ページ番号1009412 更新日 令和4年7月15日
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概要
- 2022年6月20日に国際エネルギー機関(IEA)はアフリカエネルギー見通し(“Africa Energy Outlook“、以下AEO)を発表[1]した。本アウトルックは、2022年11月にエジプトで開催されるCOP27に向け、特にエネルギーの意思決定者、世界の金融機関、気候変動交渉担当者、政府関係者のためのガイドブックとなることを目指し、彼らが取り組むべき最も差し迫った問題に焦点を当てて分析されている。また、現在の世界情勢において、各国・各地域の特徴を考慮し、アフリカの経済、開発、環境の各目標をいかにして達成するのが最善であるか、新たな道筋を示すものである。その中でもアフリカ大陸全域でより高い水準のエネルギー投資を実現することが重要だと述べている。これは、持続可能な開発目標(SDGs)の内、目標7である「エネルギーをみんなにそしてクリーンに(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスを確保する)[2]」を達成するために必要不可欠であるとしている。
- 本編で示されている「持続可能なアフリカシナリオ」(”Sustainable Africa Scenario”、以下SAS)はアフリカ諸国の国が決定する貢献(NDC)と整合性のある国際的な資金の流れや、気候変動資金の流れを拡大し、特定の化石燃料プロジェクトへの融資の停止や国・企業のコミットメントを考慮に入れ、2030年までに近代的なエネルギーサービスへの普遍的なアクセスを含むアフリカのすべてのエネルギー関連開発目標と、すべてのNDC及びネットゼロエミッションの誓約を予定通りかつ完全に達成するための道筋を示している。
- 本アウトルックにおけるポイントは以下のとおりである。
- 2030年までは天然ガスと石油がアフリカの経済成長と工業化を促進する役割を担うが、長期的にはクリーンエネルギーへの移行が進み、化石燃料の需要が減少する。アフリカの石油総生産量は世界の石油需要の減少と価格の低下やリビア、ナイジェリア、アンゴラをはじめとした国々の影響により2019年の8mb/d程度から、2030年には6mb/d程度まで減少するとしている。天然ガスにおいては2030年までにさらに年間90bcmのガスを追加供給できる可能性があり、アフリカの工業化(特に肥料、鉄鋼、セメント産業、海水淡水化など)に大きく寄与する可能性がある。
- ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシアからの化石燃料からの脱却を目指す欧州諸国のために、短期的にはアフリカの天然ガス供給活発化を後押ししている。アフリカは欧州向けに2030年までにさらに年間30bcmを供給することができると推測される。加えて、フレアリングとベント(venting)量を削減すれば、新たな供給・輸送インフラを開発せずとも、少なくとも年10bcm(7.3Mtpa)のアフリカ産ガスを輸出できるようになる。
- アフリカは、その豊富な再生可能資源を利用して水素を製造する大きな可能性を持っているものの、今日までアフリカで利用された低炭素水素はごくわずかである。水素の総生産量は、現在の3Mt(360PJ、削減対策なしの化石燃料がベース)から、2030年までに5Mt(600PJ、15%は低炭素化)、2050年までに20Mt(2400PJ、80%は低炭素化)まで増加するとしている。この生産量の内、2030年には約10%、2050年には約3分の1が再エネ由来のグリーン水素やアンモニア等の形で輸出用とされる。アフリカは現在の世界のエネルギー供給量に匹敵する年間5,000Mtの水素を2米ドル/キログラム以下で生産できるポテンシャルを有する。
- 気候変動に適応するためには、より多くの投資が必要となる。気候変動への適応のための投資は、2030年までに年間300億〜500億米ドルに達する可能性があり、2019年に先進国が適応プロジェクトに提供した78億米ドルを大幅に上回る。一方で、アフリカのエネルギーと気候に関する目標を達成するためには、この10年間でエネルギー投資を2倍以上に増やすことが必要である。2026年から2030年にかけて、毎年1,900億米ドル以上の投資が行われ、その3分の2がクリーンエネルギーに充てられる。
- 以下ではエネルギー(特に石油・天然ガス)に関連した部分を取り上げる。
1. エネルギーについて
SASでは、エネルギー効率と自然エネルギー(特に太陽光)が、アフリカの新しいエネルギー経済構築のための重要な柱として掲げている。また、2030年までは天然ガスと石油がアフリカの経済成長と工業化を促進する役割を担うが、クリーンエネルギーへの移行が進み、化石燃料の需要が減少するという長期的な傾向を念頭に置く必要があると指摘している。
過去、2010年から2019年にかけてアフリカの総エネルギー需要は年率2.4%で急速に増加している。また、アフリカは同期間にかけて、世界のエネルギー需要の伸びの10%、石油需要の伸びの8%を牽引した。これはアフリカが非効率的な自動車等をはじめとした製品の利用により、他地域と同じサービスを享受するために、はるかに多くのエネルギーを消費していることも一つの要因である。一方で、電力使用量は同期間でわずか2.3%増と他の発展途上国の平均と比較しても大きく遅れをとっている。
2022年2月、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとしたエネルギー安全保障への意識が高まっている。そのため、輸入燃料への依存を減らすためにクリーンエネルギーへの移行を加速するなど、エネルギー需要を満たすために代替手段を求める動きが強まっている。これは特に、エネルギー供給に関する短期的な投資選択に影響を与え始めており、エネルギートランジションが従来予測よりも早く進む可能性があるという。その一方で、ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシアからの化石燃料からの脱却を目指す欧州諸国のために、特に、アフリカの天然ガス供給活発化を後押ししている。
