想(55.2)を下回った。さらに、6月9日に中国国家統計局から発表された5月の同国生産者物価指数(PPI)は前年同月比4.6%の低下と4月の同3.6%低下から低下幅が拡大、2016年2月(この時は同4.9%の低下)以来の大幅な低下となった他市場の事前予想(同4.3%低下)を上回った旨判明した。加えて、6月15日に中国国家統計局から発表された5月の同国鉱工業生産が前年同月比3.5%の増加と4月の同5.6%の増加から増加率が縮小した他市場の事前予想(同3.5~3.6%の増加)の一部を下回ったうえ、小売売上高は同12.8%の増加となったものの4月の同18.4%の増加からは増加率が縮小した他市場の事前予想(同13.6~13.7%の増加)を下回った。また、5月9日に中国税関総署から発表された4月の同国輸出は前年同月比で8.5%の増加となり、市場の事前予想(同8.0%の増加)は上回ったものの、3月の同14.8%の増加からは伸びが鈍化した他、同国の輸入は同7.9%の減少と市場の事前予想(同0.0~0.2%の減少)を相当程度上回った。さらに、6月7日に中国税関総署から発表された5月の同国輸出は前年同月比で7.5%減少と市場の事前予想(同0.4~1.8%の減少)を上回って減少している旨判明した。このように同国の経済指標類は同国経済の回復が必ずしも目覚ましいものでないことを示唆した。さらに、5月27日に中国国家統計局から発表された2023年4月の同国工業企業利益は前年同月比3.7%の増加となり、3月の同19.2%の減少からは増加に転じたものの、依然として回復の勢いが弱いことが示唆された。また、5月1日の中国の労働節に伴う休日(4月29日~5月3日)期間中の国内旅行は2019年の時点を19%程度上回った旨伝えられるなど、個人の外出はそれなりに堅調であったものと見られるものの、旅行に伴う支出は必ずしも活発ではなかったと指摘する向きもあるなど、この面でも中国が持続的な回復基調となっているとは考えにくい状況となっている。
他方、4月13日に中国税関総署から発表された3月の同国原油輸入量は前年同月(4,271万トン、推定日量1,009万バレル)比22.5%増加の5,231万トン(推定日量1,235万バレル)に到達している旨判明した他、4月18日に中国国家統計局から発表された3月の同国の原油精製処理量は6,329万トン(日量1,494万バレル)と前年同月比8.8%の増加となり史上最高水準に到達した。これは同国国内需要が盛り返しつつあることを示している可能性があるものの、併せて同国内では石油在庫が積み上がりつつある旨伝えられることもあり、春場のメンテナンス作業実施に伴う操業停止を控え製油所が稼働を引き上げて石油製品在庫を積み上げるべくロシア等から割安な原油を大量に購入したことが同国の原油輸入増加に反映されているとの観測も市場で発生した。実際、5月9日に中国税関総署から発表された4月の同国原油輸入量は前年同月(4,303万トン、推定日量1,050万バレル)比1.4%減少の4,241万トン(推定日量1,035万バレル)にとどまった旨判明しており、中国国内石油在庫の積み上がりとメンテナンス作業実施に伴う製油所の稼働低下が影響している他国内経済及び石油需要の回復が順調でないことが背景にある旨報じられる。また、6月7日に中国税関総署から発表された5月の同国原油輸入量は5,144万トン(推定日量1,215万バレル)と前年同月(4,582万トン、同1,081万バレル)比で12.3%増加、史上3番目の高水準に到達した。そして、6月15日に中国国家統計局から発表された5月の同国製油所の原油精製処理量は前年同月比15.4%増加の6,200万トン(推定日量1,464万バレル)と月次ベースでは3月に次いで史上2番目の高水準に到達した。それでも日量ベースでは4月の6,114万トン(同1,492万バレル)から同28万バレルほど減少している他、5月の中国の製油所の原油精製処理量が同月の同国の原油輸入と同国の原油生産の合計に追い付いていないところからすると、増加した原油輸入は在庫積み上げに向けられていることにより、必ずしも国内石油需要の堅調さを反映している訳ではないものと見られる。
