ページ番号1009015 更新日 令和3年4月19日
原油市場他:一部諸国の新型コロナウイルス感染拡大やOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置緩和決定等により、上昇の勢いが抑制される原油価格
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概要
- 米国では2月半ば頃の寒波来襲により影響を受けた製油所の操業が回復し始めたことにより石油製品生産活動が活発化しつつあった他、相対的に価格が堅調であった米国に欧州方面からガソリンが流入した一方米国から欧州方面への留出油輸出が低迷したこともあり、ガソリン及び留出油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態となっている。他方、製油所での原油精製処理が進み始めたこともあり原油在庫は減少傾向となったが平年幅上限を超過する状態は継続している。
- 2021年3月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国で増加した他、欧州及び日本でも製油所の稼働が低下したこと等により原油在庫は増加したことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では留出油やその他の石油製品の在庫増加により石油製品全体の在庫も増加したものの、欧州では製油所での石油製品生産活動鈍化により、日本でも1都3県の非常事態宣言解除もありガソリン需要が喚起されたことが一因となり、両地域の石油製品在庫が減少したことで相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する量となっている。
- 2021年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場では、新型コロナウイルス感染拡大のため欧州一部諸国が都市封鎖措置を実施する旨発表したこと等により、3月15日には1バレル当たり65ドル台であった原油価格(WTI)は下落、3月23日には同58ドルを下回る場面も見られた。その後4月中旬初頭に至るまでは、4月1日開催予定のOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置維持の決定観測等が原油相場に上方圧力を加えた反面、OPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置緩和の決定等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は58~62ドルを中心とする範囲で推移した。しかしながら、4月中旬初頭以降は国際エネルギー機関(IEA)等による世界石油需要見通しの上方修正等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油相場は63ドル台へと変動範囲を切り上げた。
- 今後、米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まりつつあることから、この面では原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。また、将来的には新型コロナウイルスワクチン接種が普及することで新型コロナウイルス感染が抑制されることに加え、米国で大統領及び連邦議会上下院の主導権を事実上掌握している民主党が中心となり景気刺激策が実施される方向に進みやすいことにより、経済成長が加速するとともに石油需要が回復するとの市場での期待が増大し原油相場に上方圧力を加える一方、一部の新型コロナウイルスワクチンの副作用発生の可能性に伴う接種普及上の混乱による新型コロナウイルス感染収束遅延に加え、一部諸国での新型コロナウイルス感染拡大と個人の外出規制及び経済活動制限の強化による、世界経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化への懸念増大等が原油価格の上昇を抑制する形で作用する可能性がある。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2021年4月に実施している減産措置を5月から7月にかけ縮小へ
(1) 協議内容等
2021年4月1日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はテレビ会議形式で閣僚級会合を開催し、OPECプラス産油国が2021年4月に実施している日量690万バレルの減産措置(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)につき、5月は日量35万バレル縮小し同655万バレル、6月もさらに同35万バレル縮小し同620万バレル、7月はさらに同44万バレル縮小し同576万バレルとすることで合意した(表1参照)。減産縮小率は大半のOPECプラス産油国で5及び6月で1.0%前後、7月で1.3~1.4%前後であるが、2020年7月以降減産措置の対象外となっているメキシコの減産縮小率は0%となっている他、2~4月に他の産油国に先駆ける形で減産措置を縮小したロシア及びカザフスタンは5~7月の減産措置縮小率は他の大部分のOPECプラス産油国のそれを相当程度下回った結果、7月時点での基準原油生産量に対する減産率は大部分のOPECプラス産油国においては13~14%程度でほぼ一定となった。また、別途4月にサウジアラビアが単独で実施している日量100万バレルの自主的な追加減産についても、5月は同25万バレル縮小し同75万バレル、6月はさらに同35万バレル縮小し同40万バレル、7月はさらに同40万バレル縮小し、自主的な追加減産を終了とする旨同国が明らかにした。世界的な新型コロナウイルスワクチン接種と主要国における刺激策で石油市場が下支えされていることをOPECプラス産油国は会合で認識した。しかしながら、会合直前の数週間の価格変動(原油価格が下落傾向となっていることを指していると見られる)により、石油市場の展開を慎重に監視する必要がある旨会合では留意した。また、2月のOECD諸国石油在庫は7ヶ月連続で減少となったが、依然として過去5年(2015~19年)平均を超過していることもOPECプラス産油国は確認した。他方、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できていないOPECプラス減産参加産油国は9月30日までに減産目標未達成部分を追加して減産するよう求められた。特に、減産目標を顕著に超過している産油国は4月15日までに減産目標未達部分に対する追加減産計画をOPEC事務局に提出することでOPECプラス産油国は合意した。次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は4月28日に開催される予定である。また、次回のOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、及びカザフスタンとされる)についても4月28日(次回OPECプラス産油国閣僚級会合開催日と同日)に開催することとした。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2021年3月4日に開催されたOPECプラス閣僚級会合では、3月に実施している減産規模の減産措置を、ロシア及びカザフスタンを除き、4月についても実施することが決定されたうえ、サウジアラビアが単独で実施していた日量100万バレルの自主的な追加減産を4月も継続する旨、当該閣僚会合開催の際に同国が表明した。このような決定等により、当初OPECプラス産油国全体で日量50万バレルの減産措置の縮小及びサウジアラビアの自主的な追加減産措置の終了という事前予想よりも石油需給を引き締める方向で石油市場に作用するとの認識が市場で広がったこともあり、会合開催後の原油価格は上昇、3月5日にはWTIで1バレル当たり66.09ドルの終値と2019年4月23日(この時は同66.30ドル)以来の高水準に到達した(図1参照)。
ただ、このような原油価格上昇は、足元の実際の石油需給引き締まりという盤石な市場環境に伴うものというよりは、新型コロナウイルスワクチン接種普及による世界経済成長の加速と石油需要の回復、及びOPECプラス産油国による減産措置の維持に伴う、将来の石油需給引き締まり期待を市場が先取りすることに伴い、世界的な金融緩和の動きの中、低コストで調達された資金が原油市場に流入したことによるという、いわば強気な市場心理及び金融要因が一因であると見受けられる部分もあった。また、OECD諸国石油在庫も減少傾向を示しているとはいえ、OPECプラス産油国の認識通り依然として過去5年平均を超過する状態にあった(図2参照)。
このようなことから、新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制もしくは経済活動制限の強化、及び副作用の可能性や供給上の問題等による新型コロナウイルスワクチンの接種普及減速等により、市場での石油需給引き締まり期待が後退することに伴い、足元の必ずしも引き締まっていない石油需給状態を市場が再認識する結果、原油価格が急落するリスクを抱えたままとなっており、そのようなリスクが顕在化した場合、これまで金融要因等で原油市場に活発に流入していた投資資金が、逆回転を始めるとともに急速に流出することにより、原油価格が急落する恐れがあった。
実際、英国製薬大手アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンに血栓症の副作用発生の可能性が生じたことにより、3月15日にはフランス、ドイツ、イタリア及びスペイン政府が、当該ワクチンの接種を見合わせる旨発表した(また、4ヶ国以外の諸国でも同社製ワクチン接種を見合わせる動きが発生した)ことで、当該地域経済成長の加速及び石油需要の回復に対する市場の期待が後退したことが、原油相場に下方圧力を加える場面が見られた。また、新型コロナウイルス感染再拡大により、フランスのパリ及びその近郊等16県で、3月20日午前0時より都市封鎖措置を実施する旨、3月18日に同国のカステックス首相が発表したうえ、3月31日には同国のマクロン大統領が4月3日以降最低1ヶ月間都市封鎖措置を同国全土に拡大する旨発表したことに加え、3月23日には、ドイツのメルケル首相が新型コロナウイルス感染抑制のため、復活祭に伴う休暇期間である4月1~5日において都市封鎖措置を強化する(しかしながら、ドイツ国内からの批判が増大したことにより当該方策は撤回する旨3月24日にメルケル首相が明らかにしている)他これまで3月28日を期限としてきた都市封鎖措置の期限を4月18日まで延長する旨3月23日未明(現地時間)に発表した。さらに、インドで生産されているアストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンの英国向け供給が遅延していることにより、英国での新型コロナウイルスワクチン接種普及が減速する可能性がある旨3月18日に報じられるなど、当該ワクチンの供給に混乱が生じていることが示唆される。
さらに、石油市場ではスーパーサイクル(原油価格が1バレル当たり100ドル以上にまで高騰すること)を予想する向きが増大しつつあるが、石油在庫が歴史的に見て依然高水準にあること、及びOPECプラス産油国が減産を実施していることにより余剰生産能力が2月時点で日量930万バレルに到達していること、等により、スーパーサイクルは(現時点では)発生しないと予想する旨3月17日にIEAが「オイル・マーケット・レポート」で示唆した他、2023年まで世界石油需要は2019年の水準には戻らないであろう旨同日IEAが「オイル2021(中期石油市場見通し)」で明らかにした。
また、3月16~17日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)の際に明らかになったFOMC出席者による経済予測で、2021年の米国物価上昇率が2.4%と、米国連邦準備制度理事会(FRB)が目標としている2.0%を超過するとの見通しが明らかになったこともあり、米国での物価上昇観測が市場で拡大したことに伴い同国債券利回り及び米ドルが上昇した。
以上のような要因により、原油価格は下落傾向となり、例えば3月18日には原油価格が前日終値比で1バレル当たり4.60ドルの下落と2020年4月20日(この時は同55.90ドルの下落)以来の大幅下落となった他、3月23日の終値は同57.76ドルと2月5日(この時は同56.85ドル)以来の低水準に到達するなど、市場参加者が世界石油需給引き締まりに伴う原油価格上昇見通しを確信するには、市場環境は必ずしも盤石ではなく、依然として市場心理は変化しやすく、従ってそのような市場心理の変化により、原油価格が急落し続けるリスクが存在することが示唆された。
このようなことに加え、例年第二四半期は北半球での暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は終了した後となる一方で、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期にはまだ早いことから、季節的な石油需給緩和感が市場で醸成される結果原油相場に下方圧力が加わりやすいと市場では認識されていた。
他方、2020年11月3日に実施された米国大統領選挙でバイデン氏が当選した後、バイデン氏の米国大統領就任による、米国の対イラン制裁措置の緩和(もしくは、少なくとも制裁をこれ以上強化しないこと)を見込んで、イランのロウハニ大統領は同国石油省に対し3ヶ月以内に原油生産能力一杯にまで原油生産を回復させるよう指示した(トランプ前大統領によるイラン核合意離脱と対イラン制裁実施表明時の2018年5月の日量385万バレル以来イランの原油生産量は減少し、大統領選挙直前の2020年10月には同196万バレルとなっていた)旨示唆したと12月6日に伝えられた。そして、2021年3月のイランの原油生産量は日量230万バレル程度と推定され同年10月の同196万バレルから増加しつつあるとともに、今後もイランで油田操業再開作業が実施されることを通じ同国の原油生産が増加していくことにより、結果としてOPECプラス産油国全体の原油供給が拡大するといったことも、石油需給緩和感を市場で醸成させるとともに、原油相場に下方圧力を加える要因となりうることも考えられた。