1.1 エネルギー消費・需要の推移
2030年のアフリカのGDPは2020年比で約50%拡大し、10兆米ドル近くに達すると予測される。2020年から2030年のGDP成長率は年平均4.2%で、同時期の世界平均を0.6%上回る。南アフリカを除くサブサハラアフリカのGDP全体に占める割合は2020年の55%から2030年には58%に上昇し、南アフリカは2020年の11%から2030年には9%に低下を続け、北アフリカは33%程度に留まる。
アフリカの人口は、2030年には3億5,000万人増の17億人になると予測されている。アフリカにおける2020年の年齢中央値は約20歳、15歳以下の人口が世界平均の30%に対し、40%以上となっている。また、2020年にはアフリカの総人口の55%以上に当たる7億5,000万人が農村部で生活しており、一般的に、エネルギーを含む基本的なサービスへアクセスしにくい環境にある。今日、人口の大部分はまだ農村部に位置するが、アフリカの都市人口は急増しており、人口増加と相まって、2030年までに都市人口は2億3,500万人増加すると予測されている。人口ボーナスと呼ばれる若年層が多く,急速に成長し、都市化が進むアフリカのエネルギー需要をどのように満たすかは、アフリカ大陸と世界全体のエネルギー動向を形成する上でますます重要になる。一方で、ロシアのウクライナ侵攻の動静は、2030年までのアフリカ経済の見通しにとって依然として大きな不確実性をもたらしている。
SASではアフリカの経済成長と人口増加により、伝統的バイオマスと石炭を除く一次エネルギーの消費が増加すると予測する。2020年から2030年にかけて、近代的なエネルギーの供給は年平均3%増加するが、伝統的バイオマスを含む一次エネルギー供給全体は2030年までに13%減少する。再生可能エネルギーは、近代的なエネルギー供給増加分の4分の3以上を満たし、2030年までに主要な燃料となる。また、現在から2030年までの間に、アフリカの石油・ガスに対する国内需要は、アフリカ大陸の生産量の約3分の2を占め、残りはパイプラインや液化天然ガス(LNG)として輸出することになると予想される。そのため、輸送用燃料やLPGの国内需要に対応するため、貯蔵・流通インフラなど、アフリカ国内で十分に機能するインフラの整備がより重視されると同時に、エネルギーの効率的な利用を推進する政策の強化、再生可能エネルギーやその他クリーンエネルギー技術の発展・拡大が重視される。
アフリカにおいて生産された石油は主に輸出に回されており、国内・域内需要の動向よりも、世界の需要動向、輸出市場における競争力、価格、世界的なエネルギー転換のペース等の要因に左右される。COVID-19からの需要回復及びロシアのウクライナ侵攻による制裁・供給懸念等により油価は大幅に上昇したものの、慢性的なインフラへの投資不足により、アフリカの生産者は世界の需要に見合った生産量を確保できず、利益を享受できないでいる。このため、経済改革と多様化の必要性、そして将来のインフラ投資に関する戦略的思考の再考が、改めて緊急性を帯びてきている。
サブサハラアフリカでは、家庭での調理においてLPGの使用が拡大する。また、経済活動の拡大により輸送や産業向けの天然ガスや石油製品の需要が高まるため、化石燃料の割合が大幅に増加する。一方で同地域の近代的な再生可能エネルギーの割合が現在の20%から2030年には50%を大きく超えることになる。SASではアフリカの一次エネルギーに対してのエネルギー強度が、主にサブサハラアフリカにおいて、非効率かつ伝統的な調理用固形バイオマスの使用の段階的な廃止など、政策主導でエネルギー効率が大幅に改善することにより2020年から30年にかけて年平均5%減少する。一人当たりの一次エネルギー使用量は、サブサハラアフリカでは近代エネルギー使用量が年平均2.5%増加して2030年には10GJ程度、北アフリカでは年間0.7%増加して44GJとなるが、サブサハラアフリカの10GJと同様に、現在の世界平均の70GJ、中国の100GJ、欧州連合の120GJを大幅に下回る。一方、サブサハラアフリカにおける一人当たりの一次エネルギー使用量は全体として減少する。
1.2 エネルギー供給の変遷
COVID-19によるパンデミック開始時の化石燃料の需要と価格の急落は、アフリカの産油国に大きな影響をもたらした。アフリカの石油生産量は2020年に20%近く減少したが、天然ガスと、石炭の生産量の減少幅はそれより小さく、それぞれ2%、5%に留まった(図1)。地域最大の産油国であるナイジェリアと第3位の産油国であるアンゴラにおける生産量は、2021年を通じて合計で約30万b/d下回り、少なくともあと1年は現在の石油輸出国機構(OPEC)の生産枠を達成できない見込みである。石油と天然ガスの生産を合わせた純利益は2021年に前年比で倍増したものの、パンデミック前の水準と歴史的なピークである2012年を大幅に下回っている。(図2)特に、アフリカ諸国の石油生産は、原油価格の回復にもかかわらず、持続的な投資不足とメンテナンスにより、関連設備の生産再開と増強に苦労している。
2030年までの動向は、アフリカの3つの主要地域間(北アフリカ南アフリカ、サブサハラアフリカ)で大きく異なっている。風力や太陽光発電など近代的な自然エネルギーの供給はどこでも最も速く増加するが、北アフリカでは石油とガスが引き続きエネルギー使用を支配し、南アフリカでは低コスト資源の地元での利用のため石炭が支配的である一方、サブサハラアフリカでは自然エネルギーが主要燃料となる。北アフリカでは、一次エネルギー供給に占める石油・ガスの割合が2020年の91%から2030年には85%に低下し、発電における風力と太陽光発電の利用が1%未満から4%まで上昇するほか、エジプトは2030年までに原子力発電を行うようになる。南アフリカでは、2030年までに段階的に廃止される石炭供給の大部分を、電力セクターを中心に近代的な自然エネルギーで代替する。2021年に中国が海外での石炭プロジェクトに対する支援を打ち切ると発表したことにより、現在建設中の発電所が完成すれば、アフリカでは新たな石炭火力発電所が建設されることはなくなるとされる。
1.3 石油・天然ガスの供給について