このように足元の中国の経済回復状況が製造業を初めとして回復状況が緩慢である様相を呈していることに加え、今後欧米諸国等の政策金利引き上げ等の影響により当該地域において金融機関に対する経営不安が拡大することを含め経済減速が深刻化する兆候が見られるようであれば、欧米諸国等との貿易関係を通じ中国経済も減速するとの不安感が市場で拡大するといった展開も想定されうることを含め、中国経済及び石油需要の回復の過程が長期化しそうであるとの観測が市場で増大することにより、世界石油需給の相対的な緩和感が市場で強まるとともに、原油価格が下振れする場面が見られる可能性もある。なお、6月13日に中国人民銀行が2022年8月15日以来10ヶ月ぶりに短期金利を引き下げる旨発表した他、中国経済の持続的成長を促すため、さらなる刺激策を適切な時期に講じる必要がある旨6月16日に同国国務院で議論されたと同日伝えられるなど、同国政府等による景気刺激策の実施の動きが見られることが、原油相場に上方圧力を加える場面が見られるが、中国政府の債務拡大等の問題から、当該刺激策は限定的な規模となる可能性がある旨関係者が示唆したと6月16日に報じられていることもあり、これら方策が中国経済回復に対し不十分なものとなる恐れもあることから、今後も同国の経済対策の内容及び経済回復、そして石油需要の伸びの状況等に関しては注意する必要があろう。
5月26日に米国商務省から発表された4月の同国個人消費支出(PCE:Personal Consumption Expenditures)価格指数は前月比で0.4%、前年同月比4.4%の、それぞれ上昇と、3月(前月比0.1%、前年同月比4.2%の、それぞれ上昇)から上昇ペースが加速している旨示された他、6月13日に発表された5月の米国消費者物価指数(CPI)が前年同月比4.0%の上昇と4月の同4.9%の上昇から上昇幅が低下した他市場の事前予想(同4.1%)を下回ったものの、同国の目標物価上昇率(同2%)を依然として相当程度上回っていることから、この先米国金融当局が政策金利引き上げを継続する可能性が指摘されており(6月13~14日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において政策金利が従来通りの5.00~5.25%で据え置きとする旨決定されたものの、併せて明らかになったこの先の政策金利見通しが2023年末時点で5.60%と3月21~22日に開催されたFOMCの際に明らかになった見通し(同5.10%)から引き上げられ、年内さらに2回の政策金利引き上げが予定される旨示唆されていたこともあり、7月25~26日に開催される予定である次回のFOMCでは0.25%の政策金利引き上げが決定される確率が6月17日時点で74.4%ある)、米国経済がさらに減速する恐れがある。もっとも、米国金融当局による政策金利引き上げ局面は終了に接近しつつあるとの見方も市場で発生しているように見受けられることもあり、この先の米国金融当局関係者による同国金融引き締め政策を巡る発言等により米ドル等が変動することにより原油相場が上昇及び下落する可能性がある。また、この先発表される予定である米国経済指標の内容によっても石油需要の伸びに関する観測を市場で発生させるとともに原油価格に影響を及ぼす展開となることも想定されうる。さらに、7月に入ると米国主要企業等の2023年4~6月等の業績が発表される予定であるので、それら業績もしくは2023年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場が変動する場面が見られることもありうる。
他方、2023年1~3月期のドイツ経済が縮小(前期比0.3%減少)している旨5月25日に同国連邦統計局が発表した他、6月8日にEU統計局(ユーロスタット)により発表された2023年1~3月期のEU地域経済も縮小(前期比0.1%減少)を示している旨判明したことにより、EU地域は2四半期連続で経済が縮小したことから景気後退入りした一方、欧州中央銀行(ECB)政策決定関係者間では政策金利引き上げを終了するという方針で意思統一がなされていないどころか、6月15日に開催されたECB理事会においては0.25%の政策金利引き上げを決定した他7月27日に開催される予定の次回理事会においても政策金利引き上げを継続する可能性が極めて高い旨今回の理事会後の記者会見でECBのラガルド総裁が明らかにするなど、なお政策金利引き上げの余地がある旨の主張も散見される。このような要因も、この先欧米諸国等による経済減速とともに石油需要の伸びの鈍化観測が市場で強まることにより、石油需給緩和感が市場で醸成されることを通じ原油相場に下方圧力を加えうるものと見られる。
