ページ番号1009174 更新日 令和3年11月5日
原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来方針に基づき2021年12月についても前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定(速報)
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概要
- 2021年11月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(11月時点で日量416万バレル)につき、従来方針に基づき12月も日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した。
- 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は12月2日に開催される予定である。
- 8月下旬に米国メキシコ湾沖合をハリケーン「アイダ」が通過したことに伴い当該地域の油田での原油生産が長期間停止していることに加え、欧州及びアジアでの天然ガス価格等の高騰により冬場に向け代替燃料として石油製品需要が上振れするとの観測が市場で増大したこともあり、前回のOPECプラス閣僚級会合直前の10月1日に1バレル当たり75.88ドルの終値であった原油価格(WTI)は今次会合直前の11月3日には同80.86ドルの終値となるなど、上昇傾向となった。
- それとともに、5~9月は1ガロン当たり概ね3.0~3.3ドルの範囲で変動していた全米平均ガソリン小売価格は、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したにもかかわらず、11月1日時点で同3.484ドルへと上昇するなど、米国消費者の同国バイデン政権に対する不満が高まる恐れが生じ始めた。
- 併せて米国消費者物価指数(CPI)上昇率が再び拡大し始めるとともに、同国金融当局に対する金利引き上げ圧力が強まる兆候が見られた。
- このため、原油価格抑制を図るため、米国バイデン政権関係者が、OPECプラス産油国に対し増産加速への働きかけを行っている旨しばしば明らかになった。
- しなしながら、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は、新型コロナウイルス感染は足元抑制されているものの、収束しているわけではなく、従って、今後再び当該感染が拡大するとともに、世界経済及び石油需要が下振れすることを懸念している旨示唆した。
- 加えて、このまま毎月前月比で日量40万バレル減産措置を縮小した場合、2022年は世界石油供給が需要を上回る結果、石油在庫が積み上がるものと予想された。
- サウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相は、そのよう中で減産措置縮小を加速すれば、かえって原油価格が急落するリスクが増大するため、足元原油価格が上昇傾向であっても、警戒を怠るべきではない旨示唆した。
- このようなサウジアラビアの認識に複数のOPECプラス産油国も事実上賛同する格好となり、結果として、米国等からの増産への働きかけにもかかわらず、OPECプラス産油国は12月についても従来方針通り前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定したものと考えられる。
- 今回の閣僚級会合結果は当該会合開催前にサウジアラビア等からしばしば示唆されていた通りのものとなったこともあり、当該会合の結果を受け利益確定が市場で発生したこと等により、11月4日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり2.05ドル下落の同78.81ドルの終値となった。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
(1) 2021年11月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催、7月18日開催のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定した、8月以降毎月日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(11月時点で日量416万バレル)につき、12月についても従来方針通り前月比で日量40万バレル規模を縮小して実施する旨確認した(表1及び参考1参照)。
(2) また、当該会合で、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を12月2日に開催することを決定した。
(3) さらに、減産目標を完全に遵守することに固執すること、及びこれまで減産目標を遵守できていない減産措置参加産油国が減産目標遵守未達成部分を追加して減産することにより2021年12月末までに完全遵守を達成することに固執することが、極めて重要である旨改めて示唆された。
(4) 減産目標を顕著に超過している産油国は減産目標超過を解消するための追加減産計画をOPEC事務局に提出するよう改めて要請された。
(5) 閣僚級会合開催後、ロシアのノバク副首相は、石油需要は回復しつつあるものの、10月に欧州の石油需要が減少する兆候が認められるなど、石油需要が依然新型コロナウイルス感染からの圧力に晒されていること、そして、2021年第四四半期から2022年第一四半期にかけては季節的に石油需要が落ち込むと見られることが、今次閣僚級会合での結果の背景にある旨示唆した。