2010年から2019年にかけて、アフリカは世界の石油と天然ガスの生産量の8%を占めた。アフリカには世界の天然ガス資源量の13%、石油資源量の7%という多くの天然資源を保有しているが、その開発は困難を極めてきた。アフリカの石油・天然ガス生産への投資は、2014年の価格下落以降、低迷していたが、2020年の国際原油価格の大幅な下落の影響で、生産者は必要な保守・修理費用や新規鉱区の開発、国内市場に供給するために不可欠な地域のパイプラインや貯蔵インフラに対する資金捻出において、さらに苦境に立たされることになった。特に、アフリカの石油・ガス生産の大部分を主導するメジャーズの多くは、各国の法規制が明確でないことや将来の世界需要の不透明感から、大規模な投資を控え、ショートサイクル・ニアフィールド型や投資リターンの高い油田からの生産を集中させることによりポートフォリオの取捨選択を加速させている。このため、ロシアのウクライナ侵攻で石油・ガス価格が高騰したものの、アフリカ産油国は世界の需要に見合った生産量を確保できず、利益を享受できないでいる。また、アフリカには地球上で最も優れた再生可能エネルギー資源と豊富な鉱物資源があるが、道路などのインフラが未整備なため、これらの資源はほとんど利用されていないなど、アフリカは、エネルギー需要を満たすために必要なインフラを構築すると同時に、気候変動やその他の環境目標に対応するためにエネルギーシステムを変革するという大きな課題に直面している。2015年から2019年にかけて、アフリカへのエネルギー投資は20%以上減少した。これは主に輸出主導型の石油・ガスプロジェクトに対する投資が減少したことに加え、気候変動対策という新たなトレンドにより、(座礁資産化)リスクが増長したためである。しかし、2022年2月以降、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとしたエネルギー安全保障への意識が高まっている。ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシアからの化石燃料からの脱却を目指す欧州諸国のために、短期的にはアフリカの天然ガス生産・供給活発化を後押ししている。現在の価格高騰は、新規プロジェクトに対する市場参入の迅速化、プロジェクトコストと遅延の最小化といった恩恵によりアフリカの生産者に短期的な利益をもたらすものであるが、目先の市場機会に惑わされ、将来の石油・ガス輸出収入の減少を招かないようにしなければならない。
SASにおけるクリーンエネルギーへの移行加速への世界的な取り組みは、アフリカの石油・ガスの輸出収入を減少させるリスクをはらんでいる。石油とガスの生産は、アフリカの経済・社会開発にとって引き続き重要であるが、その焦点は国内需要を満たすことに移っている。特に、アフリカの工業化は、天然ガスの利用拡大に依存している部分がある。アフリカでは現在までに5,000bcm以上の天然ガス資源が発見されているが、まだ開発には至っていない資源が多くある。全ての発見された資源が生産に回った場合、2030年までにさらに年間90bcmのガスを供給できる可能性があり、アフリカの工業化(特に肥料、鉄鋼、セメント産業、海水淡水化など)に大きく寄与する可能性がある。今後30年間、これらのガス資源を利用した場合のCO2排出量は、累積で約10Gtになるが、現在の累積排出量に加算しても、世界における排出量に占める割合が3.0%から3.5%に増加するに過ぎない。
石油に関して、SASにおいてアフリカの石油生産量は、世界の石油需要の伸びの鈍化、資金調達状況の悪化、プロジェクトの遅延などが重なり、2030年にかけて減少してくと予想している(図3)。世界の石油需要の減少と価格の低下やリビア、ナイジェリア、アンゴラをはじめとした国々の影響によりアフリカの総石油生産量は2019年の8mb/d程度から、2030年には6mb/d程度まで減少するとしている。特に新規プロジェクトの開発スケジュールは、依然として不透明なままである。最近では、ウガンダのアルバート湖開発プロジェクトがFIDされた。このプロジェクトは複数の再生可能エネルギープロジェクトと統合開発することが決められており、アフリカにおける化石燃料と再生可能エネルギーの統合プロジェクトの先駆的事例になる可能性がある。
石油生産の減少が予測される一方で、サブサハラアフリカでは、石油製品の需要拡大が見込まれている。この地域の石油純輸出は、生産量の減少と需要の急増により、2010年代に40%減少し、2020年には2.4mb/dになった。精製能力の脆弱性や石油輸出減少の傾向は今後も続き、2030年代半ばには石油の純輸入国になると予測される。この地域の精製能力は現在130万b/dであるが、稼働率は他の地域よりも低く、2020年には世界平均の70%以上に対して40%程度となっている。これは、この地域の精製所の多くが古く非効率であり、低硫黄燃料を供給することができないためである。また、いくつかの製油所は、燃料品質基準を満たすことができず、改修やメンテナンスに必要な投資資金を確保できないため、閉鎖又はその危機にさらされている。製油所新増設プロジェクトがほとんど計画されていないことや燃料品質規制の厳格化から、2020年代半ばには製品の輸入需要が再び増加すると予測されている。特に石油需要の増加の約80%は、交通輸送(主に自動車とトラック)によるものであると予測されている。