石油需給が必ずしも引き締まっていないと見られる石油市場において、OPECプラス産油国が不用意に減産措置を緩和すれば、OPECプラス産油国は必ずしも原油価格上昇に熱心なわけではないという姿勢を市場参加者に対し発信することになり、OPECプラス産油国の断固たる減産措置の実施による石油需給引き締まりに伴う原油価格先高感が市場で消滅するとともに、これまでそのような期待で投資資金を原油市場に流入させてきた投資家は利益を確定されるべく資金を退出させることが予想された。
そして、これまでの原油価格上昇の背景に金融要因があると見られるところからすると、原油価格の下落局面が開始されたと市場で受け取られた場合、投資資金の退出に伴い原油価格下落が加速することにより、その時点になってOPECプラス産油国が減産措置を強化しても、原油価格の制御が困難になるといった展開となることも想定された。他方、減産措置の維持等により、世界石油需給を必要以上に引き締めすぎる結果、原油価格がさらに上昇するというリスクも、OPECプラス産油国は抱えていた。
しかしながら、OPECプラス産油国の大半にとってみれば、石油需給引き締まり感が市場で強まる結果、原油相場が上昇し続けることにより、消費国から不満が発生するといった問題が存在するものの、それに対しては、原油供給を増加させる意図がある旨表明するといったいわゆる口先介入、そしてそれでも原油価格上昇が継続する場合には実際に原油供給を増加させることにより、原油価格上昇の沈静化を図ると言った選択を行う余地が残される一方、原油価格の上昇が継続している間は、OPECプラス産油国の原油収入は概ね増加するものと見られることから、不用意に減産措置を緩和することにより原油価格が制御不可能な格好で下落し続ける結果原油収入が打撃を受ける可能性よりも、慎重に減産措置を運用する結果原油価格が上振れする可能性の方が、彼らにとっては好都合といった側面があったことにより、原油価格の上振れリスクはOPECプラス産油国の大半にとって受入可能であった。
実際、3月3日にはインドのプラダン(Pradhan)石油相は主要OPECプラス産油国に対し石油市場を安定させるとの約束を守るために増産すべきであると要請したが、3月4日にサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相はそのようなインドからの増産要求に対し2020年の原油価格低迷時期に購入した原油を利用すべきである旨発言しており、主要消費国による要求を事実上無視する格好となった(これを受け、インド政府は国営石油精製会社に対し原油供給源をロシアやガイアナ等へと多様化させるとともに中東依存度を低減させるよう要請した旨3月9日に伝えられた他、3月26日にもプラダン石油相はアブドルアジズ エネルギー相の発言を非外交的であるとして批判している)。
また、投資家や資金供給者による圧力もあり、石油会社の収益重視による慎重な事業への投資姿勢に伴い、米国でのシェールオイルの活発な開発・生産活動は永久に過ぎ去った旨、3月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合後にアブドルアジズ エネルギー相は発言をしており(但し、市場ではこのような認識を疑問視する向きもある)、従って、OPECプラス産油国が減産措置を維持等することで原油価格が上昇しても、容易には米国のシェールオイルの開発・生産は促進されず、従って原油価格が急落する恐れは高くないとサウジアラビア等が認識していることが示唆された。
このように、OPECプラス産油国の大半、特にその盟主であるサウジアラビアは、原油価格の上振れリスクと下振れリスクのどちらをより受入可能かというと、上振れリスクである一方、下振れリスクは回避するべきであると認識していたと見られることにより、原油価格下落抑制に向け先制的に行動すべく、サウジアラビアの自主的な追加減産を含めOPECプラス産油国は減産措置緩和につき慎重な姿勢を示していた。そして、ロシアもOPECプラス産油国による減産措置の規模を5月も据え置くことを支持(但し、ロシア自身は季節的な需要の増加に対応するために小規模の増産を模索)する旨関係筋が明らかにしたと3月29日に報じられた。また、世界石油需要は十分堅調ではないうえ、イランの原油生産増加が見込まれることにより、原油価格下落を抑止すべく、サウジアラビアは5月のみならず6月においても自国の自主的な追加減産を含めOPECプラス産油国の減産措置を維持することを望んでいる旨関係筋が明らかにしたと3月29日夕方(米国東部時間)に報じられた。さらに、3月30日のOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)開催の際にOPECのバルキンド事務局長はOPECプラス産油国に対し石油市場の状況につき大いに警戒し続けるよう発言した。そしてJTCでは、世界中での新型コロナウイルスワクチン普及加速にもかかわらず、新型コロナウイルス感染は世界中で拡大、封鎖措置と旅行制限が多くの地域で再導入されていることを認識しつつ、サウジアラビアの提案により2021年の世界石油需要見通しを前年比590万バレルの増加から同560万バレルへと下方修正したうえ、特に4~6月の世界石油需要を以前の見込みよりも日量100万バレル下方修正した。これは、4月に実施中のOPECプラス産油国による減産措置に加えサウジアラビアによる自主的な追加減産措置を継続しなければ、2021年第二四半期中は、供給が需要を上回る結果、石油市場参加者の心理が変化することにより原油価格が急落するリスクにOPECプラス産油国がより晒されやすくなることを意味していた(表2参照)。また、JTCでは、OECD諸国の石油在庫が減少する傾向が見られるものの、依然として過去5年平均を上回っており、(足元の)原油価格の変動は市場の状況が脆弱であることを示している旨認識された。このような市場環境に対する認識に基づけば、原油価格の下落を抑制するためには、OPECプラス産油国は4月に実施している減産措置につき、少なくとも5~6月においても延長して実施するか、もしくはサウジアラビア等一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産を含め減産措置を強化さえする必要があったものと考えられる。実際OPECプラス産油国閣僚級会合開催の際し大半のOPECプラス産油国は減産措置の延長を支持している旨4月1日に伝えられた。
しかしながら、3月31日に米国エネルギー省のグランホルム(Granholm)長官がサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相と間で電話会談を実施、その際グランホルム氏は、消費者にとって手頃な価格で信頼できるエネルギー源を確保するための国際的な協力の重要性につき再確認した旨同日夜(米国東部時間)に明らかにした(図3参照)。3月29日時点の米国平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり2.941ドルに到達しており(図4参照)、さらなるガソリン小売価格の上昇(そしてこの先米国は夏場のドライブシーズン(2021年は5月29日(5月31日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休)~9月6日(労働者の日(レイバー・デー)に伴う連休))に伴うガソリン需要期に突入することからガソリン小売価格がさらに上昇する可能性がそれなりにある)は米国国民の不満を増大させる(米国平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3ドルを超過するようだと同国国民の不満が増大しやすいとされる)とともに政権の支持率に影響する恐れがあったことから、これ以上の原油価格の上昇をグランホルム氏が牽制した可能性が示唆される。4月1日に実施した米国とサウジアラビアとの電話会談は、エネルギー分野での協力の強化につき両国が緊密に作業していく旨の内容であった旨同日国営サウジ通信が伝えている他、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は今回のOPECプラス産油国の減産措置方針決定の際には米国を含む消費国からの影響は受けていない旨明らかにしているが、それまでサウジアラビアの自主的な追加減産を含めOPECプラス産油国として減産措置を維持する旨協議していた、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国が今回の閣僚級会合直前(24時間前とされるが、それはサウジアラビアと米国の電話会談の実施時前後となるものと考えられる)に減産措置緩和へと議論が急転換したとされており、原油価格のさらなる上昇が既に高水準となりつつある国内でのガソリン小売価格の一掃の上昇と政権支持率の低下を招く恐れがある旨危惧する米国の状況を、サウジアラビアが考慮した可能性も否定できない。なお、過去においても、2020年3月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合でOPEC産油国とロシアとの間での減産措置に関する協議が決裂、事実上自由な原油生産が可能となった結果、その後原油価格が下落傾向となったが、米国のトランプ大統領(当時)は4月2日にサウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談を実施し、その際にトランプ氏がムハンマド氏に対しOPEC産油国が減産を実施しなければ、トランプ氏としてはサウジアラビアから米軍を撤退させるための米国連邦議会議員による法案の可決を防止できないであろう旨示唆した後、OPECプラス産油国は減産措置実施へと調整を進めた(日量970万バレルの減産措置を5月1日~6月30日に実施することで4月12日にOPECプラス産油国は合意した)といった事例も存在する。
なお、依然として世界石油需給に関しては新型コロナウイルス感染や新型コロナウイルスワクチン接種普及を巡る状況に不透明感が強いこともあり、原油価格下落に対し迅速に対応できるようにするため、次回OPECプラス産油国閣僚級会合を1ヶ月未満後の4月28日に開催することにしたものと見られる。実際、原油価格が下落するなど石油市場を巡る状況が変化した場合、原油生産量を増加、凍結、もしくは減少させるなど計画を迅速に調整する方針である旨サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が4月8日に明らかにしている。
(3) 原油価格の動き等
今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては、サウジアラビアが自国の自主的な追加減産を含めOPECプラス産油国の減産措置を5~6月も維持することを望んでいる旨関係筋が明らかにしたと3月29日夕方(米国東部時間)に報じられていたこともあり、石油市場では、少なくとも5~6月においては4月に実施されている減産措置を延長するものと予想していた。しかしながら、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合での決定はそのような市場の事前予想に比べ世界石油需給を相対的に緩和させる方向で作用する旨示めされていることから、石油市場関係者が失望するとともに原油相場に対し下方圧力が加わることが、いわば合理的な展開であると考えられる。それでも、3月31日夕方(米国東部時間)に米国のバイデン大統領が8年間に渡る2.25兆ドル規模のインフラ整備計画を発表したことに加え、4月1日に米国供給管理協会(ISM)により発表された3月の同国製造業景況感指数(50が当該部門景況感改善と悪化の分岐点)が64.7と1983年12月(この時は69.9)以来約37年ぶりの高水準に到達するなど、景況感が相当程度改善した旨示したことにより、米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度が拡大することにより米ドルが下落したこともあり、米国を初めとする世界経済成長の加速に対する楽観的な見方が市場で増大するとともに、石油需要が増加するとの期待が市場で拡大したことに加え、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したこと、4月2日の米国聖金曜日(グッド・フライデー)の休日に伴う連休(4月2~4日)を控えた持ち高調整が市場で発生したことから、原油相場に上方圧力が加わったこともあり、当該会合開催日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.29ドル上昇し、同日の終値は61.45ドルとなった。