(6) また、同じく閣僚級会合開催後、サウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相も、2021年12月には石油在庫は積み上がり始めると予想される旨説明するとともに、11月3日時点の欧州等の天然ガス、LNG及び石炭価格が3月初頭比で109~454%程度上昇しているのに対し、原油価格(ブレント)は同時期28%の上昇にとどまったことから、足元のエネルギー危機は天然ガス、LNG及び石炭によるところが大きく、原油価格上昇はそれほど影響を及ぼしていない、つまりOPECプラス産油国はエネルギー危機に対して非難を受けるに当たらない旨示唆した。
(7) これに対し、11月4日に米国バイデン政権は、世界経済回復を損なわないようにするための重大局面においてOPECプラス産油国は保有する能力を使用する意志がないように見受けられ、バイデン政権はエネルギー市場危機脱出のために様々な方策を利用することを検討するとして、今次OPECプラス産油国閣僚級会合の結果を事実上批判する旨伝えられた。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
(1) 2021年10月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、7月18日の当該閣僚級会合において決定した方針に則り、前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を決定した。
(2) この時点では、原油価格は上昇しつつあった(9月1日のOPECプラス閣僚級会合開催直前の8月31日に1バレル当たり68.50ドルの終値であった原油価格(WTI)は10月4日開催の当該会合開催直前の10月1日には同75.88ドルの終値となった)が、米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が9月6日を以て終了、季節的にはガソリン不需要期に突入したこともあり、全米平均ガソリン小売価格は9月27日時点で1ガロン当たり3.271ドルと、5月10日以降同3ドル超の水準を継続してはいたものの、価格は前週(同3.280ドル)から若干下落していた(図1参照)こともあり、この面ではガソリン価格高騰による米国国民のバイデン政権への不満は高まりにくい状況となっていた。
(3) また、9月14日に発表された8月の米国消費者物価指数(CPI)上昇率も前年同月比で5.3%と、7月及び6月の同5.4%の上昇からは頭打ち気味となっていた他、前月比では0.3%の上昇と7月の同0.5%及び6月の同0.9%の、それぞれ上昇から伸びが鈍化しつつあったこともあり、同国金融当局に対する金利引き上げ圧力も相対的に強まりにくい状況であった。
(4) このようなこともあり、10月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催を控え、OPECプラス産油国が11月の減産措置につき従来方針通り前月比で日量40万バレル縮小することに対し、米国は満足している旨サウジアラビアに伝えたと10月4日に報じられるなど、米国はサウジアラビア等OPECプラス産油国に対し原油価格抑制に向け行動するようにとの強い働きかけを必ずしも行わなかったものと見受けられた。
(5) 加えて、この先新型コロナウイルス感染第四波の到来により世界経済及び石油需要が影響を受ける結果、原油価格が下振れする可能性があることをOPECプラス産油国は懸念している旨、10月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前にOPECプラス産油国関係筋が明らかにしたと伝えられていた。
(6) さらに、このまま毎月前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を継続した場合、2022年は世界石油供給が需要を上回るという、いわば「供給過剰」の状態となる結果、石油在庫が積み上がることが予想された。
(7) このような中で、OPECプラス産油国が減産措置の縮小を加速させれば、世界石油需給の緩和感が拡大することにより、これまでOPECプラス産油国の減産措置縮小(つまり増産)加速に対する慎重な姿勢維持による世界石油需給引き締まり観測から、原油を購入し続けていた市場関係者の心理が変化することを通じ、原油が売却され始めるとともに、原油価格が急落する恐れがあった。
(8) このようなことを懸念したOPECプラス産油国は10月4日に開催された閣僚級会合で従来方針通りの減産措置の縮小を決定、増産加速を見送ることとなった。
(9) しかしながら、8月下旬に米国メキシコ湾沖合をハリケーン「アイダ」が通過したことに伴い当該地域の油田での原油生産が長期間停止した(図2参照)ことに加え、欧州及びアジアでの天然ガス価格や石炭価格等の高騰(図3及び4参照)により、冬場に向け代替燃料として石油製品需要が上振れするとの観測が市場で増大したこともあり、前回のOPECプラス閣僚級会合直前の10月1日に1バレル当たり75.88ドルの終値であった原油価格(WTI)は今次会合直前の11月3日には同80.86ドルの終値となるなど、一層上昇した他、10月26日には同84.65ドルの終値と、2014年10月13日(この時は同85.74ドル)以来の高水準に到達する場面も見られた(図5参照)。