天然ガスに着目すると、2010年から2020年までの間に世界で発見されたガスの40%がアフリカからのものである。その他アフリカでは現在までに5,000bcmを超える天然ガス資源が発見されているが、まだ開発の投資決定や政府の承認が下りていない。2030年までにさらに年間90bcmのガスを供給できる可能性がある。(図4、図5、表1)今後30年間のガス資源の利用によるCO2排出量の累積は現在のエネルギー部門からの排出量の約4カ月分に当たる約1,000億トンである。このような大規模発見に加え天然ガスが排出の少ないクリーンエネルギーとして位置づけされていることからアフリカの天然ガス部門は、石油部門よりは明るい見通しとなっている。2010年代のアフリカにおける天然ガス生産量はモザンビーク、タンザニア、エジプト、セネガル、モーリタニアや南アフリカ等での発見により20%増加し、輸出主導型の大規模なLNGプロジェクトが相次ぐきっかけとなった(図6)。このため、アフリカの天然ガス生産の長期的な見通しにおいても、世界の需要動向に左右される。アフリカにおける政府・地元企業の資金力・技術力の観点から資源開発は外国投資を呼び込む必要がある。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻により欧州がロシアのガスへの依存度を下げようとしていることなど、最近の地政学的な変動は、アフリカの天然ガス開発が注目を集めるきっかけとなっている。例えば、Eniは、アルジェリア、エジプト、コンゴ共和国において、輸入量の増加を目的としたガスの取引に調印した。その他、コンゴ、モーリタニア、セネガルではLNGターミナルの開発と拡張が再び注目を集め、活発化してきている。EUは2030年に向けてロシアのガス輸入を停止することを目指しており、アフリカは2030年までに欧州向けに年間30bcmの追加供給できると推測される(図7)。現在から2030年まで、アフリカの石油天然ガスの生産量の3分の2が国内・域内需要を占め、残りが輸出されると推測されている。天然ガスは2030年までに年間90Bcmの追加供給ポテンシャルが存在すると推測されているところ、追加供給ポテンシャルからの輸出分の多くが欧州に向けられることになると考えられる。加えて、フレアリングとベント(venting)量を削減すれば、新たな供給・輸送インフラを開発せずとも、少なくとも10bcmのアフリカ産ガスを輸出できるようになる。しかし、国内市場の基盤が整っておらず、世界のガス需要の長期的な見通しが不透明である以上、アフリカの大規模なガス資源を開発するための資金調達することは、今後も困難であると思われる。この他、投資家は輸出主導型プロジェクトを商業的実現可能性の観点から今後の方向性を注視している。特に新規プロジェクトの実行速度がFIDにおける重要な要因として認識される。この点で、治安懸念、コスト超過、環境問題、パンデミックの影響により実行の速度の面で投資判断に影を落としている。SASでは、安全保障と資金調達に課題が残るものの、エジプト、ナイジェリア、モザンビークでの新規プロジェクトを中心に、2020年から30年にかけてガス生産量が約15%増加するとしている。しかし、多くの国が2050年に設定をしているネットゼロ目標達成に向かっており、現実に世界がガス需要の削減に向かえば、リードタイムの長い新しいガスプロジェクトは、初期費用を回収できない恐れがある。中長期的に見ると2020年代半ば以降、化石燃料からの脱却を加速するための政策が強化され、世界需要が弱まるにつれて、大陸全体の生産量は減少し始めるとしている。一方で、北アフリカでは国内需要が高いため、サブサハラアフリカと比較して、生産量は世界市場の動向の影響を受けにくいという。
需要面では、現在から2030年までの間に、国内・域内需要が生産量の3分の2を占めるようになる。天然ガスの利用増加は高値の石油製品(特にディーゼルや重油)を代替し、再生可能エネルギーを補完する調整発電源としてもその役割を果たすことができ、工業化への貢献とともに発電用需要の増加も見込まれる。しかし、個々の市場規模が比較的小さいため規模の経済を実現することが難しいと思われる。また、信用力のあるオフテイクがないため、長寿命・資本集約型のインフラへの投資案件が少ないことや、発電における再生可能エネルギーや、最終消費部門における電力との競争激化等により需要喚起には大きな課題が残る。
天然ガスの今後の動向については各国の天然ガスに対する立ち位置ごとに3つに分けることできる(図8)。1つ目は、天然ガスが主要なエネルギー源として位置づけられるアルジェリア、エジプト、ナイジェリアである。これらは、生産量の増加に伴い、天然ガスの消費量も増加している。そのため、成熟した油田の減少を食い止め、国内需要を満たし、輸出収入を得るために生産レベルを維持することが目標とした動きが見込まれる。2つ目は、国産ガスや輸入LNGによりエネルギーミックスの中でのガスの役割を拡大しようとするコートジボワール、ガーナ、南アフリカなどの国である。しかし、複雑な商業・契約構造に伴う様々なリスクに加え、オフテイカーの信用力が、輸入ターミナル(主に浮体式貯蔵・再ガス化)、パイプライン、ガス火力発電所への投資を呼び込む上での大きな課題となる。そのため、発電会社やガス配給会社の不安定な財務状況に対処するための構造的なプロセスを導入することが重要である。また、今後の需要拡大を牽引する、一般的に信用度の高い産業用需要家をターゲットに、発電事業のみに焦点を当てるのではなく、より広範囲に目を向ける必要がある。また、より戦略的なインフラ投資として、資源や輸入基地の近くに電力をはじめとした産業クラスターを形成し、リスクの低減と規模の経済を活かすことが求められる。3つ目は、大規模な輸出主導型LNGプロジェクトで膨大な資源開発を目指すモザンビーク、セネガル、タンザニアなどの国である。これらは近年の化石燃料価格の高騰により、新規プロジェクトを早期実現することを目指している。新規プロジェクトの資金調達は、ネットゼロ目標を掲げる国の銀行や輸出信用機関から融資を受けるか、同様の気候変動目標を掲げるメジャーズから出資を受けるという方法があるが、依然として不確実性が高い。そのため、コストの最適化、スケジュールの遅延の回避、市場投入までの時間の短縮、サプライチェーンの排出量削減は、アフリカの新規LNGプロジェクトが融資を確保するための前提条件となる。LNG輸出プロジェクトの多くは国内供給義務(DMO)を通じて、地元のガス市場開発に資金を流すという条件があるが、双方の利益を考慮し、慎重にバランスを取る必要がある。例えば、アフリカ史上最大のプロジェクトファイナンスを伴うモザンビークLNGは、操業開始後は国内市場に向けて0.7mtpaの供給義務を負っている。過去、このように国内市場への供給が保証されているにも関わらず、当初計画されていたGTL(Gas-to-Liquids)、肥料、発電プロジェクトは、様々な利害関係者の間で調整が難航し、棚上げされてきた。グローバル市場での競争を考慮すると、ガス資源のマネタイズには、複数の道筋、国内への供給量と輸出量のバランシング、ニーズに合わせたインフラ拡張計画などが必要となるだろう。