しかしながら、4月2日の米国聖金曜日の休日に伴う連休前の持ち高調整に伴う原油購入に対し、連休後持ち高を再調整する動きが4月5日の市場で発生したことに加え、4月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においてOPECプラス産油国が5月から7月にかけ減産措置を縮小する旨決定したことに対し、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したこと、4月4日時点のインドの1日当たり新型コロナウイルス感染者数が史上最高水準(103,558人)に到達した旨同日深夜(米国東部時間)に伝えられたこともあり、新型コロナウイルス感染収束時期の遅延による世界経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で発生したこと、イラン核合意正常化を巡りイランと米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国、及び欧州連合(EU)が4月6日にオーストリアのウィーンで協議を実施する旨4月2日に決定した(但し米国とイランは間接協議を行うとされる)ことから、当該協議等を通じ、米国による対イラン制裁が緩和されることにより、既に増加しているイランからの原油生産量がさらに拡大する結果、世界石油需給が緩和するとの観測が市場で増大したこともあり、4月5日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.80ドル下落し、終値は58.65ドルとなった。そして原油価格はこの後も4月13日に至るまでは、終値ベースで概ね1バレル当たり58~62ドルを中心とする範囲で上下変動を繰り返すなど、どちらかというともたつき気味となった。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2021年1月の米国ガソリン需要(確定値)は日量767万バレル、前年同月比で12.5%程度の減少と2020年12月の同12.7%の減少から減少幅が若干ながら縮小した(図5参照)が、速報値(前年同月比で10.8%程度減少の日量782万バレル)からは下方修正された。2020年12月31日には231,035人であった同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が2021年1月31日には同113,498人へと減少したものの、1月8日には300,669人の史上最高水準に到達する場面が見られるなど、1月は感染が大幅に拡大する時期があったこともあり、同国の自動車運転距離数は前年同月比で11.3%の減少と12月の同10.3%の減少から減少幅が拡大したことが、1月のガソリン需要の減少に影響したものと見られる。他方、2021年3月の同国のガソリン需要(速報値)は日量869万バレルと前年同月比で11.6%程度増加、2月の同国ガソリン需要(速報値)の同800万バレル(同10.8%程度の減少)から需要が拡大したうえ、2月は前年同月比で減少していた当該需要が3月には増加に転じている。米国では2月28日の1日当たり新型コロナウイルス感染者数が50,920人と1月31日のそれから半減した他、3月31日においても同68,262人と感染者数が概ね安定して推移したこともあり、個人の外出が相対的に活発化したと見られることが、3月の同国ガソリン需要の2月からの拡大の背景にあるものと考えられる。また、2020年3月は米国での新型コロナウイルス感染拡大により、カリフォルニア州では3月19日、ニューヨーク州は3月22日に、それぞれ外出禁止令が発令されるなどしたことで個人の往来が大きく制限されたことに伴い、自動車での移動が大幅に鈍化したことによりガソリン需要が大きく落ち込んだ反動で、2021年3月の同国のガソリン需要が前年同月比で相当程度の増加を示したものと考えられる。ただ、それでも同月のガソリン需要は2019年同月比では5.4%程度の減少となっている。
他方、2月15~16日頃に米国テキサス州等のメキシコ湾岸地域に寒波が来襲したことにより、停電や凍結などで装置に不具合が発生したこと等に伴い一部製油所の操業が停止した結果、原油精製処理活動が減速する(同国メキシコ湾岸地域の原油精製処理量は2月12日の週には日量829万バレルであったが、2月26日の週には同389万バレルと同440万バレル減少した他、この週の原油精製処理量は、ハリケーン「グスタフ(Gustav)」が米国メキシコ湾岸地域に来襲した2008年9月19日の週(この時は同347万バレル)以来の低水準に到達していた)とともに、石油製品生産活動が不活発化したものの、その後それら製油所で電力供給が回復するとともに寒波の影響を受けた装置等の修理が進んだことや、他の製油所で発生した装置不具合の改修等が完了したこと、さらに春場の製油所のメンテナンス作業が終了したうえ、3月以降米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要増加期待が市場で増大したことにより米国でのガソリン価格が上昇したこともあり、製油所の稼働が上昇するとともに、米国製油所の原油精製処理量も3月26日の週には日量1,491万バレルと寒波来襲前である2月12日の週(同1,482万バレル)を上回るとともに、4月2日の週には同1,504万バレルと2020年3月20日の週(この時は同1,584万バレル)以来の高水準に到達した(図6参照)。これにより同国での石油製品製造活動が旺盛になるとともにガソリン生産量も増加したと見られる(ガソリン最終製品の生産は図7参照であるが、製油所の稼働上昇はむしろガソリン混合基材の生産により大きな影響を及ぼしたものと推測される)。また、欧州では一部諸国で新型コロナウイルス感染が再拡大するとともに都市封鎖措置の実施等に伴い個人の外出規制及び経済活動制限が強化されたことにより石油需要が抑制される格好となったことにもあり、欧州でのガソリン価格が米国のそれに比べ割安となったことから、欧州方面から米国へのガソリン流入が拡大した。そして、米国でのガソリン需要の増加を製油所でのガソリン生産及び国外からの輸入で相殺して余りあったこともあり、3月上旬から4月上旬にかけての同国のガソリン在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図8参照)。
2021年1月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量393万バレルと前年同月比で1.6%程度の減少となり、2020年12月の同1.7%程度の減少から減少幅が若干縮小したが、速報値である日量401万バレル(同0.4%程度の増加)からは下方修正された(図9参照)。米国製薬大手ファイザー及びドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックが開発中であった新型コロナウイルスワクチン接種者の90%以上に感染防止効果が認められたとの暫定結果を11月9日朝(米国東部時間)にファイザーが発表したことに加え、11月20日には両社が開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可承認を米国食品医薬局(FDA)に申請、12月11日にFDAは緊急使用許可を承認した。このようなことから、新型コロナウイルスワクチン接種の普及拡大に伴い経済活動制限措置が緩和される結果、米国での経済成長の伸びが加速するとの期待が市場で高まるとともに、同国株式相場が上昇基調となり、2021年1月20日には米国ダウ工業株30種平均が31,188.38ドルと当時としては史上最高水準に到達した。それと併せて、経済活動が持ち直し始めたこともあり、1月の同国鉱工業生産は前年同月比で2.0%の減少と12月の同3.5%の減少から減少幅が縮小した他、1月の物流活動は前年同月比で0.3%の増加と12月(同1.5%の減少)から増加に転じるなど、製造活動及び物流活動が活発化したことに加え、1月の米国北東部(同国の暖房用留出油需要の中心地域)が前年同月よりも総じて冷え込んだことが、1月の留出油需要を下支えする格好となったことが、当該需要の前年同月比での減少幅を限定したものと考えられる。ただ、2020年12月に比べ2021年1月は物流活動の前年比で落ち込み幅が相当程度縮小した他、2020年12月の米国北東部が前年同月に比べ総じて温暖であった一方2021年1月の同地域は前年同月に比べ総じて冷え込んでいたことから、これらの要因は2021年1月の米国留出油需要を2020年12月のそれよりも堅調にさせる方向で作用しうるものであるものの、2020年12月と2021年1月の米国留出油需要の前年同月比での減少幅がほぼ同程度となっていることもあり、2021年2月(確定値)に1月の当該需要抑制の反動が現れる可能性がある(因みに、速報値の段階では2021年2月の当該需要は前年同月比3.2%の増加となっており、2月は同国北東部が前年同月に比べ相当程度冷え込んだことが需要を押し上げた側面はあるものの、1月の当該需要の前年同月比での減少の反動が現れている部分もある可能性がある)。他方、2021年3月の留出油需要(速報値)は日量394万バレルと前年同月比で0.6%程度の増加となっており、2月の当該需要(速報値)の同414万バレル(同3.2%程度の増加)から増加幅が縮小している。2月は上旬及び中旬を中心として米国北東部の気温が平年を相当程度下回る場面が見られたことから、暖房用留出油消費が喚起された一方、3月も米国北東部は前年同月に比べ冷え込んだものの気温が平年を上回る日も多かったことから、暖房用留出油消費が相対的に抑制されたことが、3月の留出油需要の増加幅の前月のそれからの縮小に反映されている部分があるものと考えられる。そして、米国北東部での気温の上昇とともに暖房用需要が抑制され始めた一方、米国の製油所の稼働が上昇するととともに留出油生産活動が活発化した(図10参照)他、新型コロナウイルス感染拡大により、個人の外出規制及び経済活動制限が強化されつつあったことにより留出油需要が不振であった欧州方面から米国に向け留出油が流入したうえ、米国から欧州方面への留出油輸出は低迷したことから、3月上旬から4月上旬にかけ米国の留出油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する水準は継続している(図11参照)。
2021年1月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で6.6%程度減少の日量1,860万バレルとなった(図12参照)。ガソリン及びジェット燃料を含め幅広く石油製品需要が前年同月の水準を割り込んだことが石油需要の前年同月比での減少に反映されている。また、ガソリン、留出油、及びその他の石油製品等の需要の確定値が速報値から下方修正されたこともあり、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,944万バレル、前年同月比2.3%程度の減少)から下方修正されている。また、2021年3月の米国石油需要(速報値)は日量1,922万バレルと前年同月比で5.1%程度の増加となった。増加の大半はガソリンのそれによるものであるが、2020年3月は新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出抑制によりガソリン需要が大幅に落ち込み始めた時期でもあり、その反動で増加している側面が大きいものと見られる。他方、2月15~16日頃に米国メキシコ湾岸地域に来襲した寒波により、米国の油・ガス田関連施設が停電や凍結等により操業を停止したものの、寒波が去った後は比較的速やかに操業が再開しつつあった反面、寒波来襲により稼働を停止した同国メキシコ湾岸地域の製油所は操業再開に時間を要した結果、原油生産が回復しつつあった反面原油精製処理が進まなかったことにより、3月上旬から3月中旬にかけては、同国の原油在庫は増加傾向となったものの、その後米国原油生産が寒波来襲前の水準に到達することで当該生産量が頭打ちの状態となった一方、製油所の操業再開が進むとともに原油精製処理量が増加した他、3月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で4月実施予定の減産措置をサウジアラビアの自主的な追加減産を含め3月のそれとほぼ同規模とする旨合意するなど当初の市場の予想よりは石油需給を引き締める方向で減産措置を決定した(当初OPECプラス産油国は減産措置を日量50万バレル縮小することが望ましいと考えていた旨2月24日に報じられた他サウジアラビアも日量100万バレルの自主的な追加減産につき縮小あるいは終了することを検討していたと3月2日に伝えられた)により米国よりも主要OPECプラス産油国である中東湾岸諸国やロシアに相対的に近距離である欧州市場での石油需給引き締まり感が強まったことが欧州での指標原油であるブレントの価格に上方圧力を加える格好となったうえ、2月中旬の米国テキサス州等への寒波来襲後、寒波の影響を受けた米国の油田での原油生産が比較的早期に回復する一方同国の製油所の操業再開がもたつき気味となったこともあり、2月後半以降3月中旬にかけ原油在庫が相当程度増加したことが米国の指標原油であるWTIに下方圧力を加える格好となったことにより、ブレント原油価格のWTIのそれを上回る幅が拡大したこともあり、米国からの原油輸出が促進された結果、3月中旬以降4月上旬にかけては米国の原油在庫は減少傾向を示すとともに、4月上旬末時点での同国原油在庫は3月上旬のそれを下回る水準となったが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図13参照)。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図14及び15参照)。
2021年3月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では増加した他、欧州でも春場の製油所メンテナンス作業が実施されたことにより原油精製処理活動が鈍化したと見られる結果当該地域での原油在庫は増加した。また、日本においても複数の製油所で装置に不具合が発生したことに伴い操業が停止したことにより原油精製処理が進まなくなったこともあり原油在庫は増加した。これらによりOECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図16参照)。石油製品については、米国では2月15~16日頃にテキサス州等に寒波が来襲したことに伴う複数の製油所の稼働停止の影響が3月も残ったことにより、石油製品生産活動が不活発となっていたこともあり、ガソリン在庫が減少したものの、留出油在庫が増加した他、冬用ガソリンの利用時期が終了に近づきつつあったことに伴い当該ガソリンに混入するブタンの需要が低下してきていると見られることにより、ブタンを含むその他の石油製品の在庫が増加したことで、相殺されて余りあったことから、同国の石油製品全体の在庫は増加した。他方、欧州では製油所での石油製品生産活動が鈍化していた一方で、一部諸国において新型コロナウイルス感染が拡大したことにより都市封鎖措置を強化したことが石油需要及び石油製品価格に下方圧力を加えた結果、寒波来襲に伴う製油所の操業停止によりガソリン等一部石油製品需給に引き締まり感が発生したことで相対的に価格が割高となっていた米国に向け石油製品が輸出されたことにより、石油製品在庫は減少した。日本でも製油所の稼働が低下したことにより石油製品生産が伸び悩んだ一方、3月21日を以て1都3県の非常事態宣言が解除されたことにより個人の外出が相対的に活発化したこともありガソリン需要が喚起されたことが一因となり同国での石油製品在庫は減少した。このため米国での在庫増加を欧州及び日本での在庫減少で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する量となっている(図17参照)。そして、原油及び石油製品双方の在庫が平年幅上限を上回ったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図18参照)。なお、2021年3月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は67.8日と2月末の推定在庫日数(68.1日)から低下している。