(10) それとともに、5~9月は1ガロン当たり概ね3.0~3.3ドル程度の範囲で推移していた全米平均ガソリン小売価格が、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したにもかかわらず、10月以降は上昇傾向となり、11月1日時点で同3.484ドルに到達するなど、ガソリン小売価格高騰に伴う米国消費者の同国バイデン政権に対する不満が一層高まる恐れが生じ始めた。
(11) また、10月13日に発表された9月の米国CPI上昇率も前年同月比で5.4%と、8月の同5.3%の上昇が伸びが加速しつつあることが示された他、前月比でも0.4%の上昇と8月の同0.3%の上昇から伸び率が拡大したこともあり、同国金融当局に対する金利引き上げ圧力が強まりやすい状態となった。
(11) このように米国ガソリン小売価格と消費者物価の上昇の兆候が見られたこともあり、米国バイデン政権はOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速への働きかけを行っている旨しばしば明らかになっており、例えば、米国バイデン政権幹部がOPECプラス産油国に対し原油価格上昇による懸念を伝えたと10月11日に報じられたことに加え、10月18日には、米国バイデン政権のサキ報道官が、供給問題解決のため、OPEC産油国への働きかけを継続している旨明らかにした他、10月22日にも、OPEC産油国に対し価格水準に関しての懸念を幅広く伝えていることであり、これは継続して実施していく旨サキ報道官が改めて明らかにしている(10月26日の記者会見の際にもサキ報道官は同趣の発言をしている)。
(13) しかしながら、新型コロナウイルス感染は抑制されているものの収束しているわけではなく(世界の新型コロナウイルス感染者数は10月中旬頃までは減少傾向となっていたが、以降増加に転じる兆候が見られる)、依然石油需要に影響を与える可能性があるとして、産油国は原油価格が上昇したからと言って安心するべきではない旨10月23日にサウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相が示唆した他、2022年は世界石油在庫が大幅に増加する可能性がある(表2参照)、として、同日アブドラアジズ エネルギー相は石油市場に対する警戒を正当化した。
(14) これに対し、アゼルバイジャンのエネルギー相であるシャバゾフ氏は、新型コロナウイルス感染拡大時からの世界経済の緩やかな回復を考慮すれば、OPECプラス産油国の既存の政策は適切であると発言、OPECプラス産油国による減産措置縮小方針は石油市場のさらなる安定をもたらすことから、当該方針を今後数ヶ月間実施することを支持する旨10月22日に明らかにした。
(15) ナイジェリアも、新型コロナウイルス感染収束までは増産加速を踏みとどまるべきであるとするサウジアラビアの姿勢を支持するとともに毎月日量40万バレルの減産措置を維持すべきである旨10月24日に同国のシルバ石油資源相が表明した。
(16) さらに、イラクのアブドルジャバル石油相も、日量40万バレルの減産措置縮小で十分であるとの見解を示したと10月30日に報じられた他、アンゴラのアゼベド鉱物資源・石油相も、7月18日に合意したOPECプラス産油国による減産措置縮小方針は十分機能しており変更すべきでない旨明らかにしたと10月31日に伝えられたうえ、クウェートのファーリス石油相も、世界石油需給を均衡させるためにはOPECプラス産油国による毎月前月比で日量40万バレルの減産措置で十分であり、その方針を支持する旨11月1日に表明した。
(17) そして、カザフスタンもOPECプラス産油国による漸進的な原油生産増加(つまり毎月前月比で日量40万バレルの減産措置縮小)を支持する旨の同国エネルギー省が11月2日に明らかにした。
(18) 加えて、11月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合では前月比で最大日量40万バレル原油産出量を引き上げる(つまりこれは概ね従来方針通りの減産措置の縮小となる)と予想すると、ロシアのノバク副首相が10月25日に明らかにするなど、11月4日開催予定の当該会合に向け、12月についても従来の方針通り前月比日量40万バレル減産措置を縮小する方針につき、OPECプラス産油国間で合意形成がなされつつあることが示唆された。
(19) 11月2日にはロシア大統領府のペスコフ報道官も、OPECプラス産油国は原油生産増加を急ぐべきではない旨明らかにした。
(20) 原油価格が大幅に上昇した場合、米国のシェールオイル開発・生産に関する採算が改善することにより、同国での原油生産が大幅に拡大することを通じ、原油価格が乱高下するとして、以前ロシアは原油価格の大幅上昇を招くような原油生産調整に難色を示したこともあったが、米国のシェールオイル開発・生産企業は株主等からの生産拡大よりも収益拡大を優先すべきであるとの圧力により、シェールオイルの生産の回復が緩やかに進展している(図6参照)こともあり、足元で米国のシェールオイル生産は原油価格の乱高下をもたらすような波乱要因とは認識されにくくなっていることもあり、ロシアもOPECプラス産油国による漸進的な減産措置の縮小を支持するようになったものと考えられる。