国名 | 埋蔵量(単位:Bcf) | 生産量(Bcf) |
---|---|---|
ナイジェリア | 203,056 | 1,663 |
アルジェリア | 159,054 | 3,238 |
モザンビーク | 100,000 | 155 |
エジプト | 63,000 | 2,260 |
リビア | 53,144 | 374 |
アンゴラ | 10,630 | 257.8 |
コンゴ共和国 | 10,029 | - |
カメルーン | 4,770 | 84.8 |
スーダン・南スーダン | 3,000 | - |
チュニジア | 2,300 | 74.2 |
ナミビア | 2,200 | - |
ルワンダ | 2,000 | - |
赤道ギニア | 1,377 | 194.2 |
コートジボワール | 1,000 | 95.4 |
モーリタニア | 1,000 | - |
ガボン | 918 | 15.9 |
エチオピア | 880 | - |
ガーナ | 800 | - |
ウガンダ | 500 | - |
タンザニア | 230 | - |
ソマリア | 200 | - |
モロッコ | 51 | 3.9 |
ベナン | 40 | - |
コンゴ民主共和国 | 35 | - |
出所:OGJ統計、各種資料よりJOGMEC作成
(注)埋蔵量は2022年1月時点、天然ガスの生産量は2020年実績
1.4 石炭について
アフリカの石炭生産は、輸出需要の減少や国内の低炭素代替エネルギー源の競争力強化などにより、弱含みで推移する見通しであり、2030年まで年間3%程度の減少が予測されている。また、アフリカにおける石炭生産の95%を占める南アフリカでは、家庭用調理燃料としての石炭利用が段階的に減少し、産業界では天然ガスの使用が増加する。そのため、最終用途部門における石炭の需要が減少するが、生産は引き続き南アフリカが独占する見込みである。ボツワナ、モザンビーク、ジンバブエは生産量の増加を目指しているが、生産拠点を需要地や輸出拠点に接続するための投資とインフラの構築は引き続き困難であると予想される。
2. アフリカにおける化石燃料の将来性と新エネルギー
2.1 アフリカにおける化石燃料の将来性について
2.のような状況下で、アフリカにおける化石燃料の生産国の多くは、モザンビーク、タンザニア、ウガンダなどの新規参入国と同様に、新たな資源開発と輸出インフラの拡充に取り組んでいる。さらに、欧州諸国がロシア産の化石燃料への依存度を減らそうとしていることはアフリカの国々にとって追い風となる。一方、アフリカの生産者にとっての重要な課題は、資源開発のための資本を集めることである。特に、機関投資家、銀行、開発系金融機関は、大規模かつリードタイムの長いプロジェクトに多額の資金を投入することに消極的になっており、化石燃料からの撤退を表明する機関も増えている。アフリカにおける石油・ガス投資は、国営石油会社や地元の民間企業ではなく、現在ポートフォリオの再調整に積極的であるメジャーズが牽引してきたという事実も、資本誘致の見込みに影を落としている要因の一つである。加えて、エネルギートランジションが加速すれば、新規プロジェクトは、需要と価格が低下する中で市場の中、投資コストの回収に苦戦する可能性があり、政府支出、対外債務、マクロ経済(国有企業の財務状態の悪化、民間資本へのアクセスの困難化、輸出売上と税収の低迷)と政治的安定性の面で大きな打撃を与えるだろう。経済の多角化には、価格変動が将来の収入源に与える影響を防ぐための仕組みが必要であり、炭化水素からの収入を平準化するために政府系ファンドを設立している国もある。また、収入を債務削減や社会インフラへの投資に充てる国もある。すべての生産者は、短期的な財政目標と長期的な多様化目標の両方を満たすために、投資とのバランシングが必要である。
SASにおけるアフリカの石油生産の見通しは脆弱であるものの、石油製品(ガソリン、ディーゼル、LPG等)の国内需要は2020年から2030年の間に30%増加と予測されている一方で既存の精製システムが脆弱かつ新設に必要な巨額の投資を動員することは困難である。さらに、COVID-19の大流行により、特に効率の悪い製油所や厳しい燃料品質要求を満たせない製油所の合理化に対する圧力が高まっているため、アフリカ諸国における精製品の輸入増加による負担を軽減するためには、戦略的なアプローチが必要である。一般的に、精製業者のキャッシュフローと運転資金が限られているため、大規模で複雑なグリーンフィールドプロジェクトは控え、小規模で不可欠なアップグレードに重点を置き、トランジション期のダイナミクスに合わせて投資を調整する必要であることが推測される。その点最近は、ナイジェリア、コンゴ、赤道ギニアなどで小規模な製油所プロジェクトが多数提案されている。アフリカでよりクリーンな低硫黄燃料を生産するには、製油所改修に総額160億米ドルの投資が必要と推定される。SASのように、精製品が世界市場で比較的安価に入手できる場合であっても、港湾、貯蔵ターミナル、パイプラインなどの中流インフラを整備しない限りはその恩恵を受けることは難しいと指摘する。
石油・ガス事業における排出原単位の削減がより重視される。主要市場における輸入商品・製品の環境影響に対する監視の目が厳しくなる中、石油・ガス事業におけるGHG排出量の削減は、投資を呼び込むための重要な要素となっている。アフリカの生産者は、特に欧州への輸出に依存しているため、エネルギートランジションがもたらす規制環境の強化の影響を受けることになる。北アフリカをはじめとして、アフリカの石油・ガス生産のGHG排出強度は世界で最も高い。特に、メタンリークとフレアリングが、これらの排出の大部分を占めており、これは環境破壊の面においても、経済的損失の面でも削減が急務である。上流のメタン排出量の半分以上は、安定・堅固なリーク検出と修復作業、技術基準の更新、緊急でないフレアリングの停止や規制の厳格化等によって削減することが可能であると指摘する。例えば、ナイジェリアでは、罰則の導入と設備投資へのインセンティブにより、2000年から2019年の間にフレアリングのガス量を70%削減することに成功した。また、LNGプラントにおいて、エネルギー効率と操業の電化への注力を高めることも、排出量の削減に役立つ可能性があるという。IEAは、アフリカの石油・ガス生産におけるメタン排出量を合計すると、2020年には約1,000万トンに達し、世界の排出量の約12%を占めたと推計している。