3月10日に1,600万バレル弱程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、3月17日に1,500万バレル台半ば程度、3月24日は1,400万バレル台後半程度、3月31日には1,400万バレル台前半程度の、それぞれ量へと減少した。また、4月7日には1,400万バレル台半ば程度、4月14日は1,400万バレル台後半程度の、それぞれ量へと回復したが、当該在庫は3月10日の水準を下回るとともに、総じて減少傾向となった。2月半ば頃以降アジアの一部諸国では春場の製油所メンテナンス作業を実施したり、製油所の一部装置で不具合が発生したりしたことにより、それら製油所での稼働が低下するとともに石油製品生産活動が不活発化したこともあり、これら諸国によるシンガポール方面へのガソリン等の輸出が抑制されたことに加え、2月15~16日頃に米国テキサス州等に来襲した寒波の影響で同国メキシコ湾岸地域の製油所の稼働とガソリン生産に支障が発生したことにより同国のガソリン在庫が大幅に減少したうえ、3月に入り同国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場で意識され始めたこともあり、米国でのガソリン価格が他の地域に比べ割高になったことにより、欧州方面から米国へのガソリン輸出が活発になったと見られる一方、欧州方面からシンガポールへのガソリンの輸出が低迷したことが、シンガポールの軽質留分在庫減少の背景にあるものと見られる(また、中東諸国等のイスラム圏では概ね4月13日から5月12日にかけ断食月(ラマダン)(及び5月13日は断食明け大祭(イド・アル・フィトル(Eid ul Fitr))に突入するため、その一部諸国では多少なりとも帰省等の個人の移動が活発化することに伴いガソリン需要が堅調になることもあり、シンガポール方面へのガソリン輸出が不活発化していると見られることもシンガポール軽質留分在庫減少に影響している可能性がある)。そしてそのようなシンガポールでの軽質留分在庫の減少によりアジア地域のガソリン需給引き締まり感が強まったことに加え、特に3月後半は原油価格の下落にガソリンのそれが追い付かない場面が見られたこともあり、3月中旬から4月中旬にかけてのアジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は概して拡大する傾向を示した。
また、日本、韓国、台湾、タイ等一部アジア諸国のナフサ分解装置で不具合が発生したり、メンテナンス作業が実施されたりしたことに伴い、これら装置が稼働を停止した他、5~6月を中心としてメンテナンス作業を実施するためにこれから操業を停止する方向であるナフサ分解装置があることにより、これら施設に原料として投入するナフサの需要が低下するとの観測が市場で発生した他、気温が上昇傾向となったことにより、暖房向け需要が低下しつつあった液化石油ガス(LPG)の価格が下落するとともに石油化学産業における原料としてナフサと競合し始めるとの見方が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加える格好となったことから、メンテナンス作業実施等に伴い欧州やアジア地域で製油所のナフサの生産が減少したり、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に向けガソリン混入用のナフサ需要が増加するとの見方が市場で発生したことがナフサ価格を下支えしたものの、3月中旬から4月中旬にかけナフサ価格はドバイ原油価格を上回ったり下回ったりする展開となり、2月下旬から3月上旬の状況(ナフサ価格がドバイ原油のそれを若干ではあるが上回る状態であった)からすると、ナフサ価格は相対的に軟調であった。
3月10日には1,400万バレル台前半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、3月17日には1,400万バレル弱、3月24日には1,300万バレル台後半程度、3月31日には1,300万バレル台前半程度、さらに4月7日には1,300万バレル弱程度の、それぞれ水準へと低下するなど、継続的に減少した。4月14日には1,300万バレル台半ば程度の量へと増加したものの、3月10日の水準は下回っている。アジア一部諸国で春場のメンテナンス作業が実施されたり装置に不具合が発生したりしたことにより製油所の操業が停止した他、4月から5月にかけさらに中国等一部諸国の製油所でメンテナンス作業が実施される予定であることもあり、それら諸国からシンガポール方面への中間留分の供給が低下していると見られることが、シンガポールでの中間留分在庫減少をもたらしているものと考えられる。そしてこのようなシンガポールでの中間留分在庫の減少に伴い当該製品需給引き締まり感が市場で発生していることに加え、原油価格の下落に対し、例えば軽油価格のそれが追い付かなかったりしたこともあり、3月中旬から下旬にかけてはアジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する傾向を示した。しかしその後、インド等アジア一部諸国で新型コロナウイルス感染者数が増加したことにより、それら諸国で経済活動が制限されるとともに軽油需要が抑制されるとの観測が市場で発生したことや、欧州でも一部諸国において新型コロナウイルス感染が拡大したこともあり都市封鎖措置が実施されるなど個人の外出規制や経済活動制限が強化されたことにより当該地域での軽油需要が抑制されるとともに当該製品需給が緩和することを通じ、欧州市場の軽油価格のアジア市場のそれに対する割高感が薄れたことで、アジア方面から欧州への軽油輸出が低迷するとともに欧州に輸出されなかった軽油がアジア市場にとどまる結果、当該市場での軽油需給が緩和するとの見方が市場で発生したことが、アジア市場での軽油価格に下方圧力を加えたこともあり、3月下旬から4月中旬にかけては、軽油とドバイ原油の価格差は縮小傾向となった。
3月10日に2,200万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、3月17日もほぼ同水準であった。また、3月24日には2,200万バレル台前半程度の量にまで減少したものの、3月31日には2,300万バレル台前半程度、4月7日には2,300万バレル台半ば程度、そして、4月14日の週には2,400万バレル弱の、それぞれ量へと増加している。12月中旬から1月中旬にかけての北東アジア諸国への寒波の来襲に伴い暖房用もしくは空調機器稼働のための発電用天然ガス需要が増加したことにより、北東アジア市場でのLNG価格が大幅に上昇したことから、発電部門等での天然ガスの代替燃料として重油の需要が旺盛となったうえ、新型コロナウイルス感染が相対的に沈静化している中国等の貿易活動の活発化(3月7日に中国税関総署から発表された2021年1~2月の同国輸出(米ドルベース)は前年同期比60.6%増加、同時期の輸入は同22.2%の増加と、市場の事前予想(輸出38.9~40.0%、輸入15.0~16.0%の、それぞれ増加)を上回ったうえ、4月13日に中国税関総署から発表された3月の同国輸出(同)も前年同月比30.6%増加と市場の事前予想(同35.5~38.0%の増加)は下回ったものの依然堅調であった他、同月の同国輸入(同)は同38.1%増加で市場の事前予想(同23.3~24.4%の増加)を上回った)に伴い船舶用重油需要が堅調であったことにより、アジア市場の重油価格の欧州のそれに対する割高感が強まったこともあり、欧州方面からアジア市場への重油輸出が活発化するとともに、そのような重油がシンガポールに到着し始めた一方で、寒波が来襲した北東アジア諸国では、その後気温が上昇するとともに発電部門向け重油需要が低下したことが、シンガポールでの重油在庫増加の一因となったものと見られる。そして特に3月中旬から下旬にかけてはアジア市場においては原油価格の下落に高硫黄重油価格のそれが追い付かなかったこともあり、高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合重質高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は縮小する場面も見られたものの、その後4月中旬にかけては原油価格が安定した一方で、シンガポールでの重油在庫増加に伴う当該製品需給緩和感を市場が意識したことが重油価格に下方圧力を加える格好となったこともあり、高硫黄重油とドバイ原油の価格差は拡大する傾向が見られた。
3. 2021年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場等の状況
2021年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場では、新型コロナウイルス感染症拡大のため欧州一部諸国が都市封鎖措置を実施する旨発表したことに加え、一部新型コロナウイルスワクチンの使用中断の動きが広がりつつあること等が原油相場に下方圧力を加えた結果、3月15日には1バレル当たり65ドル台であった原油価格(WTI)は下落、3月23日には同58ドルを下回る場面も見られた。その後4月中旬初頭に至るまでは、米国での個人の外出活動活発化の兆候、国際通貨基金(IMF)による世界経済成長見通しの上方修正、4月1日開催予定のOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置の維持決定観測の発生、サウジアラビアの石油関連施設攻撃の情報、及びスエズ運河でのコンテナ船座礁による石油供給面での影響に対する懸念の発生等が原油相場に上方圧力を加えた反面、インドでの新型コロナウイルス感染拡大、欧州での新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖措置強化の動き、OPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置緩和の決定、イランと西側諸国等とのイラン核合意正常化に向けた協議の進捗等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は1バレル当たり58~62ドルを中心とする範囲で推移した。しかしながら、4月中旬初頭以降は米国や中国等での経済改善を示唆する指標類の発表、国際エネルギー機関(IEA)等による世界石油需要見通しの上方修正、及びイランの核関連施設破壊に伴うイランの報復措置実施の表明によるイラン核合意正常化交渉複雑化の可能性に対する懸念増大等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油相場は1バレル当たり63ドル台へと変動範囲を切り上げた(図19参照)。
英国製薬大手アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンに血栓症の副作用発生の可能性が生じたことにより、フランス、ドイツ、イタリア及びスペインの各国政府が当該ワクチンの接種を見合わせる旨3月15日に発表したこともあり、欧州での経済成長回復がもたつくとの観測が市場で増大したことによりユーロが下落したうえ、3月15日にニューヨーク連邦準備銀行から発表された3月のニューヨーク地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門好不況の分岐点)が17.4と2018年11月(この時は21.1)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(14.5~15.0)を上回ったことにより、米ドルが上昇したことに加え、米国のバイデン大統領が経済対策のための財源の一部として大規模課税の導入を検討している旨3月15日に報じられたことにより、同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大したことから、3月15日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.22ドル下落し終値は65.39ドルとなった。3月16日も、翌17日にEIAから発表される予定である米国石油統計(3月12日の週分)で、原油在庫が増加しているとの観測が市場で発生したことに加え、フランス政府等がアストラゼネカ製ワクチンの接種を見合わせる旨3月15日に発表したこともあり、欧州での経済成長回復がもたつくとの観測が市場で増大した流れを引き継いで、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.80ドルと前日終値比で0.59ドル下落した。