(21) 他方、10月21日夜(米国東部時間)には、米国のバイデン大統領が、同国ガソリン小売価格の高騰はOPEC産油国及び他の産油国による供給制限によるものであると発言、10月31日にもバイデン大統領は、ロシア、サウジアラビア及び他の大産油国が増産しないという考え方は良くないと考える旨明らかにした他、11月2日にも、原油及び天然ガス価格の大幅上昇はOPEC産油国が原油生産拡大を拒否していることによるものである旨、OPECプラス産油国の減産措置を巡る方針を批判した。
(22) また、米国はOPECプラス産油国に対し、12月の原油生産増加規模を従来方針の前月比日量40万バレルから同60~80万バレルに拡大するよう求めていると11月4日に伝えられるなど、米国のOPECプラス産油国に対する増産加速に向けた働きかけが行われていることが示唆された。
(23) しかしながら、このような米国の意向にもかかわらず、新型ウイルス第四波到来による世界経済及び石油需要の下振れと石油需給緩和、原油価格下落懸念に加え、そもそもこのまま減産措置縮小を継続すれば2022年は石油供給か過剰となると予想されるとのサウジアラビアの認識等に対し、複数のOPECプラス産油国も事実上賛同する格好となり、結果として、米国等からの事実上の増産加速への働きかけにもかかわらず、OPECプラス産油国は12月についても従来方針通り前月比日量40万バレルの減産措置の縮小を決定したものと考えられる。
3. 原油価格の動き等
(1) 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で従来方針通り12月につき前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を決定したことについては、当該会合開催前にサウジアラビア等からしばしば示唆されていた内容と事実上一致していたこともあり、当該会合の結果を受け利益確定が市場で発生したこと等により、11月4日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり2.05ドル下落の同78.81ドルの終値となった。
(2) 既に欧州に加え米国等でも冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期に突入している(米国の暖房シーズンは11月1日~翌年3月31日とされる)こともあり、今後はそれら地域での気温低下状況及び気温予報が、暖房用燃料需要観測を市場で発生させることを通じ、原油価格に影響を与えるものと考えられる。
(3) 特に欧州では、2020~21年の冬場の気温が平年を大幅に下回る場面が見られた他、低温の時期が長引いた結果、暖房用天然ガス需要が旺盛であったこと、2021年はノルウェーのガス田メンテナンス作業等が大規模に実施された(新型コロナウイルス感染拡大抑制のため2020年の当該メンテナンス作業実施が軒並み見送られた反動で、2021年の当該メンテナンス作業が大規模になったと言われている)ことにより同国の天然ガス供給が抑制気味となったこと、同じく2020~21年の冬場に気温の大幅な低下を経験した北東アジア諸国で液化天然ガス(LNG)の前倒し調達が活発化したことにより、その分だけ欧州へのLNG流入が減少したこと、ロシアから欧州への天然ガスの供給が低調であったこと(ロシアからドイツへ天然ガスを輸送する予定であるノルドストリーム2パイプラインの操業開始承認を速やかに行うよう欧州諸国に圧力を加える目的があったと指摘する向きもあるが、そもそもロシアも2020~21年が厳冬であったことや2021年の夏が猛暑であったことにより暖房及び発電向け天然ガス需要が旺盛であった影響で2021~22年の冬場に向け自国内天然ガス在庫積み上げに苦慮していたことが背景にあると見る向きもある)、欧州当局者によるより厳しい地球環境規制導入の動きにより炭素排出権(枠)価格が史上最高水準(9月27日に二酸化炭素1トン当たり推定75.21ドル)にまで上昇したこと等の要因により、2021年の欧州天然ガス価格、及びLNG取引で欧州と競合するアジアのLNG価格が、通常下落するはずの春場及び秋場の時期でも十分に下落しないどころか、むしろ10月5日にはオランダTTF天然ガス先物価格が100万Btu当たり39.436ドル(推定)と史上最高水準にまで上昇したのみならず、10月6日には北東アジアJKMスポット価格も100万Btu当たり56.326ドルと、こちらも史上最高水準に到達した。
(4) また、石炭価格も高騰しており(中国政府による地球環境対策推進もあり石炭生産が抑制されたこと、事故発生に伴う安全検査強化により同国における炭鉱の操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染源調査を巡る豪州と中国の対立の高まりに伴う、中国の豪州産石炭輸入削減と他の産炭国からの石炭調達活動活発化により、世界的に石炭輸送面等での混乱が発生したこと、中国やインドネシアでの豪雨に伴う洪水発生により炭鉱の操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染の世界的流行により石炭生産のための労働力供給が円滑に行われなかったこと、世界的な脱炭素の流れの中で石炭開発投資等が低調であったが石炭供給拡大に影響を及ぼしたこと等が背景にあるとされる)、少なくとも短期的には天然ガスに代わる燃料としての石炭の調達促進にも限界があるものと見られる。
(5) このようなことから、一部諸国においては、価格が高騰した天然ガスの調達を見送る一方、発電部門における代替燃料として重油を含む石油製品の購入を推進し始める動きが見られつつあると伝えられており、今後もこのよう流れに従って、さらに多くの消費国において発電用もしくは冬場の暖房用石油製品である軽油、灯油、重油及び液化石油ガス(LPG)の購入が進む、との観測が市場で増大する結果、これらの石油製品、そして石油製品を製造するために必要とされる原油の価格に上方圧力が加わることが想定される。