化石燃料供給への投資は減少を続けているが、北アフリカの産油国はこの10年間のエネルギー投資の40%と大きな割合を占めた。天然ガスへの投資は、セネガルやモーリタニアで新たなガス発見が進み、既存の油田がさらに開発されることにより、燃料供給投資のほぼ半分を占めるまでに活発化している。
2.2 再生可能エネルギー・新エネルギーの台頭
アフリカは、その豊富な再生可能資源を利用して水素を製造する大きな可能性を持っているものの、今日までアフリカで利用された低炭素水素はごくわずかである。アフリカのクリーンエネルギー移行において、これらのエネルギーは、肥料生産等の産業における化石燃料の使用を代替するなど、大きな役割を果たすと期待されている。現在、アフリカで工業的に生産・利用されている水素は、アンモニア系肥料の製造や、北アフリカ・ナイジェリアでの石油精製によるものやカーボンキャプチャーされてない化石燃料由来のものが中心であり、低炭素型とは言えない。アフリカのアンモニア用水素生産の大部分は天然ガスを原料としており、南アフリカは石炭からアンモニアを生産しているが、小規模である。
エジプト、モーリタニア、モロッコ、ナミビア、南アフリカを中心に多くの低炭素水素プロジェクトが進行中又は検討中である。これらのプロジェクトは、主に再生可能エネルギーに基づく電力を使用して、アフリカの食糧安全保障を強化する肥料用のアンモニアを生産することに焦点を当てている。世界的な水素製造コストの低下により、アフリカは2030年までに、自然エネルギーで製造された水素を国際的に競争力のある価格で欧州に供給することができるようになる。さらにコストが下がれば、アフリカは現在の世界のエネルギー供給量に匹敵する年間5,000Mtの水素を2米ドル/キログラム以下で生産できる可能性がある。
手厚い政策支援とインフラへのタイムリーな投資により、SASでは低炭素水素の生産と国内での利用が急拡大するとともに欧州向け供給の可能性が生まれるとしている。アフリカにおける水素の総生産量は、現在の3Mt(360PJ、削減対策なしの化石燃料がベース)から、2030年までに5Mt(600PJ、15%は低炭素化)、2050年までに20Mt(2,400PJ、80%は低炭素化)まで増加するとしている。この生産量の内、2030年には約10%、2050年には約3分の1が再エネ由来の水素やアンモニア等の形で輸出用とされる。
SASにおけるアフリカの低炭素水素の国内需要の伸びは、水素由来燃料(アンモニア・合成燃料)の生産と、遠隔地発電や大型車輸送における水素利用の増加に支えられる。主に欧州をターゲットにした輸出プロジェクトがすでに多数発表されている(図9)。特にエジプト、モロッコ、南アフリカが先行しているが、最近ではモーリタニアとナミビアでも進展を見せている。低炭素の水素製造への意思を示すために、2022年5月18日、ケニア、南アフリカ、ナミビア、エジプト、モロッコ、モーリタニアの6カ国は、「アフリカ・グリーン水素アライアンス」を正式に発足させた。
3. 今後のエネルギー関連投資について
3.1 アフリカの気候変動対策における責任と異常気象について
2022年5月までに世界の多くの国々が、2050年頃までにネットゼロ排出を達成することを約束している。この中には、アフリカ大陸のCO2総排出量の40%以上を占めるアフリカ12カ国が含まれている。ネットゼロに向けてエネルギーシステムを発展させる努力は、自国の産業を飛躍させ、輸入品への依存度を下げ、地元雇用の足がかりを作ることができる。その中でアフリカにおけるエネルギー関連のCO2排出量は世界全体の3%未満であるにもかかわらず、同地域はすでに気候変動の影響を不均衡に受けており、治安問題、経済成長の低下等の根強い課題に加え、エネルギー資産、輸送、通信、水供給インフラ、干ばつ、飢饉、洪水・熱波等の異常気象の頻度が増加している。
アフリカにおいて、2022年のエネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出量は1.2Gtであった。そのうち、40%は発電と熱供給、25%は輸送、さらに17%は生産用途によるものである。SASでは、2030年の同排出量は2020年比(1.2Gt)で約3%程度増加する。特に石炭火力発電が段階的に削減され、電力需要の増加分のほとんどが再生可能エネルギーで賄われるため、発電用途の排出量は2030年までに20%以上減少し、輸送、生産用途、エネルギー生産からの排出量の大幅な増加をほぼ完全に相殺する。アフリカの非CO2・GHG排出量も、伝統的バイオマス利用の削減と、メタン排出量削減への相互努力により急速に減少し、2020年の約420万トンから2030年には約140万トンにまで減少する。SASでは、産業全体の成長、インフラ整備、都市の拡大により排出量が増加するが、石炭や重油に代わる再生可能エネルギーの割合の増加等による燃料転換やその他エネルギー効率化により排出量を抑制することができる。特にバイオエネルギーと廃棄物への切り替えは、比較的初期投資が少なく、技術的も確立されている上に廃棄物による汚染減らすことができる。このような燃料転換を促進するには、金融機関からの支援と、地域のバイオエネルギーバリューチェーンを確立するための政府の取り組みが必要である。
3.2 気候変動対策への投資とクリーンエネルギーへの投資について
2050年までにアフリカが占めるエネルギー関連のCO2累積排出量は、シナリオに関係なく4%を超えないとされる。アフリカは今後も世界に占める排出量割合は小さいが、気候変動対策には世界の他の地域よりも多くのことが求められる。SASの累積CO2排出量に対するアフリカの寄与は小さく、IEAのWorld Energy Outlook 2021[3]で示された2050年実質ゼロシナリオ(NZE)のピーク気温上昇と2100年の中央値気温上昇の両方に無視できる程度の影響しか与えないことが示された。一方で公表政策シナリオ(STEPS)によると、2050年頃に起こる世界平均気温の上昇2℃は、北アフリカで2.7℃、南部アフリカで2.1℃の中央値上昇を伴う可能性が高いという。その他、現在の政策では、世界の平均気温の上昇は2050年頃に2℃に達する可能性が高いが、その場合、北アフリカの気温は約2.7℃上昇することになるという。