米国では5月27~29日の連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しており、製油所の稼働が上昇、原油精製処理が進むとともに製油所等による原油購入が活発化しやすい時期となる。そして7月半ば頃までは同国でのガソリン需要の盛り上がり感が市場で継続するとともに(米国のガソリン需要のピークは7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)とされる)、季節的な石油需給の引き締まり感の強まりが持続する結果、少なくともこの面では原油価格は下支えされやすいものと考えられる。
また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2022年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量53万バレル程度の原油を輸入した)。5月25日発表の米国海洋大気庁(NOAA)及び6月1日時点の米国コロラド州立大学の両見通しによると、2023年の大西洋圏でのハリケーンシーズンはほぼ平年並みの暴風雨の発生が予想されている(表3参照)が、コロラド州立大学の予想は4月13日のものに比べ上方修正されている。また、そのような予想以上に、夏場において大西洋圏でハリケーン等の暴風雨が活発に発生し米国メキシコ湾に進入するといった展開となることもありうる。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2022年は当該地域で日量174万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,189万バレル)の約15%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国における精製活動の中心地域である(2022年の当該地域の原油精製処理能力は日量846万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,779万バレル)の約48%を占めた)こともあり、今後のハリケーンを含む暴風雨の実際の発生状況やその進路、そして予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。
6月4日に開催された閣僚級会合においてOPECプラス産油国は従来2023年末を期限として実施中であった減産措置を若干調整のうえ2024年末まで延長した他、当該会合開催に際しサウジアラビアは2023年7月(延長の可能性あり)につき日量100万バレルの自主的な追加減産規模の拡大を表明した。OPECのガイス事務局長はOPEC産油国の原油生産調整の目的は(原油価格を引き上げることではなく)世界石油需給を均衡させることにある旨示唆したと5月29日に報じられる。しかしながら、厳格な新型コロナウイルス感染抑制策を事実上終了した中国の経済回復に伴う石油需要の増加が見込まれることから、閣僚級会合開催直前においても2023年は第2四半期以降世界石油需給が引き締まるとの見方が市場で根強かったにもかかわらず、3月中旬に原油価格が下落したことが、4月初頭において一部のOPECプラス産油国に5月1日から12月末にかけての自主的な追加減産の実施を決断させたものと4月4日に伝えられた。また、5月23日には(積極的な原油先物契約の空売りを行なうことにより原油価格を押し下げようとすれば)損失を被る目に遭うので注意する必要がある旨5月23日にサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が石油市場の空売り投機筋に対し警告するなどしている。このように、OPECプラス産油国、特にサウジアラビアは世界石油需給の現状もしくは見通し自体よりも、足元の原油価格の動向(特に下落の兆候)を重視する姿勢を明確にさせつつあることが示唆される。従って、この先も世界石油需給展望に関わらず、例えば原油価格がWTIで1バレル当たり70ドルを割り込んで下落し続ける、もしくは70ドルは割り込んではいないものの70ドル割れに向け下落が加速する兆候が見られる(併せて石油市場において空売り投機筋が空売り規模を拡大しつつある)等の状況となった場合には、次回のOPECプラス産油国の開催を待たずして、まずは自主的なものを含め追加減産の実施可能性等につき警告を発し(いわゆる口先介入を行ない)、それでも原油価格の下落が抑制されない場合には、OPECプラス産油国JMMC開催の機会を捉えるなどして、実際に追加減産を検討したり決定したりすること等により、原油価格下落防止を図ろうとするものと考えられる。