(6) 他方、10月14日に米国海洋大気庁(NOAA)気象予報センターは既に足元でラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域での海面の水温が平年より低くなる現象で、この場合北半球は厳冬となりやすいとされる)が発生している他、2021年12月から2022年2月は87%の確率でラニーニャ現象が発生し続ける旨発表するなど、2020~21年に続き2021~22年も北半球では厳冬となる可能性が示唆される。
(7) もっとも、10月21日に、NOAAは、米国南部及び東部海岸地域は2021年12月から2022年2月にかけ気温が平年を上回るとの予報を発表した(他方、同国北西部及びアラスカ地方は平年よりも冷え込むと予想している)。
(8) このように、ラニーニャ現象により北半球は2021~22年は厳冬となる可能性はあるものの、それが必ずしも人口密集地帯において気温が大幅に低下する結果暖房用燃料が喚起されることに繋がるとは限らない場合があるものの、気温が平年を上回るとの予報も時間の経過とともに変化するといった展開もありうることから、今後も足元の気温状況のみならず気温予報に注意する必要がある。
(9) そして、特に11月において急激に気温が低下する場面が見られるようだと、2021~22年の冬が長く厳しいものになる結果、石油需要が上振れするとの見方が市場で広がることを通じ、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。
(10) 他方、2021年12月2日には次回OPECプラス産油国閣僚級会合が開催される予定であるが、その場においては、2022年1月以降の減産措置縮小の取り扱いにつき協議がなされるものと見られる。
(11) しかしながら、従来方針通り毎月前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を実施した場合、2022年は世界石油供給が需要を相当程度上回ることから、むしろOPECプラス産油国は石油需給緩和感の醸成に伴う市場関係者の心理の変化による原油価格の下落を抑制すべく、減産措置縮小(増産)ペースの減速を検討する可能性があるものと考えられる。
(12) 例えば、毎月前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を2022年7月まで取りやめたうえ、同年8月以降に毎月前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を復活させれば、2022年全体として世界石油需給はほぼ均衡することになる(表3参照)。
(13) この先も新型コロナウイルス感染第四波の到来可能性や新型コロナウイルスワクチン接種もしくは治療薬投与の普及、そして米国の金融緩和縮小の流れ等石油市場では不透明感が漂う中、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合で、例えば半年程度の長期に渡る減産措置縮小の再調整を行うことは、かえって原油価格を乱高下を発生させるリスクを抱えることもあり、そのような長期的な減産措置再調整を次回会合で決定する可能性はそれほど高くはないものと見られるものの、例えば、2022年第一四半期、もしくはその一部につき、増産ペースを減速させるといった方向で調整が行われる可能性は否定できないものと見られる。
(14) これに対し、この先原油価格がさらに上昇するようであれば、ガソリンや暖房用石油製品価格を含め米国の物価上昇が一層加速することにより、物価上昇率と雇用を主な判断材料としている同国金融当局による金融緩和策の再調整が必要となる確率が上昇し、その結果、同国経済の回復過程が複雑化する恐れがあることから、そのような兆候が見られるようであれば、再び米国政府からサウジアラビアを含むOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速への働きかけが強く行われる可能性があるものと考えられる。
(15) 従って、2022年の世界石油需給緩和による原油価格下落を懸念するOPECプラス産油国と、原油価格のさらなる上昇の米国経済への影響を懸念する同国バイデン政権との調整状況が、次回OPECプラス産油国閣僚級会合に大きく影響するものと思われる。
(16) 他方、イラン外務省のバゲリ次官は、11月末までにイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議を再開する旨10月27日に発表した他、11月3日にはイラン及び欧州連合(EU)が11月29日にオーストリアのウイーンで当該協議を再開する旨発表した。
(17) ただ、米国の対イラン制裁の全面解除(に加え、2018年5月8日に米国のトランプ大統領(当時)がイラン核合意から一方的に離脱したように、米国がイラン核合意から二度と離脱しないよう米国に保証すること)を要求するイランと、イランの弾道ミサイル開発及び近隣諸国への介入を停止するよう要求する米国との間での、意見の相違は容易に解決するものでもなく、またイランのライシ大統領は自国の要求の実現に関し原則にこだわる可能性があることから、協議が紆余曲折を経ることにより、当該核合意正常化が短期的に達成される可能性はそれほど高くはないものと考えられる。