気候変動に適応するためには、より多くの投資が必要となる。気候変動への適応のための投資は、2030年までに年間300億〜500億米ドルに達する可能性があり、2019年に先進国が適応プロジェクトに提供した78億米ドルを大幅に上回る。一方で、アフリカのエネルギーと気候に関する目標を達成するためには、この10年間でエネルギー投資を2倍以上に増やすことが必要である。2026年から2030年にかけて、毎年1,900億米ドル以上の投資が行われ、その3分の2がクリーンエネルギーに充てられる。アフリカのGDPに占めるエネルギー投資の割合は、2026年から30年にかけて6.1%に上昇する。しかし、この期間のアフリカのエネルギー投資は、IEAの2050年までのNZEシナリオでは、まだ世界全体の5%程度に過ぎないという。
SASで想定される投資額を実現するためには、アフリカへの譲許性の高い資金を増やし、民間資本をより効果的に活用するために、より戦略的に利用する必要がある。気候変動ファイナンスやカーボンクレジットなどの新しい資本源は、より多くの国際的な資金フローをもたらすことができる。しかし、高い債務負担など、横断的な投資リスクは依然として課題として残っている。
3.3 今後のエネルギー関連投資への必要性等について
アフリカは世界のエネルギー投資の5%未満しか占めておらず、世界銀行によるとさらに偏在性も伴う。過去10年間、アフリカのエネルギーと電力インフラへの民間投資の90%を10カ国が占め、特に南アフリカだけで40%近くを占めた。アフリカのエネルギー投資総額は、パンデミック以前からすでに減少していたが、2020年には20%以上減少している。2020年にはアフリカ向けに730億米ドルが投資されたが、これはアフリカのGDPの3%に相当する。2021年には、2019年の水準程度まで投資が回復するとされている。
歴史的に、アフリカのエネルギー投資は、石油生産をはじめとした化石燃料が大半を占めてきた。しかし、2016年以降、化石燃料への投資額は減少し、5分の1以上減少しているが、この減少分がクリーンエネルギー投資には向かず、過去5年間、総投資額の約60%が依然として化石燃料へ向けられている。
SASはアフリカのクリーンエネルギー移行には、化石燃料からの投資のシフトだけでなく、2026年から2030年の総投資額が2016-20年と比較してほぼ2倍になることが必要であると指摘する。この場合、2026年から2030年のエネルギー分野の全体への投資額は年平均約1,900億米ドルとなる。特に電力部門を中心としたクリーンエネルギー投資は6倍に増加し、投資全体に占める割合は70%に達する。アフリカの政府は現在、COVID-19やロシアによるウクライナ侵攻によりさらに財政が圧迫されており、民間市場が重要な役割を果たす必要があると指摘している。このように電力セクターへの投資資本の再配分が盛んに行われる。普遍的なエネルギーアクセスの達成と電力需要の急増により、2026年から2030年の電力部門への投資額は2016年から2020年と比較して約3倍増加し、エネルギー投資全体に占める電力部門の割合は、3分の1程度から半分以上まで上昇する。発電設備の資金調達コストは、2016年から2020年の発電コストの2%から、2026年から2030年には10%に上昇する。エネルギープロジェクトの加重平均資本コスト(WACC)はリスクの度合い等により様々で、アフリカのWACCは欧州や北米に比べて最大で7倍になると想定されている。エネルギー事業を対象とした政策措置がWACCの低減に役立つ可能性があるとしている。しかし、マクロ経済の安定性、ナショナリズム、金融システムの未発達さ等の経済に係る根強い問題のため、WACCを先進国の水準まで引き下げるのは困難であると予想される。
SASでの目標を達成するには、エネルギープロジェクトに関する資金調達方法の変革が必要であるとしている。2015年から2019年にかけて、アフリカ大陸のエネルギー投資の70%は、主に外国への輸出を前提とした石油・ガスプロジェクトに向けられた。これに対し、SASでは2021年から30年にかけての投資の3分の2がクリーンエネルギーに向けられる。また、その投資は輸出用ではなく増加する国内需要に対応するためのものである必要があるという。必要な資金を調達するには、リスクを低減しつつも、新たな資金源を活用することが重要であり、特に資金提供者やパリ協定の枠組みを用いた資金調達構造、リスク評価方法の多様化や変革が必要である。その他、アフリカ諸国への気候変動適応のための資金は、2030年までに年間300億米ドルから500億米ドルが必要になる可能性があるとしている。先進国からの国際的な気候変動対策資金が不可欠であることに加えて、商業資本も重要な役割を果たす必要があるが、ほとんどのアフリカ諸国は資金提供を受けやすい環境を備えていないことを指摘している。
SASでは、アフリカのエネルギー投資において、引き続き国内プロジェクトへの投資のリスクが認識されており世界平均と比較して株主資本(エクイティ)の割合が高く、借入れによる資金調達(デットファイナンス)への依存度は高まると予測される。
4. 電力に関する見通しついて
4.1 発電と電力需要について
IEAはアフリカのクリーンエネルギーへの移行においては電力システムの変革が中心的な課題となると述べる。SASでは2030年までに年平均5%の電力需要増加が見込まれており、これを満たすには2030年に2020年比で575TWh多く発電する必要があると推測している。過去10年間、需要の増加分のほとんどは天然ガスで賄われ、次いで水力発電により賄われてきた。