3月17日も、石油在庫が歴史的に見て依然高水準にあること、及びOPECプラス産油国が減産を実施していることにより余剰生産能力が2月時点で日量930万バレルに到達していること、等により、最近の原油価格の急上昇に伴い一部石油市場関係者が主張し始めたスーパーサイクル(原油価格が1バレル当たり100ドル以上にまで高騰すること)突入は発生しないと予想する旨IEAが同日発表した「オイル・マーケット・レポート」で示唆したことに加え、2023年まで世界石油需要は2019年の水準には戻らないであろう旨IEAがこの日発表した「オイル2021(中期石油市場見通し)」で明らかにしたこと、3月17日にEIAから発表された米国石油統計で、ガソリン在庫が前週比で47万バレル、留出油在庫が同26万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫前週比300~350万バレル程度、留出油在庫同260~340万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.20ドル下落し終値は64.60ドルとなった。また、新型コロナウイルス感染再拡大(第三波)により、フランスのパリ及びその近郊等計16の市及び県で、3月20日午前0時(現地時間)より封鎖措置を実施する旨、3月18日に同国のカステックス首相が発表した他、インドで生産されているアストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンの英国向け供給が遅延していることにより同国での新型コロナウイルスワクチン接種普及が鈍化する可能性がある旨3月18日に報じられたことにより、新型コロナウイルス感染収束による経済成長加速及び石油需要の伸びの回復に対する市場の期待が後退したことに加え、3月16~17日に開催されたFOMCの際に明らかになったFOMC出席者による経済予測で、2021年の米国物価上昇率が2.4%の上昇と、FRBが目標としている2.0%を超過するとの見通しが明らかになったこともあり、3月18日の米国債券利回り及び米ドルが上昇するとともに、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.00ドルと前日終値比で4.60ドル下落した(因みにこの下落幅は2020年4月20日(この時は同55.90ドルの下落)以来の大幅なものであった)。この結果原油価格は3月15~18日の4日間で1バレル当たり合計5.61ドルの下落となった。ただ、3月19日には、これまでの原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、3月18日の原油価格の大幅下落は一時的なものであり原油を購入する良い機会を提供しているとの見解を米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが示した旨3月18日夜(米国東部時間)に報じられたこと、3月19日午前6時5分(現地時間)にサウジアラビアの首都リヤドの同国国営石油会社サウジアラムコの製油所(原油精製処理能力日量14万バレル)を無人攻撃機6機で攻撃した結果当該施設が炎上した旨イエメンのフーシ派武装勢力が主張(サウジアラビアエネルギー省も当該施設が攻撃された結果火災が発生したがその後鎮火、石油供給への影響や人的被害はなかった旨明らかに)したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.42ドルと前日終値比で1.42ドル上昇した。
また、3月22日も、これまでの原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生した流れを引き継いだうえ、同日の4月渡しNYMEX原油先物契約取引期限を前にした持ち高調整が市場で発生したこと、3月21日時点で米国国内空港において安全検査を通過した乗客が154万人と2020年3月13日(この時は174万人)以来の高水準となったことにより、航空機向けジェット燃料需要増加に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.13ドル上昇し、終値は61.55ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2021年4月渡し原油先物契約は取引を終了したが、5月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり61.56ドル(前日終値比0.12ドルの上昇)であった)。ただ、3月23日には、ドイツのメルケル首相が新型コロナウイルス感染抑制のため、復活祭に伴う休暇期間である4月1~5日において都市封鎖措置を強化する(しかしながら、ドイツ国内からの批判が増大したことにより当該方策は撤回する旨3月24日にメルケル首相が明らかにしている)他、これまで3月28日を期限としてきた都市封鎖措置の期限を4月18日まで延長する旨3月23日未明(現地時間)に発表したことで、欧州での個人の外出規制及び経済活動制限の強化に伴う経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したうえ、3月23日のドイツでの都市封鎖措置延長の発表に加え英国製薬大手アストラゼネカ製新型コロナウイルスワクチンの有効性に関するデータが不完全であるとの見解を3月23日に米国国立アレルギー感染症研究所が示したこともあり、米国株式相場が下落するとともに、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.76ドルと前日終値比で3.79ドル下落した。3月24日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、3月23日午前7時40分頃(現地時間)に日本(愛媛県今治市)の船舶貸渡会社正栄汽船が保有し台湾の海運会社長栄海運(エヴァーグリーン・マリン)が運航するパナマ船籍のコンテナ船「エヴァー・ギブン(Ever Given)」(全長400メートル)がスエズ運河で座礁(当初強風及び砂嵐が原因とされると言われたが、技術的もしくは人的要因の可能性もある旨同運河を管理するエジプトのスエズ運河庁が3月27日に明らかにしている)、同運河を斜めに塞ぐ格好となったことにより同運河での船舶の通航が南北方向ともにほぼ不可能となった旨3月23日夕方(米国東部時間)に報じられたことにより、原油及び石油製品の供給が混乱するとの懸念が市場で発生したこと、3月24日にEIAから発表された米国石油統計(3月19日の週分)で、同国製油所の原油精製処理量が日量1,489万バレルと前週比で日量96万バレル増加した旨判明したことで、2月15~16日頃のテキサス州等への寒波来襲後同国の製油所の操業が回復しつつある旨示されたことにより、この先製油所の原油購入活動が活発化するとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.42ドル上昇し、終値は61.18ドルとなった。ただ、3月25日には、この日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(3月20日の週分)が68.4万件と前週比で9.7万件減少となった他市場の事前予想(73万件)を下回ったうえ、大統領就任後100日間で新型コロナウイルスワクチン接種回数1億回との目標を2億回に引き上げる旨米国のバイデン大統領が3月25日に表明したこともあり、新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展とともに米国経済成長が加速することに対する期待が市場で増大したことにより、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.56ドルと前日終値比で2.62ドル下落した。しかしながら、3月26日には、スエズ運河で座礁したコンテナ船の離礁作業が難航していることで、世界の原油及び石油製品の輸送が混乱するのではないかとの懸念が市場で再燃したことに加え、サウジアラビア北東部のラスタヌラ(Ras Tanura)、西部のヤンブー(Yanbu)及びラービグ(Rabigh)、そして南西部のジーザーン(Jizan/Jazan)にあるサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコの施設、さらにキング・アブドルアジズ空軍基地(同国東部ダーラン(Dhahran))を、無人攻撃機及び弾道ミサイルで攻撃した旨イエメンのフーシ派武装勢力が3月26日に主張したことで、中東地域情勢の不安定化及び当該地域からの石油供給途絶に対する懸念が市場で増大したこと、欧州連合(EU)及び非OECD諸国での需要回復面でのもたつき等により、4月1日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合では5月の減産措置の規模を4月から据え置く可能性がある旨の見通しを、3月26日に米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが明らかにしたことで、石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.41ドル上昇し、終値は60.97ドルとなった。
3月29日には、4月にOPECプラス産油国が実施する減産措置を5月も同規模で継続することをロシアが支持(但しロシア自身は季節的な需要の増加に対応するために小規模の増産を模索)する旨関係筋が明らかにしたと3月29日に報じられたことで、4月1日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合で4月に実施する減産措置がほぼ同規模で5月も実施されるとの期待が市場で増大したことに加え、3月28日時点での米国国内空港の安全検査通過乗客が157万人と新型コロナウイルス感染拡大後最高水準に到達した他、最近の国内線及び短距離国際線航空便に対する旅客予約が堅調であることもあり、米国大手航空会社アメリカン航空が2021年第二四半期に航空便の大部分を復活させる方針である旨3月29日に伝えられたことにより、この先のジェット燃料需要増加観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.56ドルと前週末終値比で0.59ドル上昇した。ただ、3月23日にスエズ運河で座礁したコンテナ船「エヴァー・ギブン」が離礁に成功した旨3月28日深夜(米国東部時間)に伝えられた(実際には現地時間3月29日午前4時半頃(米国東部時間3月28日午後9時半頃)に船体が浮上、午後3時頃(同3月29日午前8時頃)に完全に離礁したとされる)他、3月29日昼頃(同)にはスエズ運河の通航が再開された旨報じられたことにより、短期的な原油及び石油製品調達の活発化による石油需給引き締まり観測が市場で後退した流れを3月30日の市場が引き継いだうえ、3月31日に米国のバイデン大統領が発表する予定であるインフラの整備等の新規経済対策実施のため、米国国債が増発されるとの観測が市場で発生したことにより、米国国債利回りが上昇するとともに米ドルが上昇、米国株式相場が下落したことから、3月30日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.01ドル下落し、終値は60.55ドルとなった。また、3月31日も、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、フランスのパリ等に対し実施していた都市封鎖措置を4月3日以降最低1ヶ月間同国全土に拡大する(フランス全土に対する都市封鎖措置は3度目)旨この日同国のマクロン大統領が発表したことで、世界石油需要下振れに対する懸念が市場で増大したことに加え、3月30日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(Joint Technical Committee)で、2021年の世界石油需要の前年比での増加量見通しを以前の日量590万バレルから同560万バレルへと下方修正した旨3月31日未明(米国東部時間)に伝えられたことにより、世界石油需給緩和感を市場が意識した他、3月31日に開催されたOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)が、4月1日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合に対し特段の推奨を行うことなく終了したことにより、当該閣僚級会合での減産措置に関する方針決定を巡る不透明感が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.16ドルと前日終値比で1.39ドル下落した。この結果原油価格は3月30~31日の2日間で1バレル当たり合計2.40ドルの下落となった。しかしながら、4月1日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、3月31日夕方(米国東部時間)に米国のバイデン大統領が8年間に渡る2.25兆ドル規模のインフラ整備計画を発表したことにより、この先の米国経済成長の加速と石油需要の増加に対する期待が市場で増大したこと、4月1日に英国金融情報サービス会社IHSマークイットから発表された3月のユーロ圏製造業購買担当者指数(PMI)(改定値)(50が当該部門景況感改善と悪化の分岐点)が62.5と3月24日に発表された速報値である62.4から上昇修正されたうえ、1997年6月以降の当該統計史上最高水準に到達した他、市場の事前予想(62.4)を上回ったことで、同地域経済に対し楽観的な見方が市場で増大したこと、4月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された3月の同国製造業景況感指数(50が当該部門景況感改善と悪化の分岐点)が64.7と1983年12月(この時は69.9)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(61.3~61.5)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したこと、4月2日の米国聖金曜日(グッド・フライデー)の休日に伴う連休(4月2~4日)を控えた持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.45ドルと前日終値比で2.29ドル上昇した。なお、4月2日には、米国聖金曜日による休日に伴い米国原油先物市場は休場であった。