他方、ロシアは2023年3月の原油生産量を(2023年2月比で)日量50万バレル自主的に追加で削減する旨2月10日に同国のノバク副首相が発表した他、3月21日には同副首相が当該減産実施を6月末まで延長する旨明らかにしたうえ、一部のOPECプラス産油国による自主的な追加減産の実施と併せ、ロシアも自主的な減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日にノバク副首相が表明した。ロシアは3月に日量70万バレル原油生産を削減した旨同国エネルギー省が明らかにしたと4月7日に報じられるが、国際エネルギー機関(IEA)によれば2023年3及び4月の原油生産量(コンデンセート除く)はともに日量960万バレルと2月(同987万バレル)比で同27万バレルの減産にとどまった。また、5月のロシアの原油生産量(コンデンセート除く)は日量945万バレルと2月(同987万バレル)比で日量42万バレルの減少となったが、同月の同国からの石油輸出は日量780万バレルと2月比(同760万バレル)から同20万バレルの増加となっている。4月に続き5月もロシアでは一部の製油所のメンテナンス作業が実施されているものと見受けられ、今暫くは特に石油製品輸出がもたつく可能性があるが、これまでのところ、2月以降ロシアの石油輸出が持続的に減少しているかどうかは不明確である。このようなこともあり、ロシアが表明した日量50万バレルの原油生産削減を実際に実行に移しているかどうかにつき疑問視する向きが市場で発生しており、これが、原油相場の上方圧力を削ぐ形で作用した。ロシアは他の減産参加OPECプラス産油国と異なり、自国産石油販売価格の引き上げに事実上制約が課されている環境にあることもあり、減産を強化しても石油収入が増加しにくい構造となっていることから、減産に対するインセンティブが働きにくく、この結果、定められた(もしくは表明された)減産(自主的な追加減産を含む)を忠実に実行するかどうかが不透明な状況となっている。今後もロシアの原油減産遵守状況に市場の注目が集まるものと見られ、同国が表明した日量50万バレルの減産が持続的に遵守されていることが示唆されると言うことであれば、石油需給引き締まり感を市場が意識する結果、原油相場が支持されるものと考えられるが、減産が遵守されていない旨示唆される時期が続けば続くほど、ロシアの原油生産削減方針に対する市場の信用が低減するとともに、原油相場を抑制する作用が強まるものと考えられる。
加えて、5月1日に自主的な追加減産(日量115.7万バレル)を開始した一部OPECプラス産油国(ロシアを除く)の5月の実際の減産規模(4月比)は日量89万バレル程度にとどまるものと推定される旨6月14日に明らかになるなど、当該減産が必ずしも完全に実施されているとは言えない状況であることも明らかになっている。さらに、2022年11月1日より実施している同年8月比日量200万バレルの減産についても、2022年10月5日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合後の記者会見において、実際の減産規模は日量100~110万バレル程度となるであろう旨認識しているとサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は明らかにしていたが、2022年11月から2023年4月にかけての実際の減産規模は日量33~117万バレル程度とまちまちである様に見受けられる。
また、3月23日に国際商業会議所(ICC: International Chamber of Commerce)国際仲裁裁判所(International Court of Arbitration)が、イラクのクルド人自治区からのトルコへのパイプライン経由での原油輸送につき、1973年に締結したトルコとイラクの当該パイプライン輸送に関する合意にトルコが違反しているとのイラク連邦政府の訴えを認めたうえ、3月26日にはトルコに対し当該違反により15億ドルの損害賠償金をイラク連邦政府に対し支払うよう命じた(2014年から2018年にかけてのクルド人自治区からトルコへの原油輸送がイラク国営石油販売会社(SOMO: State Organization for Marketing of Oil)を通じたものでなければならないとの両国の合意内容から逸脱している旨イラク連邦政府が提訴していたとされる)。