(18) このようなことから、2021年前半に見られたような、イラン核合意正常化に伴い同国からの原油供給が拡大する結果、石油需給が緩和するとの観測は、現時点の市場では後退している格好となっており、この面で直ちに原油相場に下方圧力を加えると言った展開とはなりにくいものと見られる。
(19) むしろ、イランによる高濃度濃縮ウラン製造拡大等さらなる核合意逸脱行為やペルシャ湾沖合でのタンカー攻撃(但し実際には犯行主体は特定されにくいものと見られる)等により、イランと西側諸国等との対立が高まるとの懸念が市場で発生したり、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)が、同勢力と対立し事実上の内戦状態となっている、ハディ暫定大統領派勢力を支援する有志連合軍を主導するサウジアラビアに対しミサイル等を発射したりすることにより、中東情勢不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で高まるとともに、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性も否定し切れないものと思われる。
(参考1:2021年11月4日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)
22nd OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
No 33/2021
Vienna, Austria
4 Nov 2021
The 22nd OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting, held via videoconference, concluded on Thursday November 4 2021.
The meeting reaffirmed the continued commitment of the Participating Countries in the Declaration of Cooperation (DoC) to ensure a stable and a balanced oil market, the efficient and secure supply to consumers and to provide clarity to the market at times when other parts of the energy complex outside the boundaries of oil markets are experiencing extreme volatility and instability, and to continue to adopt a proactive and transparent approach which has provided stability to oil markets. In view of current oil market fundamentals and the consensus on its outlook, the Meeting resolved to:
(1) Reaffirm the decision of the 10th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 12 April 2020 and further endorsed in subsequent meetings including the 19th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on the 18 July 2021.
(2) Reconfirm the production adjustment plan and the monthly production adjustment mechanism approved at the 19th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting and the decision to adjust upward the monthly overall production by 0.4 mb/d for the month of December 2021, as per the attached schedule.
(3) Reiterate the critical importance of adhering to full conformity and to the compensation mechanism, taking advantage of the extension of the compensation period until the end of December 2021. Compensation plans should be submitted in accordance with the statement of the 15th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting.
(4) Hold the 23rd OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 2 December 2021.
以上
(この報告は2021年11月5日時点のものです)