しかしながら、4月2日の米国聖金曜日の休日に伴う連休前の持ち高調整に伴う原油購入に対し、連休後持ち高を再調整する動きが4月5日の市場で発生したことに加え、4月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においてOPECプラス産油国が5月から7月にかけ日量214万バレル増産する旨決定したことに対し、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したこと、4月4日時点のインドの1日当たり新型コロナウイルス感染者数が史上最高水準(103,558人)に到達した旨同日深夜(米国東部時間)に伝えられたこともあり、新型コロナウイルス感染収束時期の遅延による世界経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で発生したこと、イラン核合意正常化を巡りイランと米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国、及び欧州連合(EU)が4月6日にウィーンで協議を実施する旨4月2日に決定した(但し米国とイランは間接協議を行うとされる)ことから、当該協議等を通じ、米国による対イラン制裁が緩和されることにより、既に増加している(2020年10月時点での日量196万バレルが2021年3月は推定日量230万バレル程度に)イランからの原油生産量がさらに拡大する結果、世界石油需給が緩和するとの観測が市場で増大したことから、4月5日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.80ドル下落し、終値は58.65ドルとなった。4月6日は、4月7日にEIAから発表される予定である米国石油統計(4月2日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、4月6日にEIAから発表された短期エネルギー展望(STEO:Short-term Energy Outlook)で、EIAが2021年の米国原油生産見通しを日量1,104万バレル、前年比同27万バレル減少と3月9日に発表された前回のSTEOの同1,115万バレル、前年比同16万バレル減少から下方修正したことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、4月6日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された3月の同国サービス業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門景況感改善と悪化の分岐点)が54.3と2月の51.5から上昇した他市場の事前予想(52.1)を上回ったこと、イラン核合意が正常化するのは2022年初期となる結果、同国の原油生産が2018年5月8日の米国の対イラン制裁実施前の水準にまで完全に回復するのは2022年夏となる他、2021年夏の世界石油需要の回復はOPEC及びIEAの予想を超過する結果、OPECプラス産油国は7~10月にさらに日量200万バレルの増産が必要となると見られることもあり、最近の原油価格の下落は今後の大幅な価格上昇途上の調整過程であると認識している旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが示唆したと4月5日夕方から夜(米国東部時間)にかけ報じられたことで、世界石油需給緩和感が市場で後退したこと、4月6日に国際通貨基金(IMF)が発表した世界経済見通しで、IMFが2021年の世界経済成長見通しを6.0%と2021年1月20日発表時の5.5%から上方修正したことにより、世界経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対し楽観的な見方が市場で増大したことから、この日(4月6日)の原油価格の終値は1バレル当たり59.33ドルと前日終値比で0.68ドル上昇した。また、4月7日も、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で352万バレルの減少と市場の事前予想(同140~200万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことに加え、4月7日に発表されたFOMC議事録(3月16~17日開催分)において、当該FOMCの場で米国金融当局者が同国の雇用最大化と安定的な物価の目標到達にはなお時間を要すると結論付けていた旨明らかになったことにより、金融緩和策長期化への期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.44ドル上昇し、終値は59.77ドルとなった。この結果原油価格は4月6~7日の2日間で1バレル当たり合計1.12ドル上昇した。ただ、4月7日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比404万バレル、留出油在庫が同145万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(ガソリン在庫同60~72万バレル程度の減少、留出油在庫同49~100万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明した流れを4月8日の市場が引き継いだことに加え、4月8日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(4月3日の週分)が74.4万件と、前週比で1.6万件増加したうえ市場の事前予想(68.0万件)を上回ったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.17ドル下落し、終値は59.60ドルとなった。4月9日も、この日米国労働省から発表された3月の同国生産者物価指数(PPI)が前月比で1.0%の上昇と市場の事前予想(同0.5%上昇)を上回ったこともあり、インフレ圧力を市場が意識するとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.32ドルと前日終値比で0.28ドル下落した。この結果原油価格は4月8~9日の2日間で1バレル当たり合計0.45ドルの下落となった。
しかしながら、今後数ヶ月間で米国経済成長率及び企業の雇用は加速する旨FRBのパウエル議長が明らかにしたと4月11日に報じられたことにより、この先の同国石油需要回復に対する期待が4月12日の市場で増大したことに加え、イラン中部ナタンズにある核関連施設の給電装置が4月11日に破壊され、同日イランのサレヒ原子力庁長官がテロ行為によるものであると指摘した他、4月12日に同国のザリフ外相が当該破壊行為はイスラエルによるものであり、イランは報復措置を実施する旨表明したことで、イランと西側諸国等との間でのイラン核合意正常化を巡る協議への影響に対する懸念が市場で増大したこと、4月12日に欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)から発表された2月のユーロ圏小売売上高が前月比で3.0%の増加と市場の事前予想(同1.5~1.7%の増加)を上回って増加している旨判明したことにより、当該地域での経済及び石油需要回復に対する期待が市場で発生したこと、サウジアラビアと敵対関係にあるイエメンのフーシ派武装勢力が、サウジアラビア東部の都市ジュベイル(Jubail)と西部の都市ジェッダにある同国国営石油会社サウジアラムコの製油所を含む施設を標的として無人攻撃機17機及び弾道ミサイル2発を発射した旨4月12日に表明したことにより、サウジアラビアからの原油供給途絶可能性に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.70ドルと前週末終値比で0.38ドル上昇した。4月13日も、この日中国税関総署から発表された3月の同国輸出(米ドルベース)が前年同月比30.6%増加と市場の事前予想(同35.5~38.0%の増加)は下回ったものの堅調であることが示唆された他、同月の同国輸入(同)が同38.1%増加と市場の事前予想(同23.3~24.4%の増加)を上回ったうえ、3月の中国原油輸入量が4,966万トン(推定日量1,173万バレル)と前年同月(4,110万トン、推定原油生産量日量971万バレル)比で20.8%増加している旨判明したことにより、同国経済成長と石油需要の伸びに対する楽観的な見方が市場で増大したことに加え、4月13日にOPECから発表された「月刊オイル・マーケット・レポート」でOPECが2021年の世界石油需要見通しを日量19万バレル上方修正したことで世界石油需給引き締まりを市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.48ドル上昇し、終値は60.18ドルとなった。また、4月14日も、この日IEAから発表された「オイル・マーケット・レポート」でIEAが2021年の世界石油需要見通しを日量21万バレル上方修正したうえ、2021年後半は市場が劇的に変化することによりOPECプラス産油国はさらに日量200万バレルの増産が必要となるかもしれない旨の見解を明らかにしたことで、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、4月14日にEIAから発表された米国石油統計(4月9日の週分)で原油在庫が前週比で589万バレルの減少と市場の事前予想(同270~290万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことで、米国石油需給引き締まり感が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.15ドルと前日終値比で2.97ドル上昇した。さらに、4月15日も、この日発表された4月のニューヨーク連邦準備銀行製造業景況感指数(ゼロが当該部門景況感改善及び悪化の分岐点)が26.3と市場の事前予想(19.5~20.0)を上回ったうえ、同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(4月10日の週分)が57.6万件と前週比で19.3万件減少するとともに市場の事前予想(70.0万件)を下回ったこと、同日同国商務省から発表された3月の同国小売売上高が前月比で9.8%の増加と市場の事前予想(5.8~5.9%増加)を上回ったこと、さらに同日発表された4月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数(ゼロが当該部門景況感改善及び悪化の分岐点)が50.2と1973年4月(この時は53.60)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(41.5~42.0)を上回ったこと、4月15日朝(米国東部時間)に発表された米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカ及びシティグループの2020年1~3月期業績が市場の事前予想を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.31ドル上昇し、終値は63.46ドルとなった。この結果原油価格は4月12~15日の4日間で1バレル当たり合計4.14ドル上昇した。ただ、4月16日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが発生したことに加え、この日米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で344基と前週比で7基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は325基と前週比で6基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.33ドル下落し、終値は63.13ドルとなった。
4. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面での主な注目点は、イランを含む中東情勢であろう。米国とイランは欧州等を経由して、米国の核合意復帰とイランの核合意遵守方法につき間接的に協議している旨、3月12日に米国のサリバン大統領補佐官が明らかにした。また、3月17日にはイランのロウハニ大統領が、米国の対イラン制裁解除の手続きを同国の保守強硬派が遅延させようとしているとして非難した。他方、イランが同国中部ナタンズにある核開発関連地下施設で、さらに新型の遠心分離機を使用した(核合意で使用が認められているのは旧型遠心分離機)ウラン濃縮活動を開始したことを3月15日に確認した旨の報告書を国際原子力機関(IAEA)が取り纏めたと3月16日に報じられる。また、3月21日にイランの最高指導者ハメネイ師は、米国による対イラン制裁解除の方針は信用できないとして、米国の対イラン制裁全面解除までは核合意完全遵守状態を回復しない旨示唆した。他方、3月24日夜(現地時間)には、タンザニアからインドに向かいつつあったイスラエル企業が所有する貨物船が、インドとアラビア半島の間にあるアラビア海を航行中ミサイル1発により攻撃を受けた(被害は軽微であるとされ航行は継続)が、当該ミサイル攻撃はイランによるものである旨イスラエルのテレビ局は3月25日に報じている。また、3月27日には、中国とイランが25年間にわたる経済及び外交面等での協力強化のための協定に署名した。この協定には、中国がイランの港湾、道路及び第5世代通信網(5G)整備、そしてエネルギー開発等に対し4,000億ドルを投資する一方、イランは中国に対し原油を割引価格で供給する他、兵器の共同開発、機密情報共有を含む軍事面での両国間での協力も含まれると伝えられる。3月29日には、米国のバイデン政権が、濃縮度20%のウラン濃縮活動及び新型遠心分離機の稼働を停止することを含めイランの核合意履行に復帰することと引き換えに米国の対イラン制裁を緩和することに関する方策を準備していると伝えられた。4月1日にはIAEAが加盟国に対し、イランが核合意で稼働が認められていない新たな新型遠心分離装置稼働開始のために濃縮ウランの原料となる六フッ化ウランの投入を開始した旨報告したと報じられた。しかしながら、3月29日には、イラン核合意正常化に関する米国の提案(米国がイランに対しウラン濃縮活動縮小を要請するとともに対イラン制裁を緩和する旨伝えられる)を欧州関係者がイランに伝えており、4月2日には欧州連合(EU)、英国、フランス、ドイツ、ロシア及び中国はイランとの間で次官級協議をテレビ会議形式で開催、4月6日にウィーンで米国を含めたイラン核合意関係国による核合意正常化のための協議を開催することで合意した。ただ、米国とイランは対面形式による直接協議ではなく、EU等を介した間接協議になるとされた。4月3日にイラン政府は、米国の対イラン制裁に関し段階的な解除は認めない旨明らかにした一方で、4月5日には米国もイラン核合意正常化に関し一方的に譲歩することはなく、イランの核兵器保有を困難とするような、検証可能な形での恒久的制限を実施する必要がある旨国務省のプライス報道官は発言した。4月6日には、米国とイラン、そして英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国及びEUがウィーンで協議を行った。当該協議では3月29日にイランが米国に対し行った提案を土台に議論が実施されたが、その場で米国の対イラン制裁解除方法、及びイランの核開発抑制措置について、それぞれさらに詳細に議論する作業部会を設置する旨決定した(米国は作業部会には関係者を派遣しないものの、イランを除く他の核合意参加国が米国に対し作業部会で議論された内容を随時報告することになっている)など、協議は建設的に進行した旨伝えられた他、4月9日には作業部会での議論内容をもとに再度関係国会議を実施することになった。ただ、4月6日には紅海でイランの貨物船(同国革命防衛隊と関係があるとされる)が攻撃された旨4月7日にイラン外務省が明らかにしている。4月8日にはイラン外務省のアラグチ次官が、イラン核合意正常化に向けた協議は最終合意には程遠い状況であるが、前進はしている旨明らかにした。そして、4月9日には再度イランと西側諸国等との間での全体会合が開催され、米国によるイラン産原油の禁輸、イランとの間での銀行間取引の禁止、イランが保有する国外資産の凍結といった対イラン制裁解除とイランによるウラン濃縮濃度引き下げ、新型遠心分離機の稼働停止、イラン核関連施設に対する査察の全面受入といった核開発制限に関し、予めそれら方策の実施日程につき取り決めを行ったうえ、その後両方策を同時並行で実施していくという案をもとに協議が進められており、米国も当該提案に対しある程度理解を示していると4月9日に伝えられる。関係国等は4月9日の会議後、各国に持ち帰って協議内容を検討したうえで、4月16日頃再び会議を開催する予定であるとされた。他方、4月10日にイランは同国中部ナタンズにある核関連施設においてさらなる新型遠心分離装置の稼働を開始した。しかしながら、4月11日には、当該核関連施設の給電装置がテロ行為により破壊された旨イラン原子力庁のサレヒ長官が明らかにした。4月12日には同国のザリフ外相が当該破壊行為(施設の稼働再開までには9ヶ月程度を要するとされる)はイスラエルによるものであると主張し、報復措置を実施する旨表明した(イスラエルの対外諜報機関が施設攻撃を実施した旨イスラエルの報道機関が伝える一方、4月12日には同国のネタニヤフ首相がイランの核兵器保有を認めない旨示唆したものの、イスラエル政府自体はナタンズの核関連施設破壊に関しては特段の発言等はしていない)。そして、4月13日にはイラン外務省のアラグチ次官が核兵器に利用可能な濃縮度90%の濃縮ウラン製造を技術的により容易にするような、濃縮度60%の濃縮ウランの製造を4月14日より実施する旨表明する(同ウランは医療用とし当初は少量を製造する旨イラン関係者は明らかにしている)とともに、新たに新型遠心分離機1,000機を設置する旨示唆した。また、4月13日には、UAEのフジャイラ沖合でイスラエル企業所有とされる車両輸送船が航行中攻撃された(被害は軽微であるとされ航行は継続)旨報じられる(イスラエルの軍事関係者は当該攻撃にはイランが関与していると見ていると主張している)。米国のサキ大統領報道官はイランのウラン濃縮度引き上げを深刻なものであると理解している旨の懸念を表明、また、4月14日には英国、フランス及びドイツも、イランによる濃縮度60%のウラン濃縮作業開始は核合意逸脱行為として深刻な事態であり非常に懸念している旨の非難声明を共同で発表した。ただ、4月15日にはイラン核合意正常化に向けたイラン及び西側諸国等による全体会合(但し米国は直接参加せずイランとは間接協議)(当初4月14日に開催される予定であったが、欧州側の協議担当者1名が新型コロナウイルスに感染している旨判明したことにより延期されたと伝えられる)が開催され、米国とイランとの間では考え方の相違が継続している旨示唆されたが、協議は継続するとした。4月16日未明(現地時間)にはイラン原子力庁のサレヒ長官が濃縮度60%の濃縮ウランを1時間当たり9グラムの割合で製造し始めた旨発表した(4月17日にはIAEAも濃縮度60%の濃縮ウラン生産作業の開始を確認した旨報告した)。これに対し4月16日に米国のバイデン大統領はこのような活動を核合意違反であると批判したが、イラン核合意正常化の協議が継続していること自体は歓迎する旨表明した。4月17日も米国を除くイラン核合意参加国は全体会合を開催し、イラン外務省のアラグチ次官は会議は建設的なものであった旨示唆したが、イラン側が核合意遵守に向けた行動計画を準備した一方で、米国は対イラン制裁解除に向けた行動計画を未だ準備しておらず、イランは米国の当該計画提出を待っているところである旨4月17日に伝えられる。またイランは5月中旬までに核合意の正常化に向けた暫定合意を希望している旨同日報じられる(5月下旬になると、6月18日に実施される予定であるイラン大統領選挙投票に向けた選挙戦期間に突入すると見られる他、2月21日に合意した最長3ヶ月間のIAEAによるイラン核開発関連施設等の査察及び監視が期限を迎えることが背景にあるものと考えられる)。
このように、新型遠心分離機の稼働や濃縮度60%の濃縮ウラン製造を開始するなど、イランの核合意逸脱行為は拡大しており、それに対し米国や英国、フランス及びドイツは反発しているものの、他方、米国とイラン、そして英国、フランス、ドイツ、ロシア及び中国、そしてEUとの間では核合意正常化に向けた協議は継続している。そしてイランの核合意逸脱行為に加え、船舶が攻撃されていること等もあり、依然としてイラン核合意正常化までには協議の過程は紆余曲折を経る等するものと見られることから、今後の協議の展開状態及びイランの核合意のさらなる逸脱行為、そして中東地域洋上の船舶に対する攻撃等の事象次第では、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。もっとも、イラン核合意正常化を巡る問題は以前と比べれば相対的に解決の方向には向かいつつあることもあり、この問題を巡り米国とイランとの対立の高まりによる中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給途絶に対する市場の懸念は抑制されやすくなっているものと考えられることから、核合意正常化に向けた協議が決裂し、もはや当面協議が実施されないといった危機的な状況にならない限り、原油相場への上方圧力は持続しにくいものと見られる。また、米国の対イラン制裁解除(もしくは米国がこれ以上大幅に対イラン制裁を強化する可能性が低下したこと)をイランが見越していると見られることもあり、イランの原油生産量は2020年10月の日量196万バレルから2021年3月には同230万バレル程度へと拡大しつつある。今後もイランは原油生産量を、米国のトランプ前大統領によるイラン核合意離脱と対イラン制裁実施の発表時の2018年5月の日量385万バレルに向け増加させていくものと見られ、その結果、それが市場での石油需給緩和感を醸成させるとともに、原油相場に下方圧力を加える他、今後のOPECプラス産油国の原油生産方針に大きく影響するようになる可能性もあるものと考えられる。
他方、3月15日にサウジ国営テレビは、サウジアラビアが主導する有志連合軍が支援するイエメンのハディ暫定政権と対立する、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)が、サウジアラビア南西部の都市ハーミス・ムシャイト(Khamis Mushait)に向け発射した無人攻撃機を有志連合軍が撃墜した旨伝えた。また、3月19日(現地時間午前6時5分頃とされる)には、サウジアラビアのリヤドにあるサウジアラムコの製油所(原油精製処理能力日量14万バレル)が、フーシ派武装勢力により発射された無人攻撃機6機の攻撃を受け、火災が発生したものの、その後鎮火、人的被害や石油供給への影響はなかった旨報じられる。他方、サウジアラビアはイエメン内戦終結のため、フーシ派武装勢力が支配しているもののサウジアラビアが主導する有志連合軍が周辺海域を事実上封鎖しているイエメンのホデイダ港を通じた燃料及び食料の輸入、そして同じくフーシ派武装勢力が支配しているものの有志連合軍が空域を事実上封鎖しているイエメンの首都サヌアにある国際空港の部分的な再開を認める他、フーシ派武装勢力がサウジアラビアの提案を受け入れ次第国連の監視による包括的な停戦を実施することを含む種々の方策を提案した旨3月22日にサウジアラビアのファイサル外相が明らかにしたが、フーシ派武装勢力は、サウジアラビアの提案には特段新しいものはないとして、即時却下したと同日伝えられる。ファイサル外相が停戦等に関する提案を行った数時間後、有志連合軍はサヌアにあるフーシ派武装勢力部隊の拠点等を空爆したが、ハディ暫定政権は3月24日に、ホデイダ港への4隻のタンカーの接岸を承認した。3月25日には、フーシ派武装勢力の指導者であるアブドルマリク・アル・フーシ(Abdul-Malik al-Houthi)氏がサウジアラビアの和平提案につき検討する用意はあるものの降伏するつもりはない旨表明している。また、同日午後9時8分(現地時間)には同国南西部のジーザーン(Jizan/Jazan)にある油槽所を無人攻撃機が攻撃した結果、同施設の貯蔵タンク1基で火災が発生した(人的被害はなかったとされる)他、他の場所にも無人攻撃機が飛来したためサウジアラビアが主導する有志連合軍が迎撃した旨3月26日未明(現地時間)に国営サウジ通信が伝えた。さらに、フーシ派武装勢力は、サウジアラビア北東部のラスタヌラ(Ras Tanura)、西部のヤンブー(Yanbu)及びラービグ(Rabigh)、そして南西部のジーザーンにあるサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコの施設、さらにキング・アブドルアジズ空軍基地(同国東部ダーラン(Dhahran))を、無人攻撃機及び弾道ミサイルで攻撃した旨3月26日に主張した。また、フーシ派武装勢力はサウジアラビア南西部にあるハーミス・ムシャイトにあるキング・ハーリド(King Khalid)空軍基地に向け爆発物を積載した無人攻撃機を発射、当該無人攻撃機は標的に命中したとフーシ派武装勢力は主張した一方、サウジアラビアが主導する有志連合軍は当該攻撃機を迎撃した旨4月8日に未明に発表した。加えて、フーシ派武装勢力は、サウジアラビア東部のジュベイル(Jubail)石油ターミナルとジェッダにあるサウジアラムコの製油所を含む地点を標的として無人攻撃機17機及び弾道ミサイル2発を発射した旨4月12日に表明した。また、4月15日にもフーシ派武装勢力は無人攻撃機及びミサイルをジーザーンに向け発射し、同地にあるサウジアラムコの拠点や同国のミサイル防衛システム「パトリオット」を含む施設を攻撃した旨発表した(サウジアラムコの拠点で火災が発生した旨フーシ派武装勢力は主張しているが、サウジアラビア側は、同国軍が弾道ミサイル5発及び無人攻撃機4機を迎撃した他、その破片がジーザーン大学の敷地内に落下し火災が発生したものの鎮圧したうえ、人的被害はなかったと報告した旨同日国営サウジ通信等が伝える)。このようにサウジアラビアとイエメンのフーシ派武装勢力は停戦に向けた動きがないわけではないものの、引き続きフーシ派武装勢力はサウジアラビア国内の施設を攻撃し続けている。今後も、このような攻撃が行われ、例えば、サウジアラビアの石油関連施設が大規模に破壊されるようなことになれば、同国からの石油供給に支障が発生するとの懸念が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
経済面では、新型コロナウイルス感染、新型コロナウイルスワクチンと治療薬の開発及び普及を巡る状況が原油相場に影響を及ぼすことになるであろう。米国では、1月20日の米国のバイデン大統領就任から100日以内の新型コロナウイルスワクチン接種目標をそれまでの1億回から2億回へと引き上げる旨3月25日にバイデン大統領が表明した他、3月29日にはバイデン大統領が、4月19日までには同国の成人の90%で新型コロナウイルスワクチン接種が可能になるとの展望を明らかにしたが、同日足元では新型コロナウイルス感染収束には程遠い状態であるとして各州や地方の政府による新型コロナウイルス感染抑制のための規制の緩和を中断するよう要請した。米国疾病対策センター(CDC)のワレンスキー所長も同国での1日当たり新型コロナウイルス感染者数が急増する恐れがあるとして関係者に対し注意を喚起している。他方、新型コロナウイルス感染再拡大により、フランスのパリ及びその近郊等16県で、3月19日午前0時より都市封鎖措置を実施する旨、3月18日に同国のカステックス首相が発表した他、3月31日にはフランスのマクロン大統領がパリ等に対し実施していた都市封鎖措置を4月3日以降最低1ヶ月間同国全土に拡大する(フランス全土に対する都市封鎖措置は3度目である)旨発表、3月23日には、ドイツのメルケル首相も新型コロナウイルス感染抑制のため、復活祭に伴う休暇期間である4月1~5日において都市封鎖措置を強化する(しかしながら、ドイツ国内からの批判が増大したことにより当該方策は撤回する旨3月24日にメルケル首相が明らかにしている)他、これまで3月28日を期限としてきた都市封鎖措置の期限を4月18日まで延長する旨3月23日未明(現地時間)に発表した。また、インドにおいても4月17日には1日当たり新規新型コロナウイルス感染者数が261,394人と史上最高水準に到達するなど一部地域では感染が再拡大する様相を呈している。