これに伴い、当該パイプライン経由でのクルド人自治区からの原油輸出(日量40~45万バレル程度とされる)が3月25日に停止した。4月4日にはイラク連邦政府とクルド人自治区政府との間で原油輸出の再開につき暫定的な合意に到達したが、トルコ側は2018年以降のクルド人自治区からの原油輸送に関する仲裁が決着していないこと、及び2014~18年の同自治区からの原油輸送に関する仲裁に基づくトルコからイラク連邦政府への損害賠償額につきさらなる協議を希望することを理由として、クルド人自治区等において生産された原油の輸送を再開させていないと4月6日に報じられるとともに、当該パイプラインの操業者は4月14日時点においても操業再開指示を受けていないと伝えられた。5月11日にはイラク連邦政府とクルド人自治区政府との間での原油輸出の再開につき最終的な合意に到達、イラクはトルコに対し5月13日にパイプラインの操業を再開するよう正式に要請したものの、6月2日にイラクのアブデルガニ石油相はクルド人自治区からトルコへの原油輸出再開については依然として交渉中である旨明らかにしている他、6月13日には、この週の週末及び翌週に本件につき協議が実施される(実際、トルコの交渉団は6月19日にイラクのバグダッドで同国のクルド人自治区等からの原油輸出の再開につき協議する予定である旨、イラク石油省次官のバシム・ムハンマド(Basim Mohammed)氏が6月15日に明らかにしている)ものの、原油輸出が直ちに再開される可能性は低い旨示唆された。このため、足元のイラクの原油生産は削減された格好となっているが、今後紛争解決に向けトルコとイラクとが合意に到達するとともにクルド人自治区等からトルコを経由して原油の輸出が再開するようであれば、イラクの原油生産が増加するといった展開も想定される。
そして、減産に参加する産油国以外のOPEC産油国についても、2023年5月のイランの原油生産量が2022年8月比で日量20万バレル、リビアの原油生産量が同6万バレル、ベネズエラの原油生産量が同11万バレル、それぞれ増加している旨判明している。
以上のような状況を含め、今後もロシアのみならず他のOPECプラス産油国の原油生産状況に市場は注目し続けるものと見られ、原油生産水準の低下が緩慢であるようであれば、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入る7月後半以降には、原油価格がもたつく場面がより見られやすくなるものと考えられる。ただ、原油価格が下落し続けたり、急速に下落する兆候が見られたりするような場合、原油価格下落ペースが加速することによりOPECプラス産油国の減産強化等の実施を以てしても原油価格が制御不能な状況に陥る前に、先制的に石油市場における空売り投機筋等に対して警告を発することや、自主的な追加減産を含む減産強化の検討及び実施を含め、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は原油価格下落を未然に防ぐべく行動するものと考えられる(実際サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は、6月4日の閣僚級会合開催後に、今後も石油市場において透明性及び安定性が見通せない限り、「予防的な」措置を講じ続ける旨、また、6月11日にも石油市場の不透明性や市場心理に対抗すべく取り組む旨、それぞれ明らかにしている)。
全体としては、米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要の盛り上がりによる季節的な石油需給の引き締まり感が市場に継続することに加え、サウジアラビアによる自主的な追加減産の拡大を含む2023年後半にかけての世界石油需給の引き締まり観測等が、原油相場を下支えするものと考えられる。反面、欧米諸国における政策金利引き上げ継続観測等による欧米諸国及び中国における経済のもたつきに伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が原油相場の上昇を抑制する方向で作用しやすいものと考えられる。このような中、ロシアを含むOPECプラス産油国の実際の原油生産状況やサウジアラビア等によるOPECプラス産油国減産措置等を巡る発言、中国の景気刺激策の動向、及び米国メキシコ湾沖合周辺での暴風雨発生の状況等が原油価格に影響を与えるものと見られる。
以上
(この報告は2023年6月19日時点のものです)