SASにおける2030年までの発電量の増加の大部分は太陽光発電と風力発電が占める。この他、自然エネルギーが総発電量に占める割合は、2020年の3%から2030年には27%へと上昇すると想定している。一方で、出力の変動性が高く不確実性を擁する自然エネルギーを電源構成に組み込むには、その調整役として十分な発電能力を常に確保し発電量の変動の増大に対応する柔軟性が必要となる。SASでは、蓄電、水電解、水力発電、ガス火力、地熱、デマンドレスポンス(需要応答)等の様々な手法が調整役として電力供給を支えている(図10)。
2020年の調整電源は、化石燃料発電所が8割近くを占め、残りのほとんどを水力発電が占めている。天然ガスは、2030年までの間に追加される設備容量の10%に当たる30GW(25GW net)、調整電源の需要の約40%分を供給すると予測している。天然ガスによる新たな発電所は、高効率のコンバインドサイクル型ガスタービンが主流で、ベースロードとしても負荷追従型としても運用できる柔軟性があり、バイオメタンや低炭素水素など、他のクリーンな燃料を混焼できるように設計・建設される。ガス火力は主にガス産出国に建設されると想定されており、モザンビークなど、近代的エネルギーへのアクセスレベルが低く、新たな天然ガスが発見された地域では、ガス開発は工業化支援と電力へのアクセス拡大に貢献すると想定している。西アフリカでは、天然ガスは重油の代替としてコスト削減及び大気環境の改善に貢献すると想定している。アフリカでの天然ガス使用のほとんどは、国内消費のため長期契約の下で価格を設定しており、ロシアのウクライナ侵攻による国際天然ガス価格の高騰が電力価格と連動することはないという。
SASでは、天然ガス火力発電所の増設に伴い2030年までにアフリカのガス生産量の30%に相当する80bcmのガスが、ガス火力発電所の操業に必要だとしている。ロシアからのガス輸入への依存度をさらに減らそうとするEUの戦略により、アフリカのガス生産量がSASの予測よりも速く増加すれば、発電用のガス使用量が拡大する可能性がある。
SASでは、2030年までに水力発電は調整電源として供給能力の4分の1(約80GW)を提供する。現在、アンゴラ、エチオピア、ナイジェリア、タンザニアを筆頭に15カ国で、大規模な水力プロジェクトがすでに計画されている。水力発電は、灌漑、水の供給、洪水制御という重要な役割も果たす。気候変動により、大陸の一部で干ばつや洪水のサイクルがより深刻かつ持続的になるにつれ、これらの機能の重要性が増している。
その他、太陽光、風力、水力、地熱を含む再生可能エネルギーは、2030年までに必要な新規発電容量の80%を提供することができるという。現在建設中の石炭火力発電所が完成すると、アフリカでは新規の発電所は建設されない。これは主に、中国が海外での石炭発電所への支援を打ち切ると発表したことによるものである。もし、この石炭火力発電所への投資分が太陽光発電に振り向ければ、2025年までにアフリカがSASで追加する太陽光発電への投資の半分をカバーすることができる。アフリカには太陽光資源の60%が存在するが、太陽光発電の設置容量はわずか1%である。現在、アフリカのほとんどの電力会社の財務状況が悪化しているため、新規発電設備の増設が鈍化している。太陽光発電設備は2020年と2021年に世界的に増加を続けたが、アフリカでは2020年に急減した。パンデミック前に検討されていた一部の大規模プロジェクトは、金融リスクの高まりによる影響を受けている。2021年は中小規模プラントの増設により、2019年の水準をわずかに下回る水準に回復した。
4.2 電力アクセスについて
Covid-19の影響により、アフリカの20カ国以上が債務超過に陥り、アフリカ国民の電力アクセス拡大の傾向が逆行する事態となっている。特にアフリカでは電力会社の財政難が深刻化しており、停電や配給のリスクが高まるなど、エネルギーシステムに大きな影響を与えている。また、生活の中で電気にアクセスできる人が2021年には2019年比で4%減少し、全人口の43%に当たる約6億人が電気にアクセスできていない状態にある。また、そのほとんどがサブサハラアフリカの住人だという。
IEAはSDGグローバル指標で掲げる手頃な価格のすべてのアフリカ人が電力への普遍的なアクセスを2030年までにSASで達成するには、2022年から毎年平均して、現在の総人口の6%(9000万人、うち7000万人は農村部)が電力にアクセスできるようになる必要があるという。これはパンデミック前の3倍に当たる水準であり、特に農村部では、パンデミック前の4倍に当たる8%とさらに加速させる必要があるという。また、IEAはSDGグローバル指標で掲げる当該目標を達成するには世界のエネルギー投資額の1%に当たる年間250億米ドルの投資が必要であり、更なる努力が必要であるが、この目標は国際社会として十分達成可能な金額であることを指摘している。250億米ドルという金額は現在の世界のエネルギー投資の約1%に相当し、LNGターミナルを1つ建設するコストに相当する。より多くの投資を促すには、明確な政策や戦略の策定等により国際的な支援のレベルを引き上げる必要があるが、現在、それを行っているアフリカの国は半数程度に留まるとのことである。
IEAはアフリカの半分程度の国にとって、国内送電網の拡張が最もコストが低く、賢明な選択肢であると指摘する。電力不足の人々の80%以上が住む農村部では、ミニグリッドとスタンドアローンシステム(主にソーラーホームシステム)が現実的な解決策であり、2050年には一部地域を除き送電網に接続されることになると予測している(図13)。
[1] “Africa Energy Outlook 2022”, IEA, June 20, 2022
https://www.iea.org/reports/africa-energy-outlook-2022
[2] “JAPAN SDGs Action Platform”, 外務省, 2022年7月8日閲覧
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal7.html
[3] “World Energy Outlook 2021”, IEA, October 13, 2021
https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2021
以上
(この報告は2022年7月15日時点のものです)