また、また、3月15日以降英国製薬大手アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンで血栓症発症の副作用発生例が見られる旨報告されるとともに、英国当局が30歳未満の個人に対し同社製ワクチンの接種を停止するとともに、他社製のワクチン接種を推奨する旨4月7日に表明したうえ、豪州、フィリピン及びオランダでも同社製ワクチンの使用を制限した他、米国製薬及び日用品製造大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが製造した新型コロナウイルスワクチンについても非常に希であるが深刻な血栓症発症の副作用が発生する可能性があるとして、同社製ワクチン接種を中断すべきである旨4月13日に米国CDC及び同国食品医薬品局(FDA)が勧告している。
このように、新型コロナウイルス感染状況がまだら模様となっている他、新型コロナウイルスワクチン接種に伴う副作用発生を巡る混乱から、今後少なくとも一部種類の新型コロナウイルスワクチン接種が敬遠されるとともにワクチン接種普及ペースが鈍化、新型コロナウイルス感染収束時期が遅延することに伴い個人の外出規制及び経済活動制限の緩和による世界経済成長の加速と石油需要の伸びの回復に対する市場の期待が後退する結果、短期的には原油相場にもたつきが発生する可能性があるものと考えられる。ただ、他方で、短期的には新型コロナウイルス感染が拡大したり新型コロナウイルスワクチン接種を巡り混乱が生じたりすることはあっても、中長期的には新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展する結果、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されるとともに、世界経済成長が加速、そして石油需要の伸びが回復するとの期待が市場で持続することが、原油相場を下支えするものと考えられる。
他方、3月11日にはバイデン大統領が1.9兆ドル規模の追加経済対策法案に署名したことで同法案は法律として成立した他、3月31日には2.25兆ドル規模のインフラ整備を含む新規経済対策を実施する方針である旨表明した。3月31日にバイデン大統領が既に提案した追加経済対策や、今後同大統領等からさらに提案されることが想定される、さらなる追加経済対策については、同国連邦議会での審議や決議を経る必要がある可能性があると見られるが、共和党は既に2.25兆ドル規模の経済対策についてはその規模通りで実施することについては難色を示していることもあり、実施までの手続きが難航することも予想されるが、連邦議会上下院の主導権はバイデン大統領の所属政党である民主党が掌握していることから、提案通りの規模とまでは行かないまでも、それなりに大規模の経済対策が実施に移されることにより、景気が刺激されるとともに、米国経済成長が加速し石油需要の伸びが拡大するとの期待が市場で増大することを通じて、原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。
また、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施による同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、2020年3月15日にFRBは政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。また、8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、2021年2月24日にもパウエル議長はインフレ目標に到達するまでには3年を超過する期間を要する可能性がある旨の見解を示した。緩和的金融政策実施方針を米国金融当局が堅持する場合、経済が減速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し下げる方向で作用しやすい要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を安価で購入する良い機会であるとの投資家の判断から金融緩和政策により低コストで調達された資金が市場に流入し原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない(もしくは経済が減速していることを示唆する経済指標類が発表されても、米国のバイデン政権によるさらなる追加経済対策の実施に対する期待が市場で強まる結果、株式相場が上昇するとともに米ドルが下落することにより原油価格がかえって上昇する)現象が見られやすくなる一方、経済が加速することを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し上げる方向で作用しやすい要因が出現した場合には金融緩和政策により低コストで調達された資金の流入が加速する結果原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうる。ただ、米国金融当局は金融緩和政策を早めに縮小せざるをえなくなるかもしれないと見込む市場関係者もいることに加え、インフラ整備実施のために今後米国が長期国債を増発するとの観測が市場で増大した結果、米国債券利回りが上昇するとともに、米ドルが上昇する結果、米国株式相場及び原油相場が下落する場面が見られる可能性も否定できない。
また、4月中旬以降米国主要企業等の2021年1~3月期業績等が発表され始めており、これは当面継続する予定であることから、業績(もしくは業績見通し)の内容等によって株式相場が変動するとともに、それが米国等の石油需要に対する市場の見方に反映されることを通じ原油相場にその影響が織り込まれるといった展開も想定される。
米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が市場関係者の視野に入るとともに、製油所が春場のメンテナンス作業実施を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増大させるとともに原油購入を活発化させることから、季節的な石油需給の引き締まり感が強まる。そして、これが原油相場に上方圧力を加えやすくするものと考えられる。
他方、4月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置縮小の決定により、当初見込みよりも第二四半期の世界石油需給が相対的に緩和するとの観測が市場で拡大しやすくなることに加え、今後新型コロナウイルスワクチン接種普及が進捗する前に、より多くの国もしくは地域で新型コロナウイルス感染が拡大するとともに個人の外出規制及び経済活動制限が強化されることにより経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大するようであれば、原油相場に下方圧力が加わるとともに原油価格の下落を制御しきれなくなるリスクをOPECプラス産油国は抱え込んでいる。次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は4月28日に開催される予定であるが、その直前を中心とした時期に原油価格が安定しているか比較的小幅な上昇で推移しているようであれば、5~6月のOPECプラス産油国の生産方針を変更するには及ばない可能性も高まることから、当該会合開催を例えば5月末~6月初旬頃にまで延期するといった選択を行う可能性は残ってはいるが、イランの原油生産増加加速の兆候が見られたり、次回OPECプラス産油国閣僚級会合直前を中心とした時期に原油価格が下落傾向、もしくは下落する兆候を見せたりしている場合には、当該会合を開催するとともにOPECプラス産油国は減産措置の取り扱いにつき検討することになろうが、その場合本来であればサウジアラビア等は原油価格下支えもしくは持ち直しを目指すべく、減産措置の強化を行うべきところであるが、国内ガソリン小売価格の上昇を懸念していると見られる米国から原油相場の上昇抑制のための働きかけが行われるといった展開となることも否定できず、その場合、OPECプラス産油国は原油価格下落による原油販売収入の減少の可能性と米国等による原油価格のさらなる上昇に対する牽制の動きとの間に挟まれる格好となり、原油生産方針につき難しい舵取りを迫られることになろう。また、次回OPECプラス産油国閣僚級会合開催直前を中心とした時期に原油価格が大幅に上昇するか、上昇する兆候が見られるようであれば、米国でのガソリン小売価格の高騰抑制を考慮することにより、OPECプラス産油国は減産措置の縮小を検討するといった展開もありうる。
3月23日午前7時40分頃(現地時間)に日本(愛媛県今治市)の船舶貸渡会社正栄汽船が保有し台湾の海運会社長栄海運(エヴァーグリーン・マリン)が運航するパナマ船籍のコンテナ船「エヴァー・ギブン(Ever Given)」(全長400メートル)がスエズ運河で座礁(強風及び砂嵐が原因とされる)、同運河を斜めに塞ぐ格好となったことにより同運河での船舶の通行が南北方向ともにほぼ不可能となった旨3月23日夕方(米国東部時間)に報じられた。当初は3月25日にも離礁するとともに、船舶の通航が再開されるとも言われていたが、実際には潮位の低下もあり離礁作業は難航、通航再開までには最長で数週間を要する旨3月25日に伝えられた。しかしながら、その後離礁に成功した旨3月28日深夜(米国東部時間)に伝えられた(実際には3月29日午前4時半(現地時間)に船体が浮上、午後3時頃(同)離礁したとされる)他、3月29日昼頃(同)にはスエズ運河の通航が再開された旨報じられた。そして、その後運河入口付近で待機していた合計422隻の船舶が全て運河を通過した旨4月3日にエジプトのスエズ運河庁が発表した。スエズ運河は中東(イラク、サウジアラビア、クウェート、オマーン及びカタール等)及びアジア(インド及びシンガポール等)等から原油及び石油製品を欧米(オランダ、フランス、トルコ、イタリア、ギリシャ、スペイン、ベルギー、英国及び米国等)等へ(紅海から地中海へ)輸送する(輸送量は日量220万バレル(2019年)と推定される)他、欧米及びアフリカ(ロシア、トルコ、オランダ、ギリシャ、ノルウェー、米国、アルジェリア及びリビア)等から原油及び石油製品をアジア及び中東(中国、インド、シンガポール、韓国、台湾、豪州、マレーシア、サウジアラビア及びUAE等)等へ(地中海から紅海へ)輸送する(輸送量は日量260万バレル(2019年)と推定される)など、原油及び石油製品輸送の要衝となっている。このため、同運河の通行が困難となると、原油及び石油製品タンカーは南アフリカの喜望峰沖合を経由しなければならなくなることにより、原油及び石油製品の供給が2週間程度遅延する可能性が発生するなど混乱を来すと予想されることから、石油市場参加者が原油及び石油製品の代替供給を確保すべく購入活動を活発化させることにより、原油(及び石油製品)相場に上方圧力が加わりやすくなるなど、短期的には原油相場を変動させる方向で作用する場合がある。もっとも、大型タンカー(概ね20万トン級以上)はスエズ運河の通航は困難であり、従来から喜望峰沖合を通航していること、スエズ運河封鎖が長期化する過程での短期的な原油及び石油製品の調達混乱後は、喜望峰沖合等へと迂回したタンカーが目的地に到着し始めるとともに、スエズ運河封鎖の長期化を見込んで原油及び石油製品調達活動が各地域市場内で最適化されることもあり、原油(及び石油製品)価格が乱高下するといった状態は相対的に沈静化に向かうものと見られる。ただ、スエズ運河封鎖長期化により、より長距離の経路をタンカーが航行しなければならなくなる結果、利用可能なタンカーの隻数が減少するとともに、タンカー運賃が上昇することに加え、従来欧米からアジア方面へはナフサ及び重油が輸送される一方、アジアから欧米へは留出油が輸送される傾向があったことから、これら石油製品の柔軟な供給が行いにくくなるとともに、これら石油製品の相場が変動することを通じ、その影響が原油相場に及ぶといった展開となることは否定しきれない状態ではあった。もっとも、今回は比較的早期に当該運河での通航が再開されたこともあり、原油及び石油製品市場への影響は限定的なものとなった。
全体としては、米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まりつつあることから、この面では原油相場には上方圧力が加わりやすいものと考えられる。また、将来的には新型コロナウイルスワクチン接種が普及することで新型コロナウイルス感染が抑制されることに加え、米国で大統領及び連邦議会上下院の主導権を事実上掌握している民主党が中心となり景気刺激策が実施されやすい方向であることにより、経済成長が加速するとともに石油需要が回復するとの市場での期待が原油相場に上方圧力を加える一方、一部の新型コロナウイルスワクチンの副作用発生の可能性に伴う接種普及上の混乱発生による新型コロナウイルス感染収束遅延に加え、一部諸国での新型コロナウイルス感染拡大と個人の外出規制及び経済活動制限の強化による、世界経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化への懸念増大、及びイラン原油供給増加観測等が原油価格の上昇を抑制する形で作用する可能性がある。この他、イラン核合意正常化を巡る西側諸国等との協議の状況等を含む地政学的リスク要因、及びこの先のOPECプラス産油国の減産措置方針を巡る動向等が原油相場に影響しうるものと見られる。
以上
(この報告は2021年4月19日時点のものです)